魔法少女リリカルなのは これがメイドの歩む道   作:クラッチペダル

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ここまで来て、ようやく無印編の終わりが見えてくるという。
ここまで長かったなぁ……と思うばかりです。

希望としては……あと3、4話以内で無印終わらせたいな!


26 崩壊

フェイトがクロノとアルフと合流したまさにその時、なのは達は時の庭園の駆動炉の前へと迫っていた。

行く手を遮る傀儡兵をセナが手にしたハルバードで砕き、ユーノが動きを封じ、なのはの魔法が打ち砕く。

 

ここから先の展開はここではない、ありえたかもしれない歴史の流れと同じだ。

唯一、セナと言う存在がいるというただ一つの点を除いて。

 

 

※ ※ ※

 

 

暗い通路をただひたすらに走る。

まっすぐ前を向き、無言で自分の前を走るフェイトの背中を、クロノは見つめる。

 

「フェイト、本当にプレシアのところに君もいくのかい?」

「うん。どうしても、母さんに言わなきゃ駄目なことがあるから」

フェイトの言葉を聞いて、クロノはまるで痛ましいものを見るような表情を密かに作る。

クロノの問いに、フェイトはプレシアの事を母さんと呼んで答えている。

つまり、フェイトはまだ……

 

その事があまりにも痛ましい。

しかしその事を口に出したりはしない。

なぜなら、既にプレシアがいるであろう部屋は目の前にある。

 

クロノの隣に並ぶように走っていたアルフがフェイトを追い越し、拳を振り上げ目の前の扉を殴りつける。

アルフの拳により、扉は粉々に粉砕される。

扉を破壊した際に多少砂埃が舞い視界が悪くなるが、三人は臆せず部屋へと飛び込んだ。

 

「プレシア・テスタロッサ!! 時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ!」

「それと、今てめぇを殴りたくて殴りたくて堪らないフェイトの使い魔のアルフさんだよ!」

「…………」

 

三人が部屋に飛び込んでまず最初に見たものは、培養槽の中で揺蕩うアリシアをひたすら優しい瞳で見つめるプレシアの姿だった。

その姿に、三人とも思わず唖然としてしまう。

 

あれが、あんな優しげで、悲しげで、はかなげな……まるでわが子を見つめる母のような顔を見せる女性が、次元震を起こし、フェイトを捨てたあのプレシアと同一人物なのか。

誰しも、アリシアを見つめるプレシアの姿を見て、そう思った。

そしてフェイトは、自分には見せてくれたことがないその顔に、なんという思いを抱けばいいのかが分からなかった。

 

やがて、プレシアがアリシアから視線をはずし、クロノ達へとその目を向けたときには、既に先ほどの表情は消え去る。

 

「来たのね、管理局。それと……人形とその使い魔が何の用かしら?」

「っ! プレシアァァァァァァ……っ!」

「アルフ、待って」

 

プレシアのその言葉に、アルフは一瞬で頭に血が上りプレシアに向かって一歩踏み出す。

しかし、フェイトの言葉にその一歩が続くことはなかった。

 

「フェイト……?」

「……話を、させて欲しいんだ。私に」

「聞いてくれるとは到底思えないけどね」

「それでも、ね? お願い」

「…………」

 

フェイトのお願いに、渋々ながら後ろに下がるアルフ。

彼女と入れ替わるように、フェイトはプレシアの方へゆっくりと歩を進めていく。

 

「……母さん」

「……貴方、学ばないのね。人形に母と呼ばれるいわれはないわ」

「確かに、私は普通に生まれたんじゃないと思います。でも、母さんに生んでもらった、母さんの娘です。少なくとも私はそう思っています」

 

フェイトの言葉に、プレシアは一瞬唖然とした表情を浮かべ、そして……

 

「……ふ、ふふふ……うふふふふ……あっはっはっはっは!!」

 

笑った。

否、嗤った。

 

「あはははははは! 貴方……何言ってるの? まさか自分が、私が腹を痛めて生んでないから娘と認めないとか思っているわけ? だとすれば、あまりにおかしすぎて笑いが止まらないわ!」

 

そこまで言うと、再びプレシアは笑い始める。

しばらくの後、ようやく落ち着いたのか、プレシアが呼吸を整えて言葉を続けた。

 

「……はぁ、まさかここまで馬鹿だったなんて、やっぱり貴方は出来損ないの人形ね……あまりにかわいそうだから教えてあげる。別に私は貴方が違法研究で生まれた存在だとしても嫌ったりはしないわ」

「だったら……!」

「……貴方がアリシアだったのなら、ね」

「え……?」

 

プレシアの言葉に一瞬顔に喜色を浮かべるフェイトだったが、続くプレシアの言葉にそれも消え去ってしまう。

 

「言ったでしょう? 私の娘は唯一、アリシアだけだって。貴方がアリシアだったのなら私には何の文句もないわ。でもね、貴方はアリシアじゃなかった……アリシアとはあまりにも違いすぎたのよ」

 

プレシアはアリシアが納められた培養槽を優しい手つきで撫でる。

 

「確かに容姿はほぼ同じ。記憶も一部抜け落ちてるところがあっても事前に予想しているより抜けは少なかった。ある意味理想の出来だった……でもね、駄目だったの。右利きじゃなくて左利きなの。アリシアは魔力変換資質なんか持ってなかったし、そもそもそんなに多くの魔力を持っていたわけじゃないの。アリシアはね、もっと我侭を言って私を困らせるような子で、貴方みたいにおとなしい、従順な子じゃないの……なにより……」

 

「アリシアの目は、赤くなんかないのよ!!」

 

「フェイト、貴方に分かる!? 確かに予想以上の出来だった、でも、だからこそ! その小さな相違点が大きく見えるの! そして、そんな限りなくアリシアに近くて、それでいて限りなくアリシアではない貴方を娘扱いしなければならなかった私の苦しみが、貴方にわかる!? 何度も何度も叫びたくなったわ、貴方の前で、『私の娘はアリシア、フェイトなんて名前じゃない』って!!」

 

それはまるで、感情の爆発。

いままで誰にも聞かせなかったプレシアの心の内。

そしてその思いを真正面からぶつけられているフェイトは……

 

(……母さん、泣いてる)

 

プレシアの言葉に反発するでもなく、受け入れるでもなく、そう思っていた。

プレシアの顔を、涙が伝っているわけではない。

だが、フェイトには何故か、母が泣いているようにしか思えなかった。

 

「だからね、私は取り戻すのよ! こんなはずじゃなかった未来なんか捨てて、取り戻すのよ! そのためにジュエルシードを集めるの。そう! 私はジュエルシードを集めて行くのよ……古の都、アルハザードへ!!」

「アルハザードはあくまで御伽噺、空想の存在だろう!?」

「私は魔導師であると同時に科学者よ? 科学者は核心のある言葉しか言わない。ある物はあるといい、ない物はないと言うわ。そんな私が、確信も持たずにあるというわけがないでしょう?」

 

そういうと同時に、プレシアが手に持った杖を軽く持ち上げ、そして落とすようにして床を叩く。

それと同時に、プレシアの背後で輝きを放ちながら浮かんでいたジュエルシードの輝きが強まる。

 

「まさかこの時の庭園に、アルハザードに関する資料があるなんて思わなかったわ。恐らく、何代前なのかは知らないけど、以前の持ち主の中で魅せられた人が居たのね。驚くほどに膨大で、恐ろしいほどに詳細な資料がここに眠っていたのよ。それを元に、私はアルハザードへ行く術を見つけ出した。故に私はアルハザードが『ある』と確信を持っていえるのよ」

 

ジュエルシードの輝きは未だに強さを増し、それに比例し放つ魔力も際限なく大きくなる。

自身が放つ魔力の大きさに、ジュエルシードも耐え切れないのか、ジュエルシードは不気味に振動し始めている。

 

「ただ、個数が不安要素。全部あればまだ良かったのだろうけど……でもそれも庭園の駆動炉を暴走させて補えば……」

 

その言葉を遮るように、部屋の天井が一部崩れ去る。

そこから現れたのは、なのはとユーノ、そして……

 

「ところがそうは問屋が卸さない、と言うわけで駆動炉封印完了であります」

「なっ!?」

 

二人に遅れて降りてきたセナだった。

セナの言葉に驚愕したプレシアは、セナの隣にいるなのはを見やる。

なのはの手には、封印されたロストロギア……恐らく駆動炉であろう、が握られていた。

 

「君達はどうやってここに……」

「えっと、床をこう、ディバインバスター! って感じで、ね?」

 

クロノの予定では、駆動炉封印組はもっと遅く、それこそ何事もなければプレシアの身柄を確保した頃に合流してくると思っていたため、思わず疑問を投げかける。

それに対し、なのはは特に気負った風もなくただ答えた。

 

魔法で床ぶちぬいてきました、と。

 

プレシアが目の前にいるというのに、思わず頭を抱えるクロノ。

なのは達が協力者として来てから、いや、もとよりなのは達と出会ってから。自分の常識と言う物が少しずつ破壊されてきているように思えるクロノだった。

 

「ちなみに私はその穴をこう、三角跳びみたいな感じで降りてきたであります」

「あ、はい、分かりました、もう結構です」

 

セナに関してはもうどうでもいいや。

クロノはもはや投げやり状態だった。

 

『それに、次元震も私が防いでいます』

「なんですって!?」

 

そんな中、ふとつながる通信。

現れたモニターに映っているのは、背中からまるで妖精のような羽を生やしたリンディの姿。

その足元には魔法陣が輝いている。

 

『プレシア・テスタロッサ、最早貴方に打つ手はありません。出来れば、そのままおとなしく身柄を拘束されて欲しいですが』

「……何故、何故なのよ。私は、ただこんなはずじゃない事をなかったことにしたかっただけだというのに!」

「さっきから聞いていれば……世界は、こんなはずじゃない事ばかりだろうが!!」

 

既にあらゆる手を封じられ、プレシアはまるで絶望したかのようにそう呟く。

それを聞いて、クロノはもう我慢の限界だと言わんばかりに口を開いた。

 

「そんな、こんなはずじゃない出来事から逃げるのも、それに立ち向かうのも、何をしようとも、それは個人の勝手だ、だけど、その勝手に他者を、ましてや関係ない存在、関係ない世界を巻き込むな!!」

 

確かに、プレシアの経歴はあまりにも不幸にまみれている。

それは重々承知であり、またその事に憐憫の情を抱けないかといわれればそれは無いといえる。

だが、それとこれとは話が別だ。

 

たとえ自身が不幸だからと言って。

誰かに不幸を強要されたからと言って。

それを理由に他者に不幸を振りまいたとしたら、それは決して許されることではない。

その時点で、その人物は哀れむに値せず、度がすぎればただの犯罪者だ。

故に、目の前のこの女はただの犯罪者。

それも犯罪者の中でも飛びぬけて凶悪な。

 

「たとえどんな理由が何であろうと、犯罪を犯したのなら、僕は、いや管理局はそれを捨て置くわけには行かない!!」

それはクロノが譲ることが出来ない信念。

管理局員としても、ただ一人の人間としても、それを捨てるわけには行かなかった。

 

「と、言うわけでどうやら貴方はチェックメイト。おとなしくお縄につきやがれ、アルフが殴った後に一発殴らせろであります。人様の世界に迷惑かけおってからに……っ!」

 

クロノの言葉にセナが同調し、フェイト以外のその場の全員が各々デバイスを構え、拳や得物を構える。

しかし、ふとセナは気づく。

プレシアが俯いたままピクリとも動かない。

 

「……もう--わ」

「……っ!? 全員、今いる場所から下がれぇ!!」

 

誰に呟くでもなく、小声で何事かを呟くプレシア。

ほとんど聞こえないであろうその言葉を、セナはしっかりと聞いていた。

 

--……もういいわ。

 

その言葉に何かを感じ、セナは全員に聞こえるように叫んだ後、なのはとユーノを抱え跳び退り、それをみたアルフも何かを察したのか、フェイトとクロノを抱えて跳び退る。

その直後、あたりに紫の雷が落ち始めた。

 

「母さん!?」

「無差別の広域魔法だと!? 発動中のジュエルシードが傍にあるというのに、正気か!? プレシア・テスタロッサ!!」

「あはは……あはははははは……! 正気? 正気なわけないでしょう!? 正気でいられるわけがないでしょう!? あははははははははは!!」

 

それは、狂気。

己の目的を果たせず、追い詰められたが故の発狂。

それは恐らく、当然の結果だったのかもしれない。

 

「取り戻せないなら、いっそ壊れてしまえばいいのよ! そうよ! 壊れろ! 壊れてしまえ!! こんなはずじゃない世界など、壊れてしまえ!!」

「まずい! いくら提督が押さえ込んでいるといっても、それにも限度がある。これ以上ジュエルシードに刺激を与えたら……早くプレシアを止めないと!!」

 

ジュエルシードが限界を超えて魔力を放っているというのに、その傍でプレシアは狂ったように広域魔法を放ち続ける。

その魔力により、現在限界ギリギリにあるジュエルシードにどのような影響が分からないと言うのが現在の状況だ。

この状況を打破するには、プレシアの魔法を止め、膨大な魔力を放つジュエルシードを封印するしかない。

その手も、プレシアの無差別な広域魔法で実行は難しい。

狙いが付けられていない分、どのように回避してプレシアの元まで進めばいいのかが判断が出来ないのだ。

 

「とはいっても……っとぉ!? こんな乱雑に魔法バカスカ撃たれちゃ止めるも何もないじゃないか!!」

「止めねば滅亡、止め様としてもこの様子では命の危険……まさに前門の虎、後門の狼といった状態でありますな」

 

あいも変わらずそれぞれなのは達、フェイト達を抱えたまま降り注ぐ雷を避けつつ会話をするセナとアルフ。

このままでは、この状況を変える一手がいつまでも出てこず、迎える結末は……

 

「……ここで根性見せずしていつ見せるでありましょう」

 

故に、彼女は行動を起こした。

無言で抱えていたなのはとユーノをアルフに放り投げ、そのままハルバードを片手にプレシアの魔法の中へと突入したのだ。

 

「セナさん!?」

「いったい何を……!?」

 

--ちょっくら行って来るでありますよ。

 

まるで近所に散歩に行って来るといわんばかりの軽さで。

まるで行きつけの店に買い物に行くかの気負わなさで、セナは雷の雨の中へと突貫して行った。

なのはがとめる暇もあったものではない。

なにが起こったのか分からず唖然としたなのはが正気に返り、セナへ向かって腕を伸ばしたときには……

 

既にセナは雷を避けつつじりじりとプレシアへと迫っていた。

 

「……いやさ、さっきまで散々打つ手無しの大ピンチってやり取りしておきながら、この光景はないわー。さすがのアルフさんも呆れるわー」

「まぁ、うん、セナさんだしこうなると思ってたの。セナさんは昔っからシリアスが続けられない症候群だし……でも、結構ぎりぎりなのかな?」

「あれで?」

 

なのはの言葉に、アルフに抱えられたフェイトがなのはの言葉にそう返す。

傍から見れば、あの雷の雨の中を、遅いながらも結構早めのペースで進んでいるのだが。

 

「余裕だったらもうセナさんあのプレシアさん鎮圧してますし?」

「確かに、セナさんにしては時間かけすぎだね」

 

なのはの言葉にユーノが続く。

哀れ、ユーノもすっかり染まってしまったようだ。

そんなやり取りが外野で行われている間にも、セナは突き進みやがてプレシアの元へとッたどり着く。

そして、手にしたハルバードの柄でのフルスイングでプレシアを昏倒させようとしたのか、思いっきりハルバードを振りかぶったときだった。

 

……ついに、ジュエルシードが限界を迎えた。

 




シリアスが長続きしないのはセナさんのというより、筆者の病気。
シリアスを長く書いてるとどんどん深みにはまって、やがて何故かシリアス展開が鬱展開へと変わって、結果筆者の胃が限界を迎えるという方程式。
鬱展開、読むのは大丈夫なんですけどね、自分が書くと何故か耐えられない。

とまぁ、それはともかく、ついにここまで来た!
次からオリジナル展開、はっじまーるよー!!

……何度も言ってる事ですが、オリジナル展開が受け入れられるかほんとに不安だったり。

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