2週間半で更新とか何年ぶり? 三年と半年ぶりでした。
ちなみに今回のネタは十年以上温めた一発ギャグです()
ふと、意識が浮上してきた。
どうやらいつの間にか寝ていたらしく、目蓋を閉じて何処にも力の入っていない、脱力した全身を感じる。
……全身を感じる、というのは中々変な表現か。
寝ていることを自覚して、肌が服や布団に包まれていることを感じている、というべきかね。
妹紅と話している内に寝落ちだなんて、すっかり気が抜けてしまっている。
こうして緊張しなくなったのは、まぁ……私らにとっては、進展ではある、かな?
そこまでボンヤリと考えて、ゆっくりと目蓋を開く。
見えてきたのは、こないだ鬼達が改装してくれた私の部屋────ではなく、
「……夢、かな?」
もう逢いに行くことは出来なくなった、『彼』の部屋に、私は眠っていた。
声に出して喋ることも出来た。
腕を布団から出し、目の前に向けて手のひらを広げる。
いつもの腕ではなく、志鳴徒の手のひら……いや、多分この身体はそのまま『彼』と全く同じだろう。
「……やれやれだねぇ……」
いつもならば出てくる筈の男性口調、精神が出てくる気配は一切なく、喋って出てくる声も『彼』と全く変わらない。自意識も間違いなく詩菜のままな筈なのに、全身はどう見ても、どう感じてみても高校2年生の男子だ。
アハハ、股に余計な物が付いておるわ。
……はぁ……。
よくよく周囲を観察してみれば、壁の向こうからはセミが鳴いている音が聞こえる。さっきまで私は春前の時代で生きていた筈なのに、夢の中は不思議なもんである。
そしてそんな夏の風物詩が鳴いている割には、枕元のデジタル時計は朝10時と気温24度を表示している。少なくとも夏や春前の気温ではない。エアコンなんてない古い家だ。
というか、現実ならこうやって寝転がって頭上の時計を見るという動きすら難しいほどの体調不良状態なんだから、動ける時点でおかしいという話なんだけどさ。
布団から出る気も起きず、何か行動を起こす気分にもなれない。
……というか、こういう変な夢の時には、決まって『あの人』が出るから、待ってれば良い、という勝手な認識が私の中にある。
そこまで考えた所で、二階のこの部屋に入ろうと階段を登ってくる足音が聞こえる。
萃香や勇儀が作った私の家じゃ鳴らない、この階段の軋む音が懐かしい……。
そんな感慨に耽る間もなく、襖がガララと開けられる。
そこに立っていたのは、やっぱり私のお兄ちゃんだった。
いつものように作務衣のような服を着て、面倒くさそうにこちらを見て、視線が合った。
「おはようございます。えー、『きりん』のモノマネします」
「え? あ、はい……」
「────しゅじょう」
「………………」
「……」
そうして、私の部屋の空気は完全に凍った。
あれ……今冬だっけ……?
今、キリンのモノマネって言った? 今の鳴き声……? いや聞いたことないよ……。
いやというかお兄ちゃんそんな声出せるの? 前世でも聞いたことのない声色だったんだけど……ホント何でも出来るな……いや、感心してる場合じゃないんだけど……。
そんな感じで完全にフリーズしてる私を見て、お兄ちゃんは呆れたように溜息を吐いた。
「はぁ、いいからそろそろ起きとけ」
「え?」
「天の逆手だ。いつまでもボンヤリしてんじゃないぞ?」
お兄ちゃんは、そのまま両手を身体の前で合わせた。
私がいつも、空気を圧縮する時の動作。緋色玉を作ろうとする時と全く同じ。
単なる動作にも関わらず、氷柱が背に刺さったかのような、ゾッとする寒気に襲われた。
長年、妖怪として生きた勘が働いている。
直感じゃなくて、経験から培われた危機感が、私に警告を与えて、全身に鳥肌を立たせている。
アレは叩かれたら駄目。そういうヤバい奴だ。
「い、いや、ほら、どうやって、その……起きたもんかなぁ、って」
「あぁ? いつになったら自分で起きれるんだお前?」
あ、その罵倒、もとい、お叱りは凄い懐かしい。
とか、そんな懐かしさを感じている状態じゃないんだけど、さっきまで感じていた殺気のような威圧感をお兄ちゃんから、というより、合わさった両手からは感じなくなっていた。
「やぁれやれ、成長してんだかしてないんだか」
「……まぁ、ね」
その言葉は実に耳が痛い。
私が何とも言えない相槌を打つと、呆れたような、仕方ないなというような、そんな感じの溜息をこれまた深く吐いて、
そして、お兄ちゃんは何の説明もなく────柏手を打った。
ポン、という音が聞こえた瞬間に、視界がグルリと廻る。
一気に吐きそうになるほどの酩酊感。上下も分からず、自分が天井に落ちていると感じた瞬間に背中と後頭部に柔らかい衝撃を受ける。
起き上がっていた姿勢から倒れたのか、と考える間もなく、視界がどんどんと点滅していく。周囲が暗くなったと思ったら、少しの光で全てが眩しく見える。
息が吸えなくて、内側から迫り上がって吐きそうになって、口を開けても声すら出せない。空気を吸おうとしても肺から空気が勝手に漏れ出ていく。
耳鳴りはどんどん強くなって、何もかもが聞こえなくっていく。
────それなのに、お兄ちゃんの声は、すんなりと頭の中に届いた。
「起きろ、しゅじょう」
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「……おっと、すまん。起こしてしまったか?」
気付けば、私は元の部屋で眠っていた。
全く身体は動かず、汗まみれなのは全く変わらない。
どうやら顔の汗だけでもと、彩目が濡れタオルで顔を拭いていたらしい。
「……ぁ……」
「ん、どうした?」
【……いや、寝て起きたら声は出せてるかな、って】
「ああ……そう簡単に治る呪いなのか?」
【治らんだろうね……】
「はぁ……本当、一体何をやらかしたんだ……?」
そう彩目が突っ込んでくるけれども、やっぱり詳細を言うつもりはない。
彩目も言うつもりはないの知っているからか、そのまま何も言わずに汗拭きを続けてくれた。
動けないのでそのまま恥ずかしい所まで拭かれたけれど……とりあえず一段落したらしい彩目が、そのまま「おやすみ」と言って照明を消して、自分の部屋に帰っていった。
気付けば辺りは真っ暗で、妹紅もいつの間にか帰ったらしい。
まぁ、妹紅と話している内に、寝落ちしてしまったのは間違いないらしい。
……うん。
まぁ……。
一つ、ツッコみたいとすれば、
きりんのモノマネで『しゅじょう』って言われて、景麒だと分かる人はそう居ないぞお兄ちゃん。