風雲の如く   作:楠乃

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 さてさて、ようやく緋想天開始ですよ。
 そろそろストックも尽きてくる頃……というかストックがありすぎた。文字量がありすぎた。





東方緋想天 その1

 

 

 

 緋色の雲が空に集まり、暇だった天人が地震を起こして神社を倒壊させてしまった異変。

 いつもの弾幕ごっこではなく、一風変わったやり方で首謀者をやっつけた異変解決者たち。

 

 その異変に彼女たちはどう向き合ったか。

 これは、そんな鎌鼬達の物語。

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 最近、何かがおかしい。おかしいと思う。

 何がって、いやもう……全てと言うべきだ。

 

 と言うか全てって言うか……その……ねぇ?

 

 それとも逆にいつもの異常気象と言うべきなのかな……? いや、ここは幻想郷だし現代じゃないんだから……そんな事はないと思うんだけどなぁ……?

 

 

 

 まぁ、何にせよ。

 

「この異常気象は、おかしいでしょ」

「……まぁ、な」

 

 彩目とぬこと共に自宅の外に出て、空を見上げる。

 天候は荒れに荒れていて、風がビュウビュウ吹いている。いや、どっちかっていうと『竜巻』?

 空は暗雲が立ち込めていて、強い雨が突風と同時に降ってきている。そして頭上には小さな竜巻が一つ。

 

 明らかに、おかしい。異常である。

 地上に降りずに、ずっと空中で渦を巻いているのが一番不可思議な出来事に思える。いや、竜巻が起きている時点でおかしいんだけども……。

 

 

 

「……何かやらかしたのか?」

「そして、何故。我が娘は即座にわたくしを疑うのでしょうか」

 

 いや、まぁ、疑われるのも仕方無いかなぁ? とも思うよ? 

 妹紅の事でここ最近ずっと鬱に近い気分だし、そりゃあこんな災害でも起こしてやろうかと思った事もあったさ。

 

 でもね? 幾ら何でもやりませんって。こんな事。

 めんどくさい。面倒な。面倒臭い。三段未活用。

 

 そもそも異変を起こしても、異変調停に使われる弾幕ごっこじゃ勝てっこないのに、どうしろと?

 

 ……いや、勝てたらやるのかっていう話でもないけど……。

 

 

 

「だってこんな天気、出来るのお前か文ぐらいだろ」

「……天魔っていう選択肢は?」

「あんなお前とは違って良いヒトが、こんな事をやらかすとは思えん」

「親の扱い酷くない? まぁ、分かるけどさ」

「……それは天魔の事だよな? 自分の扱われ方を知っているという訳ではないよな?」

「はっはっは、何を今更」

「………………」

 

 まぁ、確かに天魔はやらなそうだけどね。と言うか、家族や山の事を考えてこんな異変を実行する性格ではない。

 

 それにしても……そこまで信じられてなかったか。

 ちょっとショック……いや、ショック、なのか……うん?

 ……まぁ、いいや。

 

 

 

 何にせよ、これは私が起こした事じゃあ無い。

 で、恐らく文が起こした風でもない。

 

「分かるのか?」

「似たような能力だしね。誰が起こしたかは分からなくとも、知り合いかどうか位なら分かるさ」

 

 何と言うべきか、文の特有の匂いが無いと言うべきか。まぁ、彼女特有の妖力が感じられない。

 

 問題点は、それで判断するならこの『天候』は自然発生って事になるんだけど……。

 ……そりゃ幾ら何でもおかしいでしょ。

 

「……三日も続けて我が家の頭上に竜巻ってのは、ねぇ?」

「明らかに作為的だろ。幾ら何でもおかしすぎる」

「……そうなんだけど、さぁ……」

 

 誰かが起こしたっていう雰囲気はないしなぁ……。

 どっちかって言うと、何かを巻き上げてるっていう感じはするんだけど……。

 

「……こりゃあやっぱり異変、かね?」

「……どうだろうな。確かに春雪異変みたいな雰囲気はあるが……」

 

 『春雪異変』……五月になっても冬が終わらない、幽々子達白玉楼の住人が起こした異変……ね。

 確かに天気が異常だっていうのは同じみたいだけど……。

 

「……何か、違うね」

「なんでだ?」

「勘」

「……何処かの巫女みたいだな。それ」

「まぁね」

 

 勘云々は置いといて、ちゃんとした証拠もある。

 

 感覚的に測ってみると、この頭上に展開されている竜巻の範囲はあまり広くない。まぁ、それでもこの暴風雨の範囲は数kmはあるだろうけど、計算すると山の斜面だけという事になる

 竜巻自身の大きさは数十mほど。中央に一つだけでそれも結構高い位置に竜巻があるから、それほど地上に被害は出ず、あまり影響がない。

 例えるなら、何処ぞの海外の竜巻映像が、下半分だけ消滅しているような、良く分からない状態だ。

 

 まぁ、私が能力で多少なりとも抑えてるからだけどね。影響云々は。

 

 恐らく人里にはこの暗雲は届いてないだろう。あんまり規模は大きくない。

 だから人里が洪水や暴風に襲われて壊滅、って事はないと思う。勘だけど。

 

「やっぱり勘なんじゃないか……」

「まぁまぁ」

 

 そう言って、スキマを開く。行き先は勿論人里である。

 そのスキマを通して上空から人里を見下ろす。

 

「……ん?」

「どうかしたのか? まさか人里に何かあったのか?」

「いや、それはない……ないけど、平和過ぎる」

「……はい?」

「だから、平和過ぎる。大雨どころか突風すら吹いてない。寧ろそよ風が吹いてるよ。『過ごしやすい夏だ』なんて村人が話してるもん」

 

 人里では風が、湿度も太陽の暑さも吹き飛ばしてしまっている。

 それでいてそれは強すぎない風だ。まるで何かを回復させるような、生命の息吹と言えそうな心地好い風が吹いている。

 

「こっちだとこんな天気なのにか? それこそ誰かが結界でも張ってるんじゃないのか?」

「……いや、早苗が居るのは見えたけど、そんな様子もない」

 

 普通に自分の神社を宣伝してるだけみたいだしね。彼女から何か風が出ている様子もないし。

 でもまぁ……どうやら、この幻想郷にも着々と慣れてきているようで。宣伝もどうやら上手くいってそうだし。

 

 まぁ、そんな事は置いといて。

 スキマを閉め、やっぱり未だに酷い荒れ模様の空を見上げる。

 風、雨、時たま雷。

 

 

 

「……異常すぎるよねぇ」

「ああ……」

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 まぁ、何にせよ行動するべし。

 彩目と別れて行動だ。彩目は人里、私は知り合いの家。ぬこはお留守番。

 

 別に紫から命令やらは受け取ってないけど、私達に被害が出ている事件である。

 勝手に行動しても文句は言われてまい。この異変を起こしたのが八雲一家なら話は別だけど。

 

 とりあえず、移動した事で分かった事もあった。

 この竜巻、私に付いて来ているのだ。

 ……というか、恐らく私が発生原因……なのかな?

 

 そして自分に付いて来る事が分かった途端に、自分から立ち上がる緋色の霧に気が付いた。

 ……なんじゃこら。とか考えつつ道を歩いて行く。

 

 ま、一応目標地は『白玉楼』だ。

 春雪異変を一度起こしたのなら、この状態にも詳しいかも知れないしね。

 

 

 

 歩きながら、自分から沸き上がっているこの霧について考えてみる。

 緋色……まぁ、私の緋色玉とか妖力の色が緋色に近い色だから、それが出ているのかな? 分かんないけど。思い当たる節がそれだけってだけだし。

 後はまぁ……全然関係なく、この異変特有の何かかしら?

 

 感覚的には何かを吸い取られている感じはあるが、それほど急激に吸われているようでもなく、また体調に何か悪影響を及ぼしている様子もない。

 つまり、何かの物質が上へと吸い取られている感覚はあるが、影響はない。

 要約すると、意味が分からない。

 

 ……まぁ、解決すれば分かるでしょ。解決するのが私じゃなくても、ね。

 

 

 

 

 

 

 はてさて、そんな考え事をしながら白玉楼へと歩いて行く。

 歩いて行く……ん?

 

 何故私はわざわざ歩いて向かってるんだろう?

 結界があるから、確か空を飛んで行かないと駄目なんじゃなかったっけ?

 ……ふむ。我ながら良く分からない行動をしている。

 

 

 

 という訳で、思い立ったら即行動。だがそれが吉と出るとは限らないがな!!

 さっさとスキマを開いて、白玉楼へと向かいますか。

 ……まぁ、前みたいに妖夢に刃物を向けられるとか……無いと、いいなぁ……。

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

「お邪魔しま、寒ッ!?」

「あらあら、紫かと思ったら詩菜ちゃんじゃないの」

 

 白玉楼で出た瞬間に、いきなり私を襲う冷気。妖夢の刀ではなく、刺すような冷たさである。洒落にならん。

 それと共にのんびりとした声が掛けられる。

 まさかチルノでも居るのかと思って辺りを探ろうとして、私は絶句した。

 

 辺り一帯に、雪が積もっている。

 ……え? 今って、夏だよね……? 何か私間違った事とか言ってる?

 

「ふ、ゆ……?」

「いえ、夏よ? ここは冬だけど」

「???」

 

 どうやらのんびりした声は、ここ『白玉楼』の主の『西行寺(さいぎょうじ) 幽々子(ゆゆこ)』だったようだ。

 縁側でゆっくりとお茶を飲んでこの天候を満喫しているようである。性格と相まって何故か幻想的に……って。

 いやいや、そんな事より!!

 

 雪……だよね? これ……。

 どう見ても雪……ううっ、さぶい……っ。

 

「寒がりなのかしら。夏なのに、勿体無い」

「寒がりに夏は関係ないんじゃない? 勿体無いって……ん? いやでも夏だし……? ……あれ?」

 

 私が幽々子の言葉で更に混乱していると、一気に頭上の雪雲が黒くなっていき、天候が嵐へと変わっていく。

 そしてまた風が吹き始め、暗雲が渦を巻いて竜巻を作り出す。

 それの所為で積もっていた雪が舞い上がり、地吹雪みたいな現象が起き始めてる。

 ……寒い!! 視界ゼロ!?

 

「あらあら、綺麗な雪が吹き飛ばされちゃった」

「え? あ、ああ……ごめんなさい? なのかな?」

「うふふ」

 

 幽々子が笑う。あんまり良く見えないけど。何だろう、嫌な寒気が……って、元々寒いか。

 私が連れてきた竜巻という天候の前に、積もっていた雪が突風で巻き上げられて視界を白く染めていく。

 雪は降っているのか、それとも巻き上げられているのか分からない状態。

 まさにホワイトアウト状態。いや、幽々子ぐらいなら見えるんだけどね。というか寒い。

 

「何でまたこんな状態に?」

「風情があって良いじゃないの」

「……あるかなぁ? いや、あるのか……」

 

 風情云々は幽々子の方が分かるだろうし。なんたって歌聖の娘である。詳しいに違いない。偏見だろうけど。

 

 まぁ、彼女が残念そうな台詞……表情は相変わらずの笑顔だけど、残念ならとりあえず竜巻は弱くしてあげましょう。

 能力展開。自身を含むある一定の範囲内の衝撃(風)を弱体化させる。

 

「……あら? 自力で操れるの?」

「いんや、能力で抑えてるだけ。完全には操れないよ」

 

 そもそも操れてたら、こんな異変だ何だと騒いで、幽々子の白玉楼に来たりはしないしね。

 

 まぁ、何にせよ風は少し収まって地吹雪が静まった。

 それでも寒い事には変わらない。う~さむさむ。

 

「凄いわね~。で、それで何のご用かしら?」

「ん、この異常気象について何か訊こうかと思ってたけど……どうやら違うみたいだね」

「まぁ、私を疑うというの?」

「疑っていた、だよ」

 

 勘だけどね。理由は。

 幽々子はこの異常気象自体を楽しんでいる節がある。でも、何となく違うと思う。

 天衣無縫な彼女は、寧ろこの状況を楽しんでるね。もしこれが異変だとしても解決しようとせず、そして解決を邪魔したりもしないだろう。

 私の長年の勘がそう囁いているのである。

 

「……理由を聴いても?」

「勘」

「何処かの巫女みたいだわね」

 

 そう言ってクスクスと笑う幽々子。

 相も変わらず天真爛漫。実に楽しそうに笑うお人である。

 にしても、私の勘は別に巫女ほど当たるって訳でもないし、そもそも巫女って霊夢の事だろうけど、彼女の勘ってそんなに当たるの? いやまぁ、異変を勘で解決しているとは良く聞くけど。

 

 

 

 

 

 

 ……まぁ、勘云々はどうでもいいし、幽々子がそうやって笑うのはいいけどさ……。

 

「……どうしてそう臨戦態勢なのですか?」

「あら? 分かってて訊くの?」

 

 いや、分からねーよ。色々と。

 あれー? 勘だと幽々子は今回静観しているって予想だったんだけどなー?

 

 

 


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