意味不明回、再び。
でもまぁ、まだ普通、でしょう。多分。
前回の件で、私は案外『寂しがり』な性格なのかも知れない。と思った。
でも、それだったらわざわざ誰にも言わずに旅に出るとかはしないよなぁ。とも思う。
ヒトを惑わして、嫌われたりするような行為をしたりはしないと思う。
……まぁ、性格なんて簡単に推し測れたり出来るもんじゃない。
だからまぁ、こういう思考も実際は無駄な事であって。
……一体、自分は何がやりたいのだろうか……。
「……どうしたの? そんな落ち込んじゃって」
「……何だ、文か……今日は仕事も休み?」
「なんだとは酷い挨拶ね。今週の分は終わったから、今日は休みよ」
「……ふぅん」
声に反応し、居間の卓袱台に伏せていた顔をあげると、縁側からこちらを覗く文が見えた。
まだ靴下駄を脱いでない辺り、どうやら玄関を通るという正規の手段で我が家に入ってくるつもりはなさそうである。まぁ、別にどうでもいいけど。
今日はマフラーとお揃いの柄が入ったシャツを着ている。
……仕事着との違いが柄が入っているかいないか、っていうのはどうかと思うんだけど……。
……まぁ、いいか。どーせ他人の考え。よそ者には分かるまい。
「で、なんで貴女はそんな鬱なのよ?」
「……」
「……いつもの事、って訳ね」
「……まぁね……」
「ふぅん……返答はするからまだ軽度の状態かしらね」
……いつもの丁寧な口調じゃなくて、砕けた感じの口調になっているから……まぁ、休日だっていうのは本当なんだろうね……どうでもいいけど……。
……何故私はこう、『不機嫌な感じ』になっているのかと言うと、特に理由は無い。
明確な理由がないのであって、色々と重なったから、というのがどちらかと言うと本音なのだけれども、それだと面白くない。
だから理由が無いという事にしているだけなので、まぁ、兎にも角にも色々とあった訳で。
「……」
「……はぁ……」
相も変わらずに机に突っ伏したままの私。
……まぁ、遊びに来た筈の文からすれば、途轍もないほどのめんどくさい状況。という奴なのであろう。
……まぁ、知ったこっちゃないけど。
……。
「そういえば、彩目は?」
「……人里」
「そう。入れ違いだったの」
文の言う通り、二人は結構な入れ違いだった。結構な入れ違いって日本語がおかしいけど。
朝早くから彩目は人里に向かい、慧音の元へと向かったらしい。
それを私は見送る事もせず、居間からただボーッと眺めていて、それの数分後に文が来たからね。彩目も私が鬱って事でそれほど喋ろうとしなかったし。
……まぁ、それもどうでもいい事……。
「……」
「……」
「お邪魔する……わ、よ……?」
「あら、紫じゃないの」
それから十数分後、今度は紫が来た。
……まぁ、暇を持って余したか、何かヒトをからかいに来たか。
からかいに来たってんなら、あの三馬鹿天狗のいざこざをネタにして来たのかしたね。
……どちらにせよ、紫の相手をする気分でもない。
「……どうしたの? 彼女」
「さぁ? また鬱にでもなってるんでしょ」
……そういえば、紫の前で鬱になった記憶が無い。
文の前では結構あるんだけどね……。
……アレかな?
文とは何十年も連れ添って旅をしていたからかな?
……まぁ、それしかないか……。
「鬱? 詩菜が?」
「……まぁ、詩菜はテンションが高い時は躁病かと思うほどのアレだけどね……」
「へぇ……あの詩菜が、鬱。ねぇ……?」
……五月蠅いな。
私だって、もともとは『人間』だよ?
そりゃ人間と同じような気の病に罹るってもんでしょうが……。
いや、既に妖怪なんだし、精神の病気に罹りやすいってものじゃない? 精神が存在の中心になっているのが妖怪だとか何とかの話。
顔をゴロリ、と動かして縁側へと向ける。ちょいと首が疲れただけで理由は他にない。無いったら無い。
縁側というのは、そりゃ当然文と紫がいる方向で、彼女等と必然的に目を合わす事になる。
……ま、これもどうでもいい事……。
顔を筋肉を一切動かさなければ、当然無表情になる訳であって、
「……」
「ひっ!?」
「……」
「……紫」
「ちょ、ちょっと驚いただけよ!」
……まぁ、志鳴徒……というか、『前世』の時から言われ続けていた事だけども、どうやら私の無表情というのは……相当恐ろしく、怖いものらしい……。
恐らくは、『彼』も鬱になったらこうなる筈である。と言うと、早苗もこの顔は見た事があるという話になるのかしらん? どうでもいいか。
……相手と顔を合わせているのに、感情を量れない。
何も考えていなさそうで、その裏でとんでもない事を考えてそう。
得体の知れない、何か人間じゃないものを視ている気分になる。
……とかが、前世の知り合いの意見だったっけかな……?
「……本当、詩菜はどうしたのよ……?」
「分からないわよ……大体、何か出来ていたら私がどうにかしているわよ」
「……それもそうよね……」
……まぁ、例え何かをされたとしても、完全に無視するけどね。
今の私には、例え殺されそうになっても完全無視出来るほどの気分だし……。
……本当に殺されそうになったら、相手を完全に破壊する方が先になるだろうけど。
ま、それまでは絶対に動かないとは思う。我ながら。
「……式神の念話は?」
「……繋いでみるわ」
……やれやれ……面倒な事になってきそうだ……。
……今の私は、本当にそっとして置いて欲しい気分なんだけどな……。
あ〜、だる……。
まぁ、《いつも通り》の私を、垣間見せて上げましょうかね。
ブツン、とラジオに電源が入るような感じで、紫との念話が開く。
『……詩菜?』
『
バツン! という音が辺りに響き渡る。まぁ、私の脳内に響き渡るだけれど、本当は。
「ッッ!!」
紫も思いっ切り仰け反って顔を手で抑えている様子から、念話を無理矢理に解除したようだ。
……まぁ、私の強烈な思考の渦に巻き込まれたのだな! フハハハハハ!!
……ハァ~……。
「……ちょっと、紫、大丈夫?」
「ッええ……大丈夫よ……」
「……とてもそうには見えないんだけど……」
そう言う文を振り切って、いや、まぁ、言葉のあやという奴だけども、いや、こういうときに使うあやはそこに居る天狗の方の文じゃなくて、もっと言葉の意味的なそんな意味で使った訳であって、大体言葉の方のあやは綾という漢字が当て嵌まる訳で、
閑話休題。このままやっていたらきりが無い。
だけどそうやってきりが無い状態にして思考の波に呑まれて行くのもまた面白いんだけどね。
兎にも角にも、紫が私の元へと近付いてくる。
「……まぁ、貴女がそんな状態なら、無理に誘う事もないわね」
「……」
当然、私は無反応を貫くだけである。
とは言え当然と言ってしまっては相手側に対してすごい失礼。でもやるのが私。
「幽香が久々の紅茶の席に誘ってくれたのだけど……まぁ、貴女は後で謝った方が良いと思うわよ?」
「……了解」
そういって、今度は机から離れて仰向けに倒れてみる。
右腕は目の上に、左腕は額の上に。
「……喋ったと思ったら、これだもの」
「ははは……まぁ、鬱な時の詩菜は何をしても無駄よ」
「……本当、意味が分からないわ」
そういって、紫はスキマを通って帰っていった。
……まぁ、幽香の所には後日、ちゃんと行こう。
例えそれが死に物狂いで帰ってくる事になるとしても!!
はぁ……なんだろう、余計に鬱な気分になったような気がする……。
溜め息がこぼれる……ああ、幸せが……。
「……お疲れ様、って奴かしら?」
「……だね」
「実は、それほど酷い鬱って訳でもないんでしょう? 紫に何をしたの?」
……考えるアレ、というか気分にもならなくなって、鬱からはちょいと立ち直ったかな?
「……別に。思考の坩堝って奴を見せただけだよ」
「……るつぼ、ねぇ……」
手を天井に向けて伸ばす。
そういう行動に何の意味はないけど、気分である。
肩を前に出し、肘を伸ばし、手首を曲げ、指を反らし、その指の隙間から天井を見据える。
伸ばして行った関節が次々と音を鳴らしていく。
……そして、どうやら文はそういった音が嫌いな性質のようだ。
視界の端で彼女の顔があまり良くない物を見るような顔に変わったのが見えた。
私はそのままゴロリと寝返りをうち、縁側の方へと身体を向ける。
私がそのまま文の向こうに見える夕日を眺めていると、その内彼女もそちらを見始めた。
のんびりとした日常。
こういうのを、私は求めていたのである。
いつからの願いかしらねぇ……?
そうして、結局この日は帰らなかった彩目の代わりに、やる気のない私の代わりに、文が夕飯をつくり、その日は終わって行ったのである。まぁ、幸せの日々という奴かな?
味は、まぁ、うん。人並みだったよ。
2014/02/17 20:12 誤字修正
誤字多いな……自業自得。
2014/02/17 20:18 再度誤字修正