いき
・生 (死から生)
・粋 (食から酒)
・活 (現代から幻想)
・息 (息を吐くように嘘をつく)
……一体、この目の前にある“現象”は何なんだろうか。
幽々子が笑っている。
いや、それはまだ良いよ。性格が明るくなったのは良い事なんだし……。
それは兎も角として、
兎も角として……、
………………どうしてその身体にそんな量が入るのよ!?
▼▼▼▼▼▼
少し時が遡り、再会直後。
私は本当に久々に、幽々子に再会した。
なんたって私が最後に逢ったのは、幽々子が亡霊として復活した時以来なんだから。
幽々子からしてみれば『生まれて初めて逢ったヒトで、それ以降逢っていないヒト』なんだから。
私としてみれば、憶えていない方が驚かない。という気分だったけれども、彼女は私を憶えていてくれた。私を見て、『久し振りね』と言ってくれた。
それは、本当に、嬉しい。
「さ。宴会を開きましょう? 久々の再会と、貴女が幻想に来た事を祝って、ね?」
「……へへ、ありがと」
私はこの時、はじめて幽々子の性格がかなり変わった事に気付いた。
牡丹の時に、幽々子の性格が変わって気持ち良く笑うようになった。という事は紫から聞いていたが、まさかこんな風に変わっているとはねぇ……。
いや、良い事なんだよ? 多分。
まぁ、そんな事はさて置き、
宴会を開く、という事なので妖夢は台所へと向かってしまった。
……四人とはいえ、たった一人で全て準備するの……?
「詩菜、外の世界で何か面白そうな物はあったかしら?」
妖夢について考えていると、幽々子からこんな質問があった。
……面白いものねぇ……。
私はなまじ現代の記憶があるから、どうしても素直に物事を知って驚く、という事が出来なかった。
『ああ、そんな事もあったなぁ』と、どうしても曖昧に思い出してしまうからだ。
しかし逆に、簡単に思い出す事が出来ない生前の記憶。
つまり、私が心底面白いと思える出来事というのは、過去の『私』が体験していない出来事。
これから体験する『幻想郷での出来事』だと思う。
外の世界で面白かった事といえば、それは私の予期しなかった『彼』との話になるだろう。
「……そうだねぇ……『此処』に来る前に、ちょっと面白い人に逢ったよ」
「人? ……それは、もしかして『男』?」
「んん? そうだけど?」
「……あらあら……最近の妖怪は進んでいるわねぇ……」
「いや、それ……別に私に限った事じゃ……?」
と、紫の方を見てみると、なんと彼女は首を横に振っている。
……え?
それは……つまり……どういう事?
「今の幻想郷は何故か女性が強いのよ。どうしても、ね」
「? ……どうしても?」
「人間側の調停者、それが巫女。妖怪側の調停者が私。双方のトップが二人とも女性なのよ」
「あぁ……なるほどね」
そういえば、私が今まで出会った妖怪達もその殆どが女性だったなぁ。
……何でだろ?
何か女性の方が霊力なり妖力なり、潜在的な力が強いとかがあるのかしら?
となると、ついさっき幽々子から言われた『進んでいる』というのは、出逢いというのがあったから?
……まぁ、出逢いというかなんと言うか……確かにあんな事したけどさ。
そもそも、私は女性でもあり男性でもある。
所謂『両性具有』みたいな存在なんだから、そんな事を言われても困るっての……。
「ま、そいつぐらいかな。面白かったのは」
「……外の世界は詰まらなかったの?」
「いやぁ、そういう訳でもないんだけどね……」
と、なんとか追及を逃れようとした所で、廊下の音がギシ、と鳴る音が聴こえた。
「ん、料理が出来たみたいだよ」
「ホント!?」
「う、うん」
え? 何この喰い付き様。
こんな幽々子ってがっつくような性格になったの……?
いや、まぁ、昔の彼女は食っているのか心配になったりはしたから、良かったの、か……な?
「……詩菜」
「ん? なに?」
紫が深刻な顔で、私にそっと呟く。
「幻想郷は、幻想が集まる所よ」
「え? いや、うん。知ってるけどさ」
「……だから、『ありえない、なんて事は、ありえない』のよ……」
「……」
……なにその
「お待たせしましたー……」
「妖夢! 早く早く♪」
「……ね?」
「……」
……一体、この目の前にある“現象”は何なんだろうか。
幽々子が笑っている。
いや、それはまだ良いよ。性格が明るくなったのは良い事なんだし……。
それは兎も角として、
兎も角として……、
………………どうしてその身体にそんな量が入るのよ!?
妖夢が持ってきた料理は、とんでもないほどの量だった。
それはもう机に載らないほどの量で、妖夢が何度も何度も持ってくるのだけれど、すぐに幽々子が喰いきらしてしまう。
私がそれを呆然としているのを紫がみて、最後にこう言った。
「……食べないと、なくなるわよ?」
「……」
文字通り、無くなる訳ね……ハハ……。
▼▼▼▼▼▼
食事が終わり、幽々子の暴走も一先ず収まった。
途中、妖夢が疲れ果てているのを見て、私は、
『手伝おうか?』
と言ったけれども、彼女は頑として、
『大丈夫です……いつもの事ですから……』
とあらぬ方向を見ながら言った時には、もうこの子駄目だと思ったものだけれど……。
……あれか。
紫といい、幽々子といい、上司は皆、料理が作れないってのは定番なのか。
私は作れるぞ!! めんどくさ過ぎてやる気が出ないがな!!
閑話休題。
良くある宴会後の風景。
酒瓶がそこ等に転がり、料理を盛る為の皿は引っくり返り、四人の顔は皆揃って赤くなっている。
……ま、それほど酔っちゃいないけどね。
軽く酔っている状態なんだけど、転がっている一升瓶の数は既に十を超えている。
……ここに居るのはどいつもこいつも酒豪か……!?
まさかの妖夢も結構呑んでるしさぁ!?
私はまぁ、妖怪にしては弱い方なのであんまり呑んでない方だから、彼女達が如何にどれだけ呑んでいるのかというのが分かる訳であって、一体彼女達は何処にあれだけのお酒を締まっているというか呑んでいるというか……。
そんな事を考えていると、お酒が入って若干テンションの高い紫から声が掛かる。
「……それにしても貴女、本当に速くなったわねぇ」
「ん?」
「いえ、妖夢ちゃんにあれほど速く近付けるなんて。また素早くなったなぁ、なんて思ったのよ」
また素早くなった。って言われてもねぇ……。
大体さぁ……。
「あれは単なる術に妖夢が掛かっただけだよ?」
「ええ!?」
「そもそもさ? 紫が視たスピードがどの位の速さかは知らないけど、『どうして私は紫と戦った時にその速度を出さなかったのか?』っていう疑問が出てこない?」
「……それは、そうね……」
紫と弾幕ごっこをした時、私は九・八割位の本気で紫に攻撃を仕掛けた。
けどその猛攻はほとんどが避けられて、私は負けてしまったのだ。
彼女が今更驚くというのは、何処か道理が通らなくなる。
紫と戦った時と期間は一ヶ月と経っていないのだし、そんなに急に私は強くなったりしない。
愛の力がどうとか言っていたけど、そんなのは単なるまやかしだしね〜。
「わっ私に何の術を掛けたんですか!?」
「んー……簡単な手品みたいなモノ」
「……手品、ですか?」
「そう♪」
そう言って、私は未だに包帯が巻かれた右手を妖夢の顔に近付ける。正確には、右手の断面な訳だけど。
紫も幽々子もそれに視線を集中させ、妖夢なんかはどんどん近付く右手から身体を引いている。
その時に、机の下に隠した左手で思いっきり『指を鳴らす』
私の能力で『衝撃音が増幅』され、屋敷中に響き渡る程の音が鳴る。
パチィィン!!
「「「!?」」」
その一瞬の隙を突き、妖夢の目の前にあった右手を即座に紫の目の先に移動させる。
「わっ! わっわっ!?」
「……つまりは、こういう事なんだけれども………………紫……」
「いっ、いきなり何をするのよ!? 驚くじゃない!?」
……。
紫様……。
……まさかここまで紫がビビるとは思わなかったよ……。
微妙に目が赤いし……。
「……ま、驚いた瞬間に一気に移動したって訳」
「ふぅん……何処かのメイド長みたいね」
……? ……メイド長……?
何故メイド……?
「ごほん、ふぅ……なら、どうして私の時は使わなかったの?」
「……紫は単純に効かないだろうなぁ、って」
でも、まぁ……こんな簡単に引っ掛かるなら使えば良かったかな……。
どうせ紫に術とかは掛かりにくいだろうと思っていたからなぁ……試せば良かった。
「妖夢の時は私に集中し過ぎてて、簡単に掛かってくれたけど……ねぇ?」
「……集中し過ぎ、ですか……」
「いや、それが悪いって訳でも無いんだけどね?」
ただ、視野が狭いのは良くないかなぁと。
……ま、そんな説教なんてしないけど。
柄じゃないし。
「一回目、妖夢が刀を引いて斬ろうとした時は普通に避けたよ。その時に異常に驚いていたような気がしたから『あれ、これもしかして行けるかな?』って思ってね」
「……この距離で逃がす訳が無い。っていう思い込みね」
「駄目じゃないの妖夢」
「す、すみません……精進します」
いやだから……そんな精進しようとするから視野が狭くなるんじゃ……。
まぁ、どうでもいいけどさ。
「二回目、会話で名前を訊いた時に妖忌の関係者だって分かったから、『彼に勝った』って喋った時に能力発動。予想通り驚いたからその時に目の前に移動したの」
……まぁ、まさかスキマから見ていた紫もその術式に掛かるとは思わなかったけど。
あれかな?
『スキマから見ているだけで、自分に攻撃が来る筈がない』っていう油断のお蔭とか?
……今度、藍も誘ってやってみるかな。
あ! ……あ~……まぁ、いいや。後で訊いてみよ。
「んで三回目、これはただ単に至近距離から直接『衝撃』を叩き込んだだけ。その気になりゃ屋敷の外まで吹っ飛ばせれたけど、めんどくさかったから止めました」
「……ま、負けた……」
あ、妖夢が私の言葉で崩れ落ちた。
まぁ、めんどくさかったのは事実だし? って傷口に塩を塗ってみる。特に意味はない。
そんな妖夢を優しく撫でる幽々子。
……変わったなぁ。
『友達になる』って約束したけど、そんなに幽々子と親しいって訳でもなかったから、あんまり『変わった』なんて感想は当てずっぽうに近いんだけどもね……。
「……そういえば詩菜さん」
「はいはい何でしょうか?」
しばらく時間を置いて復帰した妖夢が、私に質問する為に近寄ってきた。
……酒くさっ!!
いや……私もか。
「詩菜さんって、何か剣や刀を習った事ってありますか?」
「ん? いや? 扱った事は何度かあるけど私の武器じゃない」
「……得意とか、そういうのではない、と?」
「うん。使えるけどわざわざ使おうとは思わない、かな。それが何か?」
「いえ、私の持つ刀の間合いを見事に見極めていたと思いまして」
あぁ、接近した時か……ある意味あれは適当だったんだけどなぁ……。
彩目が使ったり、私も刀を売ったり扱ったりしていたから、何となく分かるだけなんだけどなぁ……。
彼女が一番良く扱っているから、それのついでに分かってしまったというのが一番大きいかな?
「まぁ、簡単に言うなら娘のお蔭でね」
「「娘!?」」
「……詩菜、それはわざとじゃないわよね?」
「なにがー?」
「……」
いやいや、別に彼女達を驚かそうとしているつもりじゃないよ?
たまたま口が滑ったんだよ。フフ♪
「え、あの、その、娘……って……?」
「……外の世界はそこまで進んでいるのね……恐ろしいわ……」
幽々子さん、違うからね? 外の世界とかは関係無いからね? 多分。
そして妖夢。その赤い顔は何を妄想しているのか簡単に予想はつくけど、違うからね?
でもまぁ、直系って言ったらおかしいけど、別に私が産んだ訳でも無いんだけどね……彩目は。
何ともまぁ……私等の関係性は複雑なものだ。
血を与えて強制的に結んだ糸が、いつの間にか本当の絆になってるんだもの。
「……そういやぁ、あの娘どうしてる?」
「そうね。今は人里の自警団に入っているし、異変を解決する為に行動した事もあったわ」
「へぇ」
なんとまぁ、そんなに活躍していたとは。
異変の解決ねぇ……。
……なんだか、彩目に逢いに行くのが恐いなぁ……。
間違って退治されそうな気がする。というか折檻されそうな気がする。
……そういえば、どうしてこう、紫はニヤニヤしているんだろうか……。
なんだか嫌な予感がする……。
「ここに居る二人が異変を起こしたのよ。その時はね」
「え? ……幽々子と妖夢が?」
と二人を見ると、明らかに私よりも驚いたような顔をしている。
……いや、なんで?
何で起こした本人達の方が驚いてんの?
「えー……えっと……?」
「……ねぇ妖夢? ……剣術を扱うヒトで、私たちの異変を解決したのって……」
「ええ、幽々子様……まさか師匠の事じゃ……?」
「……そんな……あの子の母親が……こんな……」
……何かヒソヒソ話が聴こえる。
しかも……内容がかなり不愉快な内容のような気がする……。
いや、不愉快……というか、眼の前の人物に対して非常に失礼な雰囲気が……。
「……ええっと……詩菜?」
「はい何でしょうか幽々子さん。因みに『それ』に対する答えは彩目だと思います」
「貴女のむ……」
「……」
「ええぇー!?」
うるさいな、全く。