風雲の如く   作:楠乃

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東方緋想天 その5

 

 

 

 愚痴を一つ言うならば、紅魔館の図書館で私とレミリアは戦っている訳なのだけれども、そんな屋内で竜巻が発生する訳もない。つまらぬ。

 

 

 

 

 

 

「二枚目行くよ!!」

「さぁ、一枚目のようにあっさりと打ち破ってみせるわ」

「そいつはどうかな? 《力符『疾風(しっぷう)怒濤(どとう)』》!!」

 

 まぁ、実に私を的確に表したような四文字熟語である。

 決して似ているというのはスペルカードの内容ではない、というのがミソである。何に対してのミソなのかは知らないが。

 

 

 

 今度はちゃんとした弾幕である。実際の弾ではなくて風そのものが弾だけどね。

 スペルカード宣言をし、扇子をレミリアに対して構える。

 

「行くよ」

「何確認なんかしてるのよ。さっさと撃ちなさい。乗り越えてやるから」

「……ふふ」

 

 そんな強気な彼女の台詞にちょっと笑いながら、左手に持った扇子を思い切り薙ぐ。

 私が起こした巨大な旋風(せんぷう)が、真正面からレミリアの元へと飛んでいく。

 

「ッ、っと!?」

「……ま、避けれるよね。そんな速くないし」

 

 真正面から飛んでいくのもあるだろうけどね。

 旋風はそのままグレイズされて避けられてしまった。まぁ、予想通り。

 

 予想通りって事は、更に追撃の手があるという事である。

 

「さぁて、まだまだァ!!」

「なっ!?」

 

 空を飛んでグレイズしていく彼女に、扇子を何度も振るって何十もの旋風を叩き付ける。

 初めの旋風を当てて、それから追撃として小さい旋風を連続として当てまくる、っていう技なんだけどね。

 まぁ、幽々子とか紫とは違ってスピードタイプのレミリアだ。避けられるだろうとは思ってた。

 

 でもね? 避けられたって追撃を全て避けられるかな!?

 

「クッ! 多すぎよ!!」

「そりゃそういうスペルだしねぇ!!」

 

 それでも、そんな事を叫びながら旋風を避けていく彼女。

 その動き方はまるで踊るかのようで……綺麗に避けていく。

 でも撃っているのは私なのだし、避けている彼女もそれどころではないだろう。多分。

 時たまガードしているのも見えるし、ダメージはちゃんと通っている筈だ。まぁ、致命傷となりそうなのは一向に入らないけど。

 

 

 

 何十発も撃っている内に、妖力が切れてしまった。いや、一回で使える量の限界まで来てしまったという意味で、私自身の総合貯蔵量はまだあるのだが。

 ……そういえば、いつの間にか妖力もそれなりにあるようになったなぁ、とか呑気な事をしみじみと考えつつ、扇子を一旦閉じる。

 

「勝機!!」

「そうやってわざわざ言うのはどうかと思います」

「良いのよ! 格好付けよ!!」

 

 ……いや、それだったらその理由は一番言っちゃいけないと思います。

 

 とは言え、そんな事を言い合っている間にもレミリアは私の目の前へともう辿り着いている訳であって、次々と爪を振るってくる。

 ジャブのような爪をガードし、脇腹を抉るような横からの爪をバックして避ける。二撃目も同じく回避。

 彼女も私を逃がす気はないらしく、追撃として真っ赤な弾幕を放ってくる。まぁ、当然避ける。当たり前である。

 そうやって避けていく内に、自身の妖力が溜まったのを感じる。

 オッケー、準備完了!

 

「再度発動!!」

「させない! 《神槍『スピア・ザ・グングニル』》」

「げっ!?」

 

 扇子を開き、術式を発動させた時には既に、レミリアの掲げた腕には深紅の槍が。

 あれはいつぞやの事件の時に、私の腸を抉り取っていった槍じゃないの!! 殺す気か!!

 

 ……とは言え、既に術式を起動してしまった状態。避ける事は出来ない。旋風を扇子で作るには周囲の大気を操る必要もあるし、迂闊に動ける技ではないからだ。

 まぁ……既にこの状態で、私の負けは確定という事である。

 

 レミリアから槍状のオーラが放たれ、動けない私に突き刺さり結界が再度壊れる。

 吹き飛ばされて周囲を守る結界にぶつかり、戦いの修了を示すかのようにその結界も割れていく。

 

 

 

 

 

 

「いや〜、参った参った。負けました私負けましたわ」

「何いきなり回文なんか作っちゃってんだか……」

 

 と、言う訳で戦闘終了。お疲れ様でした〜。

 

 結界のお陰でこの大図書館も荒らされる事なく戦闘が終わった。私とレミリアが多少の疲労を感じるだけである。いやはや素晴らしき決闘方法かな。どうでもいいけど。

 

「で、この後も犯人探しごっこは続けるつもり?」

「ごっこじゃないわよ。ちゃんと探してるわ」

「という事は続けるのか。と言うと咲夜がまた誰か連れてくるのかな?」

「聴いてないし……まぁ、そうよ」

 

 やれやれ、咲夜も大変だろうに。

 まぁ、彼女も結構ノリノリで私に勝負を挑んできたし、楽しくやってるのかね。それなら私から言う事はない。

 いや別に楽しくなかったら言う事があるって訳でもないけどさ。

 

 

 

「……その傷、明日までに治せるの? 到底そうは見えないんだけど」

「ん? ああ、この右腕?」

 

 レミリアが言う通り、明日まで治すとなると結構大変だろう。多分。

 今現在、完全に右腕は使える状況ではない。指は全て変な方向に曲がっているし、手の甲からは骨が幾つか突き出している。骨が飛び出しているのは肘も二の腕も肩にもあるけど。

 とりあえず、妖力を右腕全体に集中させて回復させる。

 

「まぁ、明日までに治るかって訊かれたら微妙な所だね。経験からして明後日の朝なら治りそう」

「それでもかなりの速さじゃない……?」

「即時回復が出来る吸血鬼ほどじゃないよ」

「いや、それに近いレベルなのは確かでしょう……」

 

 ……そんな速いか……いや、良い事だろうけどさ。

 

 じゃあ、ここにまだパチュリーが居るのなら、彼女に頼んで治してもらおっと。

 それがまぁ、手っ取り早く回復する方法でしょ。多分。

 

「パチュリーは?」

「さぁ? パチェは追い出しちゃったから分からないわ」

「追い出したって……んじゃ適当に探して治してもらうよ」

「あらそう。じゃあ……どうするの?」

「……そうだねぇ……じゃあ、どうせ霊夢とかが異変解決するだろうから、その後の宴会にでも」

「フフ、そうね。じゃあその時、また逢いましょう」

 

 その時に殺しあいましょう。ってね。

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 屋敷を彷徨き、ようやくパチュリーさんを見付ける。

 見付けたのはどうやら食堂っぽい所。とりあえずやけに長い机が置いてある所。そこの机の上に本を何冊も積んで本を読んでいた。いつでも本を読んでるね。私も好きだし、どうこう言わないけどさ。

 そういえばレミリアはパチュリーの事を『パチェ』って呼ぶんだね。まぁ、気付いたのは彷徨いている時で大分前の話だけども。

 

「へいパッチェさん。この傷治してーな」

「……何よ。いきなり」

 

 どうやら不機嫌のようである。いつも通り冷たい態度。あれ? いつも通り?

 まぁ、住処である図書館から追い出されたってのなら仕方無いかね。

 

「いやさ、レミリアと戦ったらこうなっちゃってさ」

「またレミィと戦ったの?」

「……そっちはレミィと呼ぶのか」

「なにか言った?」

「いんや」

 

 どうやら親しい間柄のようで。

 吸血鬼という悪魔と魔法使いか。そう考えると相性は良いのかね? 知らないけど。

 

 近寄ってパチュリーに右腕を見せる。身長が結構低い私とそれなりに身長が低く更に椅子に座ったパチュリーを比べると、顔の高さは一つ分違うという。

 わぁい不思議だなチクショウ。

 どうして娘みたいにならないものか……いや、あんなに高身長なのも嫌だけど。

 

「酷い複雑骨折ね。普通なら切り落とせという所なのだけど……その割には他は平気そうね?」

「ああ、これ。私の不注意で出来た傷だしね。レミリアとしたのは弾幕ごっこだし」

「余計にこんな怪我が出来る理由が分からないのだけど……」

 

 そう言いつつも、回復魔法らしき物を私の右半身に掛けていくパチュリー。

 メキメキと骨の位置が元に戻り、いつも以上のスピードで傷が治っていく。それなりに痛む。というか結構痛い。むっさ痛い。

 これしきの痛み、顔に出してやるものか。ふぬぬ。

 

「いつつ……ちょいとスペルカードの実験でね」

「……はぁ……貴女ね。いきなり実戦で試したりするからでしょ。前の妖精の時もそうだったみたいじゃない」

「あれ? 話したっけ? その事実」

「……」

 

 如何にもあきれて物が言えない、と言った表情のパチュリーさん。

 まぁ、いつもの事である。まる。

 

 

 

 骨の位置が元に戻り、今度は肉の修復が始まる。

 先程よりも激痛が右腕に走るのは、えぐれた神経やら血管やら筋肉を治しているからだろうか。ってかそれしか無いか。

 

 ふと、先ほど思い出した事があったので、更にちょいと思い出して言ってみるか、と画策してみる。

 

「……そういえば、ウチの娘がどうやらお世話になったようで」

「ハイ?」

 

 あれ? 知らなかったっけ? 私と彩目の関係。

 ……あぁ、文々。新聞には書いてなかったっけか?

 

「彩目、倒したんでしょ?」

「あぁ……あの武士……ええ!?」

「おっと、いきなりそんな驚いて術式が止まったりしたらどうするのですか

「そんな事より! 貴女の娘が彩目だと言うの!? ゴホッゴホッ!!」

 

 そんな勢い余って詰問したせいか、パチュリーがいきなり咳き込み始めた。

 ……この咳き込み方。

 

「……喘息?」

「ヒュー……ゴホン。ええ、そうよ」

「それはまた……詠唱に差し支えあるんじゃない?」

 

 さっきの咳込みで、回復の術式が不安定になってたしね。

 それでも術式そのものがストップしなかったのは実力なのかね。詳しく知らないから何とも言えないけど。

 

「ゴホ、そうなのよねぇ……って、そんな事より!」

「あ、話題から逸らそうとしてたんだけど、やっぱりダメ?」

「……本当なの?」

「文にでも訊いてみたら? 新聞配達にここに来るんでしょ?」

「本当……なのね……」

 

 ……その、絶望したッ!! って感じの顔が凄い気に掛かるんですけれども。

 いや、まぁ、確かに母娘の性格があまりにも違い過ぎるとか、身長的にありえないだろとか、実力とかもありえないとか色々と言いたいでしょうけどね?

 

 あ、でも実力はそうでもないのかな? パチュリーに負けたって彩目は言ってたし。

 

「で、話を戻すけど、ウチの娘がどうやらお世話になったようで」

「ああ……数日前の話ね。博麗神社での」

「そうそう。どうやら異変解決の為に色々と動いてるらしいね」

「そうよ。なのにレミィったら『何であんたも動かないのさ』とか言ってきたりして……」

 

 おおっと? まさかの館の主の裏話聴けちゃう?

 ……でもまぁ、そんな話は面白くなさそうだから良いや。何でもかんでも私が面白そうと判断すると思ったか。いや無いね!!

 

 まぁ、彼女も友人の陰口を叩くような嫌な性格ではないらしく、普通に回復に専念し始めた。

 友人なんだしそんな事言っちゃあダメだよねぇ。私がそう思ってるだけかも知れないけどさ?

 

「はい、終わったわ」

「ん、ありがとう」

 

 とりあえず、拳を握ったり机の上にある本を持ち上げたりして調子を確かめる。

 

 ……ふむ、良い感じだ。寧ろなんか動きやすくなってるような気もしないでもない。

 

「うん、大丈夫かな?」

「そう。次からは根本的に怪我しないようにしなさい」

「それは無茶振りというものだ」

「なんでよ……」

 

 生きている限り、ヒトは怪我をする!! ばい、詩菜!!

 今日の格言ですな。うむ。

 

「さて、フランの所でも行くかな」

「……まぁ、止めはしないけど。妹様が暴れそうになったら貴女が止めなさいよ? 私達も協力はするけど」

「ふふん。私はそれ関連については専門家だから大丈夫」

 

 狂気も感情の一つ。感情の一つならば衝動的に発するという事。その時の『衝撃』は私の専門分野。ってね。

 だいたい情緒不安定なんて、私にとっちゃいつもの事だっつうの。ねぇ?

 

 

 







 祝100万字超え!

 ……よくもまぁ、ここまで続いたもんだこと(ひとごと)


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