ちなみに《
「………………分からん!!」
「まだ分かんないの……?」
「いや、そうは言うがこの法則……ルールを自力で見つけ出すのはかなり難易度が高くないか……?」
あれから結局彩目は解き方を見付けられず、山の裏手の家までの道中をのんびり、親子で歩いて帰っている。
ぬこも一緒だけど、こいつはこいつでもう飽きたのか、会話に混ざろうとすらしない。
もうすぐ秋も終わり、雪もいつ降り出すか分からない季節。雪が降り出したら多分こうして歩いて帰るという事はなくなるのだろうなぁ、と思わなくもない。
ぬこも……ていうか、こいつ冬の時期はどうするんだろう。家の中に閉じこもるのかしら。まぁ、別にそれでも良いんだけど……。
そんな猫はどうでも良いとして、問題は隣で未だに悩んでいる娘の方である。
ていうか……あれだけヒントを出したと言うのに、まだ分かんないかねこの子は。
「あれだけヒントを出したと言うのに、まだ分かんないかねこの子は」
「いや、全然足りないからな?」
「彩目……」
「……いや、慧音とか文でも分からないと言うと思うぞ? 本当」
「そんな難しくないと思うんだけどなぁ……」
小学生どころか、もしかしなくとも幼稚園でも法則知っていれば解けると思うんだけどなぁ……。
まぁ、いいさ。ヒントが欲しいなら幾らでもあげよう。
そのまま答えになるような奴はあげないけどね。
「そうねぇ……《ヒント》は4」
「……まぁ、その段階までなら分かる」
魔術の練習、とばかりに術式を立ち上げて、粒子をカタカナの形に圧縮して頭上に掲げる。
そう言えば彩目に魔術、もとい魔術もどきを初めて見せたと思うのだけど……本人はどうやら『指数えごっこ』でそれどころじゃないらしい。どんだけ熱中してんだか。
「これが《hint》だと、7になる」
「分からんぞ!?」
「えぇ……単純なっ、おっと、答えを言いそうになっちゃった」
「……まて、一言の答えなのか?」
「いんや、答えになりかねない、ってぐらい」
「かなりでかくないかそれ……?」
まぁ、見方を変えれば答えだし、法則の一部だし、線引に触れる考え方、とも取れるかもしれない、ってぐらいかな。
話している内に、妖怪の山の入り口に着いた。
我が家にはいつもここから、山の領域に入らないようグルリと周り道を通って帰っているため、道程としては残り三分の二程だ。
さてさて……自宅に付くまでに彩目は法則を見付けれるかな……?
「続き、《レミリア》は5」
「うん。それは分かるぞ」
「《れみりあ》は4」
「……なんでひらがなに……いや、もちろん分かるぞ?」
「それじゃあ《レミリア・スカーレット》は19」
「え? いやいや……」
「《お嬢様》は9」
「いや、それよりもさっきのはなんで急に大きくなって……」
「で、前も言ったけど《Remilia Scarlet》は17」
「……カタカナより少ないのか……いや、何でだ……?」
私の粒子操作範囲の限界を超えそうになったために、最後の『t』が若干溶けかけていたけれど、彩目はそれすらもどうでもいいとばかりに歩みを遅くして考え込んでいる。
まぁ、この二つの例は混乱を加速させているとは思うけれどさ。
「……なぁ、詩菜」
「ん?」
「どう数えているんだ?」
「その質問の返答が、そのまま答えになりかねないんだけど……そうだねぇ」
まぁ、出来る限りヒントにならないヒントを、娘のためにも差し出してあげよう。
空中に浮かんだ緑色に光る文字列を、アルファベット一文字ずつ分解し、それぞれを指差ししつつ数えてあげる。
「まずRemilia Scarletだから、『R』『e』『m』『i』『l』『i』『a』。ここで、既に10。スペースは無視するとして、『S』『c』『a』『r』『l』『e』『t』で、17」
「……じゃあ、《Scarlet》で7なのか?」
「名字の《Scarlet》だけ? それなら10」
「………………はぁ?」
まぁだ分かんないかね……。
いや、まぁ、間違った見方をしているんだろうなぁ、というのは分かるんだけどさ……。
空中に浮かんだ蛍光緑色の文字を、誰かの仇でも見るかのような目付きでだんだんと睨み始めている。
……アレだね。その眼差し、昔の殺しに来てた彩目を思い出す。
まぁ……そんな事を、今思い出した所で何にもならないんだけどさ。
「……分からん」
「ん、じゃあ、そうだなぁ……」
観念したかのようにこっちを見ながら言う彩目は、その眼差しをふっと和らげてこちらを見てくる。あの目付きでこちらを見ようとは、決してしない。
……ま、私だって、そんな考え事を表に出すつもりもないんだけどさ。
「……そうだ。鈴仙が居た」
「ん? 薬売りのか」
「あ、やっぱそういう認識なんだ。ああ、《薬売り》は5ね」
「……それぐらいなら分かる」
「そう? じゃあ《
「………………はぁ〜……?」
「うわぁ、彩目がそんな言い方するの、初めて見る……あ、名前が長いので、『優曇華院』を『U』に変換した場合、《鈴仙・U・イナバ》となって、22になる」
『優曇華院』という文字の粒子を圧縮して一つの『U』にするという、ちょっとしたアニメーションを娘に披露した所、眉一つとして動かなかった。
くそう。
「《優曇華院》が、7か6……?」
「あ、《優曇華院》単体なら8ね」
「じゃあ、《U》は1か?」
「んな訳ないじゃん。《U》は4だよ」
「………………意味が分からん」
むっちゃヒント出してるんだけどねぇ……。
でも、そこを同等扱いしている以上、答えには永遠に辿り着かないよ彩目。
ん。
「例えば」
「……ん?」
粒子を見続けながらウンウン唸っている彼女の目の前で、文字列を変化させる。
「《
「それは、分か────……うん?」
「ちなみに、《
「……待て。なんで今その二人を出した?」
「この場に居ない《
「まさか見てるのか!?」
椛が千里眼の能力を持っていると聞いたのは確か文からだったと思うけど、それなら私は擬似的な地獄耳の能力を持っている、と言っても良いのではないのだろうか。
まぁ、どうでもいいけどさ。
ていうか、滝の裏からよく私達を見付けれるもんだよ。山の領域内に入っていないっていうのにさ……それなら、向こうにとっては良く滝の裏に居る私達を、って所なんだろうけど。
ああ、そういえば能力があった。
「それじゃあ、《『
「……」
「にとりの、《『
「なぁ……? その前後に付いたかぎ括弧も含めてるのか?」
「含めないなら粒子で表現してないよ」
「……マジか」
彩目がそんな言葉使いをするのも初めて見る気がする。そして、娘の目も死んだ魚のようになりつつある。
どうにも解けないらしい。
ん〜……まぁ、分かんない人は分かんないままなのかね。
これが紫とか文とかなら、彩目と同じヒントを出しても法則に辿り着きそうなものなんだけど。
いやまぁ、あんな頭の回転速度が異常な二人と自分達の脳を比べるのはおかしい、っていうのは彩目と同じ元人間としても、分かっちゃいるんだけど、さ?
考案者としては、何とか正解を掴んで欲しいっていう……ね。
とは言え、答えをそのまま教えるのも、考案者としては何か癪だというジレンマ。
うーん。
「────そういえば」
「うん?」
そろそろ家が見えてくる頃、という位置になって、悩み続けていた彩目がようやく声を掛けてきた。
あんまりにも彼女の歩みが遅いため、ぬこが先に行ってしまった程なのだけど……どうやらこの様子だとまだ気付いていないようだ。
「地面に円を五つ描いていたな。アレもヒントになるのか?」
「ん、そうだね。法則に辿り着くための補助道具の一つ、って感じかな」
答えにはかなり近付くけど、答えにはならない……かな? 多分。
まぁ、良い所に気付いてくれた。
「元々、っていうか、思い付いた時は人間だったから、今みたいな計算能力がなかったんだよ。だから手を使って数えていて……まぁ、分かりやすくするために、五つでワンセット」
「……へぇ」
「ま、二進法使えば片手で31まで行けるんだし、思い付いた時はそんなの知らなかったから、五つでワンセットにしたのも仕方ないというか、何というか……」
「………………」
8%ぐらいは、今の答えが答えだったのだけど、どうやら彩目は気付いた様子もない。
さて、
「家に着いたけど、答えは出た?」
「……一文字に付き1つ。平仮名は原則1つ。カタカナになると更に1つ追加。濁点半濁点でも1つ追加。伸ばし棒の『ー』が2つd 「ハイ! 残念でしたー!」
「………………」
「……いや、そんな涙目になられても」
泣くなよ彩目。
あ、何度も言いますけど、答え合わせは活動報告か自ブログかTwitterとか、感想欄以外でお願いいたします。
感想欄はアンケート集計場所じゃないんだよ! 約束だよ!