他作品の多大な影響を受けて書き始めてしまったものになっております。
別にどうでもいいよ、という方。ありがとうございます。
『小説家になろう』→『アットノベルス』→『ハーメルン』と移転して参りました。それでもまだ読んで下さる方、ありがとうございます。
なお、自サイトにてマルチ投稿をしております。そちらには設定やIFのお話、それらのネタバレなどを掲載しております。
そちらへは私のユーザページからどうぞ。
長くなりましたが、『風雲の如く』どうぞ。
プロローグ
『喉が渇いた』
意識が戻って、始めに思ったのがそれだった。
起きたというよりも、自分の喉に感じる乾きに気付いて、それで意識があるのかとわかったような感じ。
喉が渇いた……というか、粘液を飲んで、それがカピカピに渇いた、そんな感じだ。
とりあえず喉を潤してくれる物は無いかと、立ち上がり闇雲に探す。
眼は開いている感覚があるが、真っ暗で何も見えない。
耳も良く聞こえない。というか何も聞こえない。
鼻は詰まっているのか何も感じない。
皮膚は何に触れているか分からないし、そもそも上がどちらなのか地面がどこまであるのかもよく分からないし、風どころか服の重みも感じない。
自分が果たして立っているのか、それとも走っているのか、それとも落ちているのか。全く分からない。
異常事態。明らかにおかしい。さっきまで私が居たのは一体何処だったっけ?
寝惚けているのか、良く思い出せない。何かがフラッシュバックしている。けど何が見えたのか良く分からない。
それでも、とりあえず手を伸ばす。
我武者羅に感覚を伸ばしてみる。手の感覚もはっきりしないけど、それでも伸ばす。
何かが欲しくて、誰かに会いたくて、誰かに助けてもらいたくて、ただ闇に立ち向かう。
暫く闇を進んで、光が見える。
出口だ、と思って迷わず突っ込む。
穴の様な楕円形のモノを潜り、眼前に広がるのは、
青く大きく広がる大空、地平線まで広がる山々の絨毯と、同じく無限にどこまでも続く海。
定型文みたいだが、そう言わざるを得ない程の絶景。
強く光る太陽が眩しく自分を照らす。
なんだかとても嬉しくなり渇きも忘れ、『大空』を走り出す。
そうして、漸く寝惚けていた頭が動き出す。
……あれ?『大空』を『走り出す』?
大空とは…『天空』?『空中』?
つまり…自分は空に浮いていて?尚且つ『走っている』?
どゆこと?
そういえば私は家でゴロゴロしていたのではなかったか?
何故いきなりあんな闇の中で目覚めたのだろうか?
色々な疑問が湧き上がり、走っていた身体を止めて『空中に止まる』
…この表現も何かおかしいような気がするけど…。
とりあえず現在地点を確認する為に『下を向いた』
……高度は自分の位置が高すぎて分からない。
とりあえず隣に雲が浮いていることから、4000mくらいはありそうだ。
それよりもそして、自分の身体が――――――無い。
無い?
「……はあぁああぁぁぁ!!?」
自分でも驚くほどの大声を出す。
すると身体は無い筈なのに、喉から絞り出した声は大きな『突風』となり、近くの白い雲を吹き飛ばす。
雲は千切れそれぞれが小さくなり、風に流され消えた。
……なんだか気持ち良さそうだなぁ、とちょっと現実逃避。
「……ちょっとまて、落ち着こう。こういうときは素数を数えるんだ」
ガラガラの喉で無理をして喋っている為に、何だか物凄く酷い声になっている。
……声帯とか、喉やらが無いはずなのに。その声はダミ声というレベルでない程に酷い。というか自分で言ってて聞き取れない。自分で言ってるから分かるけど、分からない。何を言ってるか自分でも(ry
「2,3,5,7,11,13,17,19……落ち着けるかあぁぁ!!!」
今度も声が衝撃波となり、山々の森を揺らす。
森林という壮大なものが、偶然とはいえ自分の声量(?)で動くのだから、一体どういう事だってばよ。
……駄目だ、余計に混乱してるぞコレ。
……なんだかとても虚しくなってきたので、地上に降り立つ事にしよう。
『空中での動き方が何故か分かる』
……と言う新たな疑問点も出てきたが、とりあえず近くの山に降りた。
降り立って気付いた。足が無いのだった。
……まぁ、とりあえず滑るように移動しながら、周りを見渡す。
木々は太く逞しく、人工的に創られたような道は無く、全てがコケに覆われている。
そういば上から見ていて、近くに街というか、ビルそのものが無かったと思い出す。
とすると、ここは人の手が加えられていない自然なのだろうか?
そうやって見てみると、この自生している樹木はやけにでかいような気がする。あくまで気だけど。
しばらくして、水の流れる音がした。そちらの方へつい走り出してしまう。
いや、まぁ、足がないんだけど、感覚的に言うなら『走り出す』なのである。
喉がガラガラだったので思いっきり飛びつき、手を伸ばす。
が、そもそも身体が無いのにどうやって飲めばいいのだろうか?
……まぁ、そんな事を考えても仕方が無いので、直接口を着けるような感じで顔を水に着ける。
「……あ~、冷たくて美味い」
しかし、喉を通る感覚のあった水はどこにいくのだろうか?
そして喋って出たこの声は一体どう出ているのだ?
……疑問は深まるが、とりあえず喉の渇きは癒せた。良しとしよう。うむ。
とりあえず、清流に沿いながら下流の方へ進んでみる。
水を飲んでから既に3時間は経っているだろうが、疲れはない……というかそもそも足が無いんだし。疲労しようにも筋肉がない。
歩いていると、清流から少し離れたところに広場があった。
綺麗な花畑が広がっており、私はフラフラと近寄っていった。
特に考えがあって近付いた訳じゃない。ただ『綺麗だなー』ぐらいにしか考えてなかった。
……中央にナニカがいる。
その時、私は『誰かが居る』という事ですっかり安心していた。
……いや、元が人間だったから危険なモノは無いと慢心していたのだろう。
気付いた時には目前に、鋭い牙や爪を持った狼……『異形』が迫っていた。
「グルルル……!」
縄張りを荒らされたのが気に喰わないのか、今にも襲い掛かってきた―――――――――いや、既に切り裂かれていた。
鋭い爪が肩の部分を切り裂いた。肉体は無いのだけれど、肩の部分の『何か』が弾け飛ぶのを感じる。
「ッがァっ!?」
痛みが尋常じゃなかった。
肩を庇うようにそのまましゃがみこみ、痛みで何も考えられなくなって私は、おかしくなった。
後で考えてみると、弾け飛んだのはどうやら肩の部分だけでなく、何か脳のネジも飛んだようにも思えた。じゃないとあの後の行動はどう考えても理解不能だと思う。
パニックになった頭は何故か良く分からない過程を通り謎の結論を導き、肉体はそれを行動に移す。
___早く逃げなくちゃでもどこにここにいたら殺されちゃう異形に妖怪に殺されちゃう身体を動かしてこいつと戦わなくちゃこのまま逃げても無駄だよでもどうやって早く逃げようこいつはどれぐらいの速さで追いかけてくるかな空中は駄目だ飛ぶやつかもしれない助けてくれる人はいない自分ででもどうしてこうなったんだとりあえずどうしましょうか逃げるいや無理だろ理解しろよ妖怪だ戦え水に潜れば追いかけてくる泣くな対抗手段は無理だな妖怪だって自分は___自分は……妖怪?___そうか妖怪肉体が無いのはそのため無理だよ私は妖怪我は妖怪勝てないいける後ろにこいつ等なんてただの雑魚妖怪戦う戦う圧倒できるでも___ワタシは人間___今は違う理解しろ妖怪自分はなんだいける過去を振り向くな駄目だそれでも怖い恐怖を焼き尽くせ異形は相手だけじゃない殺される周りも全て敵よでも相手も生きてるんだぜそれでも自分は生きなくちゃいけないどうしてこうなったのよ倒せ殺せ戦え___我は、異形___そうだ僕も妖怪私も妖怪俺も妖怪人間よ逃げるな自分戦えたとえ過去がどうであろうと怖い今は今だ現実を見ろ私は生きるお前はここで私に倒される立ち向かえ後ろには何も無い敗北だけ逃げろ風は此方に吹いている勝てないんだよ相手を叩きのめせ理解しろ___僕は生きる___此処で死ぬのは俺じゃない君だ早くいい加減にしろ戦え抗え立ち向かえ敵に逃げよう拙者は妖怪理解せよ無限の戦え君は妖怪異形相手は可能性をいける信じろ雑魚だ清流速さは競え追いかけろ圧倒しろ対抗しろそうだ自分は___
私は、そう『
瞬時に指の感覚を伸ばし、相手を切り裂く様に素早く動かす。肉体が無いのにおかしな説明だとは思うけれど、実際にそんな風にしか説明出来ない。
敵をなぞるように動かした指。その痕は爪・刃となって異形の手足を切断、最後に首を切断する。後から考えてみると、私は特に武芸も習った覚えはないのだけど、その時の動きは実になめらかだったような気がする。
妖怪は絶命。噴水のように切断面から溢れる血が広場の花畑を汚していく。それは勿論私の身体にも掛かっている。肉体は多分、その時はまだないのだけれど。
私はそれをぼうっと眺め、フラフラと広場を立ち去った。
先程まで私は清流沿いに浮いていたが、今は方向も定めず動いていた。と思う。
恐らく先程の異形の血を見たのと、脳の異常な回転によりオーバーヒートしたようで何も考えれなかったのだろう。
むしろ意識すら保てていなかったようだ。そこからの記憶はない。思い出そうとしても木々の隙間を縫うようにふらついていた記憶しかない。それも酷い曖昧ではっきりしない映像しか無い。
私は気付くと樹木の上の方で幹に寄り添い、寝ていた。
時刻は朝ぐらいだろうか。樹木の葉を通り抜けて日光が差してきている。眩しい。
日光を遮る為に手を伸ばして影を作り、それから身体を起こして頭を振り、意識の回復を図る。
そうして自分の状態と辺りの確認をする。
……ふむ……。
……まぁ、仮にも『イタチ』なのだから、こんなところで寝ていてもおかしくは無い。
問題は……。
自分の姿が何処からどう見ても『少女』であることだ。
「……なにこれぇぇぇ!!?」
ロリボイスが辺りに響き渡る。
ああ、どういうことなの……?
よし、もういいや。色々と諦めよう。
と、心機一転(?)物事から逃げずに自分を見詰め直す。
身長は一メートル強ぐらい?小さいなぁ……小学生か?
服装は黒の着物……というか、紬?
紬はそもそも女性用……って女性だった……。
とりあえず周囲を確認する。
……木々しか見えない。日光が当たっているから、かなり位置は高い。
……どうしようかなぁ……と落胆しつつ、とりあえず歩き回ってみようかと思い、気付いた。
「……どうやって降りよう?」
寝ていた木はかなりの大木、枝の位置もかなりの高さだ。見れば分かる、簡単な事である。
私にはどうやってこの高さまで登ったのか全く解らない。
……とりあえず、私は今まで寝ていた枝から立ち上がろうとして、
立ち上がろうとして―――――――――足を滑らして、枝から落ちた。
「……えっ!?―――
重力を感じなくなる。下から急激な風を感じる。
一気に背中に冷たいものが走り、瞼を閉じて必死に歯を食い縛る。
そして、何時までも衝撃が来ない。
し、死んだ……?と考えて、瞑ってしまった瞼をそっと開く。
―――……ええっ?」
既に私は地面に着地しており、天を向く仰向けに倒れていた。
『倒れている』と自覚した途端に背中に地面の感触を感じる。草の感触。土の匂い。
……訳が分からない。訳が分からなすぎる。
とりあえず、身体に異常は無い。酷く汗はかいているけども。
が、普通に落ちたら命の保障など出来ないような高さから落ちて無傷、とはどういう事なのよ?
疑問は深まる。けれど何時までもここに居てもしょうがない。
そう私は考えて動き始めた。何はともあれ行動しないとね。
歩きながらも脳を回転させる。
考えるべき事は自分自身に起こった出来事とこれからについてだ。
自分は、人間じゃない。『妖怪』である。
これはすんなりと確信出来た。出来てしまった。
こうも簡単に自身が妖怪だと言うことを、信じれるのもおかしいような気もするけど……出来たものは仕方が無い。出来たのだから。
こういうのが人間の精神の強さなのかな?
……いや、むしろ妖怪の精神?
まぁ、兎に角『鎌鼬』が私の妖怪の種族みたいだ。
鎌鼬とはまたマイナーな……。
自分は、元の男子学生じゃあない。『幼女』である。
……理不尽だよ。色々と……。
というか姿に引っ張られているのか、言動・思想が全てそっち方面になりかけている事が一番のショックだ。
……あれ? じゃああの自分の姿が無くて空に浮いていたの頃は?
まだあの頃(?)は口調がまだ普通じゃなかったっけ?
ていうか、よくよく考えたらさ。浮けたんならわざわざ木の枝から墜ちなくても済んだじゃん……変な汗かく事もなかったんじゃん。あ〜あ……。
自分は……『生き物』を殺した。
人間の時、虫などを殺した事は誰でもあると思う。
けど、あれ程の大型の『生き物』を殺したことは無かった。
これも妖怪化のおかげなのか罪悪感はまったく無い。本当ならあるのだろうけど、無い。
人間の時だったら、すぐさま自殺していたかも知れない。自殺まではいかなくても、ガタガタと怯えているだろう。
……生前は、ヘタレだったしね。悲しい事に。
自分は、『転生』した、のかな?
これだけ歩いて人どころか街、道路すら見えない。そもそもさっきの異形なんてUMA確定だろうし。動物であるかも怪しい。四足だったけど。
そしてそんな事を考えている私だって、もう『妖怪』である。
某有名な宇宙人の写真風に捕まるのかな? ……人がいたら、の話なんだろうけど。
……それにしても、最後の記憶が無い。
自分の部屋でゴロゴロして、それで何かが起きて……駄目だ。そこから思い出せない……。
思い出そうとしても、モヤモヤした霧がかかっているようにハッキリとしない。誰かに出会ったような気はするけど……まぁ、どうでもいいのかな?思い出せないって事は。
自分は、先程どうやって『着地』したのか?
私が寝床にしていた大木は樹高約50mという、『森の巨人たち百選』もびっくりの大木だ。目測だけど、樹の枝が50mの高さにあったのだ。
そんな木の枝から落下した。死なない方がおかしい。幾ら妖怪とは言え、元は人間だし、ショック死してもおかしくない筈。
なのに……何故無事に着地出来たのか?
どう考えても、ダメージは物凄い筈なのに。
……あれなの?よくある『転生』ネタの一つの不思議な能力なの?
じゃあ、私の『能力』って?
そう考えると言葉が脳に浮かんでくる。
『衝撃を操る程度の能力』
衝撃……衝撃ねぇ……。
なるほど、それなら着地時の『衝撃』を全て操ったのか。ていうか『程度』って何?
それにしても……本当に転生したのね……。
いや、まぁ、前世の人生は自分が言うのも何だけど酷かったよ?
……ただ単にぐーたらな高校生なだけです。スミマセン。
バイトにも行かずに親の脛かじってゴロゴロしてましたよ……。
ふむ、衝撃を操る。ねぇ……。
試しに近くの木を思い切り殴ってみる。
ベチッ!ボキィッ!
折れた。木の方じゃ無くて、私の手首が。
「……いだぁあぁぁ!?」
……痛い、マジで激痛……。
しかし、すぐさま修復していくのが分かる。
なんていうか……ゲームで言う闇の力が集まっている感じ?これが妖怪の力『妖力』かな?
イメージ的には黒い煙がいくつも私の手首に集まっていく感じ。
手首に吸い込まれて行くほど、痛みも感じなくなってくる。それでも痛い物は痛い。泣きたい。しかもそれほど回復の速度も速いって訳でもないし!!
いや、まぁ、回復が目に見えるだけ凄いんだけどね……?
妖怪の身体はチートだ……人間の時では考えられないわ……。
あっという間に完治。
時間にして3時間程度。時計が無いから正確には解らないけどね。
その間は普通に歩いていた。折れた腕は反対側の手で揺れたり動かないよう固定しながら、歩き続けていた。
骨が折れたら吐き気がするって話だけど、全く持って無し。恐るべし妖怪スペック。
気を取り直してもう一度。木じゃないよ? 気だよ?
……うまいダジャレも言えやしない……。
……さっきは能力を使うってイメージしてなかったから発動しなかったのかな? と先程の反省点を挙げてみる。
ならば、善は急げ。である。
イメージしろ。『衝撃を操る程度の能力』を。
『私の右手は、衝撃を跳ね返す』
構えた右手の表面に透明の薄い膜が生じるのを感じる。
そのまま、右手で木を、殴るッ!!
バキィッ!ドォンッッ!!
予想通りに折れた。木だよ?私の手首がまた折れた訳じゃないよ?
右手部分にかかった衝撃が全て木に反射されたのだ。
作用・反作用の力で『反作用』の力が全て『作用』の力になったのだから、単純計算で威力は二倍。そんな単純なものじゃないとは思うけども。
体は幼女、力は妖怪!それなんて名探偵?ハハハ……。
……全くもって、笑えない……。
さて、現実逃避してないで周りを見てみようか。
先程の木が倒れた時の轟音で、何故か妖怪共が集まってきた。
殆どがこの前殺したオオカミ型の『異形』。よく観察してみれば、異常な程に発達した下顎や牙が見える。こんな生物は知らぬ。
鋭い歯や爪は、私も身体がある今となっては、かなりの重症の傷になってしまうだろう。いや、前回とは違って何処まで逃げればいいか分かるから寧ろ安心出来るのかな?
相手はかなりの数で私を囲んでいる。10~20はいると思う。
少なくとも逃げて助かるような真似はさせてくれないだろう。さっきからビリビリと肌で何か感じている。多分殺気。多分妖怪スペックのお陰で分かってると思われる。
何にせよ、まだ死にたくはない。どうして転生したのかもまだ分かんないし、それを知るまで死にたくはない。
だから、この能力を使う。生き残るために!
イメージする。『私は衝撃を跳ね返す』
自分の身体が見えない膜で包まれていくのが分かる。
包み終わると同時に先頭にいたオオカミが突進をしてくる。
私は避けずに防御する。牙と爪には注意し、体当たりをレシーブのように受け止める。
オオカミが私に当たった瞬間、オオカミが走ってきたスピード以上の速さで吹き飛ぶ。
それをきっかけにオオカミが私を殺そうと飛び掛ってきた。
私は『鎌鼬』だ。素早く動き、相手を深く斬ってしまう妖怪。
自身の爪や指を鎌として、オオカミを切り裂く。
手を広げ、風を集めて真空刃を造り、手足を切り刻む。
こうやって戦っている間に一つ分かったこともあった。
能力で『衝撃』から私の身を守っているが、それは本当に『衝撃』だけなのである。
つまり、切り裂く爪など『斬撃』からは身体を守れない。
……ま、斬られたっていう『衝撃』は無効化出来るから、怯むなんてことは無いけど。
あれ?じゃあ、いつの間にか斬られていて、そのまま放って置いたら私死ぬんじゃね?だめじゃん!
……って事は、痛みって重要だね。って事である。まる。
とまぁ、こんなのんびり考えている間にも敵は来ている訳で。
……こんなこと考えながら戦えれる妖怪というのは、脳味噌も高スペックなのか……?
妖怪は人間の恐怖から生まれるとは言うけども……高スペックにも程があるでしょうに……。
……まぁ、そのお陰で助かっているのだから、文句は言えないけども。
そもそも文句を言う相手すら居ないのだけれども。
戦闘終了。
周囲は血だらけでよく分からないモノが散らばっている。
無論、私も真っ赤に染まっている。噛まれた跡が特に痛い。あと返り血も気持ち悪い。洗い流したい。
オオカミは全員死亡、私も重症で暫くは動きたくも無い。まだまだ動けるけども、気分的にはもう寝たい。
けれど血の臭い、というものもある。早急に此処を離れなければ。
……私はまた、当てもなく歩き始めた。
まさにあてのない旅。行く先も、今来た道も、帰り道も、何も分からない。
でも、行くしか無い。行くしか無いのである。