「詩菜さん」
「……ん? 咲夜?」
いきなり肩を叩かれ、振り向いた先には咲夜がいた。何気に結構驚いたのは秘密である。
……というか、足音を拾えない程に、私は本に集中していたようだ。いかんいかん。
あ、でもまた能力使ったのかな? 音は時間停止中に響かない、とか?
……まぁ、どうでもいいかな。
「貴女の意識が戻ったと聞いて、妖精達がお見舞いに来ました。部屋でお待ちです」
「へぇ。分かった」
とりあえず……この本は本棚に戻して、っと。
う~ん、まだ最後まで読んでないんだけど……まぁ、今度また読みに来ますか。
気が付いたら既に夜は開けている。
つまり私は少なくとも四時間以上は本を読んでいたのかな?
……我ながら良くやるなぁ……。
「……申し訳ないけど、その部屋まで案内してくれないかな?」
「……分かりました」
……何よ、その『予想していたけど、当たっちゃったかー』みたいな顔は。
▼▼▼▼▼▼
咲夜の案内で部屋まで辿り着く。
彼女に案内して貰わなかったら、完全に迷っていただろうね。
あぁ、チクショウ。
そんな事を思いつつ、部屋の中に入る。
青い妖精、緑の妖精、黄色い妖精。
チルノ、大妖精、と……私が逢った事のない妖精。
……いや、でもここに居るって事は、何処かで会ってるって事なんだけど……そんな妖精って、ここに居るメンバーが以外じゃ『妖精ちゃん』ぐらいしか……って……。
「……もしかして、あの『妖精ちゃん』?」
「っ! ハイ!!」
あ~、当たってた~……良かった~……変な恥かかなくて……。
と、まぁ、本人達に聴かれたら物凄く悲しまれそうな事を考えつつ、変わった妖精ちゃんを観察してみる。
簡単に言ってしまえば、黄色いチルノの服を着た茶髪の妖精かな。
でも羽はチルノと違って一枚しか無いし、その羽は大妖精とも違ってとても薄く金色に光っている。
……向こうの景色が輝いている。とっても綺麗だ。
「……詩菜?」
「え? ……ああ、ごめんね。ボーっとしちゃってた」
「……やっぱり、まだ本調子じゃないんじゃ……」
そうして見蕩れていると、チルノが声を掛けてきた。
いかんいかん。逢いに来てくれたのに放っとくなんて。
まぁ、いつまでも立っている訳にもいかないので、妖精達に椅子を進めて私はベッドに乗る。
「大丈夫だよ。身体の調子は良くはないけど、気分は上々だし」
それに、大ちゃんも心配し過ぎである。
……まぁ、本当に死にかけていたのは間違いないみたいだけど。
自分でもそこら辺の自覚症状が無いんだよねぇ……。
う~ん、やばいね!
「……ごめん」
「? 何が?」
「なにがって……あたいはそこまでアンタを傷付けちゃったのよ?」
力を持った妖精と戦い、更にそこから強大な力を持った人間と戦った。
その所為で自分も力を持ってしまって、皆に迷惑を掛けてしまった。
……どうやら、チルノはそれで謝りに来たみたいだ。
見た感じ、その時の記憶もちゃんとあるようだ。
私とは大違いである。いや、記憶は私もあるけどね?
「いいよ。別に」
「……え?」
「私はただ暇潰しに、昔馴染みの妖精に逢いに来ただけ。ね?」
そう言いながら立って、チルノの頭を撫でる。
……立たないと、身長差的に撫でれないという何だか後ろめたい気持ち(?)を感じつつ撫でる。
あ~、サラサラで気持ちいいな~。
人の髪って、わりと気持ち良い感触だよね〜、いや、自分のでもわりと気持ちいいっちゃあ気持ちいいんだけどさ〜。
「……うん」
「よし。じゃあいつもの様に世間話でもしよっか」
「……いつもしてましたっけ?」
「ど、どうだろ……」
「まぁ、いいじゃん。今日だけは異変解決の宴会だよ。私達だけの、ね♪」
「……ふふっ」
「……じゃあネリアちゃんの事、話しましょう!」
「え、え!? 私!?」
「そうだね~。ネリアっていう名前、出来たの?」
「あっ、はい!
ライトニングとはまたかっこいい名前だねぇ。
まぁ、言わないけど。
「ネリアは能力を持ってるんだよ!」
「へぇ! どんなの?」
「えっと、『静電気を操る程度の能力』です」
「ふぅん、やっぱり名前と繋がってたんだ」
「……でも、まだまだ能力を扱いきれてなくて……どうしたらいいですか?」
「……ん~、そうだねぇ……要は、イメージ、かな」
「イメージ?」
「最強の自分を想像するんだよ!!」
「そうだね、チルノの言うそのままだね」
「えっと、良く分からないんですけど……?」
「簡単に言ってしまえば、そうだなぁ……うん。例えば、雷も静電気なんだよ。って事」
「……え? えええぇぇぇっ!? むっ、無理ですよ! あんなに電気を溜めるなんて!?」
「駄目だと思うから出来ないんだよ。自分の静電気は自分の手足とおんなじだって考えなくちゃね」
「う、う~ん……」
まぁ、科学的に言ったら静電気は電気じゃないとかどうたら言えたと思うけど……。
此処は幻想郷だしね。野暮な事は言わないって事で。
そうして妖精達と談笑しつつ、紅魔館での入院生活が過ぎていった。
倒れてから今日で……四日目? かな?