風雲の如く   作:楠乃

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魔女達

 

 

 

「……さて、と」

「ん? 帰るのか?」

「まぁね」

 

 魔理沙ん家なう。

 とは言え、もう帰るつもりだけども。

 

 

 

 私は椅子に座って何をするでもなくボーっとしていて、

 魔理沙は魔理沙で、何やら実験のような事をしている。

 彼女は何かの薬っぽいものを混ぜたり、そこら辺に積み上がった本から何冊か抜き取って読んだり、適当な紙に何かを書いたりしている。

 

 ……何だか、ようやく魔理沙が魔女っぽく見えた。

 まぁ……当の本人には言わないけどね。

 

 

 

 椅子から降り、足元には色々と散らばっているから踏まない様に注意しながら出口へと向かう。

 窓からは相変わらず雪が降っているのが見える。

 ……帰るの、めんどくさいなぁ……帰るけど。

 

「んじゃ、また来るよ」

「ああ。今度は驚かすような真似をするんじゃないぞ」

「私がそんな約束をするとでも?」

「……はぁ……」

「ま、次回からは大人しくぶつかるよ」

「ぶつかるなよ……」

「魔理沙は人の振り見て我が振り直せ。じゃあね」

「んー」

 

 魔理沙宅からお暇。

 滞在時間は……一時間半、って所かな?

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 現在『魔法の森』を彷徨いています。

 ……いや、別に迷ってないよ?

 

 ただ、陽が完全に落ちて、文字通り一寸先は闇みたいな状況なだけだけど。

 そもそも雪が降っているから、余計に真っ暗だけどね!

 

「むぅ……」

 

 別に夜目が利かない訳じゃないけど……さぁ……。

 瘴気は酷いわ、木々の影から茸の妖怪が無駄な奇襲を掛けてくるわ、いきなり真上から雪が落ちてくるとか、色々とうざすぎる。

 

 スキマ使って帰ろうかな……?

 ……いや……それじゃあ風情が台無しだ。ちゃんと歩いて帰ろう。もしくはどこかで寝よう。

 

 

 

 しっかし、それにしてもこの森をじっと見た事はなかったなぁ。

 私もどちらかと言うと妖怪の種族的には『山』の属性に近いからか、こういう鬱蒼とした自然は何となく安心する。

 ……まぁ、これだけ瘴気があるとその安心感も吹っ飛ぶけどね。

 

 

 

「ギィイエエエェェェッッ!!」

「……全く、うるさいなぁ」

 

 樹人(トレント)、というべきなのかな? どうでもいいけど。

 兎に角、そこらの樹が擬人化されたような妖怪が私を喰らおうと襲い掛かってくる。

 

 木の枝を鞭のように振るい、棍棒のような幹で私を押し潰そうとする。

 両方とも一切ガードをせず、能力だけで衝撃を全て反射する。

 鞭は一気に後方へと弾かれ、棍棒は全て粉々の木片へと変貌した。

 

「ギ? ギギィ!?」

「ふん、遅いよ」

 

 地面を蹴り、周りの木々を蹴り、瞬時にトレントの背後を取る。

 そのまま構えた左手を思いっきりトレントの背中に叩き付ける。

 

 無論、能力も全開で。

 

 

 

 私の拳が触れた途端に、トレントの木造の胴体は内側から爆発したかのように粉砕され、そのまま一つの妖怪は消滅した。

 はい、いっちょ上がり。っと。

 

 全く……どいつもこいつも相手との力量が測れないのかねぇ?

 そんなに私の妖力が低いのかな? それともあいつらが本当に単なる馬鹿とか?

 

 ……まぁ、どっちでもいいか。

 右手がなければ左目もないと言うのに、あっさりとまぁ、負けちゃって。

 情けない。

 

 

 

 

 

 

 そういえば、この森がどうして『魔法の森』と呼ばれているのか。

 それはこの森の化け物茸が出す禍々しい妖気・瘴気が人間には魔力を高める効果があるのだとか。

 普通の人間はこの瘴気に長時間耐えられず、妖怪もあまり近付かないのだとか。

 ……普通に私は襲われているんだけど……あ、森から発生した妖怪だったのかな?

 

 まぁ、兎にも角にも、この森は魔法使いにとって魔力を高めれて尚且つ妖怪に襲われにくいという最高物件なのだとか。

 それにしては先程から襲われまくっているけれど……やはり私は何か襲われる運命の下にでも居るのかしら?

 

 

 

 ……ちょっと、好奇心で能力を解除。

 新鮮な空気を吸う為に常時発動していた、私の頭を包んでいた酸素マスク的な空気溜まりが消えていく。

 

 

 

「……。……ッッ!?」

 

 視界が暗転しかけ、目蓋が急激に重くなる。

 色彩感覚が欠けて、モノクロの世界へ変わっていく。

 木は真っ直ぐじゃなくなり、地面は所々隆起し始める。

 自分の身体は強張り、汗が異常な程に出始め、左手が痙攣し始める。

 

 って、ヤバいッ!?

 

 

 

 

 急いで結界を張り、瘴気や茸の胞子を遮断。

 安全な空間を作ってから、さっきのお手製ヘルメットを能力で作成する。

 

「ハァ、ハァ……ハハハッ……ふぅ」

 

 結界を解除。

 ……うし、体調は悪化して……る、ね。

 

「あー……何してるんだか、私」

 

 ヤバかった。

 たかが瘴気だってなめてた。妖怪・鎌鼬だからって安心し過ぎていたよ。

 

 こんな一気に症状が出るなんて思わなかったわ……。

 よくもまぁ、魔理沙はこんな所に住めるよ。人間なのアイツ?

 

「……うぅ、一気に体調が悪くなっちゃったなぁ……」

 

 そんな自業自得な愚痴を呟きつつ、うろうろと森を進む。

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 ……あれ?

 

 視界の先に、仄かな光が見える。

 森の出口とは逆。寧ろ方角的には森の奥深くに何かが光っているみたいだ。

 

 

 

 これまた無駄な好奇心で、ちょっと近付いて見てみる。

 まぁ、魔法の森に出てくる妖怪達は、今の体調でも撃退するのは問題ないので大丈夫ではある。今まで見た事のない強力な奴が現れたらムリだろうけど。

 

「……家、か……罠でもなさそうだね……」

 

 どうやら先程から見えていた光はこの家からみたいだ。

 全体的に白い建物。魔理沙宅とは違って、付近もとても綺麗である。

 

 ……森の中で綺麗っていうのもおかしいような気がするけどね。

 先程から襲ってくる妖怪達とは違って、人間が住めるような清純な気を纏っている、という意味で、この家は綺麗だ。

 まぁ、それなら清純、と表現した方があっているだろうけど……。

 

 

 

 

 

 

 そうやって観察していると、ギィ、と音が鳴りその家の玄関が開く。

 

「……誰かしら?」

「あらら……夜分に失礼」

 

 中から少女が現れ、私に声を掛けてくる。

 

 ……ん? よくよく見てみたら、いつぞやの人形遣いじゃないの。

 金髪に赤いカチューシャ、薄い肌の色……ゴスロrげふんげふん!

 

 まぁ、洋風の服を着た少女だ。こんな所で再会するとは。

 

「何か用かしら?」

「……え~っと」

 

 ……ま、行き当たりばっかりだけど、とりあえず挑戦。

 さっきの妖怪どもとは違って話が出来そうだしね。勘でこのヒトは良い人と感じたのもある。

 

「すみませんが、泊めて頂けませんでしょうか? このような夜遅くに大変ご迷惑でしょうが……」

「……別にいいけど、妖怪の貴女が?」

「何分、このような身体なので。それに雪が」

 

 右腕と左眼が無いのですよ。とわざとらしい感じで見せ付ける。別に他意はない。情けを求めるというのはあるけどね。

 雪はさっきから変わらない調子で降っている。相変わらず木々の隙間からもチラホラと降っているし何か衝撃を起こせば上から雪崩のように降ってくる。

 それに、体調が悪いには事実だしね。

 

 ……正直に言って、全身がだるい。重い。

 瘴気の影響がだんだんと積み重なってきている。

 

「そう。どうぞ」

「有難う御座います」

 

 ……しかし……良く泊めれるねぇ、知らないヒトを。

 襲われても自分は勝つ自信があるのかね? やらないけど。襲わないけど。

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 彼女の名は、『Alice(アリス) ()Margatroid(マーガトロイド)』と言うらしい。

 予想通り魔法使いで、人形を操るのを得意としているみたいだ。

 

「いきなりだから、あまりおもてなしは出来ないけど」

「いえいえ、泊めて下さるだけでも有難いですし……」

「そう。それなら良かったわ。どうぞ」

「……ありがとう、ございます……」

 

 紅茶を淹れて客人の前まで出すまで、全て人形がやっていて自分は指しか動いていなかったら、そりゃ得意分野が分かるってもんだよ……。

 

 一瞬、完全に操作していない機械・ロボットかとも思ったけど、指を動かしたり話し掛けて命令しているみたいだし……。

 いやはや、何処の世界にも達人というのは居るもんなんだねぇ。

 ……まぁ、私も妖怪なんだし、他人の事は言えないか。音に関してなら誰にも負けない自信はあるし。

 

 

 

 

「……」

「……」

 

 そして、

 会話が続かない。

 

「……」

「……」

 

 ……どうやら、このアリスさん。あまり喋りたがりではない性格のようで、こちらを無視しているかのように作業をしている。

 その作業も人形作りだし……。

 まぁ……集中している人を見るのは面白いから良いけどね。

 

 

 

 壁の時計を見ると、既に時刻は十一時を過ぎている。

 別に私が泊まらせて頂く部屋は既に案内されて、この家の何処にトイレや洗面所があるか等は教えられているから……まぁ、別に私はもう就寝しても良いっちゃあ良いんだけど、さ……。

 ……それじゃあ、面白くないよね。

 

「……この前、人里で人形劇をしていましたよね?」

「ええ。気が向いたらやる事にしているの。材料を買うのは人里からだから、それの恩返しみたいな感じかしら」

「へぇ」

 

 

 

 そういえば、アリスと言われるとどうしても真・女○転生の方のアリスを思い出すなぁ……。

 ……金髪だし、眼の色もこんな感じだし、服装も似ているような似ていないような……。

 

「……魔王ベリアルと堕天使ネビロス、って知ってます?」

「有名な悪魔じゃない。それがどうしたの?」

「……いいえ、何も」

「?」

 

 ……まぁ、同一人物なんてありえないか。

 寧ろありえた方が驚きだよ。ホント。

 

 

 

「実は先程までその魔理沙の家にいたのですよ」

「へぇ……そっちに泊まれば、もっと簡単に済んだんじゃないのかしら?」

「まぁ、それもそうなんですけど……気付いたのが既に大分離れた後でして」

「ふぅん」

 

 というか、元々自宅に帰るつもりだったんだし、誰かの家に泊まれるなんて、こっちだって予想してなかった。

 夜道をゆったりと楽しんで、自宅に帰ろうかと考えていたんだけどね。

 

 ……途中で瘴気を思いっきり吸い込んじゃうっていうミスはがあったけどね。

 飽きたら飽きたでスキマを使っていただろうし。

 

「……そういえば魔理沙が詩菜、貴女の事を話していたわね」

「あら。何か言ってました?」

「『まためんどくさそうな奴が幻想郷に来たぜ』って言っていたわ」

「……」

 

 ……反論も出来ぬ。

 

「こうして話してみても、私にはそう感じられないのだけど」

「ま、まぁ、ヒトは誰しも猫被っている訳でしてね?」

「……否定するのはそっちなの……?」

 

 ヒトは誰しも誰かと誰かに対しては違う顔で相対する生き物である、ってね。

 

 

 

 ……しっかし、辺りを幾ら見渡しても人形、人形、人形……。

 

 あ、そうだ。

 

「アリスさん、アリスさん」

「何かしら?」

「『義手』って、造れません?」

「……」

 

 初めて視線を人形から外し、こちらを見るアリス。

 ……あ、綺麗な眼。

 

「……その腕に取り付ける為の、義手?」

「ええ。簡単には治らない傷ですので、それまでの間」

「ちょっと診せてくれるかしら」

「どうぞ」

 

 掛襟(かけえり)をずらし、右肩を出す。

 包帯を解き、傷の断面を出す。

 微妙に恥ずかしいけど、我慢我慢。

 

 あ~、そういえば包帯も変えてないなぁ……。

 フランの能力で吹き飛ばされたこの傷はなかなか治らないわよって紫に言われたけど、流石に一週間も経ってまだ包帯が血で染まるって……。

 

「……いったい誰にやられたのよ? まだ出血してるなんて……」

「あ~、悪魔の妹様に」

「……なるほどね」

 

 そう言って、ちょっと傷口に触られる。

 ビリッ、と痛みが走り、少しばかり身体が竦む。

 

「ッッ!」

「っと、ごめんなさい」

「……いえ、大丈夫ですので」

 

 約一週間。正確には八日間。

 フランに右腕と左眼を爆破されてから、経過した日数だ。

 左眼の方は、既に出血は止まっているけども、眼帯の中の鈍痛は止まる気配がない。

 ……眼帯というか、寧ろ包帯なんだけどね。

 ……包帯しやすいように、ポニテに変えようかな……? いや、髪の毛それほど長くないし、伸ばしてないしな……。

 

 

 

「……先に言っておくと、私はそういうのを作った事がないから、うまくいくとは限らないわよ?」

「まぁ、そりゃあそうでしょうねぇ」

 

 人形を作っていたから、橙子さん的なイメージで言っただけだしね。

 一応、訊いてみるとしよう。無理だとは思うが。

 

「因みに、『本人と寸分違わぬ人形』って創れます?」

「なっ、無理に決まっているでしょう!?」

「ですよね」

「……創れる知り合いがいるの?」

「いえ、その人を知っているだけです」

「……」

 

 まぁ、あれは小説の世界の中の住人である。

 ……あ、でも、頑張ってスキマを使えば『その世界』にお邪魔する事も可能なのかな?

 

 ……ちょっと試してみたい気もするけど、これは紫にちゃんと確認を取ってからだね。

 

「で、出来ます? 義手」

「……試してみないと分からないわ。どういう義肢を貴女が望んでいるかにも変わってくるしね」

「?」

「まず『装飾用義手』。これは外観だけの張りぼてのようなもの。後は……『能動式義手』だったかしら? これはもう片方の腕を使って操るってやり方ね」

「……案外詳しいんですね。作った事が無いって言っていたのに」

「人形にも関わる事だからよ」

「ああ、なるほど」

 

 連動部分とか、色々あるのかな? なるほどなんて言っちゃったけど。

 

 装飾用に能動式、ねぇ……。

 ……ふむ……張りぼて、外観重視……。

 

 

 

「……妖力で動かせません?」

「……なるほどね」

 

 理解力が早くて助かる。

 やはり弾幕ごっこを楽しむ幻想郷の人々は基本的に思考速度が早いと思う。

 

 中身がスッカスカで、操作が出来ない。

 なら、肉体以外のもので操作すればいい。

 外の世界なら、脳からの電気信号で応用するんだろうけど、生憎ここは幻想郷。そこまで科学が発達していない。

 つまりは、『外の世界にないもの』で応用すればいいだけの事って訳よ。

 

 幸い? にして私には妖力に神力、更に、風に衝撃まで操れる。

 肉体を操る方法は結構ある方だと思う。

 

「……とりあえず左手を診せて。そこから右腕を測るから」

「どうぞ」

 

 

 

 

 


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