魔法少女リリカルなのは これがメイドの歩む道   作:クラッチペダル

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05 ちょっと油断したメイドでありますっ!

暴走体の腕と自身の腕が交差した一瞬、セナは思わず顔をしかめる。

しかしそれも一瞬の事、空中で交差し、そして暴走体とすれ違った瞬間、セナ体を強引に捻り後ろを向く。

彼女の目に映るのは無防備な暴走体の背中。

すぐさまその背中に体を捻った際の勢いをのせた回し蹴りを放ち、着地する。

回し蹴りを食らった暴走体は着地こそ失敗し地面にたたきつけられたがすぐさま立ち上がりセナへと振り向く。

 

「……っ、油断したであります」

 

そう呟きながらセナは左手を右腕に当てる。

セナが手を当てた部分の袖は引き裂かれ、布の下に隠してあった白い肌をみせている。

その白い肌には平行に並ぶ数本の赤い線が刻まれ、そこからは彼女の血が流れ出ている。

先ほどの一瞬の交差の際、暴走体の爪が服の袖ごと彼女の肌を切り裂いたのだ。

 

ちらりと自身の傷の具合を見る。

見たところひどく出血しているように見えるが、実際は見た目ほど重症と言うわけではない。

自身をにらみつけてくる暴走体から目を放さないようにしながらセナがもはやかろうじてつながっている状態といった右袖を引きちぎり、それを使って即席の止血帯とする。

 

「何やら以前の物と比べて反応速度や攻撃の強さも上。とにかく強くなっているように見受けられるでありますな。原因は分からないでありますが、そうと分かったらこちらもそれに対応すればいいだけの事」

 

同じ失態は二度も繰り返しはしない。

一流メイドとはそういうものだ。

 

「いえ、一度失態を犯した時点で一流とはいえないでありますな。私もまだまだであります」

 

なればこその汚名返上、名誉挽回。

腕の止血を終え、セナが構える。

その目に油断は既に無く、いつどこから飛び掛られようと反応できるようにしている。

 

「来るであります犬畜生めが。丁寧にさばいて夕飯の追加メニューの材料にしてやるであります」

 

つまり犬鍋にするぞゴルァと言う事である。

どうやら、失態を犯した云々とは別に肌を傷つけられたと言うことでも相当おかんむりなようだ。

さもありなん、いつの時代でもお肌と髪と顔は女の命なのだから。

 

その言葉に反応したのかは定かではないが、暴走体がその足にある鋭利な刃物のような爪を光らせながらセナへ向かって駆け出す。

それを見たセナは油断無く暴走体を見つめ続ける。

そして暴走体はセナに飛び掛り、その前足を振り下ろした。

 

「……ふっ」

 

暴走体の爪が再びセナを切り裂くかと思われたそのとき、セナがまるでその場にしゃがむかのようにその爪かわす。

その動作はあまりにも速く、残像が発生するほどであった。

そして発生した残像を爪は切り裂き、当然残像を切り裂いたところで手ごたえなどあるはずも無い。

目に見えていたものを切り裂いたはずなのに手ごたえが無いという事態に混乱した暴走体は空中で無防備な姿を晒す。

そしてその隙を一流メイドが逃すはずなし。

 

「メイドの心得その24っ! 隙を逃さずっ!」

 

しゃがんだ状態から立ち上がる際の勢いを利用し、セナの拳が暴走体の腹部を打ち据える。

さらにそれにとどまらず、セナは立ち上がると同時に飛び上がる。

その飛び上がる勢いはまさに天へ帰らんとする昇り竜。

そのままセナはジャンプの頂点で曲げていたままの腕を勢いよく伸ばした。

セナの拳に引っかかった状態で一緒に空中に押し上げられた暴走体は腕が伸ばされた勢いでセナよりも遥か上空に押し上げられる。

 

「打ち込むべしっ!!」

 

腹部を強打され、無防備に空中に放り投げられた暴走体はしばらく空中を舞った後、重力に引かれ地面に向かって落下。

落下地点には未だに空中にいるセナの姿が。

 

「さらに、メイドの心得その37! お返しはいつもニコニコ三倍返しであります!!」

 

空中でその右足を振り上げたセナは、そのままの体勢で暴走体を待つ。

もはやメイド服のスカートの中を隠す気などないと言わんばかりに豪快に足を振り上げている。

そして、暴走体が自身よりやや下の辺りに来たところで、振り上げていたその足を思い切りたたきつけていた。

 

セナによって思い切り地面に叩き付けられた暴走体は、一度は立ち上がろうとしたものの、生まれたての小鹿のほうがまだまともに立てるであろうといった様子でふらつき、そしてついに地面に倒れふした。

 

それを空中で見届けたセナはやがて優雅に着地。

しかし、その際の衝撃で腕の傷が痛んだのか、左手を傷の場所へと当てる。

 

「……でね、今さっきすごい音がしたからたぶんもう終わってると思うんだ、私」

「何でだろう、前までだったらそんな事ありえないって言い切れてたのに、今じゃ言い切れないよ……」

 

やがて鳥居の方向から声が聞こえ、その直後にバリアジャケットを着てレイジングハートを左手に持ったなのはと。その肩に乗ったユーノが姿を現した。

なのはに慌てていると言う様子は無く、非常にのんびりした様子だ。

よほどセナを信頼しているのだろう。

 

「あ、セナさん!」

「お嬢様でありますか。見てのとおり、暴走体はしっかりのしておいたでありますよ」

「ほ、ほんとに終わっちゃってるよ……」

 

ユーノが地面に倒れふしている暴走体を見て思わずそう呟く。

暴走体が倒れている地点を中心に小規模のクレーターが出来ているのもついでに見たが、それについては何も言わないでおいた。

 

「じゃ、じゃあ封印をしようか……なのは?」

「ーーーーーーーーっ!?!?」

 

とりあえず暴走体周辺の惨状は今は目を瞑り、なのはに封印を促そうとユーノはなのはを見る。

ユーノが見たなのはの顔には……驚愕の表情が浮かんでいる。

 

「な、なのは?」

「セ、セセセセ、セナさん!? そ、その腕! その腕の傷!? どうしたの!?」

 

なのはの言葉にセナの腕を見ると、服の右袖がなくなっている。

さらによく見ると二の腕辺りはセナのメイド服と同じ色合いの布できつく縛られており、その布と腕の間からは赤い液体が流れている。

 

「セナさん、まさか怪我をしたんですか!?」

「えぇ、以前の暴走体と同じと考えていたら見事に一本取られたでありますよ。怪我は出血が一時ひどいだけでそれほど重症ではありませんし」

「だとしても治療しなきゃ駄目だよセナさん!」

「応急処置はしてあるでありますよ」

 

傷についてやいのやいの騒ぐセナとなのは。

そんな二人を苦笑いしながら見つめるユーノは、ふと視界の隅で何かが動いたような気がし、そちらに注意を向ける。

そこで見た光景に、ユーノは思わず叫ぶ。

 

「っ! セナさん! 奴がまだ……っ!」

 

その声に反応したセナが後ろを振り向くと、そこには先ほどまで確かに気絶していたはずの暴走体。

セナと暴走体との距離は近く、避けることは不可能だった。

元より、自分の後ろにはなのはがいる。

避けれたとしても避けなかっただろう。

せめてもとセナはなのはを自身でかばうように抱きしめる。

 

自分が怪我をしてもいいが、主に怪我をさせるわけには行かないからだ。

 

『Buster』

 

しかし、いくら来るべき痛みに備えてもその痛みはやってはこず、代わりに聞こえた女性を基にした機械合成音。

そのことを疑問に思いセナが後ろを振り向くと、そこに居たはずの暴走体はおらず、変わりにあったのは既に封印状態になったジュエルシード。

そのジュエルシードはふわりとこちらに近づき、そしてセナの横から伸ばされたレイジングハートのコアに格納された。

 

「セナさん、大丈夫?」

「お、お嬢様……?」

 

なのはの声に、思わず呆けた声を出すセナ。

そんなセナを見て、なのはは微笑み浮かべ、こう言った。

 

「いつも助けられてばかりだったけど、今日は私がセナさんを助けれたね」

「……そうでありますな」

 

普段であればメイド失格だと自分責めたであろうが、今ばかりは何故かそんな思いはわいてこず、セナはただうれしいという気持ちだけが心の奥から湧き出していた。

 

「……あれ? あれって……」

 

しばらくした後、なのはがふと何かに気が付き、その地点に駆け寄る。

なのはの突然の行動に首をかしげながらなのはが駆け寄ったところにセナも歩いていくと、そこには一匹の犬が。

 

「……なぜに犬がここで寝ているでありますか」

「もしかして、あの暴走体はこの犬を取り込んでいたのか。だから前の暴走体より強くなっていた」

「?? 関係あるのでありますか? それが」

 

ユーノが一人納得したような声を上げる。

そしてセナの問いかけにユーノは口を開いた。

 

「以前の暴走体はいわばジュエルシードの魔力で構成された体なんです。魔力のみで構成された体は実体が薄い分、どうしても弱くなるんですが、今回はこの犬を取り込んで実体を得た。だから強かったんです。ちょっと違いますが、簡単に言えば空気を入れた袋で殴られてもあまり痛くないですけど、石を詰めた袋で殴られたらすごく痛い……って感じでしょうか」

「たとえが適切なのかは私には判断できないでありますが、なるほど納得であります」

 

ユーノとセナが会話をしている間に、なのはは気絶したその犬をそっと抱き上げる。

その際、犬の首に何かが付いていることに気づき、それを摘み上げる。それは革製の帯のようなもので、金属のプレートに何やら文字が彫られている。

 

「ほとんど切れちゃってるけど……これ首輪かな?。だったら飼い主さんはどこだろ?」

「……ほんとでありますな。犬が自分だけでここに来た……と言う事も考えられないでありますし」

 

セナがなのはの言葉に辺りを見回す。

しかし、この犬の飼い主らしき存在はどこにも見えない。

 

「むぅ……む?」

 

もしかしたらほんとにこの犬は自分だけでここに来たのではと思ったそのとき、セナが何かを見つける。

それは石畳の脇に植えられている木に背中を預けて地面に座っている一人の女性。

その女性は上下にジャージを着ており、その目は閉じられている。

そしてその手には途中切れてしまっているリードが握られていた。

 

「お嬢様、飼い主を発見したであります」

 

飼い主を発見したセナはそのまま地面に寝かせているわけにも行かないということで飼い主を神社のお賽銭箱前の階段に横たわらせる。

そしてそのそばに犬をそっと置いた。

 

「ふむ、これでよしでありますな」

「飼い主さん、見つかってよかったぁ」

「そうでありますな……さ、行くでありますよ。買い物の続きをせねば」

「あ、私も手伝う! ……でもその格好で行って大丈夫かなぁ?」

「む、そういえば右の袖がないのでありましたっけ……」

 

飼い主と犬を見つめるなのはを微笑み混じりで見つめたセナは、空を見上げ自身が買い物の途中だったことに気がつく。

セナの言葉になのはが反応し、セナの手を握る

 

「セナさん、今日は帰ろ? 服の事もそうだけど、時間も遅いし。お父さん達も事情を話せばセナさん怒ったりしないと思うの」

「むぅ……確かにこの時間に買い物の続きをして夕飯が遅れるとなっては大失態でありますな」

 

なのはの言葉にしばし考えたセナは、やがてなのはの言葉に了承。

石段を降りて買い物袋を回収したセナは、なのはと手を握りながら高町家へと足を向た。




Q:何でセナは空中で暴走体を待ち構えれたの? 普通セナのほうが先に地面に落ちるでしょ。

A:メイドだから。

というわけで2匹目の暴走体封印まで行きました。
つくづく戦闘描写苦手だなぁと思う今日この頃。
二個目のジュエルシード封印まで行きました。

そろそろセナさんにも素手じゃなくて何かしらの武器を持たせたいと思った今日この頃。

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