魔法少女リリカルなのは これがメイドの歩む道 作:クラッチペダル
その点にまずご注意を。
まぁ今までも散々セナさんが引っ掻き回していながらも、それでも大体は原作アニメ沿いだったわけですが、今回から1~2話は結構外れますので。
それではどうぞ。
今日も今日とてセナは高町家の誰よりも早く起きてその職務をまっとうする。
いつもと変わらぬ彼女なりの日常。
しかし、最近はいつもとは少々その日常が変わりつつある。
「それじゃあセナさん! 行って来まーす!」
「それじゃあセナさん、また後で!」
「気をつけて行くでありますよ! お嬢様、ユーノ様!」
玄関から聞こえてきたなのはとユーノの声にセナは台所で朝食の仕込みをしながら応える。
少々変わった点と言うのはこれだ。
なのはが魔法を使えると分かってからは、彼女はユーノを引きつれ魔法の練習をしに朝早くでかける。そして家でやることを一通り済ませたセナは、後からなのは達が練習をしている場所へと軽い食事を持っていくのだ。
「……ふむ、仕込みはこれでいいでありますな。では、お嬢様達の軽い食事でも」
軽い食事と言うことで手早くサンドイッチを作り、それを形が崩れないようにバスケットに詰めたセナはふとテレビから聞こえてきたニュースに意識を向ける。
『……昨日の15時ごろ、遠見市○○小学校に男が侵入し、生徒や教職員5名に重軽傷を負わせたという事件が発生いたしました。警察は被害を受けた教職員からの証言により、犯人は先週××市××中学校にて同じような事件を起こした犯人と同一犯との見方を強めており……』
「物騒な話でありますな。海鳴にはこないで欲しい物でありますよ」
ニュースの内容は近頃よく子持ちの家族を恐怖させている事件について。
犯行内容はニュースで言われていたとおり学校に侵入した男が生徒や教職員を襲うという物だ。
そしてこの事件を起こした犯人と同じ人物が起こしたと思われる事件は今月に入って既に10件にものぼっている。
そして今回のニュースで被害にあったといわれる小学校があったのは遠見市。
見事に海鳴の近隣である。
しかしここまで大々的にマスコミに取り上げられているのだ。
犯人の男も昨日今日で事件は起こさないだろうと思い直し、バスケットを持ち直すとその頃ちょうど起きてきた士郎達に挨拶をし、桜台へと向かう。
なのは達は最近は毎朝そこで魔法の練習をしているのだ。
セナが桜台に着いたと同時に、展望台方面から何かが爆発したかのような音が響く。
「……またでありますか」
毎度の事ながら、これには苦笑せざるを得ない。
セナはその顔に苦笑を浮かべながら展望台へと昇っていく。
ちなみに爆音が響こうが問題は無い。
ユーノがなのはと自分とセナのみが入ることを許可している結界を展開しているため、無関係な人が入り込むことはないし、音も防音結界が張ってあるため、外へ漏れることも無いからだ。
ちなみに今しがた音がセナの耳に入ったのは、結界の内側に踏み込んだ瞬間に発生した音だったからと言う理由だ。
セナが展望台へとたどり着くと、予想通りそこには地面に座り込んでいるバリアジャケットを纏ったなのはとそれを心配そうに見つめるユーノの姿があった。
「なのは、大丈夫?」
「だいじょぶだうじょぶ~……うぅ、やっぱりうまくいかないなぁ」
なのはが自身のお尻をなでながら立ち上がる。
その際にセナの存在に気が付いたなのははセナに向かってぶんぶんと腕を大きく振った。
「あ、セナさ~ん!!」
「お疲れ様であります、お二方。いったん休憩としゃれ込んではいかかでありましょうか?」
なのはに小さく手を振り返しながらセナはなのは達の元へとやってくる。
セナの言葉になのはは笑顔で頷き、そばにあったベンチに座り込むときらきらとした目でセナを……正確にはセナの持っているバスケットを見つめている。
「はやくはやく! もう私お腹すいちゃった!」
「慌てなくても大丈夫でありますよ。ユーノ様の分も用意してありますので、ご一緒に」
「毎回ありがとうございますセナさん。それじゃ、僕もっと……」
セナがベンチに座った後に、ユーノもベンチの上によじ登る。
それを見たセナはベンチの空いている座面にバスケットをおき、かけてあったクロスを取り払った。
「わぁ! 今日はサンドイッチなんだ! いただきま~す!」
それを見たなのははさらに目を輝かせ、すぐさまバスケットの中のサンドイッチに手を伸ばす。
最初に手にとったのはたまごサンド。
しっとりとしたパンでたまごサラダをはさんだそれに舌鼓を打ちながら、なのははものすごい勢いでサンドイッチを胃に収めていく。
「いつ見てもすさまじい勢いであります」
「まぁ、魔法の練習はかなり集中してやらなきゃ駄目ですから、お腹もすごくすいちゃうんですよ。まだ魔法に慣れてない最初の頃は特にそんな感じです」
「なるほど。確かにそれは私も理解できるであります。ではユーノ様はこちらの野菜サンドはいかがでしょうか?」
「わっ、それもおいしそうですね! じゃあそれをいただきます」
ユーノもセナから受け取ったサンドイッチをその前足で器用に千切りながら口に運ぶ。
シャキシャキのレタスや輪切りにしたトマト、小口切りにしたきゅうりをはさんだそれは、口に入れ噛むたびに生野菜のはりのある歯ごたえを伝えてくる。
味付けらしい味付けは少々ふられている塩だけで、使っている材料は特別な物ではなくいたって普通の物。
シンプル故に誤魔化しがきかないそれを見事に作り上げたセナの腕前はさすがだといえる。
「御馳走様!」
ユーノが少しずつサンドイッチを食べているうちになのはは自分の分のサンドイッチをぺろりと平らげる。
その顔は気力に満ち溢れており、やる気も十分といったところだ。
「それじゃ、さっきの続きをやろうか」
「うん!」
未だに野菜サンドを食べているユーノの言葉に頷き、ベンチから立ち上がったなのははそのままベンチからある程度はなれた場所へといき、レイジングハートをしっかりと握る。
「それじゃレイジングハート、もう一回がんばろう!」
『All right, my master』
そんななのはの声に、レイジングハートはコアを点滅させながら応えた。
※ ※ ※
「うぅ……」
「な、なのは、あまり気にしなくてもいいんだよ? 誰にも得手不得手っていうのはあるんだし……」
「そ。そうであります。そこまで気落ちする必要も無いでありますよ……たぶん」
「セナさん、最後の一言が余計ですって!!」
早朝の練習を終えたなのは達はその足を高町家へと向けていた。
そんな中、なのはの表情は何故か暗く、なのは自身も重苦しい雰囲気を纏っていた。
「やっぱり私って力任せかな~、細かい事とか出来ないのかな~、大雑把なのかな~」
なぜなのはがここまで落ち込んでいるかと言うと、先ほどまで行っていた練習の結果にあった。
本日の練習メニューは補助系統の魔法の練習。
具体的には魔法で戦う準備としてほぼ必須といっても過言ではない結界魔法や相手の動きを止める捕縛魔法といった類の魔法の練習だった。
結界魔法は、これが無ければ無関係な民間人を巻き込んでしまうため非常に重要だし、捕縛魔法にいたっても戦闘の際には非常に有用であるため習得は急務であった。
であったのだが……結界はごく狭い範囲ならはれるものの、それでも長時間は展開できず、捕縛魔法をやろうとすれば何故か集めた魔力が爆発する。
それが一度や二度ならばまだしも、何度やってもなのだ。
落ち込むのも無理は無いだろう。
その代わり、攻撃魔法、とりわけ砲撃系の魔法はすんなりと習得できているという事実も、先ほどのなのはの呟きの原因である。
あまりの落ち込み具合に自身を魔法少女じゃなく魔砲少女だと自嘲し始めたあたり、相当応えているのだろう。
「で、でも以前よりは魔力の集め方も様になってきてたじゃないか!」
「集め方が様になってても結局魔法が発動できなきゃね~」
ユーノのフォローももはや効果なし。完全なるヤサグレなのはである。
セナとしてもこのままなのはにグレられたらたまったものではないので、何とかフォローを、それが無理ならせめて話題を変えようと頭を捻り、ふと頭の上に電球を灯した。
「そ、そういえば、このようなやり取りは以前にもやったでありますよね? あのプール事件の……ひぃっ!?」
早速セナが思いついた話で話題の転換を試みたのだが、それを聞いたなのはが先ほどまでとは違った理由で暗い雰囲気を放ち始める。
「……あのシュエルシード、今度あったらギッタンギッタンにしてやるの」
「あの、なのは? そのジュエルシードはもう封印しちゃったでしょ?」
頭に井桁を作ったなのはにユーノが恐る恐るといった様子で声をかける。
なのはをここまで怒らせる件のプール事件とは、今から数日前に起こったジュエルシード関係の事件である。
セナによって命名されたその事件は、その名のとおり高町家がなのはの親友達と行った屋内プールにて発生した。
簡単に言ってしまえば発動したジュエルシードが生み出した暴走体が親友二人とセナの水着を脱がす、と女性陣から見れば大変許しがたい事があった事件だ。
ちなみになぜなのはの親友二人が巻き込まれたかと言うとユーノの魔力不足により結界の中に親友二人が取り残されてしまったためである。
そしてそれを助けようと暴走体に向かっていったセナもあえなく被害にあったということだ。
ちなみに、その事件の際はユーノの機転により魔法についてはなんとか隠し通せたということをここに追記しておく。
「思い出しただけでも腹が立つの。アリサちゃんやすずかちゃんはもちろん、セナさんまで……」
「セナさん、これ以上はこの話題やめましょう」
「そうでありますな。私が浅はかだったであります」
話題の転換は成功したものの、考えれば先ほどまでよりもひどい状況になったとも捉えられる。
ちなみにこれからしばらく、なのははプールと言う単語を聞くたびに不機嫌顔を周りに見せる事となる。
※ ※ ※
「まったくお嬢様。いくら何でもお弁当を忘れていくとはあまりにもベタすぎるでありますよ」
時は既に正午少し前。
セナの姿は高町家にはおらず、何故かなのはが通う聖祥大附属小の校門前にあった。
その手には可愛らしいピンクの布にくるまれた小さな物が。
セナの呟きからすると、なのはが忘れていった弁当のようだ。
家事の途中にテーブルの上に弁当箱が置きっ放しであることに気が付いたセナが、これではなのはが昼食を食いっぱぐれてしまうと言うことで学校まで届けに来たのだ。
校門近くにある警備員室の警備員になのはの関係者で弁当を届けに来た旨を伝えると、警備員は快く通してくれた。
やや無用心な気がしないでもないが、過去にもセナは何度かなのはに忘れた弁当を届けに来たこともあり、警備員とはもはや顔なじみなのだ。
しかしそうやって校舎内に入った際、まだ生徒は授業中であることに気が付く。
このまま届けに行って授業の邪魔をするわけにもいかず、はてさてどうしたものかと頭を悩ませていると、ふとメイド服のポケットの中に入れていた携帯電話が振動し始める。
「む? 携帯でありますか」
携帯を取り出し折りたたみ式のそれを開いて見ると、画面にはなのはお嬢様と言う文字が。
「……今、授業中なのでは?」
携帯の画面に表示されているデジタル時計を見ると現在は11時53分ほど。
本来今の時間やっているであろう授業が終わる予定時刻が12時10分ごろであることを考えると、授業が早く終わったにしては早すぎる。
とりあえず未だに震える携帯、それも主からのを無視するわけにはいかず、通話開始ボタンを押して電話に出る。
「お嬢様? 授業が終わったでありますか?」
校舎内ということで小声で電話口にそういったセナは、しかし次の瞬間に電話から聞こえてきたなのはの声に驚愕をあらわにすることとなる。
『セナさん大変! 学校にジュエルシードが……!』
その声が最後まで言い切られるか否かといった所で、セナの耳に爆発音が入り込んだ。