魔法少女リリカルなのは これがメイドの歩む道 作:クラッチペダル
と言うわけでほぼ一ヶ月ぶりの更新でございます。
時の庭園内にある居住区画。
そこから庭園の動力区画、研究区画など、あらゆる区画へといけるためにこの区画には特に厳重な警備が敷かれていた。
具体的には傀儡兵が他の場所より数多く配置されている。
そんな数多く配置されている傀儡兵のうち、数体がセンサーに異常を感知する。
それは外に配置されている傀儡兵の反応が次々と消滅しているという物だ。
それも居住区画に向かってまっすぐに。
傀儡兵はすぐさま通信リンクでこの事態を伝達。
その情報を受け取った傀儡兵は一様にある場所へと向かう。
それは居住区画の入り口。
居住区画に入るためには誰しもここを通らねばならず、傀儡兵を次々と破壊している存在も、この入り口を通るしかないはずだ。
現に、外に配置された傀儡兵の反応消滅はまっすぐこの入り口へ続いている。
そして、ついに入り口前に配置された傀儡兵の反応が消失した。
あとは入り口を開けるであろう存在を待ち構えるのみ。
下手人が近づいたためか、センサーに新たな反応が出る。
数は五人。
そのどれもが入り口の前に立ち止まっている。
そのうちの一人が、何故か入り口から離れた。
それに続き、残りの四人もその反応についていく。
傀儡兵の制御AIは混乱する。
なぜ、奴等は入り口を離れたのか、と。
そして、入り口からやや離れた地点、丁度傀儡兵の集団の横っ腹に当たる場所の壁が破壊された。
そこから飛び込んできたのは一人の人間。
その人間を視覚センサーに捕らえる為に、破壊された壁があるほうへ頭を向けると……
その視界には、自分にハルバードの先端にあるニードルを向け、まっすぐに突っ込んでくる一人の人間。
その直後、傀儡兵の視界は閉ざされた。
※ ※ ※
「はっ、馬鹿正直にお邪魔しますと言うとでも? こちとら優雅なお茶会に誘われて来たわけではないでありますよ?」
ハルバードの先端に刺さった傀儡兵の頭部をそのままに、セナは頭がもがれ地面でもがくように動いている傀儡兵の胴体を踏みつける。
自らの身長の倍の長さを有するハルバードを軽く振るい、先端に突き刺さった傀儡兵の頭部を放り投げると、セナは踏みつけていた傀儡兵を踏み台に、高く飛び上がり、傀儡兵の群れの中へと飛び込んでいった。
「なんだか最近台詞が少ないような気がしてたでありますからな……ここが目立ちどき!!」
気合を入れている理由がいささかおかしかった。
しかし気合を入れる理由がおかしくとも入れている気合は本物。
傀儡兵の群れの真っ只中に着地したセナはハルバードをしっかりと握ったまま、まるで独楽のように回転し始める。
振り回されているハルバードは、次々と傀儡兵を切り裂くというより砕いていく。
しばらく独楽のように回転していたセナは、ある程度傀儡兵を破壊すると一旦回転を停止、慣性の法則により未だに横方向へ向かいそうなハルバードを腕力で強引に上に振り上げ、それどころか放り投げる。
放り投げられたハルバードは、空中で数回転の後落下、着地地点に居た傀儡兵数体を下敷きにし、破壊した。
なお、ハルバードを放り投げている間、セナは手近に居た傀儡兵が持つロングソードを奪っており、それを振り回して傀儡兵を破壊していた。
もっとも、周りに居た傀儡兵をあらかた破壊し尽くすと同時にポイ捨てされてしまったが。
どうやら余り手になじまなかったようだ。
「……僕達が来た意味があるのかはなはだ疑問に思う光景だな」
そんなセナの様子を見て、クロノがポツリともらす。
魔法で戦うことが当たり前だったクロノにとって、魔法を使わないで戦っているセナは最早常識の範疇にない存在なのだ。
だからこそ、余計クロノは疑問に思う。
果たして、セナが発しているあの魔力は何なのだろうか、と。
「入り口獲ったどー!!」
その疑問の答えを手繰り寄せる時間を、疑問の原因は与えてくれはしなかったが。
※ ※ ※
「ここから二手に分かれる」
目の前に上に上るための階段と下に下るための階段がある地点で、クロノは不意にそう言い放った。
クロノの発言に、その場の全員がクロノの方を向く。
全員が自身の方へ向いたことを確認すると、クロノは言葉を続ける。
「プレシアの身柄確保のチームと、時の庭園の駆動炉を封印するチームに分かれるんだ」
「クロノ君質問。どうして駆動炉を封印するの?」
「現在、プレシアはジュエルシードだけじゃなく、時の庭園の駆動炉であるロストロギアも暴走させて次元振を起こしている。プレシアの身柄をすんなり確保できるならそれに越したことはないが、恐らくそうは行かないだろう。ならば、少しでも次元振の被害を抑える為に、駆動炉を封印したい」
「して、どのようなチーム分けに?」
セナの言葉に、クロノが言葉に間をあける。
そしてしばらくの後、口を開いた。
「……僕一人がプレシアの元へ向かう。皆は駆動炉へ」
「な!? あんた一人でかい!?」
「それが僕の仕事だからね。それに……個人的にプレシアに言いたいこともある」
「だったら私もそっちにつくよ。言っただろう? あの糞婆をこの手でぶん殴りたいって!」
「だが、駆動炉方面には恐らく多数の傀儡兵が……」
「連れてってやって欲しいでありますよ」
アルフの言葉に、クロノが反論しようとする、
しかし、そんなクロノの言葉を遮り、セナがそう言い出した。
「プレシアはかなり強いのでありましょう? なら戦力は少しでも多いほうがいい。その戦力が士気に満ち溢れているなら、なおさらであります。……此方は我々にお任せを。必ずや封印して見せるであります」
「クロノ君、確かに仕事なのかもしれないけど、一人でなんて無茶しちゃ駄目だよ」
「そうだよ。君は管理局員で僕達はあくまで協力者かもしれない。でも、僕達は今、同じ目的に向かって協力してるんだ。一人でなんて無茶はしないでくれよ」
セナの言葉に続き、なのはとユーノもクロノを説得する。
なのは達の言葉に、クロノはしばらく黙りこくる。
「……もしかしたら、駆動炉側に敵が集中しているかもしれない……それでもかい?」
「大丈夫! だってセナさんにユーノ君がいるもん! 三人そろえば無敵だよ!」
「その代わり、そちらは二人ががりであります。しっかり身柄確保して、あのやつれた面ぶん殴ってやるでありますよ」
「任せときな!」
場の空気は、既にクロノ&アルフチームと、なのは&セナ&ユーノチームに分かれるということで固まりつつある。
その様子が手に取るように分かったクロノは深いため息を一つつく。
「……分かった。それじゃあアルフ、一緒に来てくれ」
「あいよ」
クロノ達の背中を見送ると、なのは達も行動を開始する。
目指すは時の庭園の駆動炉。
ハルバードをしっかりと握ったセナを先頭に、彼女たちも目的地へと進んでいった。
※ ※ ※
アースラのとある一室。
その部屋に備え付けられていたベッドの上に横たえられていたフェイトの瞳光が戻る。
しかし、光が戻ろうとその表情は虚ろ。
まるで自分という物を支える柱がぽっきりと折れてしまったかのよう。
(あれ……? 私、何でこんなところで寝てたんだろう)
自分が今おかれている境遇にいたるまでの記憶がすっぽりと抜け落ちたようになってしまっているフェイトは、その抜け落ちた記憶を必死に探し出そうとする。
その努力が実ってか、徐々にだがその抜け落ちた記憶は浮かび上がってくる。
ただし、努力して取り戻した記憶が全て思い出すべき物とは限らない。
中にはそのまま忘れ去ってしまっていたほうが良いであろう記憶と言う物も存在する。
……フェイトが必死に思い出した記憶は、思い出すべきではない記憶だった。
(そっか……私、母さんに……)
何故自分がここにいるのか、その全てを思い出したフェイトは、しかし涙は流さなかった。
悲しいという思いはある。
だというのに、まるで枯れ果ててしまったかのように涙はあふれ出ることはなかった。
自分の頬を流れる水がない事を感じ取ったフェイトは、しかしそれに心を乱されることなく、ただ一つの事を思っている。
--ああ、自分は壊れたんだ。
母に言われた人形と言う言葉。
なるほど正しかったわけだ、とまるで他人事のようにフェイトは思う。
人形は、いつかぼろぼろに壊れる
どれほど大事に扱われていようと、それは避けようのない確定した未来。
なら、持ち主に捨てられた人形は、いったいどれほどの速度で壊れ、朽ち果てていくのだろうか。
そこまで考え、もうどうでもいいやとフェイトは思考を放棄する。
ここで何かを考えたところで、どうせ……
『フェイトちゃんが私と戦ってたのは……戦ってでもジュエルシードを集めてたのは、本当にあの人の命令だってだけだったの?』
いい加減自分のあらゆる思考がどうでもいい、唾棄すべき物に思え、ならばいっそと思考を閉じようとしたその時、フェイトの耳にその場にいないはずの少女の声が響いた。
「……私がジュエルシードを集めていた理由……?」
そんな事決まっている。
母さんに命令されたからだ。
だから、自分は……
そこではたと思う。
ほんとにそれだけだったか?
果たして自分は命令されたからと言うだけであれほど危険な事をしていたのか?
フェイトはその自問に対し、違う、と明確な答えを返していた。
ならば、何故自分はジュエルシードを集めていたのか?
「私は……母さんに……」
--認めて欲しかった……
母親に褒めて欲しかった。
母親に昔のような笑顔を取り戻して欲しかった。
その思いがあったから……フェイト・テスタロッサという『人間』は今まで歩き続けてきたのだ。
戦いのきっかけは、母の命令だったとしても、戦いを続けたのは……間違いなく自分の意思。
「忘れてた……私が戦ってた理由」
立て続けに起こったショッキングな出来事に忘れていたが、しかしフェイトはそれを思い出した。
他でもない、今まで戦ってきた相手の言葉で。
「ああそうだね。私は人形なんかじゃない……この思いを、戦う理由を思い出してしまったら、私は……人形でなんかいられない……っ!」
未だに気だるさが残る上半身を強引に起こす。
まるで私に見せるように明かりを灯すモニターには、プレシアを目指すクロノとアルフ。
そして駆動炉を目指しているなのはとセナとユーノ。
「アルフ……」
もうアルフは動いていたのだ。
他でもない、自分のために、立ち止まっていた自分のために。
ならば、主である自分が立ち止まっていていいはずがない。
立ち止まっていてら……自慢の使い魔に顔向けできない!
ベッドの脇に備え付けられた台の上に置かれている、ぼろぼろになってしまっているバルディッシュをそっと持ち上げる。
恐らく、プレシアの攻撃に当たった際の衝撃と、その時にオートガードを自身への負荷を考えずに発動させたからだろう。
そして……自分は今更それに気が付いた。
「ごめんね、バルディッシュ。バルディッシュがこんなになるまで無茶して私を守ってくれたのに、なのに私は……」
『Don't worry about it.』
「バルディシュ……」
フェイトの謝罪に答えたバルディッシュは待機状態から起動状態へとその姿を変える。
しかし、あらゆる箇所にひびが入り、少しでも動かそうものならたちどころにバラバラに崩れ去ってしまいそうなそれは、今すぐにでも機能を停止させてしまいそうな儚さがある。
フェイトはそんな相棒を見て、しかし今までにない頼もしさを感じている。
確かに見た目の損傷は酷いが、幸いコアにそれほど深刻な損傷はなく、ボディの損傷は基礎構造まで達しているわけではない。
魔力を流し自己修復をさせればなんら問題はない程度だ。
だが、そうではない。
これほどの状態になりながら、その状態に今の今まで気づかなかった自分のために、バルディッシュは今まさにフェイトに誓っているのだ。
--これからも、貴方の刃として、杖として共に。
インテリジェントデバイスとして対話可能な高度なAIを持ちながら、しかし基本的に無口なこのAIは、言葉ではなく行動で、フェイトと共にあらんことを誓っているのだ。
その様が、フェイトには頼もしく見えた。
フェイトがバリアジャケットを呼び出し、装着する。
その瞳は、まっすぐ前を向いている。
「行こう、バルディッシュ……!」
『Yes, sir.』
フェイトから送られる魔力により、バルディッシュが金色の魔力光に包まれる。
そして全体が包まれてしばらくの後、金色の光は砕け散るように消え去り、光に包まれていたバルディッシュは先ほどの損傷などなかったといわんばかりにその黒い刃で光を反射した。
バルディッシュの修復が完了したことを見届けると、フェイトは足元に魔法陣を展開する。
そして、その姿が金色の光に包まれ、消えた。
未だに映し出されたままのモニターの中では、なのはが駆動炉であるロストロギアを封印している場面と、クロノとアルフにフェイトが転送魔法で合流している光景が映し出されていた。
もうちょっとなんだ……
あとちょっと話を投下すれば、そこからオリジナル展開なんだ……!
と言うわけで、次の話までがずれがあれどほぼ原作沿い。
その次からがオリジナル展開になる予定です。
今からオリジナル展開にどんな反応をされるかビクビクしてます。
それと、ふとセナさんをISの世界に放り込んだらどうなるかを脳内妄想してみた。
……少なくともISなくても一年の面子に負ける光景が思い浮かばない。