魔法少女リリカルなのは これがメイドの歩む道 作:クラッチペダル
「……と、言うわけで本日より民間協力者として今回の事件に協力してくれる事となった高町なのはさん、セナさん、ユーノ・スクライアさんです」
「よろしくお願いします!」
リンディの紹介に、なのはが元気のいい声を上げてお辞儀をする。
セナは微笑みながらも無言でお辞儀し、ユーノも無言でお辞儀をした。
そんな彼らをアースラのクルーに紹介するリンディの表情は……お世辞にもいいとは言えない。
それどころか少々やつれている風にも見受けられる。
リンディの隣にいるクロノもげっそりとやつれきってしまっている。
そんな二人の心は、今までにないほど一つとなっていた。
--もう絶対セナを相手に交渉なんかしない!
セナがリンディ達に交渉したのは自分達を一時的な協力者として迎え入れることは出来ないのかと言うことと、その際の自分達の待遇についてだ。
一時的に民間協力者として迎え入れるという事についてはむしろ大賛成だ。
なにせ自分達が来るまでにジュエルシードをいくつか回収している実績があるのだ。
その実力はもちろんの事、危険な事に立ち向かった度胸も並ではないだろう。
情けない話だが、このような危険物に関わる事件という物は人手がいくらあっても決して困ることはない。
連れてこれる人員に限界がある以上、現地の協力者はまさに喉から手が出るほど、といった所。
ここまでは良かった。
が、その次の話、彼女達の協力中の待遇の話になったとたん、セナとリンディの間で舌戦が開始された。
具体的に言うと、基本管理局側の指示には従うが、ある条件下では自分達の自由意志で動かせてもらうつもりだと言う事いついてだ。
管理局側としては、協力者も一時的に局員扱いとし、命令系統を変える事無く行動してもらったほうがありがたい。
そのほうが混乱も少ないからだ。
しかし、セナ達はそんな管理局の考えなど知ったことかとばかりにこう言い放ったのだ。
「あの金髪の魔導師が関わっていた場合においてのみ、自分達の勝手にやらせてもらう」
たまったものではない。
当然、その事に付いてリンディも反論し、なんとかその条件を呑まなくとも協力してもらえるように尽力した。
だが、セナが折れるはずも無し。
それどころか管理局が来るまでに何個かジュエルシードを封印した実績を盾に、逆にリンディ達を折ることに成功したのだった。
ここで重要なのは、あくまで相手を責めることはせず、自分達の実績を評価して欲しいということを前面に押し出すことである。
相手に評価すべき実績があることは事実であり、そしてまた自分達が遅れたことも事実。
その二つの事実に板ばさみにされ、しかもその状況を覆す手段がなければ、人は強気には出られない。
後に、セナは語る。
「自覚している失態を責められることより恐ろしいのは、自覚している失態を責められないことでありますよ」
人間、責められているうちが華ということである。
※ ※ ※
現場の責任者であるリンディがすべきことはまだ残っている。
ある意味、セナとの交渉よりもこちらの方が骨が折れるかもしれないと考えると、どうにも憂鬱なため息を抑えきれないリンディだった。
そんなリンディが現在いるのはある一軒の家の前。
広めの庭をもち、その一角にはなにあるのはなのはいわく道場……ぶっちゃけて言えば高町家である。
なぜリンディが居るかと言えば、なのは達が自分たちに協力する事になったため、高町家の面々と顔合わせするためである。
別に魔法の事について説明する気はないが、娘が知らない人と共にいるのはさすがに問題だ。
そこで、高町家と顔見知りになっておき、いざと言う時に問題がなるべく起こらないようにしておくのだ。
しかしこれも非常に難しい。
先ほど言ったように、魔法の事について説明する気はリンディにはない。
というよりも、説明できないといったほうが正しい。
魔法技術のない管理外世界に不用意に魔法技術を教えるべきではないからだ。
故に、彼女は一般人が聞いても違和感がないストーリーをでっち上げ、それを高町家の面々に押し通さねばならないのだ。
ここまで言って気づいた方もいるだろうが、リンディは魔法と言う存在が高町家の中ですでに知られていることを知らない。
そもそもなのははその事に思い至っていない為リンディに伝えておらず、セナは当初は思い至ったもののそれをもし知られていた場合、交渉の場においての自分達のウィークポイントとなってしまうため、黙っていよう黙っていようと考えているうちに忘れてしまっていた。
教えた張本人であるユーノはアースラに留守番だ。
リンディの表情が再び崩れるまで、あと数分。
※ ※ ※
高町家全員とリンディが話し合った結果、明日からなのは達をアースラに乗せることに決まった。
なお、しばらくアースラでジュエルシード事件に携わるため、学校はしばらくの間休学することとなった。
士郎と桃子としては学校には行って欲しいのだが、授業中にジュエルシードが発動しないとは限らないのだ。
実際、ジュエルシードはなのはが学校で授業中、よりにもよってなのはの学校で発動したという過去もある。
つまり授業中に学校を抜け出すことがあるかもしれないのだ。
それも一回二回で済むかは分からない。
登校はしてくるが授業中に頻繁に授業を抜け出す生徒と、元から休学手続きをとっているため学校を休んでいる生徒。
どっちが教師の印象が良いかは簡単な話だろう。
そして明日からに備えて既になのはも寝入ってしまった夜。
本来なら既にセナも寝ているはずの時間に、セナはテーブルを挟み、士郎と向かい合って話していた。
「しかし、本当に管理局に協力するんだな」
「ええ。好き勝手に動いてこちらも犯罪者扱いされたらたまったものではないでありますからな」
士郎の問いかけにセナはそう答える。
その間にも、セナは士郎の席に置かれているグラスに酒を注ぐ。
それを見届けた士郎はグラスに注がれた酒を一気に飲み干した。
普段それほど豪快に酒を飲まない士郎がここまで飲むというのは非常に珍しいことだ。
「……俺もなのはが自分で決めたのなら文句はないさ。けど心配でもあるんだよ。今日リンディさんに説明は受けたが、俺個人としては管理局は信じれない。俺達にとって未知の組織だからね」
「それに、大きな組織ゆえ、でありますか?」
「そうだ」
どうやら管理局へ協力するというなのは達の行動にあまり賛同できないようだ。
しかし本人達は既に決意を固めており、それに水をさすような真似はしたくない。
だが心配事は尽きぬ。
故に酒の力を借りる。
酒に酔っているから我が子の決意に水をさすような事を言うのだと他者に、なにより自分に言い訳をする。
士郎のらしくない飲みっぷりはそんな考えからきている。
「穿った見方かも知れないけど、組織と言う物は大きくなればなるほど、それを維持する為に無茶もする。警察とかの公的機関しかり、一般企業しかりね。その無茶になのはやセナが巻き込まれて欲しくないんだよ」
士郎の言葉を、セナは無言で聞く。
今は士郎になにか言葉をかけるべきタイミングではないと判断しているからだ。
そして、セナがそんな気遣いをしてくれていると気づいている士郎は、言葉にせずともその事に感謝し、胸の内の思いを吐き出す。
「何を言ってるんだ、って思うかい? でもね、俺は知ってる……いや、知ってしまったと言ったほうが正しいのかな? そういう誰かを踏み台にしてでも自らの利益のため、自らの保身のために何でもやらかす奴等がいると言うことを、俺は知ってしまったんだ……」
そう語る士郎の目は、遠くを見ている。
まるで、その視線の遥か先にある物を見ているかのように。
「なのはには、そんな奴等に巻き込まれないで欲しい。そんな下らないことに巻き込まれないで欲しいんだ。これは、俺の我侭なのか?」
「…………」
問われてもなお、セナは無言を貫く。
「リンディさん個人は、恐らく信頼できる。けど彼女も組織の一員だ。上からの言葉には逆らえない。それでもしなのはに何かあったら……そう思うと、どうしてもね」
「なるほど……」
士郎の言葉に、セナは悩む。
どうすれば彼を安心させれるのだろうか。
相手は組織、それも未知の組織。
並大抵の言葉では士郎を安心させるには足りない。
悩みに悩み、そして考え付いた言葉は……なんともまぁ自分らしい物だとセナ自身が思ってしまうような言葉だった。
「……でも、そんなに心配せずともいいでありますよ」
「何故?」
「私が守るであります」
セナの目が、まっすぐ士郎を見つめる。
その目に浮かぶのは、確固たる意思。
「何があろうと、私がお嬢様を守る。だから心配することはない。簡単な話でありましょう?」
「だが、相手は……っ!」
「誰が相手だろうと、関係ないであります」
そう、そんな事は彼女にとっては些細なことなのだ。
なぜなら……
「なぜなら、私はメイドでありますから」
相手が誰であろうと関係ない。何であろうとどうでもいい。
相手が強大であろうと知ったことではない。
なのはのためならば、高町家のためならば、彼女は道理さえも敵に回す。
そう彼女は誓っているのだ。
だが、そうだとしてもセナの言葉には実際に大丈夫であるという根拠はほとんどない。
あくまで自分で誓っただけであり、現実ではどうなるかは分かったものではないのだ。
だがしかし、彼女の言葉は信じられる。
何より今までの彼女の行動が、士郎を含めた高町家の面々にセナの言葉を信じさせるのだ。
ちなみに士郎がこう思ったとき、過去にアリサの誘拐に巻き込まれ、なのはまで誘拐されたと言う事件があり、その際セナが車を追いかけハリウッド映画よろしく車の天井にしがみ付いたまま誘拐犯についていき、一人で誘拐犯を警察に叩き込んだという事があったっけなぁと言うことを思い出し口に含んでいた酒を吹き出しかけたのは彼だけの秘密である。
なお、車を追いかける際にセナが呟いた言葉は、「ちょいとお嬢様助けてくる」だった。
閑話休題
ともかく、それくらい言った事は実行し、結果を残してしまうような存在なのだ。
信じない奴の方がむしろおかしいだろう。
「……だったら、セナ。今まで何度も言ってるけど、改めて言わせてもらうよ……娘を、なのはを頼む」
「承知しましたであります……とはいっても、やはり不安は尽きぬでありましょうし……」
そこまで言うと、セナは席を立つ。
いったい何事かと士郎が思っていると、セナはリビングの扉を開け放つ。
扉を開けると、そこには心配そうな顔をした桃子が居た。
「……夜はまだこれから。不安だろうがなんだろうが、伴侶に吐き出してしまうのもいいでありましょう? では、私はこれにて失礼するであります」
セナはそのまま桃子の脇を通って二階の自分の部屋へと向かっていった。
リビングに残ったのは、士郎と桃子の二人だけ。
「セナさんは結構はじめの方から気づいてたみたいね、私が盗み聞きしてたの」
「そうか……」
気づいてたのなら言ってくれても良いだろうに……
士郎はそう思いながらも、食器棚からグラスを一つ持ってきて、自分の隣の席に置いた。
「……今日は、いつも以上に酒が呑みたい気分なんだ……付き合ってくれないか?」
「ふふふ……酔っちゃったら士郎さん、何言っちゃうか分からないわね」
「まぁ、何を言っても所詮酔っ払いの戯言さ」
「そういうものかしら?」
「そういうものさ」
--だから、弱音みたいな戯言を言っても、いいだろう?
※ ※ ※
朝。
今日からなのはとセナはアースラに乗り込み、ジュエルシード事件の解決に協力することとなる。
既に準備は済んでいる。
後は玄関を出て合流場所の公園に向かうだけだ。
見送りに来た家族をその目に焼き付けるようにじっと見つめ、やがてなのはは口を開く。
「……それじゃあ、行って来ます!」
家族としては、いろいろ言いたいことはある。
けれど、そんなに悠長にしているわけにも行かない。
だから、高町家の面々はさまざまな思いをこの言葉に込めてなのは達を見送る。
「行ってらっしゃい!」
その言葉だけで十分だ。
なのはとセナが玄関を出て行く。
士郎達はその背中を余計な言葉なく見送った。
「……なのはとセナさん、大丈夫かなぁ」
「大丈夫さ」
美由希の言葉に、士郎はすぐさま返す。
「俺達の自慢の娘とそのメイドだ、きっと大丈夫さ」
だから、自分達は彼女達を見送ろう。
事件が終わって帰ってきた二人、もしくは二人と一匹に、「お帰り」と言ってあげるために。
※まだユーノが人間だということは、高町家には伝わっておりません。
つまりフェレット状態で帰ってきたらペット扱い。
人間状態で帰ってきたら誰だキサマッ! になります。ユーノェ……
しかし折り返し地点を通過するのに20話使うとか、さすがに時間かけすぎたような気が……
ちょっと展開巻きで行かんと無印で30話とか平然と行きそうです。
と言うわけで次はフェイトさんが海の上で無茶しいの話になります。
今回は勝手に飛び出しても怒られないよ! やったねなのはちゃん!!