魔法少女リリカルなのは これがメイドの歩む道   作:クラッチペダル

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今回、会話分が少々多めになっています。
その点にご注意を。


20 提督との会談

通路に、こつこつと靴が床にぶつかる音のみが響く。

先導しているクロノはどうにも居心地が悪そうな表情を隠そうともせず、なのははちらちらと隣を歩いている人物の様子を横目に見て、そしてユーノも居心地が悪いといった表情をし、おまけに顔を俯かせている。

そしてもう一人は……

 

「…………」

 

一見すればいつもどおりの表情。

しかし、見るものが見ればそれはいつもどおりとは程遠い表情だということに気が付くだろう。

まるで、今にも表情に表れてしまいそうな何かを必死に押さえつけるように、努めて表情を固めている。

そんな一行の様子を見て、クロノはまたもやため息を一つ。

 

--早く艦長室までたどり着けないものか。

 

普段歩きなれている艦長室への道。

いつもならそれほど距離があるように感じないが、今のクロノには艦長室への道がいつもの数倍長く難じられた。

しかし、いくら長く感じられたところで実際に距離が遠くなっているわけでもなし。

クロノの視界にようやく艦長室の扉が見えてきた。

その事にほっと安堵のため息をつき、何故か彼女たちを迎え入れてからため息の数がいつも以上に多くなっていることにふと気が付き、その事実に対してもため息をつくこととなる。

果たして、今日一日で彼は何回のため息をつくことになるのか。

それは現時点では神のみぞ知る。

 

「皆さんをお連れしました」

『ご苦労様クロノ執務官……なんだか妙にやつれてるわね? どうしたの?』

「いえ、お気になさらずに」

 

早速クロノは扉の脇に設置されているモニターで部屋の中にいる提督にセナ達を連れてきたことを報告する。

そのやり取りの後、扉からは電子音が響き渡った。

恐らくドアのロックを解除した音だろう。

 

「それでは、皆さんも入ってきてください」

「うん、わかったの」

「分かりました」

「…………」

 

なのはとユーノは返事をしたが、セナは相変わらず無言。

あぁ、またため息の回数が、などと思いながらもその様子にため息を付くクロノは、そのまま部屋の中へと足を踏み入れた。

それに続き、なのは達も部屋へと入る。

 

入った瞬間、岩に竹がぶつかる音が鳴った。

 

「……は?」

 

目の前の光景に、なのはは思わず間の抜けた声をあげ、セナも先ほどまでの様子なんのその、呆然と目の前に広がる光景を見つめる。

 

「ようこそ、アースラへ。私が時空管理局提督でこの船、アースラの艦長でもあるリンディ・ハラオウンです」

 

部屋の中に居たのは一人の女性。

アースラに来た際にクロノと投影式モニターで話していた女性だ。

が、今のところそれは正直どうでもいいのだ。

問題は部屋の中に居た彼女ではなく、部屋の内装なのだから。

 

部屋の大部分の床が高くなっており、その高くなった床には畳が敷かれている。

そして、畳の隅には鹿威しが我が物顔で鎮座し、先ほどから一定間隔おきにあの独特の音を鳴らしている。

おかしい。先ほどまで自分達はSF映画さながらの場所を歩いてきたというのに、なぜ目的地である艦長室がこう純和風を目指した内装なのか。

あまりにもアンバランス極まっている。

その様子に唖然とする二人に、リンディは小首をかしげながら問う。

 

「あら? こちらの文化に合わせた内装にしてみたのだけれど……おかしいかしら?」

「い、いや、内装はおかしくはないでありますが、先ほどまで歩いてきた光景を比べるとおかしいと評価するしかないでありますよ……」

 

さすがの光景に、セナも突っ込みを入れるために復帰。

そんなセナに、「まぁまぁ、あがって座ってくださいな」と暢気に招くリンディ。

この時点で、セナは思う。

 

--この人、いろんな意味で只者じゃない。と

 

主に肝の据わり方とか、その他もろもろが。

 

が、確かに部屋の入り口で突っ立っているわけにも行かないため、靴を脱ぎ、畳が敷かれた床に上がる。

そしてこの部屋の中にいる人が全て座ったことを確認し、リンディは改めて口を開いた。

 

「改めまして、艦長のリンディ・ハラオウンです」

「これはこれはご丁寧に。セナと申すであります。こちらが私の主の高町なのは様、その隣がユーノ・スクライア様であります」

「えっと、高町なのはです。よろしくお願いします」

「ユーノ・スクライアです」

 

セナに紹介され、なのはは緊張でやや身体を固くしながら、ユーノはごく自然体でお辞儀をする。

その様子を、リンディは微笑ましい物を見たといわんばかりの表情で見つめる。

 

「こちらこそよろしくね? ……さて、早速本題に入ります。ユーノさん、我々はこの管理外世界で感知された次元振の調査のために来ました。なにか心当たりはありますか?」

「恐らく、ジュエルシードが原因だと思います……と言うより、それしか考えられません」

「そういえば君は遺失物捜索の名目でこの世界に来ていたようだが、その遺失物と言うのは、ジュエルシードの事か?」

「はい」

 

そこからユーノがリンディ達に語ったことは、初めの頃なのは達に説明した事をほぼ同じだった。

その説明を聞き、リンディはしばらく考え込むように俯き、やがて顔を上げると同時に口を開いた。

 

「なるほど。自分が発掘してしまったから、責任をとる為に……まだ幼いのに、その考え方は立派だわ」

「だが同時に無謀でもある。一歩間違えばとんでもない事になっていたかもしれないんだ。それは分かっているのか?」

「それは……はい……」

 

リンディの言葉に続き、クロノはユーノを責めるような言葉を発する。

その言葉を聞き、ユーノは俯き、なのはが若干ムッとした表情をする。

それをみたセナは間をとりなすように口を開いた。

ここでこの管理局相手に苦言を呈すことは簡単だ。

だがしかし、苦言を呈したから何かこちらに利点があるかといわれれば明らかに否。

ただ単に互いの空気が劣悪になり、話がまともに進まなくなるだけである。

何個もジュエルシード発動した後にのこのこやってきた癖に何を言っているんだとはセナも思うが、そこはじっと飲み込む。

ここは情報交換の場なのだから。

 

「ま、まぁまぁ、そうきつい事はおっしゃらずに。ユーノ様が来て下さったから、今まで何度か発動したジュエルシードを封印できたわけでありますし」

「だが、魔法技術のない世界で現地人に魔法をみられ、それだけでなく現地人であるあなた方を巻き込んでしまっている。これはかなり大きな問題なんです」

「巻き込まれた? ノンノン、それは違うであります。我々は助けられたのでありますよ、ユーノ様に」

「助けられた?」

「それはどういう?」

 

クロノの言葉に、セナはそう反論する。

セナの言葉に、クロノもリンディも疑問の声を投げかける。

その様子を見たセナは、二人が針にかかったことを確認するとスラスラと口を開く。

 

「まぁご存知かと思われますが、ジュエルシードは既に何個か発動してるでありましょう? 運の悪いことに、私たちはその発動したジュエルシードが生み出した暴走体に襲われたのでありますよ。当然そのときはジュエルシードの存在なぞ知らぬ一般人でしたし、そんな魔法技術で生み出された化け物に対抗できるわけもなかったでありますよ」

(……セナさん、思いっきり殴ったり蹴飛ばしたりして対抗できてたの)

 

セナの言葉になのはが思わず心の中でそう呟く。

が、口には出さない。

いくらなのはでもそれを今口にすれば場が混乱するということぐらい分かるのだから。

 

「で、これまでかと言うときに現れたのがユーノ様。ユーノ様は襲われている私たちを助ける為に戦ったであります。執務官殿でしたか? が言ったように、魔法技術が露呈し、さらには私達を巻き込んだ為に問題になるかも知れないと言うことを分かっていながら、そう、我々を助ける為に!」

 

セナの言葉に、徐々に力が篭っていく。

その様子に、リンディもクロノもじっとセナの話を聞いている。

その様子を見て、セナは思わず笑みを浮かべる。

 

確かに、最初ユーノはなのはやセナを巻き込んでしまっている。

しかし自分たちはその後は自らの意思でユーノに協力しているのだ。

ユーノを見捨てても良かったはずなのに、他でもない、自分達の安寧のために。

しかし、今来たばかりの管理局はどうだろう。

確かにセナ達がユーノに協力をしているということは分かる。

ではこのような状態になった経緯は、理由は分かるか?

答えは否である。

そして先ほどのユーノの説明。

その際、なのはやセナが自分達の意思で協力してくれたと言う事を彼は伝えていない。

恐らくそれはユーノの罪悪感からだろうが、それゆえに管理局の面々はこう思う。

 

ユーノがなのはとセナを巻き込んでこの状況になっている、と。

 

きっかけが巻き込まれたという事実なのは確かだが、それはあくまできっかけ。

その後は自分達の意思でユーノと協力して戦ってきたなのは達にとって、その評価ははなはだ不愉快だ。

だからこそ、先ほどなのははクロノの物言いに不愉快な表情を隠そうとしなかった。

だからと言ってあそこで苦言を呈してもどうしようもない。

 

ならばどうするか?

嘘とわからない嘘は嘘と言わない。

ということで今のところ下がってしまった管理局のユーノに対する評価を少しでも上げるような、そんな都合のいいようなストーリーを向こうに伝えてやればいい。

どうせ向こうにその真実を確認する術はないのだから。

 

「そして事がすんだ後、我々はユーノ様に当然説明を求めたであります、そうして聞くところによるとなんとまぁ危険な物が降って来たわけというわけでありますよ。そのまま放っておけば私たちの街が壊滅してしまうかも知れぬ危険物。それを聞いた私の主は自ら協力することを提案し、そして今に至るわけであります。決してユーノ様に巻き込まれ、流されるままここまで来たわけではないことをまずは頭に止めておいて欲しいであります。だというのにユーノ様は未だに私達を勝手に巻き込んだと思い自虐してるでありますよ」

「そうですか……」

 

そこまで語ったセナをリンディはいぶかしげな目で見つめる。

その言葉に嘘はないかをしっかりと判断する為に。

そんな視線を受けてもセナはまったく動じない。

かといって不必要に胸を張ったりもしない。

本当の事を言っているのだから気負うことは何もないといわんばかりに、彼女は自然体だ。

よくよく考えれば穴だらけもいいところのストーリー。

しかし彼女の態度がその穴を一時的に見えなくする。

彼女がこの場で付いた堂々とした嘘は、この場においては真実となった。

 

「……なのはさんでしたか? 本当ですか?」

「はい」

 

即答。

そんななのはをもちろんリンディは見つめるが、彼女は演技でもなんでもなく、本当に自分の意思で協力したと思っているため、これまた自然体。

それを見て、リンディはため息を一つ。

 

「……まぁ、こちらも初動が遅れて今まで来れなかった事も責められるべき事でしょう。そしてその間被害を最小限に食い止めたことは評価すべきね。きつい言い方をしてごめんなさいね? ユーノさん。けど、それくらい危険なことだったって事を知ってほしかったの」

「あ、はい、それは分かってます」

 

今までの一連の流れについて来れず、ユーノは気の抜けたような返事をする。

その返事を聞いたリンディは、視線をセナへと戻す。

 

「分かりました。この件については状況も状況だったということで不問にします。ですが、これよりジュエルシードについては我々時空管理局が全て請け負います」

「「っ!?」」

 

その言葉に、なのはとセナが大きく反応した。

管理局が全てを請け負うということは、つまり……

 

「状況が状況だったとはいえ、現地の一般人がずっと事件にかかわっているということはやはり問題なの。かかわっているのが子供ならなおさら。思うことがあるのは分かるけど、これからは魔法の事とかを忘れて普通の生活を送ってもらう……」

「嫌です」

 

きっぱりと、幼いながらも鋭い声がリンディの言葉を遮る。

声の主は……なのは。

 

「……なのはさん、気持ちは分かりますが、それでも」

「別にジュエルシードの事を皆さんがやってもいいです。それについては文句はないです。でも、魔法の事を忘れて、昔の普通の生活にもどれって言うことは納得できませんし、したくありません」

 

なのはは真っ直ぐリンディの目を見て、言葉を続ける。

 

「だって、魔法があることが当たり前なんです。朝早くにおきてユーノ君と魔法の訓練して、セナさんと魔法を交えた戦いの訓練して、授業中はレイジングハートに頼んでシミュレーションでイメージトレーニングして、夜は明日の訓練のためにゆっくり休んで……もうそれが当たり前なんです。それを忘れるなんて嫌です。と言うより無理です」

「なのは……」

 

その言葉を聞き届け、セナはため息一つ。

 

「そうでありますな……もう魔法は私たちの日常になってしまっているでありますし、今更忘れろなどとは到底無理な話でありますよ。ですから、ジュエルシードはそちらがやってくださっても結構であります。ですが……まぁこちらのこの街に住んでるでありますし、自衛のために行動する事位は許して欲しいでありますよ」

「それもすこし厳しいですね。先ほども言った通り、そもそも現地の民間人がかかわっているということ自体が問題ですから……」

「むぅ、融通きかねぇでありますな……」

 

はっきり言うと、なのはもセナも、今回の件から降りるつもりは毛頭ない。

先ほどから一般人民間人言われているが、時空管理局に所属しておらず、なおかつ今まで時空管理局の恩恵を受けたことがない彼女たちにとっては「何を仰っているのやら」といった所だ。

が、それを言った所で向こうが納得できない立場にいるということも重々承知。

それ故に『自衛行動の許可』ぐらいは欲しかったのだが……

 

(組織の面子って奴でありますかな? まったく難儀なこって……)

 

しばらく脳内で木魚を叩きながらあれだこれだと考え、やがて頭上に白熱電球が光った。

 

「ところでリンディ様、お一つ伺いたいことが……」

「何でしょうか?」

「……管理局が現地で協力者を募ること、これまで前例はあったりするでありますか?」

 

リンディにそう質問をぶつけながら、セナは人知れず舌なめずりをする。

 

--交渉開始、でありますよ。




と言うわけで、今回の話、いかがだったでしょうか。

自分的には、無謀だったとはいえ管理局来る前にいろいろやったユーノ君が一方的に責められるのはおかしいと思いますし、かといって時空管理局がどういう組織かもまだ詳しく知らないこの話のセナさんみたいな主人公が初動遅いと管理局を責めるのもちょっとおかしいかなと思っております。
それゆえ考えたのがこの管理局を責めるわけでもなく、ユーノを責めるだけと言うわけでもないという展開です。
……もうちょっとうまい方法、確実にあるよなぁこれ。

この展開についての意見があればバッチコイ、全部受け止めてやんよ!
それを元に、続きの内容を推敲できますし。

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