風雲の如く   作:楠乃

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東方緋想天 その10

 

 

 

 結界は作る人や場所によってはまちまちだけども、大体が長方形の形をしている。

 長方形の丁度中央、横縦奥行きすべての中央には霊夢が浮かんでこちらを睨み付けている。

 ……そんなに私が疑わしいかねぇ? いやまぁ、確かに建物を倒壊させるぐらいの衝撃なんて簡単に起こせるとは思うけどさ。

 

 まぁ、そんな事はどうでもいい。

 今はその問答を蒸し返すよりも、弾幕ごっこに集中すべきだ。

 

「《扇風『一葉知秋(いちようちしゅう)』》!」

「っ!」

 

 結界の上四隅にトカゲのように張り付いた状態でスペルカード宣言をし、カードが消えると同時に反対の手に持った扇子で風を起こす。

 ゆっくりと振られた扇子からは風の塊のような物が現れ、これまたゆっくりと霊夢へと飛んでいく。

 あれは誘導するような弾でもないし、これは簡単に避けられるだろう。

 私の特徴としては異常な程の素早さというのがあるのかもしれないけど……まぁ、今回は違うんだなぁ。いろんな意味で。

 

「……何よコレ」

「私が得意なのは何も速いってだけじゃないんだよ?」

 

 漂うとは言えず、さりとて飛んでいくとも言えないなんとも微妙なスピードで霊夢へと飛んでいく風の弾は、まぁ、当然のように避けられる。

 けれど……そんな大振りに避けちゃって大丈夫? まぁ、異常な程に大きい弾だったしね。

 

 さてさて、ここからがこのスペルカードの真骨頂。

 霊夢が避けながら弾幕を撃ってくる。それらが届く前にもう一度扇子を振り上げ、思い切り振り下ろす。

 

「薙ぎ払え!!」

「なっ!?」

 

 私が得意な事。素早い以外にあるというならばそれは、驚くという『衝撃』だ。

 ま、流石に能力を伸ばして彼女の驚きを増大させて動きを封じるなんて事はしないけど、それでも驚かすというのなら得意だもんね。自称だけど。

 

 思い切り振り下ろし、巨大な突風を作り出す。結界全体を覆う程の、大きさをね。

 無論避けられない弾幕というのはNGという話なので、避けれる程の隙間はちゃんとある。それに対してのヒントみたいなのもあったんだけどねぇ。

 

 霊夢の驚異的な身体能力や巫女の勘は驚きによって上手く発動しなかったようで、あまりにも巨大な暴風に叩き付けられた彼女は、反対側の壁まで吹っ飛んで結界の壁に激突した。

 

「がっ!! っ、卑怯よ……何よあの範囲は!?」

「お、流石は巫女と言うべきなのかな?」

 

 壁にかなりの速さで激突したにも関わらず、即座に空中を飛んで私に怒鳴れるとは。

 うまく結界にダメージを与えないようにガードしたのかね? それにしたって私がその現場を視認出来ないって言うのはおかしいだろう。

 まぁ、咲夜みたいに時を止めたのならまだしも……ねぇ?

 

「喰らいなさい!!」

「うおっと」

 

 そんな事を考えている内に、近付いて来た霊夢は打撃と弾幕を織り交ぜて攻撃してくる。

 まぁ、そういうのは高速で移動して避けていく。誘導性の高い弾幕は完全には避けれずに命中したのも幾つかあったけど、衝撃で吹き飛ばされたりはせずに高速移動を続ける。

 弾幕が命中した途端に痛くなる癖に、命中した瞬間の痛みそのものはほとんど無い。なんて矛盾。

 

 

 

 壁を蹴って高速移動する事で相手を撹乱し、今度は反対側の結界の四隅に辿り着く。そしてまた巨大な風の塊を遅く撃ちだす。

 まぁ、このスペルカード。ロマン技っぽく作ってみたはいいけど、案外スカスカだよなぁ、と考えつつ、相手の動きを見る。

 

 ……どうやら、このスペルカードの不完全な出来具合を、博麗の巫女は二回目にして既に見抜いているようだ。流石やね。

 

「もうそのスペカは無駄よ!!」

 

 私が撃ち出した大人よりも大きいぐらいの風の弾を、霊夢は『ギリギリ』の距離で避け、そのまま私へと突っ込んでくる。

 あぁ、こりゃ一枚目は完全にやられたなと思いつつ、スペルカードの攻撃を続行。

 

 扇子を振りかぶり、霊夢に向かって大きく薙ぐ。

 結界の四隅からとても巨大な嵐が生まれ、そして霊夢に突っ込んでいく。

 

 だがしかし……霊夢には何も当たらない。

 

「トドメよ!!」

「ッ……あらやだ。二回目でまさか破られるとは」

 

 一気に近付いた霊夢の至近距離での弾幕連射によって私の結界が破られる。

 結界が割られる反動で後ろへと弾け飛ぶが、そもそも場の結界を背にして戦っていた為に特段ダメージもなく、地面へと自由落下する。

 いや、ダメージもなくっていうのは少しおかしいけどさ。

 

 

 

「ふん。まぁ、初めて見る奴にとってはあの攻撃は辛いでしょう。でも一度見抜かれればそれまでよ」

「まぁね。でも一発で見抜かれるとは思わなかったなぁ」

 

 先程私が撃ったスペルカード。外から見れば圧倒的な暴風で逃げ場がないように見えるけども、作りは物凄く単純である。

 初めに撃った大きい弾。それ以外の空間全てが暴風で吹き飛ばされるという簡単なものである。それ故に初見殺しってね。

 

 さてさて、そんな下らないネタばらしは置いといて。次、次。

 地面へと降りてきた霊夢へと声を掛ける。そういや決めてない事あったんだよね。スペルで思い出したけどさ。

 

「そういえばさ、この戦いにおける私が使ってもいいスペルカードの数を決めてなかったよね。どうする?」

「それすらも私が決めて良いの?」

「私は重要な事は相手に決めさせる……言わば卑怯者だからね」

 

 ……妹紅の時とか、特にね。

 そんな事も、今は置いておく。大体既に自分の中で既に結論は出ているのに、今更それを思い出して後悔するなんて無駄な事だ。

 

「それで? 何枚にする?」

「そうね。じゃあ三枚しましょう。一枚はさっきで撃破したから、残り二枚ね」

「オッケー、それじゃあ二枚目。サクッと行っちゃいましょうか」

 

 扇子を帯に仕舞って、袖を探ってスペルカードを取り出す。

 ふぅむ、どんな奴で行こうかなぁ、っと。

 

 ………………うし。

 

「行くよ。《突風『暴風怒濤(ぼうふうどとう)』》!!」

 

 宣言と同時に、足を地面へと叩き付け、更に自分の周りに竜巻を作り出す。

 地面を震わせる衝撃で小石や拳大ぐらいの岩を上へと浮き上がらせ、それらを更に竜巻で宙に浮かす。

 

 ま、そんな事をしている間にも霊夢は躊躇いもなく弾幕を撃って来ているので、石と弾幕を風でぶつけて相殺する。

 そりにしても躊躇なくやるねぇ。そういうのは演出なんだし普通は待ってはくれないものかね? ま、さっさと終わらしたいのは分かるけどさ。

 

「大分前に誰かに言った事なんだけどさ? 私は自力で弾幕を生み出せないんだよね。いやこれだと語弊があるかな? 正確には、『ごっこで使えるような威力の弾幕』を生み出せないのさ。他に生み出せるとしたら暴風とかそういうのだけでね」

「……いきなり何よ」

「だからね。これが私なりの弾幕って事さ!!」

 

 叫ぶと同時に風を操って宙に浮いていた石を、弾丸のように霊夢へと飛ばす。

 自然が作った石。それらを弾幕にしようとすると、どうしても誤差というものが出る。自分で創り出した物でないが故に、精密に操ろうとしても必ずランダムになる。

 だからこそ、完全に操ろうとするのではなく自由気侭に霊夢へと送り付ける。それがこの弾幕のやり方だ。

 

「チッ!」

 

 それでも霊夢は自然の石を避けてつつ弾幕を撃ってくる。流石すぎる。

 でも、前のスペカみたいに私がただ呆然としているだけだと思って?

 

「そりゃあ甘いってもんさ!」

「くっ!? なぁ!?」

 

 また地面を叩き付け、石を浮かび上がらせる。

 今度は竜巻を起こしつつ、自分は高速移動して霊夢の弾幕をすべて避けていく。

 

 しかし、私から決して目を離さずそれでいて違う方向から飛んで来る石つぶてを避けていた霊夢は、いきなり目の前に現れた竜巻に吹き飛ばされる。

 ……そういや、久しく忘れてたなぁ。私の『気質』の事を。

 

 私の気質は『竜巻』

 勝手に場の何処かに竜巻が発生し、誰彼構わずに猛威を振るう。

 ま、気質だからかどうかは知らないけど、勝手に引き寄せたりはしない分まだ良いんだけどね。いきなり現れて攻撃を与えてくるのはいただけないけど。

 

「痛っ……何よアレ」

「勝手に発生した竜巻。ま、今回ばかりは霊夢に運がなかったね。ドンピシャで発生して直撃するとは」

「なんでなのよッ!」

「だからって私に八つ当たりされてもねぇ!」

 

 怒りに身を任せたかのように莫大な量の弾幕を、霊夢が放ってくる。

 赤い小さな御札から、青く巨大な誘導弾。

 私の動きを予測して青白い結界を張ったのが一番驚いたけど、そんなのは既に予想して壁近くを跳び回るという対策を取っていたから、直撃する前に近くの足場を蹴って離脱すればいいだけ。

 

「何で当たらないのよ!!」

「誰が当たってやりますかっての」

 

 弾幕を生み出す為に一度は地上に降りないといけないけども、それ以外では回避に徹していいのだ。竜巻だってこの範囲なら何処でも見なくても起こせる。

 また壁を蹴って天井へと跳び、今度は垂直に地上に降り弾幕を生み出して、竜巻を起こしながらまた壁へと飛ぶ。

 その途中で全然違う方向に結界が現れ、その直後に霊夢の舌打ちが聞こえた。どうやら先回りして結界を張ったは良いものの、どうやら予想とは全然違う方向に私が跳んだ為に全く意味をなさなかった様子。

 

「いつもの霊夢らしくないねぇ。まぁ、いつもの霊夢って言う程に私は貴女の事を知っている訳じゃないけどさ」

「五月蠅いっ!!」

 

 ふむ……そんなに霊夢を怒らせるような事はしてない筈なんだけどなぁ……。

 そんな彼女が怒っちゃうような事を私がした?

 

 1,彼女の攻撃が全く当たらない。

 2,弾幕ごっこの最中に、私の言葉が彼女の心をえぐった。

 3,ここに来る途中で何かあり、今になってそれを思い出した。

 4,……は流石に情報が足りないかな?

 

 ……コレじゃあ、ねぇ?

 このまま上へと進んでいっても、異変の解決が出来るかどうか……。

 はぁ……やれやれ。

 

 

 

 壁を蹴って地上へと降り立つ。弾幕を生み出す事はせずにただ普通に降りる。

 それを見てか霊夢も攻撃をやめてくれたので声を掛ける。

 まぁ、弾幕を撃って来ても避けながら言うつもりでいたから有難いけど。

 

「どうしたのさ霊夢。そんな焦っても弾幕は当たらないよ? まぁ、弾幕歴二年も無い私が言うのもなんだけどさ」

「っふ、っふ……」

 

 ほ〜ら、霊力の消費で息が上がってるじゃん。

 何が原因かは分からないけど、それは何とかしてくれないと困る。主に異変解決とか幻想郷の安泰とかそういう意味で。

 

「何かを私がしたとか言うなら、まぁ、謝るけどさ。何かあったの?」

「うる、さいわね。そんなの私の勝手でしょ……」

「いやまぁ、そうだけどさぁ……」

 

 ん〜、聞く耳を持たない。

 はてさて、どうしたものやら……いっその事、私が上を目指すか?

 いやいや、それじゃあ解決って形にならないしなぁ。こういうのは博麗の巫女が解決してなんぼって奴だし。

 

「まいったねぇ……どうしたものか」

「簡単でしょ……私があんたを倒して先に進むだけよ!」

「だからそれが今難しい状況なんでしょうが」

 

 そう叫んで弾幕を撃ってくるも、それをあっさりと避けて霊夢へと近付く。

 誘導弾の精度も何となく悪いような気がする。いやまぁ、さっきまで撃って来ていた弾幕もグレイズしたらもう追って来なかったけどさ。

 距離はおおよそ2m。弾幕を撃つには近すぎる距離。

 

「……なんで、当たんないのよ」

「言葉を返すようで悪いけど、そんな事を言われてもねぇ。わたしゃ普通に避けてるだけだし」

「それが、異常すぎるのよ!!」

「おわっ!?」

 

 突き出されたお祓い棒を避け、その先で発生する結界も跳ぶ事で何とか避けて、縮めた距離がまた開く。

 が、この避け方がまたどうやら癪に障ったらしく、また怒鳴られる。

 

「その回避に徹するのがむかつくのよ!! 魔理沙ならともかく文だって今のは当たるわよ!! それが何で避けれるのよ!?」

「い、いや、だから普通に避けてるつもりなんだって……」

 

 そんなおかしい避け方したか私……?

 普通にお祓い棒を半身になって避けて、結界は普通に地面を蹴って避けたんだけど……あ、反射神経がおかしいって言いたいのか?

 いや、妖怪なんてそんなもんでしょうよ。文だって反射神経なら私と大差ないと思うんだけどなぁ……。

 

 ま、まぁ、とにかく霊夢の怒りの発信源は分かった。

 

「……とりあえず霊夢が怒っている部分は分かったつもり。で、それは私にどうしろと?」

「っ!? なんですって!?」

「あ〜、怒らせるような口調なのはごめんね? でもさ?」

 

 能力発動。

 いささか卑怯過ぎる手段だけども、彼女の心身の状態をFlat(フラット)に戻すには、こうするしか無いと判断した。

 

 

 

「その部分を怒られて私はどうしろって言う訳?

 紫の能力を使って境界を弄れとでも?

 それとも反射で避けるのを封じろと?

 いっその事負けろとでも?」

「なっ……」

 

「そうじゃないよねぇ?

 私が覚えてる博麗の巫女はそんな奴じゃないよねぇ?

 私みたいにそんな外道じゃないよねぇ?

 ……だから、

       少し……『落ち着け』」

 

 言語に乗せた衝撃を霊夢へと送り付ける。言霊だ。

 そうそう、大分前にチルノと本気で戦った時にこれを名付けたっけな。『偽典・統一言語』ってね。

 あくまで相手に思い込ませて刷り込ませる言葉だから、本家の否定出来ない部分に語り掛けるような強制力はない。破ろうと思ったら破れる技だからね、これは。

 

 

 

「……あんた、私に何かしたわね?」

「お、落ち着いてくれたね。その質問には『イエス』さ」

「ふぅ……でも、正気に戻してくれた事には礼を言っておくわ」

「そらどうも。ま、内容を聞く限りどうやら私の方にも非があったみたいだけどね」

 

 頭に手をやり、まるで頭が痛いかのように溜息を付く彼女。

 その頭痛も治してあげようか? と訊くと、良いわよ馬鹿。と言われてしまった。馬鹿と言われる筋合いは無いと思われる。

 

 

 

「それで、どうする? 試合続行か、否か」

「そういう所はあんたのご主人に似てるわね……」

「ご主人? ……ああ、紫ね」

「……あんたまさか」

「いやいや、どっちかって言うと私達は主従の間柄って感じじゃないんでね。いやまぁ、そんな事は置いといて」

 

 どうするんだい?

 私としては、このスペルカードを取り下げてもいい。私の反則負けって形でね。

 今考えてみると、こりゃあ確かに強すぎかなと思わんでもない。回避が得意な私に回避主体のスペルカードっていうのはちょっとダメだったかね。

 

「このままこのスペルカードを続けるかい?」

「……いいわ、取り下げてちょうだい……悔しいけど」

「ん、了解」

 

 足を上げて地面を踏みつける。その衝撃を全て自分に返ってくるように調整し、自身の結界を叩き割る。

 反動で結界の壁中央まで吹き飛ばされたりはしたけど、なんとか受け身をとって地面へと跳び降りる。

 

「さ、て……三枚目。もっとスピードを上げていくけど、追い付けるかな?」

「頼むからさっきみたいに無理難題はやめてよ?」

「勿論。最後の一枚は耐久スペカさ。時間が来たらそっちの勝ちでいいよ」

「……ああ、なんとなく予想が付くわ……それもブレイク出来ない感じでしょ絶対!?」

「いっくよー」

「話を聴け!!」

 

 

 

 誰が聴くもんですか。私は根っからじゃ無いかもしれないけども、バトルジャンキーなのよさ。

 

「《幻想優美(げんそうゆうび)》!!」

 

 

 


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