魔法少女リリカルなのは これがメイドの歩む道 作:クラッチペダル
それではどうぞ
「なんで、なんでこうなっちまうんだよぉ……」
じっと耳をふさぎ、その音が聞こえないように使用とする。
しかし、彼女のあまりに良すぎる耳はどんなに手でふさごうがいやおうなく彼女にその声を、音を聞かせてしまう。
……何かが風を切る音と、何かを打つ音。
そしてそれについで聞こえてくる自身の主の悲鳴を。
アルフは、ただ大きな扉に背中を預けたままうずくまり、耳に入り込んでくる音が早く止むように祈るしかなかった。
「フェイトは頑張ったじゃないか……五個も集めたじゃないか……! なのに、褒めるどころかこんな……なんでだよぉ……っ!」
音も悲鳴も止まない。
アルフはただただ耳をふさぐ手に力をこめた。
その祈りが通じたかは定かではないが、部屋の中から聞こえていた音が止む。
それに気づいたアルフは扉をぶち抜かん勢いで開く。
そんな彼女の視界に映ったのは、部屋の中でぐったりと気絶しているフェイトの姿。
「フェイトぉ!!」
慌てて駆け寄り、脈があるかを確認し、しっかりと脈があることにとりあえず安堵のため息をつく。
そしてアルフは、痣だらけにされたフェイトを胸にかき抱くと、部屋の奥へ鋭い視線を向ける。
もし視線で人が殺せるのなら、その視線は果たして何人の人間を殺すことが出来るであろうといわんばかりの、まさに獣の視線。
--こんな場所には一秒たりとも居たくない。
気絶している主を抱え、アルフは部屋を出る。
目指す先は主の部屋。
とにかく今は主を休ませなければ。
部屋にたどり着き、部屋に備え付けられているベッドにフェイトを優しくおろしたアルフは、痣だらけの身体に手当てをし始めた。
肌に浮かぶ痣は、時間が経過したせいか赤から青へと変色してしまっている。
透けるほど白い肌にあるその痣が、痛々しさを余計際立たせる。
アルフはあざに触れないように魔法による治療を施していく。
橙色の光がフェイトの身体を包み、少しずつ痣が薄くなっていく。
しばらく治療を続けていると、フェイトがうめき声を上げて目を開ける。
「あ、あるふ……」
「フェイト、大丈夫かい?」
「うん、だいじょうぶだよ」
フェイトはアルフを心配させまいと、笑顔を浮かべてアルフに答える。
痣だらけの身体のせいで、その笑顔さえ痛々しい。
そんなフェイトの姿に、思わずアルフは泣きそうになってしまう。
しかし、その涙をすんでの所で押さえ込む。
自分が泣いてどうする。
今泣きたいのは、自分じゃなくてフェイトなはずだ。
「ゴメン……ゴメンよ、フェイト……」
だから、アルフはただフェイトを抱きしめる。
彼女を傷つける全ての物から、自らの身を盾にしてでも守るといわんばかりに。
ただただ、フェイトを抱きしめた。
※ ※ ※
数日前の事を思い出しながら、アルフは眼下を見下ろす。
広がるのは青。
現在、彼女はフェイトと共に海上にいる。
理由は簡単だ。
この海の中に、ジュエルシードがある。
それも、いまだ見つかっていない複数個のジュエルシードが、恐らく眼下の海に眠っている。
「……フェイト、しつこいって思われるかもしれないけど、もうちょっと休んでからでも良かったんじゃないのかい?」
--あの鬼婆に打たれところも、まだ完全に治っちゃいないんだよ?
後半の言葉は、すんでの所で飲み込んだ。
恐らくそれを言ってもフェイトは首を縦に振ることはない。
自分がジュエルシードを集めれてないせいだから、もっと頑張らないと、と言ってまた無茶をするだろう。
そして、アルフはおかしいと思い始めている。
ジュエルシードのような危険物を、いくら自分がいるからと言って娘に回収させ、回収して来たらして来たでフェイトを打つということ。
その際、感謝の言葉、労いの言葉などは一切ないと言うことを。
……なぜ自分の主が、こんなに無茶しながらも頑張っている主が報われない?
「大丈夫だよ。それに、ジュエルシードをちょっとしか集めれてないから、もっと頑張らないと」
短い思考の中、アルフはその考えにいたる。
しかし、そんなアルフの考えなど知らないフェイトは、やはりアルフの予想通りの言葉を言い放つ。
「でも、向こうは管理局と協力してるんだよ? 無茶してたらフェイトが……」
「……だからだよ。だから早くジュエルシードを集めないといけない……母さんのために」
どうして、どうしてこの主はあのような仕打ちをする女の為にここまで無茶を出来るのか。
いくら考えたところで分かるはずがないし、そもそも理解したくもない。
……結局、アルフがすることは何時もとかわらない。
「だったら、ここはアルフさんに任せときな」
「アルフ? でも……」
「なぁに、どうせ私じゃ封印は出来ないから、封印はフェイト任せ。だったら少しでも消耗は抑えたほうが良いじゃないか」
彼女がすることは、この健気な主を守り、一緒に戦うことだけだ。
「……分かった。無茶しないでね」
「あいよ」
フェイトの言葉に、アルフは苦笑しながら答える。
--その台詞、私がフェイトに言いたい台詞なんだけどなぁ。
※ ※ ※
アースラのブリッジはあわただしさに包まれていた。
今まで捜索しても見つからなかったジュエルシードが、ついに見つかったのだ。
もっとも、捜索の末発見と言う最良の結果ではなく、発動した際の反応を捉えたというあまり宜しくない結果だが。
反応があった地点は海。
市街地などの陸地を探しても見つからなかったため、そろそろ海上にまで探索の手を広げようかと誰しもが思っていた矢先の事だった。
アースラ内に鳴り響く警報にせかされたかのように、なのは達もブリッジへと駆け込んでくる。
「すみません! 遅くなりました!!」
「いや、問題ないさ。それよりもエイミィ、映像を!!」
「おっけー!」
クロノの指示に、エイミィがコンソールを操作し、映像を出す。
空中に現れたモニターに映る映像には、六本の竜巻とそれに翻弄されるフェイトとアルフの姿があった。
「フェイトちゃん!」
「恐らく強制的に魔力を流し込んで発動させたんだろう……無茶苦茶をする」
「それに……いつになく暴走体の動きが激しいでありますな。あれで一個のジュエルシードが?」
「いいえ、あれは六つのジュエルシードにより生み出されたものです。恐らくジュエルシードの共鳴現象……六つのジュエルシードが互いに互いの力を強め合っています」
「つまり六個のジュエルシードを一度に相手取っている、と。これはまた重ね重ね無茶しいでありますな」
今まで何度か戦っているため、なのはもセナもユーノも彼女達が優秀な魔導師であることは重々承知している。
が、だからと言って一度に六つのジュエルシードを相手取るというのは無茶がすぎるのではないか?
なのはとセナは互いに視線を合わせ、そして頷く。
そして次にセナはユーノへと視線を向ける。
--お嬢様をお願いするであります。
--分かりました。
ユーノもセナの言いたいことを理解したのか、セナの瞳をまっすぐ見つめ頷く。
そしてセナがリンディに向かって口を開いた。
「リンディ様、こちらは出させて貰うでありますよ」
「っ!? 何を言っているんだ! 今ここで出るよりあの魔導師が自滅するのを待って……」
「こちらとの契約で承認したのは他でもないリンディ様でありましょう? 『彼女が関わっていたならば、こちらの判断で出させてもらう』と」
そう言い放つと、もう話すことは何もないと言わんばかりにクロノに背を向け、ブリッジに備え付けられている転送装置へと向かう。
もちろんなのはとユーノも。
「お嬢様、誠に悔しいでありますが、私空飛べないものでありまして、お嬢様とユーノ様の二人で行って頂きます……お気をつけて」
「うん、任せて!」
「ユーノ様、お嬢様の事をお任せするであります」
「分かりました」
二人に激励の言葉をかけ、セナは転送装置から離れる。
そしてセナがリンディを見やる。
その様子にため息を付いたリンディはエイミィに二人を転送するように命じた。
二人が徐々に光に包まれ、やがて消える。
モニターに視線を移すと、そこには先ほど転送されたなのはとユーノが居た。
「……良かったんですか? あのまま彼女を放置していたほうが……」
「いいのよ。それに、確かに協力して貰うにあたってあの条件を我々はのんだ。ご丁寧に契約書付きで。それを反故にするということは、つまり管理局の組織としてのあり方に疑問が生じてしまう……それに、犯罪者といえど個人的にはあんな幼い子を見捨てるということもしたくなかったしね。あなたもそうでしょ? クロノ」
「それは……」
図星であった。
しかし、それはあくまで個人クロノ・ハラオウンの思い。
時空管理局執務官クロノ・ハラオウンとしてはその思いは容認できない。
そして、現在彼は時空管理局執務官クロノ・ハラオウンとしてこの場にいる。
それ故のセナ達への言葉だった。
「クロノ執務官、いつでも出れるように準備はしておいておいてください。彼女達でことが済ませれればそれでよし、そうでなければ……」
「分かっています、提督」
クロノが、制服のポケットから一枚のカードを取り出す。
それをかるく宙に放り投げるとクロノの服装がバリアジャケットに変わり、カードが一本の杖になる。
それを見届けたリンディは、再びモニターへと視線を戻す。
モニターには、なのはとフェイトが協力してジュエルシードを封印しているという光景が広がっていた。
※ ※ ※
「大丈夫? フェイトちゃん」
「大丈夫」
先ほどまでジュエルシードにより渦巻きが発生し、荒れ狂っていた海は今は穏やかさを取り戻していた。
彼女たちの付近には封印された六個のジュエルシード。
「うわぁ……ほんとに六個もある……今まで私たちが集めたのが八個だから……あと何個だろ」
「私たちが七個回収してる。だからここにある六個で全部だ」
「そっか……」
しばらく、互いに無言になる。
そして……
「バルディッシュ!!」
「レイジングハート!!」
フェイトの声と共に振るわれたバルディッシュを、なのははレイジングハートで受け止める。
「このジュエルシードは渡さない……絶対に!」
「うーん、半分こじゃ……だめ?」
「駄目」
フェイトの返答に、「やっぱり?」と落胆したなのはは、しかしちゃっかりとディバインシューターをフェイトへと打ち込む。
それは回避されたが、その間になのははフェイトから距離をとることに成功した。
「出来ればこっちは戦わないで解決したいなぁって思ってるんだけど、話し合いじゃほんとにだめ?」
「話し合う意味はないよ。私はジュエルシードを集めるって決めてる。あなたも集めるって決めてる。そして私たちは敵同士だ」
「それはそうなんだけど……」
「だったら、やっぱり話し合う意味なんてない」
そこまで言って、フェイトはバルディッシュを変形させ、鎌状の魔力刃を発生させる。
それを見たなのはも、周囲に魔力スフィアを発生させる。
それに伴い、アルフとユーノも互いににらみ合う。
しかし、二組がぶつかり合う前に、周りの空気が一変したことにより、それぞれが構えを解いて空を見上げた。
先ほどまで晴れ渡っていた空が、いつの間にか黒雲に包まれていた。
明らかに自然現象ではない。
「何……この黒い雲……」
「まさか、そんな……母さん!?」
フェイトのその言葉を引鉄に、黒雲が紫電を帯び、それがある一点に集中する。
その一点とは……フェイトの頭上。
そしてある程度収束すると、その地点からフェイトに向かって紫の雷が降り注いだ。
「あああああああああああああああああああ!!!!」
「フェイトちゃーーーーん!!」
突然の事態に、なのははただフェイトの名を叫ぶことしか出来ず、アルフとユーノも呆然とその光景を見るしかない。
しかし、アルフはしばらくの後、空を忌々しげに睨みつけ、叫んだ。
「……っ! プレシアァァァァァァァァァァァァァ!!!」
やがて、雷がやみ、先ほどまで雷にその身を晒していたフェイトはゆっくりと海面に向かって落下していく。
それに気が付いたなのはが慌てて追いかけるが、動くまでが遅すぎた。
なのはも必死に追いかけるが、このままではフェイトが海面に激突するほうが早い。
いくらバリアジャケットに守られているからと言って、高所から海面に叩きつけられた際の衝撃は大きく、そもそも先ほどの雷でフェイトのバリアジャケットは最早ぼろぼろ。
あの状態では果たしてバリアジャケットとしての機能がしっかりと生きているのかは怪しい。
故になのはは追いかける。
しかし、届かない。
もう駄目かとなのはも内心諦めかけたとき。
突如現れたクロノがフェイトを抱きかかえた。
「クロノ君!?」
「何とか間に合った……いや、別な意味では間に合わなかったか……」
※ ※ ※
「……う、うおぉぉぉ! あっぶねぇ! これエイミィさんのファインプレイでしょ!? 『あの子が落ちてくるであろう地点にクロノ君を転送させる』ために、あのタイミングで転送地点変更だなんて普通間に合わなかったかも! エイミィさんパネェ!!」
「確かに、さすがねエイミィ」
リンディは大げさな自画自賛をするエイミィにそう声をかけると、モニターを見やる。
そこにはクロノがぎりぎりでフェイトを救った場面が映し出されている。
「しかし、あの子も無茶するわねぇ。もう既に転送地点決まってたのに、『あの子が落ちていくのを見たら』すぐさま転送地点を変更しろだなんて……」
正直なところ、この急な転送地点の変更がなければクロノはもっと早く転送できていたのだ。
ただし、その時はフェイトが海面に叩きつけられていただろうが。
反応を見るに、どうやら六個のジュエルシードは全て何者かに回収されてしまったようだ。
転送地点の変更をしなければ、そのうちの何個かは管理局で回収できていただろう。
管理局としては、明らかな失態だ。
だが、リンディはクロノを責める気にはならなかった。
普段は執務官たれと行動し、先ほども執務官としてセナの言葉に反論していた彼が、「そのようなもの」をかなぐり捨て、一人の少女を救う為に動いた。
リンディ・ハラオウン個人としては、それがとても嬉しかった。
はい、巻いて巻いてー。
考えたんです。
このままアニメの通りの流れだと、このあとアルフさん返り討ちの話になり、その後もいろいろ続いてようやく庭園突入になります。
……そこまで流れに沿ってたら話長くならね?
ただでさえ、現時点で既に長いというのに。
と言うわけで、アルフさん返り討ちの話カット!
海上の決戦の話カット!!
つまりもうフェイトさんとアルフさん捕まっちゃったよ!
あ、でも海上の決戦は別な形でねじ込もうかとは思ってます。
映画コミカライズ版みたいに、事件解決後にでも。
と言うわけで、次から庭園へ凸させます。
ふざけるなと思われるかもしれませんが、なにとぞご了承ください。