魔法少女リリカルなのは これがメイドの歩む道 作:クラッチペダル
自分で決めたセリフに自分で突っ込みをいれ、しばらく恥ずかしさのあまり固まっていたセナであったが、そんなセナの事情など読んでくれるはずも無いアレは、馬鹿の一つ覚えのようにセナへと向かって突進を敢行。
だがしかし、一流メイドに同じ攻撃が何度も通じるはずがあるだろうか?
いやない。
先ほどまでのアレとのやり取りでもはやセナは相手の動きを完全に読みきっている。
メイドたる者、常にあらゆる状況に即座に対応できるようにあるべし。
その理念を体現したセナは、自分に向かってくるアレをしっかりと見据える。
しかし、避けようとはせず、その場で腰を若干下ろし、腕も左右に開いている。
そして、アレとセナが衝突した。
「ふんぬ……!」
しかし、セナは倒れない。
それどころか、自分にぶつかってきたアレを顔をしかめながらもしっかりと受け止めている。
ちなみに、顔をしかめている理由は別に受け止めるのがつらいと言うわけでは無かったりする。
いや、別の意味でつらい故のこの顔なのだが。
「ひぃ! なんかこの黒マリモもどき、表面がうぞうぞ蠢いてて気色わりぃであります!? それにやっぱり生暖かくてぐにょぐにょしてるであります……うへぇあ」
こんな理由である。
つくづくしまらないメイドだ。
しかしそんな生理的な理由を抜きにしても、そのまま抱きしめている訳にもいかない。
このまま抱きしめた状態で時間を稼げるならそれはそれでいいのだが、あいにく相手は抱きしめられた状態から抜け出そうと必死に暴れている。
その力は強く、いくらセナでもこのままと言うわけには行かなかった。
故に、セナは動き出す。
湧き上がってくる嫌悪感をなんとか押し殺しながら、抱きしめている相手の頭部と思わしき部分を自分の脇ではさむ。
そのまましっかりと相手を固定すると、セナはそのまま後ろに倒れこむように上半身をそらした。
その際、しっかりと相手の頭が地面にぶつかるように調節して倒れこんでいる。
そして、そのままアレは頭部を地面にたたきつけられた。
それはやや変則的ではあるものの、実に美しいバックドロップだった。
ちなみに本来のバックドロップは相手を背後から抱きしめて行うものである。
閑話休題
ともかく、変則的バックドロップをくらったアレは頭を地面に強打。
その衝撃により地面にうずくまり、動く気配をまるで見せない。
「……ふぅ、時間稼ぎ成功でありますかな?」
そう呟くセナの背後で、桜色の光の柱が発生する。
その光にセナが後ろを振り向くと、そこには先ほどまでと服装を大きく変えたなのはがいた。
白を基調としたその服は、始めて見るにもかかわらずセナの目になじみがあると言う物だった。
何故かとセナはしばし考えふと思いつく。
気づいてしまえばなるほど、あれは間違いなくなのはが通っている聖祥学園初頭部の制服をモチーフにしているのだろう。
袖口が金属質であり、胸元になにやら金属でできた飾りが付いているが、それでも全身が金属質と言うわけではなく、幼いなのはによく似合う少女的なやわらかさを備えた格好であった。
「……ちっ、なぜ私はカメラを持ってこなかったのでありましょうか」
---もし持っていたらこの場で速写モードを使って激写していたものを。
一流メイド、初めての失態である。
もちろん激写した写真は桃子に献上する予定だったりする。
「やった……! 成功だ!」
フェレットの歓喜の声でセナは意識を現実に戻す。
フェレットが歓喜の声をあげると言うのはなんともシュールな光景であるが、いまさらそれを指摘するほどセナは空気が読めない人ではない。
「……えっと、これでいいのかな? なんだか服が変わっちゃったんだけど……」
「それはバリアジャケットと言って、簡単に言ってしまえば戦闘服です」
「なるほど……じゃあこの杖がさっき言ったレイジングハートさん?」
なのははそういうと左手に持った杖を持ち上げる。
持ち手が白く、杖の先端には金色の飾りに支えられるように大きな赤い宝石が備えられている。
なにやらなのはの言葉にちかちかと反応しているように見えることから、恐らくその部分がレイジングハートと呼ばれたその杖の重要箇所なのだろう。
そしてその金色の飾りの根元には青と白に彩色されたウイングに似たパーツが存在している。
「……魔法の補助をする杖と聞いていましたが、存外メカメカしいでありますな」
セナは魔法の補助と言うことでなにやら捻じ曲がった木製の杖を想像していたのだが、実際のそれは想像とは正反対のまさに機械製と言わんばかりの杖であった。
さすがにあの見た目で実はそれはメッキですなどということは無いだろう。
「しかし……レイジングハートですか……」
先ほどなのはが言ったレイジングハートと言う言葉に、何故かセナは頭の奥底がチリチリと焼けるような感覚を覚える。
まるで何かが反応しているかのような、そんな感覚。
「それで、この後どうすればいいの? フェレットさん」
「とにかく心を落ち着かせてください。きっと呪文が浮かんでくるはずです。幸い、暴走体はしばらく動きそうも無いですし」
見ると未だにフェレットいわく暴走体は頭を地面に押し付けたまま動こうとしない。
よほどうまい具合に先ほどのバックドロップが効いているのだろう。
「心を……落ち着かせる……」
フェレットの言葉に、なのはは目を閉じて深呼吸をする。
しばらくそのまま深呼吸を続けていたなのはは、やがて目を開けるとレイジングハートを振りかざした。
「リリカル! マジカル! ジュエルシード、シリアルXXI、封印!!」
『Sealing』
レイジングハートを振りかざすと同時になのはが呪文であろう言葉を言う。
その姿をみたセナは、余計に今カメラを持っていないことを後悔した。
そんなセナをよそに、事態は進んでいく。
なのはの言葉に応じるかのように先端の宝石を点滅させたレイジングハートが、その宝石から桜色に光る帯を発生させる。
その帯はまっすぐに暴走体に向かい、その体に絡みつくとその光を強める。
やがて光が収まると、そこには菱形にカッティングされた青い宝石が浮かんでいた。
「宝石……?」
「あれがジュエルシード。さっきまで暴れていたあれの本体で、とても危険なロストロギア」
そのジュエルシードがふわりと移動し、レイジングハートのコアに近づく。
そしてそのままジュエルシードはレイジングハートのコアに取り込まれた。
「これで封印とやらは完了でありますか?」
「あ、はい。皆さんの協力のおかげでようやく一個回収できました」
セナの問いかけに頭を下げて礼を言うフェレット。
しかし、セナはそのフェレットの物言いに違和感を覚えた。
「『ようやく一個』? って事はあれでありますか? ジュエルシードとやらはまだ複数個あると?」
「えっと、それは……」
セナの言葉に、フェレットが歯切れ悪く答えようとしたそのときだった。
なのはがふと何かに気づいたかのように顔をあちこちに向ける。
そしてある一点で顔の動きを止めた。
その顔はみるみる青くなってく。
「お嬢様? どうしたでありますか?」
「えっと、セナさん、あれ……」
青い顔のままなのはが指差した方向を、セナとついでにフェレットが向く。
見えたのは、次第にこちらに近づいてくる赤く点滅する光。
そして次第に大きくなってくるサイレン。
「……パンダカーでありますな」
つまり黒と白のカラーリングの車の事である。
要するにあれは……
「さてお嬢様。この場に突っ立っていたら警察の方々に根掘り葉掘り取り調べられてしまうでありましょう。スタコラサッサと逃げることを提案するであります」
「そうですねー」
ここまで暴れまわって誰も気がつかないはずがない。
恐らく誰かが警察に通報したのだろう。
そしてこちらに近づいてくるパトカーをちらりと見やりながら、セナはなのはを横抱きにし、すぐさま走り出した。
「一流メイドはクールに去るであります」
その言葉通り、特にあせった様子も無くセナは高町家へと駆け出していった。
※ ※ ※
セナとセナに抱きかかえられたなのは、さらにそのなのはに抱きかかえられたフェレットが高町家にたどり着いたとき、高町家は夜であるにもかかわらずリビングに電気がついていた。
つまり、家族は起きているということだ。
「あう……」
「お嬢様、拳骨一発は覚悟するでありますよ」
セナの言葉がよりいっそうなのはの足の動きを止める。
しかし、無断で夜中に家を飛び出したのは自分。
なのはは覚悟を決めて玄関を開けた。
「た、ただいま~」
「ただいま戻ったであります」
なのはとセナの声が聞こえたのか、リビングと玄関をつなぐドアが開き、そこからなのはの姉、美由希が顔をのぞかせた。
帰ってきた二人に驚いたような顔をすると、美由希はリビングに顔を引っ込ませる。
リビングに集合している家族に二人が帰ってきたことを伝えているのだろうか。
しばらくの後、士郎が玄関までやってくる。
その顔は怒りも当然あったが、心配の表情のほうが大きかった。
「お父さん、あの、えっと……」
「……とりあえず上がりなさい。説明は皆にするんだ」
それだけを言うと士郎は再びリビングへと戻っていった。
なのは達はその後ろについていきリビングへ入る。
リビングには今にも泣き出しそうな桃子と怒り半分心配半分と言う表情をした恭也、心配一色の表情を浮かべる美由希と先ほどと同じような表情を浮かべている士郎がテーブルのそれぞれの席についていた。
なのは達は誰に言われるでもなく自分達の席につく。
それを確認した士郎は一回うなづいてから口を開いた。
「さて、なのは。何でこんな夜に出歩いたのか、説明してもらえるかな?」
「それは……」
そこでなのはは迷う。
これが普通の状況で自分が出歩いたならそのことを言い、ただひたすらに謝ればそれでいい。
しかし、今回出歩いた理由が今まさに自分が抱いているフェレットからの助けの声に応えたためなどと言って、果たして納得してくれるのだろうか。
いくら幼いなのはでも先ほどまでの出来事が常識はずれなことだと言う事ぐらい理解している。
言いたいけど言えない。
そんななのはを横目で見ながら、セナはいかにフォローをするかを考えていた。
5~6年もなのはの従者をやっているのだ。
なのはが今どのような理由で口をつぐんでいるのかはよく分かる。
セナは考えに考え抜き……そして一つの応えに行き当たった。
そうと決まれば早速その案を実行するだけ。
だんまりを貫くなのはに対する視線が先ほどまでより厳しくなっている士郎に対し、セナは口を開いた。
「旦那様、お嬢様に説明を促すその前に一つだけよろしいでありますか?」
「……今それをあえて言うということは、それはなのはが出歩いたことと関係があるのかい?」
「関係があるどころか恐らく出歩いた原因であるかと」
セナの言葉に、士郎の目つきが鋭くなる。
その目がセナに語っていた。
とりあえず言ってみろ、と。
その目をみたセナは頷き、なのはの腕からフェレットをむんずとつかみあげた。
そしてそのまま士郎に突きつける。
「こやつが原因であります」
「……はぁ?」
恭也が思わず間抜けな声を出すのも無理は無い。
妹が夜出歩いた原因がこの小動物だとセナは言うのだ。
間抜けな声の一つや二つも出ると言うものだ。
「それは……なのはが話してたフェレット?」
「そうであります奥様。このフェレットが夕食の際にお嬢様が話していた件のフェレットであります」
「そのフェレットがいったい?」
「その事でありますが、実はこのフェレット、ただのフェレットではないのであります」
士郎達にそういうと、セナはフェレットの耳元に口を持って行き、周りに聞こえないようにポツリと呟いた。
「……とっとと全てを説明するであります」
セナの考えとは、これからこの事を隠していくより、いっそ全てをぶちまけてしまおうと言う考えだった。
物事を隠すということは思う以上に心に負担がかかるものだ。
ある物事を隠すため、嘘をつかざるを得なくなり、その嘘を隠すために別の嘘をつく。
そしてそれを繰り返していくうちに嘘とは雪だるま式に大きくなる。
誰かをだましていると言う罪悪感。
嘘がばれないようにしなくてはならないと言う緊張感。
そして嘘がいつばれるのかと言う恐怖。
それらを受けとめるにはなのははあまりに幼い。
ならばそのような状況にさせないようにすればいい。
「なのはお嬢様、全てを旦那様達にお話しするであります。大丈夫であります。きっと信じてくれるでありますよ」
なにせれっきとした証明を文字通りつかんでいるのだから。
セナの言葉で、なのはは決意する。
そしてなのははセナに掴まれているフェレットに顔を向け、口を開いた。
「フェレットさん、私皆に説明したいの。……だめかな?」
なのはの真剣な目をじっと見つめたフェレットは、やがて器用にため息をつくと、その口を開き始めた。
「いいや、僕がやります。全ては僕が原因ですから」
士郎達が人語を話したフェレットを目を見開いて見つめる。
そんな中、セナの手から抜け出したフェレットは床に降り立ち、そして士郎達に頭を下げた。
「始めまして。僕はユーノ・スクライアと言います。……そして、あなた方の家族を危険に巻き込んだ張本人です」
ちなみにこの話でのなのはさんのバリアジャケットやレイジングハートの形状は劇場版の物です。
なぜ劇場版仕様にしたかと言えば、劇場版のレイジングハートさんのほうが好きだからです。
カノンモードとかかっこいいじゃないですか!
……あれ? 魔法少女物でかっこいい……?
そこ等辺は気にしないということで。
もちろん、フェイトさんのバリアジャケットやバルディッシュさんも劇場版仕様になります。
それはともかく、今回は早速高町家に魔法云々をバラすと言う展開にしましたが、いかがでしょうか。
まぁ普通なら駄目だと言われそうですが、この作品には任せて安心メイドさんがいるので、たぶん大丈夫です。