魔法少女リリカルなのは これがメイドの歩む道 作:クラッチペダル
……いった無印終了出来るのは何話になることやら
世の中にはもしもあの時ああしていればああなっていただろう、などと言ったifの世界がある。
今回で言えば、もしかしたらセナの一撃がプレシアに届き、プレシアは管理局に身柄を拘束され、その後はジュエルシードを封印、事件は無事解決していた、と言う世界があったのかもしれない。
また、セナが最後の最後でプレシアの一撃にあたり、プレシアをとめることが出来なかったという結末を迎えた世界もあっただろう。
他にも現在より以前の事で考えれば、フェイトが合流しなかった世界、クロノが一人でプレシアの元へ向かった世界などなど、考え出せばきりがないほど、ifの世界は無数に存在しているだろう。
もっとも、結局人は過去に戻れないためそんな事を考えたところでまったくの無意味だが。
今回起こったことも、恐らくそんなifの世界の中から選び出された一つの展開なのだろう。
セナの一撃は届かず、プレシアの魔法も当たらず、何があったかといえばジュエルシードが自身の魔力で崩壊したのだ。
ジュエルシードは崩壊の際、内に秘めた膨大な魔力を、文字通りに爆発させた。
その魔力をセナが認識した瞬間、セナの意識はまるでスイッチを落とした電化製品のように暗い底へ沈んでいった。
……セナの意識が完全に闇に沈む前に見た光景は、自身の身体が青く光っていた……ように見えたという物だった。
※ ※ ※
「……次元震が……やんだ……?」
アースラクルーの誰かがポツリと呟く。
その呟きのとおり、先ほどまで起こっていた次元震がなぜかぴたりと止んでいたのだ。
一瞬膨れ上がった魔力が消え去ると同時に。
念のために周囲の次元空間のデータを確認するが、まるで次元震など起こっていなかったといわんばかりに、空間は安定している。
先ほどまで次元震が起こっていたのだから、いくら止んだといってもしばらくは何かしらの影響が空間にあるはずなのに、それもまるでなし。
とにかく次元震が止んだということは、つまり突入したクロノやなのは達が無事にプレシアを確保し、ジュエルシードも確保したということだ。
……あまりにもあっけない終わりだ、と誰もが思った。
まるでむしろ事件はこれからだといわんばかりのあっけなさ。
嵐の前の静けさと言う奴だろう。
そしてクルーの中で、エイミィがその事実に気が付いた。
「……あれ、通信がつながらない……?」
先ほどから突入したクロノ達に通信をつなごうとしているのだが、いっこうにつながらないのだ。
次元空間のデータを見ても、特に荒れているわけでもない為、電波が干渉を受けているわけでもなければ、アースラの通信機に異常があるわけでもない。
突入班のデバイスに何か異常があったのかとも思ったが、まさか突入した全員のデバイスが一斉に壊れたなと言うこともあまりに現実味が薄い話だ。
エイミィが首を捻っていると、クルーの一人が慌てた様に叫んだのだった。
「ハラオウン執務官の……いや、突入班の魔力反応がない……っ! 庭園のどこにも!!」
まだ、事件は終わりを見せていなかった。
※ ※ ※
もはやこれで何度目だろうか。
セナはぼんやりと思いながらその光景を見ていた。
セナが見ているのは石壁と鉄格子に囲まれた部屋。
そしてそこにいる老人。
今まではまるで夢で見ているかのように、決まった視点からそれを見ているだけだったが、今はまるで自分がそこにいて、実際にその光景を見ているかのようにセナには感じられた。
が、物を触っても触れず透ける。
「……なんという幽霊のような所業。これは間違いなく私死んでる……というわけでもなさそうなわけでありまして」
セナが後ろでそんな事を呟いているにもかかわらず、老人はそれに反応しない。
まるでセナの声が聞こえていないかのように。
……セナがそこにいないかのように。
老人はただひたすらに、羊皮紙に何かを書き込んでいる。
一心不乱に、見たこともない言語を。
やがて、その光景が徐々に変わっていく。
変わったといっても相変わらずいる場所は石壁の部屋。
先ほどと違うことといえば、老人が持っているのは先ほどまでの紙とペンではなく、青い菱形の宝石だった。
「……あれは、ジュエルシード!?」
それはまるでジュエルシードのような形状をしている宝石だった。
しかしサイズが大きすぎる。
今まで見たことのあるジュエルシードはせいぜい掌で包み込めるほどのサイズだったが、その宝石は老人の掌から多少はみ出すほどの大きさだ。
「これで……これでいい」
老人が誰に聞かせるでもなくそう呟く。
そのジュエルシードのような宝石を撫でながら。
そんな老人の呟きに反応を返すように、宝石は淡く点滅している。
「そう……これでいいんだ……これがあれば制御できる……できるんだ……」
再び景色が歪むように変わっていく。
老人を含めた景色が歪んでいく中、青い宝石だけが歪まず、菱形を保ち、輝いている。
……その宝石の中で、XXVの文字が光り輝いていた。
※ ※ ※
「……25番のジュエルシード!?」
自分の目が見た衝撃の物体にセナが思わずそう叫ぶ。
そして周囲を見渡し、ポツリと呟く。
「……ここぁどこでありましょうか」
セナが目を覚ましたのは石壁で作られた部屋。
そう、先ほどまで夢で見ていた部屋だった。
しかし、夢で見た部屋とは明らかに違う点が存在する。
それは、ただでさえ手狭な部屋をさらに狭くするかのように何に使うのかが分からない機械類が設置されているのだ。
「パソコン……にしちゃ形がおかしいでありますし、このキーボードっぽい物だけがある機械はほんとになにに使うでありますか。それに……」
その中で特に目を引いたもの。
それは今セナが見ている培養槽であった。
形状はプレシアがアリシアの身体を保存するのに用いた物に類似しているため、培養槽だと推測できる。
「……なんでありましょうね、これを見てると……なんだか……懐かしい? というか何と言うか」
しばらく自分が感じている感覚が何に起因するのかを考えていたセナだが、結局疑問の答えを得ることは出来なかった。
なぜならそれよりももっと重大な事に気づいてしまったからだ。
むしろ、それを一番最初に気づかなければならなかったのに、セナは気が付けば知らない場所に居たという混乱のせいでそれに今更気が付いたのだ。
「お、おおおお、お嬢様がいねぇぇぇぇぇぇぇ!!?」
従者として最大の失態である。
※ ※ ※
「ううん……」
『Wake up master』
「むにゃ……あと10分……」
身体に心地よくまとわりつくまどろみに身を任せていたなのはに、何者かが声をかける。
それによりまどろみは徐々に消えていってしまいそうになるが、この心地よい感覚を逃してなるものかと、なのはは誰とも分からぬ相手に言葉を返した。
その後もしばらく何者かの声はなのはの耳に届いたが、結局なのははそれに答えることはなかった。
だって眠いし。
「悪いが、君が自然に起きるのを待っているわけには行かないんだ。少し手荒だが……仕方がない」
ふと、先ほどまで聞こえていた声とまた違った声が聞こえた瞬間……
「……ふぎゃ!?」
なのはの目の前に星が瞬いた。
というより脳天に強い痛みが発生した。
「痛い! もう、今頭殴ったの誰!?」
「僕だ。悪いが早急に起きてもらわなければならない状況だったからね」
「それってどんな状況?」
「周りを見てくれれば分かる」
痛みにすっかり眠気が吹き飛んだなのはがやや不機嫌そうにそういいながら周囲を見渡すと、そこに居たのはクロノ。
持ち上げた腕を見る限り、先ほどなのはの頭を殴ったのはクロノで間違いないだろう。
早速クロノに文句を言おうとするなのはだが、その前にクロノが周囲を見るように促す。
不機嫌さを隠そうとはしないものの、それでもクロノの言うとおり周囲を改めて見渡す。
そこではたと気づく。
「……ここ、どこ?」
先ほどまで、なのは達が時の庭園の奥に居たはずなのだ。
しかし、現在なのは達がいるのは木々が生い茂っている森。
明らかに庭園のどこかと言うわけではない。
「僕にも分からない。ジュエルシードが異常なほどの膨大な魔力を放ったということまでは覚えているんだが、そこから今までの間の記憶がない。それに、他のメンバーともはぐれてしまった。早く合流しないと……アースラとの通信も途絶えてるし」
ぶつぶつと呟きながらもクロノは再びアースラへ通信をつなごうとする。
しかし、帰ってくるのはノイズばかり。
メインの通信周波数で不具合があったときのために複数用意されているサブの周波数も試してみたものの、どれもこれもノイズしか返してこなかった。
先ほど確認した際の結果とまったく同じ結果が返ってきたということは、事態はまったく好転していないと言うこと。
その事実にため息をつきながらも、ならばとはぐれたメンバーに念話を送る。
これもやはり返答はない。
何かに念話が阻害されているのか、はたまた念話の範囲外にいるのか。
「……くそっ、相変わらず返事無し。まったく参ったものだ」
「とりあえず何かないかな? ずっとここにいてもどうしようもないと思うし、もしかしたらほかの皆に会えるかも」
「……それもそうか。よし、ここから移動する。はぐれないように気をつけてくれ」
この結果は予想出来てはいたが、それでも悪態もつきたくなる。
しかしだからと言って悪態をついてばかりいたところで事態が好転することなどありえない。
クロノはなのはの言葉に同意すると、その場から移動を始める。
まずは現在いる森を抜け、開けた場所へと行くこと。
存在するかもしれない危険な原生生物などが自分達を捕捉する可能性が高くなるが、それでも森の中では入手できる情報も限られてくる。
なお、魔力温存のために飛行魔法は使わないことにした。
いつどこから襲われてもいいように慎重に森の中を進む。
魔力温存のため、ある程度の間をおきながらエリアサーチをしながら進んでいくと、クロノは現在自分たちがいる場所の不可解さに気づく。
「……おかしい、生体反応がまったくと言って良いほどない……こんなに森が広がっているというのに、森を住処とする生命体がいないのか?」
先ほどから何回かエリアサーチをしているが、サーチで察知できる反応はクロノとなのはの反応のみ。
他の生命体の反応は一切探知できなかった。
これが1、2回だったならばたまたまといえるだろうが、最早数回、それも連続で無反応となれば、さすがに異常といえる。
「……原生生物はともかく、せめてフェイト達やセナさんはサーチ範囲外にいるから反応無しであって欲しいよ」
未だにこの異常に気づいていない様子のなのはを無駄に不安がらせないように気づいた異常を胸のうちにしまいこみ、クロノはなのはとはぐれないように森を歩き続けた。
※ ※ ※
一方、フェイト達はと言うと……
「これは……すごい、ここまで高度な技術で作られた建物なんて見たことがない……建物の材質もミッドで使われてる一般的なそれとは明らかに違う。既に失われた鉱石を加工したものに似てるけど……それはともかく、表面にゆがみとかがなくてほんとに平らだ。優れた加工技術がないとここまで綺麗に平らにはできないよ。いや、この建材は加工が容易なのかもしれないな。だとすればそこまで高度な技術は必要じゃないけど……でも、この強度だとやっぱり高度な技術が……いや、もしかしたら強度と加工の容易さを両立させている? つまり合金みたいな物なのかな?」
「……えっと、何のことだろう?」
「フェイト、ほっときな。多分私たちには良く分からない世界なんだろうさ。というかいい加減にしてくれないかね。さっきからこれだ」
生まれたときから学者気質なスクライア一族の血が騒いだ一名が暴走中なようだ。
ほか二名の呆れたような視線もなんのその、周りの建物の表面をじっと眺めたり、撫でたり、魔法で走査してみたりと興奮を隠し切れないようだ。
「なぁユーノ、とにかくここがどこだか私達は知りたいんだ。なんか手がかりはあったのかい?」
「……ん、あぁ、ごめんごめん、つい興奮しちゃって……えっと、ざっと調べたけど、ここがどこかは分からなかった。でも、これはつい最近出来たものじゃないってことぐらいしか分からないんだ」
「ま、そりゃそうだろうね……なんせ、この街? 見たいなところに人っ子一人いやしないんだから。だって言うのについ最近出来ましただなんてありえないだろうさ」
そういいながらアルフは周りを見渡す。
周囲にそびえるのは大小さまざまな建物。
高層ビルのように高い建物もあれば、まるで一般住宅のようなサイズの建物まで。
ただそれらに共通している特徴は、あまりにも無機質、無個性すぎること。
あらゆる建物が、高低以外全て規格化されているかのような、不気味さだった。
「海鳴だって、もっと建物もいろいろあったけど、ここはなんだか気味が悪いよ。全部が全部同じ建物に見えてくる」
「非常に高い建物も建ててるってことは、それ相応の技術がある。多分皆同じに見えるのは科学技術の発達とそれによる行き過ぎた管理社会の形成の弊害だと思う。全てを効率化して管理しようとすると、どうしても全部が似たり寄ったりになってくる。全部同じなら管理はたやすいからね」
ユーノの言葉を聞き、フェイトは周りを見渡してポツリと呟いた。
「優れた科学技術を持ってて、でも人は誰もいない……つまり滅んだ世界……なんだかアルハザードみたいだね」
フェイトの声が、滅んだ街に静かに響き渡った。
彼らがどこに飛ばされたかは、まぁ読んだ人全員が分かると思います。
ここからはセナさんのちょっと普通じゃない部分についても言及していきたいと思います。
しかし、名前だけ出てて実際どんなのか詳しく設定されてない物って便利ですよね。
おおもとが破綻しない程度にある程度自由に設定できますし。