風雲の如く   作:楠乃

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 三ヶ月ぶり(ごめんなさい)

 そう言えば宣伝し忘れてましたが、2021年7月に自ブログにてIFエンド公開してます。
 GOOD ENDなので物好きな人はどうぞ。あと各話の警告は事前に読んでおくように()






東方眚輦船 その6

 

 

 

「……ほら、お前、式神が憑いてる時、雰囲気とか、口調、変わるだろ?」

 

 魔理沙がそう言ったので身体を探ってみれば、確かにさっきよりも妖力が回復している。

 

 ………………ええぇ……?

 

 式神が憑いていたのは、長考していた間の十数秒って所だろうけれど……さっきまでとは段違いの量の妖力が全身を巡っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私が『八雲 緋菜(ひな)』という名の式神として行動するには、まず、ご主人が式神を憑けないといけない。

 

 私単体では、式神化状態になることは出来ない。

 私の口調、喋り方が変わって、実際に妖力が回復しているということは────つまりは、そういうことだ。

 

 

 

 

 

 

 ────へぇ、そういうこと、するんだ。

 

 本当に……そういうこと、しちゃうんだ。

 

 

 

 ……まぁ、いいさ。

 何やら思惑があるんだろう。どーせ。

 

 どうにも、上司でお姉ちゃんとは言え、最近はどうにも信じられないから、何だか嫌な予感もするし……いきなり式神を憑けられた事も、正直に言えば不信感を募らせてる要因でもあるけどさ。

 

 未だに念話とかでああしろこうしろという命令もなければ、気配や音、衝撃も妖力も一切感じないけれど、どうせそこらの境界の向こう側で、こちらを優雅に眺めているんだろう。

 ……私も念話で話し掛けない辺り、どっちもどっちか。

 

 

 

 ………………まぁ、別にいいさ。

 

 何を思って考えているのか、式神の私でも到底計り知ることは出来ないから。

 私は私で、さっき考えた八雲的思考に従って動くことにするよ。

 更にムカついてきたけどさ。

 

 

 

 

 

 

 口調が変わったと思ったら、更に機嫌を変えた私を見て、不安で心配そうな表情をこちらに向けてくる寅丸とナズーリン。

 流石に今この場でいきなり爆発するほど情緒不安定じゃないから安心してほしい。

 まぁ、これも頭に『今は、』というのが付くけれどね。

 

「ハァ……何にせよ、魔界の結界を解くんでしょ? 寅丸、それ貸して」

「え? いえ、今からこれを使って解くのですが……?」

「そんな古臭い術式使ってたら聖の所に向かうための(エネルギー)まで無くなっちゃうよ」

 

 寅丸の手から宝塔を掠め盗り、その霊宝の中に収められている術式を解析、分解していく。

 

 まぁ、予想通りと言うか、流石の毘沙門天縁の品。

 とんでもないほどの高純度高圧縮の霊力が詰まっている。

 

 解析しようとして触れただけで妖怪の肌が爛れていく。私も神の末席に名を連ねてる筈なんだけど、私の神力で防御しててもこれだ。

 いやぁ、流石現代でも名を轟かす七福神、四天王、天部の神。私とは格が違う。

 そりゃあ当然なんだけどさ。

 

 

 

 私が皆の居た妖怪寺に泊まっていた時には、寅丸の手に既にコレがあったような気もするけど……この宝塔がいつの時代に作られたものなのかは分からない。

 

 分からないけれど、術式が一切更新されておらず、効率が非常に悪いことは分かる。

 というか……マジで一回も更新されてないんじゃないかコレ? 術式言語が古すぎる……共通言語の原典にでもなってるのか、その割には見慣れた部分がある……え、怖……。

 

 

 

「ちょっと、詩菜!」

「詩菜さん、あまりそういうのは勝手に触らない方が……」

 

 そんな内心末恐ろしさを感じていても顔に出さないでいたら、私が術式を改変していることに気付いた紅白巫女とナズーリンが、更に私を止めようとしてくる。

 

 しかも巫女の方はお祓い棒まで突き付けて攻撃しようとさえしている。

 魔法使いの魔理沙は……まぁ、術式開発の時にある程度は知ってるか。早苗はついさっき教えたばかりだ。

 

 

 

 やれやれ。寅丸やナズーリンはまぁ、仕方ないとして。

 

 霊夢にあーだこーだ言われるのはちょっとムッとしてしまう。

 

 別にあれから何世代が経ったかなんて、私にも分からないけれど。

 

 

 

「……一体誰が、賢者の仕立てた、ゴルディオンの結び目みたいなスパゲティプログラム(境界と大結界)を人間用に修正して配布したと思ってるんですか?」

「……は?」

 

 

 

 術式を解析しながら、即時修正ができる部分は改変しつつ、その途中で差し替えができる部分は別枠で記述し、該当部分をまるごと書き換えを行って移行する。

 そもそも神の霊宝なんだから、術式改変なんていう窃盗はブロックするための防壁が高度に構築されてて良い筈なんだけど、術式言語が古すぎるためにどう料理しても良い状態だ。

 なぁんで術式更新・改善(ソフトウェアアップデート)してないんです……?

 

 さてさて、そんな古臭い術式は一新しちゃいましょう。

 古きもの(やりたいこと)はそのままに、新しきもの(高効率化と選択肢の増加)は取り入れて、と。

 ……極限まで切り詰めた術式(プログラム)は、実に単純(シンプル)で美しい。ってのは誰の言葉だったかね。

 

 まぁ、こんな事はどうだっていいんだけどさ。また口調も式神に寄ってるし。

 ……こっちの手助けにそっち方面の助力はいらないんだけどな。

 

 

 

 改変が完了した宝塔は、先程よりもその威光を陰らせてはいるが、内部では貯めに貯められた神力が高活性化状態にある。

 ……そろそろ私の掌も、私の回復力を上回って出血し始めてる気がするし、さっさと封印も解いてしまおう。

 

 

 

「────解除」

「おお……!」

 

 少しだけ宝塔を掲げて、封印解除の宣言をすれば、赤いような暗い紺色のようなグラデーションの結界がゆっくりと解けていく。それを見てナズーリンが驚嘆の声を上げる。驚いているのはその他の人物も一緒だ。

 

 もちろん船にも新たな霊力のパスを繋げ直している。

 燃料問題もこれで解決。特に問題が起きなければ、また現世に帰って、更に一往復しても燃料が枯渇しない程度には高効率化(省エネ化)できている。

 

 

 

 そして、沙綾形のような結界を構成する線が、ほつれて砕け散るように角で割れて、そして空中で一瞬だけ青白く輝くと溶けるように消えていく。

 

「わ、封印が消えていく……」

「この船とも繋がりを作りました。きちんと操縦すればこのまま聖白蓮の元に向かうでしょう」

「……君が丁寧語なの。気持ち悪いな」

「失礼な。っと、戻ったか」

 

 私自身と彼女を繋ぐ妖力のパスが途切れていることを確認し、寅丸に宝塔を返しながら、うっすら血が滲む、右手をプラプラと振る。数秒経てばハイ完治。

 たったこれだけで、瘴気が充満している魔界でも回復が終わるというのに、その回復力を上回る毘沙門天様の強さよ。

 

 

 

 まぁ、何はともあれ、船の航行準備は整った。

 

 宝塔から通じて船の状態を軽く確認できたけれど、現時点で船は完全に静止している状態だった。

 早苗と追い掛けていた時、それから船の上で授業をしていた時までは、早苗の通常速度の飛翔でも追い付けないぐらいの速度で動いていた筈だけど……今現在、船は動いておらず、またナズーリン、寅丸の様子、会話からして、目的地はさっき消えた結界の奥の筈。

 

 

 

 船を動かせばすぐに聖達の元へ、動き出せる状態には、ある。

 

 

 

 さて……どうするかな?

 

 

 

「寅丸、この船ってどうやって動かしているの?」

「聖輦船はムラサに任せてあります。まぁ、ほとんど自動らしいのですが」

「相も変わらず時代を先取りしてるね、彼女」

「……そうなのですか、ナズ?」

「さぁ……?」

 

 数百年前からあるセーラー服は兎も角として、────村紗に連絡が届かなければ、自動航行はされず、船は動かないまま、と。

 それはつまり、船に追い付かれる前に、聖に到達できるチャンスでもある、と。

 

 

 

 ……まぁ、八雲的思考に従い、順序通りに事を進まようとするなら、こうしないといけないんだろう。多分。

 

 さてさて……────と、口を開いて喋りだそうとした所で、ふわりと宙に浮き出す巫女。

 

 

 

 

 

 

「先に向かうわよ。アンタが来たら解決することまで出来なくなっちゃいそうし、これ以上掻き回されるのも困るんだから。じゃ!」

 

「────あらまぁ、行っちゃったよ」

 

 

 

 声を掛ける前もなく、あっという間に姿が豆粒になる。

 別に、その気になりゃ(衝撃)は届くんだけど。

 

 ……まぁ、そうよね。あの霊夢が私の思惑通りに進むなんて、そうそうありえない。

 いつでも空を飛ぶ、宙に浮かぶが当代の巫女なんだから。

 

 ああ、本当、思い通りにならない……。

 

 

 

 そう笑う私を見て、ニヤリと笑う魔理沙も、箒に乗って浮き上がった。

 

「それじゃあ私も行くぜ。解決するまで来るなよな!」

 

 そう言い放って、霊夢へと追い縋るように、流星のように飛んでいく。

 

 あっという間に小さくなる少女達を邪魔するように、周囲から妖精達が現れ、弾幕を放っては、そのことごとくを避けて撃ち倒していく。

 そんな攻防もその内に魔界の妖気の霧に遮られて、だんだんと見えなくなっていく。

 

 

 

 さて、と……。

 

「ナズーリン、村紗呼んできて、船の状態確認してもらえる?」

「……だそうだよ。ご主人様?」

「はぁ……この船に問題はない筈ですが……?」

「いやぁ、飛んでいった彼女達と船内で戦ってたようだし、きちんと船長に確認した方が良いんじゃない?」

 

 そうくっちゃべる私を見て、まぁ、早苗とナズーリンは苦笑いをしている。

 けれど寅丸はイマイチ理解していないらしい、首を傾げたままだ。

 

 流石に幻想郷における新参するやり方をキチンと理解している訳ではないらしい

 これは、まぁ、私の仕事、だろう。

 

「とりあえずゆっくり、説明しながら行こうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何も聖が再封印されたり、殺されたりする訳じゃない。

 二人は私にこう言ったのだ。『解決する』、と。

 

 八雲の式神として動いた私に対して、『異変として解決する』と、宣言した。

 

 

 

 まぁ、紫が私に対してやたらと間接的な干渉を行った、という事にまで、あの二人が気付いているかどうかは流石に分からない。どうして私が機嫌を悪くしたのかも分かっているかも怪しい。

 

 けれども、あくまでもルールに則って倒す。そう言い切った。

 私、『妖怪(詩菜)が来るんじゃない』とまでわざわざ伝えてくれた。

 

 最近、思惑を超えてくれるのが多くて、どうにも嬉しく感じる場面が多い。

 人を驚かせるのが妖怪の一面でもあるだろうに。困っちゃうねぇ。

 

 

 

 何はともあれ、寅丸、ナズーリン、村紗には一通りの事を伝えた。

 まぁ、魔界の封印を解いた時点で彼女達の目的はほぼ達成されている。聖を閉じ込める封印を解除すること、なのだから。

 

 後はまぁ、妖怪として幻想郷に馴染むための弾幕ごっこ。

 そこらに限っては、異変解決者の二人に任せるしかない。

 早苗はもう完全に吹っ切っているのか、それとも忘れちゃってるのか、そこらの話をしても平然とした顔のままだった。

 

 まぁ、彼女が既に納得して、自分の中で結論を出したのなら私から何も言うことはない。

 

 ……それにしたって、やたらと彼女から視線がやけに強く感じる時があるけど……私を疑うとか、信じられないとか、そういう感じじゃないんだよねぇ……?

 

 

 

 

 

 

 兎も角、三人はとりあえずは納得したらしく、現在船はのんびりと聖の元へ向かいつつ遊覧飛行と洒落込んでいる。

 ……魔界の瘴気に阻まれて、見えるのは赤い空だけだけどね。

 

 寅丸達と再会した時のように、船の縁から足を投げ出して、ぶらぶらと揺らしながらどこを見る訳でもなく、ただ暗褐色に濁る空の果てをぼんやりと見る。

 

 聖を開放する、という寅丸達の思惑は達成された。

 そして、私の目的も、達成された。

 

 少なくとも、直感が見せてくれた光景は、どれも確認することができた。

 一回目の直感で思わされた『行かなれければならない』という衝動も、特に感じない。

 

 ……私に間接的に接触を行った後だからか、あるいは、既に当事者達へ私が接触しているからか……。

 まぁ、どちらでもどうでもいいけどね。

 

 

 

「……詩菜さん?」

「んー?」

 

 今は気分が良いから、こういう事は考えないに限る。

 お姉ちゃんの事はさておいて、ゆっくりと動く船に追い付く存在の事は、少し前から気付いていた。あれだけ風が動けば嫌でも分かる。体積がでかすぎるんだ。

 

「……来てますけど」

「ああ。まぁ、大丈夫じゃない? ……なんだったら、早苗だけでもう一回戦ってみる?」

「……いえ、もう一回やるのは、フェアじゃないでしょうし……」

「そうかなぁ……」

 

 聖の開放が目的とは言え、あくまでもゲームの延長線上にはある訳だし、早苗から挑む分には、弾幕ごっことしても、異変解決としてもおかしくはない気がするけどねぇ。

 

 

 

 そんな事を思いながら、船の縁を拳で叩き、その衝撃で後方宙返り、ひねって180度回転。

 音を出さずに着地して真正面を見れば、私のキャノンで吹き飛ばされた筈の雲山と一輪が居る。

 

 それも、大層に驚いた顔をしていた。

 

「さっきぶり。どうしたのそんな顔して?」

「いえ……大丈夫、なのよね?」

 

 その質問は、どうやら私宛ではなく、私の後ろに立っている早苗宛のようだ。

 後ろへと振り返って彼女にどういうことか、視線で問い掛けてみても、早苗にも何の事かさっぱり分からないらしく軽く首を傾げている。

 

 問い掛けられてる早苗にも分からないんじゃあ、私のも分からないだろう。

 というか、初対面の筈の二人(いや、三人?)に共通するような話題なんてあるのかしら? あるとしたら、弾幕ごっこの話?

 

「何の話?」

 

 視線を戻して問い掛けてみれば、ホッとしたような顔になる二人。私と早苗は寧ろ疑問しかないのだけれど……。

 

「……いえ、本当に大丈夫そうね。さっきの弾幕ごっこじゃ、様子が少しおかしかったから」

「ああ、そういう……ん、まぁ、今はね」

 

 そう。今の精神状態は、本当に『今の所は』というだけだ。

 紫が目の前に現れたり、フランの狂気の波紋が飛んできたりしたら、一発で発狂してしまうような、そういった状態にあるのを、自覚する程度の、そういう状態。

 

 早苗は私のそういう癖を知らないし、妖怪寺の面々はそんな事を一切知らない。

 知っていてもおかしくないであろう、巫女と魔女は聖の元だ。

 私を止められる人物は、船の上に居る人物でなら、雲山の本気か、毘沙門天ぐらいか。

 

 

 

 まぁ、今はそんな事はどうでもいい。

 

「久し振り。一輪、雲山」

「ええ、お久し振りです詩菜さん。まったく随分な挨拶ですね?」

「私の事を思い出してくれなかった人に言われたくはないかなー」

 

 特大ビームの事を挨拶と笑って流してくれる。

 妖怪寺の皆はやっぱり優しすぎる。

 

「うっ……う、後ろの巫女の宣言で思い出しましたから!」

「……私、そっちの神名はあまり公言してないんだけどね」

「え、そうなんですか!? あの、諏訪子様はセットで教えて下さいましたが……?」

「ああ、それ多分私への嫌がらせ」

「ええ……?」

「あ、あはは……」

 

 

 

 

 

 




 
 全然関係ないけど、現時点で構想がある、あるいは書き終えて公開状態、完全非公開も含めて、エンディングが本編含めて11ルートあった()




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