魔法少女リリカルなのは これがメイドの歩む道   作:クラッチペダル

20 / 28
今回、もしかしたら著しいキャラ崩壊と捉えられる描写があります。
その点に注意してどうぞ。


19 予想外の事態

その少年が現れ、その存在を認識してから、その場の全員が動きを止め、その少年に視線を向けていた。

その様子を自身の言葉に従ったと判断したのか、クロノ・ハラオウンを名乗る少年は両腕を下ろし自然体になる。

 

「いくら封印しているとはいえ、ジュエルシードの近くだ。この場所で戦闘をするということを許すわけには行かないな。とりあえず双方武装を解除してくれ。こちらもいろいろと聞きたいことがあるから」

「……時空、管理局」

 

フェイトが目の前の少年を見つめながら、ポツリとそう呟く。

彼女の顔に浮かんでいるのは……焦燥。

 

そんな主の様子を察したのか、アルフがセナを無視し、クロノへと迫る。

主から少年を引き離すため。

あわよくばジュエルシードを手に入れるため。

 

そんなアルフのとっさの行動にクロノは反応し、手に持った杖型のデバイスを向け……ようとしてそれを思いとどまる。

先ほど自分が言ったとおり、自身の付近には封印済みのジュエルシード。

もし下手に魔法で対抗して封印が解けてしまえばたまったものではない。

ならばどう対処するか。

その答えを脳がはじき出すか否かというタイミングで、彼はアルフの拳で吹き飛ばされる。

吹き飛ばされている最中に、僅かながらに不自然に腕を動かして。

もっとも、その場で腕を動かしていたことに気が付いたのはセナだけだったが。

 

「フェイト、逃げるよ!」

「でも、ジュエルシードが!」

 

フェイトの言葉に、アルフはジュエルシードがあった場所を探す。

……見当たらない。

 

「くっ!?」

「君が探しているのは、これの事か?」

 

吹き飛ばされたクロノは空中で体勢を立て直し、その手に持ったものを見せる。

間違いなく、先ほどなのはとフェイトで封印したジュエルシードだ。

彼は先ほど吹き飛ばされている最中にジュエルシードを確保していたのだ。

それを見て、アルフは歯噛みする。

完全にしてやられた。

このタイミングで介入されたとはいえ、言い訳も出来ないほど完全に、鮮やかにしてやられてしまった。

 

「ぐぅぅぅぅ……くそぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「逃がすか!!」

 

アルフが、激情を集めるかのように、振り上げた右手に魔力を集わせる。

それに対し、ジュエルシードをデバイスの中に収納したクロノは今度こそアルフへ杖の先端を向ける。

ジュエルシードは既にデバイスに収納済み。

魔法を使用したところでジュエルシードの封印に影響はない。

そして、杖の先端から青い魔力光を放つ一発の射撃魔法が放たれた。

その速度はフォトンランサーほどではないが十分に速く、アルフが右手に集めた魔力で何かをする前にアルフへと当たるだろう。

そして、激情に呑まれたアルフにそれを回避しようなどと言う思考が生まれるわけもない。

フェイトが慌ててアルフのカバーに入ろうとするが、それも間に合わない。

最早これまでかと思われたその時、その主従は動いた。

 

「セナさん、GO!」

「しょー○ゅーけーん」

 

幼い少女の鋭い声が聞こえると同時に、アルフに当たりそうだった魔力弾がなにやら気の抜けるような声と共に下から割り込んできた何かに衝突し掻き消えた。

唐突な事態にフェイトとアルフ、クロノの動きが止まる。

その何かは、魔力弾が当たった拳から少々煙を引き出しながらも特に気にした風もなく、軽やかに地面へと着地した。

 

何故? と冷静になったアルフの視線がセナへ向く。

セナは視線で空中の一点を示す。

視線をたどるとそこにはなのはの姿。

やりきった、と言わんばかりに胸を張っている。

もう一度セナに視線を戻すとまるで何かを払うように手を振る。

 

ここは任せてさっさとトンズラでもこいてろであります……と言ったところか。

 

それを察したアルフは、舌打ち一つを残し、フェイトを抱えてその場から逃走を図る。

当然、クロノがそれを見逃すはずがない。

 

「くっ、逃がさないと言って……!」

「たつ○きせん○ーきゃくー」

 

そしてその行動をセナが見逃すはずがない。

再び飛び上がるとまるで空中で駒のようにまわりながらクロノを蹴飛ばす。

もっとも、それはクロノに防がれたが、それにより彼がフェイトたちを追う事は不可能となった。

 

「ちっ! エイミィ! 追跡を!!」

『やろうとしたけど、これは無理! ランダムで転送魔法交えてにげてるから、追跡しきれない!』

「そうか……」

 

ならばと虚空に叫ぶが、帰ってきた返答は望むものではなかった。

その現実にため息をつき、彼は再び地面へ着地したセナを追い地面へと降り立った。

 

「いったい何故邪魔をしたんだ! 彼女は今回の件の重要な参考人だぞ!?」

「ふむそうでありますか……だがんなこた知らねぇであります。私はお嬢様の指示に従っただけでありますし? メイドを御するは主のみと知れ!」

 

そういうとセナは空を見上げる。

セナの視線を追ってクロノも空を見上げると、そこには丁度降りてきたなのはの姿があった。

降りてきたなのはは、セナに近寄り一言。

 

「GJ!!」

「当たり前であります」

 

きれいなサムズアップつきのいい笑顔での一言だった。

それに答えるセナもいい笑顔でサムズアップ。

その様子を見ていたクロノはしばらくの後、深いため息を付く。

 

「あの、あまり気にしないほうがいいですよ? あの二人は基本あんな感じですから」

「ん? 君は……」

 

足元から聞こえる声に、クロノが下を向く。

そこにはクロノの足元から彼を見上げているユーノの姿があった。

 

「あ、僕はユーノ・スクライアです。渡航許可はとってあるので名前はそちらに言ってると思うのですが」

「あぁ、そう言えば管理外世界への遺失物捜索目的での渡航……だったかな?」

「はい」

「……まぁ、君にもいろいろ聞きたいことはある。彼女たちにも聞きたいことがあるから、できればこちらに同行してほしいのだが……」

「あ、分かりました。二人にも聞いてみますね」

 

クロノの言葉にそう答えると、ユーノはなのは達の元へと向かい、クロノが同行して欲しいといっていたことを伝える。

クロノのいる地点からでは彼らの会話はほとんど聞こえないが、少なくともユーノの話を聞く彼女たちの表情に嫌がっているなどと言う感情は見られない。

やがて、ユーノがクロノの方へと駆けてくると、その後ろをなのはとセナが付いてくる。

 

「こちらに同行してもらえる、ということで宜しいのですか?」

「まぁ、そちらもいろいろ聞きたいと思っている通り、こちらもいろいろ聞きたいでありますからな」

 

クロノも、先ほどは参考人を目前にして確保を邪魔されたとい怒りから口調もきついものとなっていたが、セナが一応目上の相手ということで口調を丁寧なものへと変える。

 

「分かりました。それと先ほどは失礼な物言い、申しわけありません」

「いやいや、実際、邪魔したのは私たちでありますしな。お気になさらずに」

 

クロノ相手には、主にセナが対応している。

別になのはが相手をしてもいいのだが、なのは、ユーノ、セナの三人でもっとも年長なのがセナだ。

よってこのような状況となっている。

 

「さてと、エイミィ、話は付いた。僕達をアースラへ転送してくれ」

『あいよ! おっまかせ! あ、皆さんその場から動かないでくださいね~、身体の一部がそっちにお留守番って事になっても責任とれませんよ~』

「こわっ! そんな物騒な事言わないで欲しいであります!」

「あまり彼女の言葉は気にしないでください。彼女なりの冗談ですから」

 

クロノが横を向きながら虚空に投げかけた言葉に返事をした女性の声にセナ、そして顔を青褪めさせる。

その様子をみたクロノは彼女たちにフォローを入れる。

その言葉の後に、彼女たちが立っている地面に魔法陣が現れ、やがて彼らの姿が消え去った。

それを見届けた魔法陣も消え去り、その場所に残ったのか彼らの足跡だけだった。

 

 

※ ※ ※

 

 

「光の中を抜けると、そこはSFの世界でした……」

「セナさん、何言ってるの?」

 

自分達を包む光が消えさると、周囲の風景は一変していた。

先ほどまでは公園の真ん中に立っていたのに、現在いるところはまさにSF映画の世界と言ったところか。

金属質な材質で構成された壁、床。

そのどれもが明らかに自然物ではなく人工物だ。

 

「ようこそ、時空管理局の次元空間航行艦船、アースラへ」

「じげんくうかんこうこうかんせん?」

「ようは海の代わりに次元世界を渡る船だよ」

 

クロノの発した聞きなれない言葉に首をかしげるなのはに、ユーノが軽く説明する。

とりあえずこれが船だという事は理解したなのは。

興味深げに周囲を見回している。

 

「さて、とりあえず皆さんには……ん?」

 

クロノはそんななのはの様子を尻目に言葉を発しようとしたが、何かに気づきその言葉を中断、そして先ほどのように視線をなのは達からはずして虚空に声を投げかける。

言葉にはしていないが、先ほどから何をしているのかを疑問に思っていたセナがよく見ると、空中に女性のバストアップ画像が浮かんでいた。

さらによく見ると、それは空中にある、それこそSF映画でしかお目にかかれぬような投影式モニターに映し出された人物だということに気づく。

管理局の技術パネェなどと思っているセナをよそに、クロノとモニターに映る女性は会話を続ける。

 

「提督、とりあえず彼女たちには乗艦してもらいました」

『分かったわ、皆さんは艦長室へ案内してもらえないかしら?』

「分かりました。それでは」

 

どうやらそれは何かしらの通信手段のようで、クロノは提督と呼んだ女性との通信を切ると、セナ達の方へ向き直った。

 

「これから艦長室へと案内します。付いてきてください」

「分かったであります」

 

セナの返事と同時に、なのはとユーノもこくりと頷く。

その様子を見たクロノは彼女らを先導する為に一歩踏み出し……再び振り返る。

 

「そうだ、デバイスやバリアジャケットを展開したままだとさすがに問題があるから、とりあえず待機状態に戻してくれないか?」

「あ、そういえばレイジングハート出しっぱなしだったの」

 

クロノの言葉に、なのはがレイジングハートを普段のネックレス状態へ戻し、さらにバリアジャケットから私服姿に戻す。

それを見届けると、クロノの視線が向かった先は、ユーノ。

 

「君も元に戻ったらどうだい?」

「……あぁ! そういえば! 最近この姿でばっかりいたからどうにもこっちの姿が普段の姿って思うようになっちゃって……」

 

そういうと、ユーノの全身が光を放ち、その光が次第に大きくなっていく。

そしてその光はだいたいなのはと同じ程度の身長をした人型をとると、徐々に弱まり、現れたのはハニーブロンドの髪を持つ一人の人間。

まさかの事態になのはどころかセナまで口をあんぐりとあけ、機能停止に陥った。

 

「ふぅ、この姿も久しぶりだなぁ……あれ? なのは、セナさん、どうしたの?」

「……え、えぇっと、ユーノ君はどこ?」

「どこって、僕がユーノだけど……」

「いや、知らねぇであります。私たちの知ってるユーノ様はあの小動物なユーノ様でありまして」

「へ?」

 

ここまでやり取りし、ようやく何かがかみ合っていないことに気が付いたユーノ。

慌ててなのはの方へ向きなおり、やや焦った様子で問い詰める。

 

「なのは! 君が僕を見つけたとき、最初僕はこの姿だったはずだよね!?」

「ち、ちがうよぉ! ユーノ君、最初からフェレットだったよ!?」

「うそぉ!?」

「ユーノ様、まさか……人間!?」

「当然でしょう!?」

 

ここまで来て、ようやくユーノは悟る。

なにやら高町家にいる間、誰からもやけにペット扱いされているような気はしていたのだ。

しかしそれは間違い。

『ペット扱いのような気がする』ではなく、『実際にペット扱い』だったのだ。

 

--ど、道理でなのはもセナさんも平然と僕とお風呂に入る訳だよ……

 

何せ、相手はしゃべるペットだと思っていたのだ。

裸をペットに見られたところで誰が恥ずかしがるだろうか?

羞恥心が異様に高くない限り、まず誰も恥ずかしがらない。

その事に気が付いたユーノはまず落ち込み、そしてさぁっと背筋に氷を入れられたかのような冷たさに襲われた。

 

--待て、誰も急いでないけど待て。

 

果たして、主LOVEなあの従者が、本人がそうとは思わず連行したせいとはいえ、主の裸を見た男を放って置くだろうか?

いや、主どころか従者自身、主の母や姉、果ては主の親友から親友の家族の裸まで見ているのだ。

 

……確実に抹殺されるであろうことは容易に想像できた。

 

恐る恐るユーノはセナを見やる。

そこには、不動明王のような形相で憤怒を隠そうともしないセナの姿があるはず……

 

「……あれ?」

 

しかし、その予想は大いに外れた。

ユーノの視界の中にいるセナ。

そのセナは……顔を真っ赤にして両手で覆い隠している。

そう、それはまるで極端なまでに恥ずかしがっているような……?

 

「わ、私は、し、知らなかったとはいえ、殿方と、にゅ、入浴……を……?」

 

ぶつぶつとそう呟くと、セナはしばらく顔を手で覆ったまま通路の天井を見上げる。

手の隙間から見える顔、そして上を見上げたことで晒された首も完全に真っ赤。

まるで完熟トマトのようだ。

 

最初の時点で誰もがわかるだろうが、彼女は怒りで顔を赤くしているのではなく、本当に恥ずかしがっているのだ。

もし普段の彼女であれば、多少恥ずかしがりはするものの、それでも何とか平静を保つだろう。

しかし、今回の件は平静を保つことは不可能だった。

 

……なにせ、ユーノとの入浴、全てが全て彼女がユーノを拉致し、一緒に入浴していた。

つまり知らなかったとはいえ、男性を一緒の風呂に『自ら』『何回も』招いていたのだ。

さすがのセナもその事実には思考がオーバーヒートを起こし、その結果普段の冷静さなんのその、ハヤシライスに最適な完熟トマトの出来上がりである。

 

「ふ、ふふふふふ、ふしだらでありますぅ……」

「わ、わー! セナさん落ち着いてぇ!!」

 

そして、セナが子供ではなく大人でもなく、少女であることも羞恥心に拍車をかけている。

なのはも先ほどユーノが人間だと知り、恥ずかしいとは思っていた。

しかし、確かに恥ずかしいが、なのは位の年ならば異性と入ったところでそれほど深刻に考えることはない。

なにせ、兄や父と一緒に風呂に入ったこともあるし、たまに行く銭湯では女湯に同じくらいか自分よりした位の少年が入っていることは決して少なくない。

要するに、幼い彼女にとって異性と風呂に入ることは深刻なまでに恥ずかしがることではないのだ。

そしてなのはの母、桃子ほどの年齢であれば、幼い少年が女湯に居たところで恥ずかしがるわけもない。

走り回る少年をみて転ばないだろうかなど、母性が出てくるくらいだろう。

ところがセナは少女。

子供と言うには成熟し、大人と言うには未成熟の丁度アンバランスな時期であり、もっとも異性を意識する時期。

そんな時期に、幼いとはいえ異性を自ら誘って一緒に入浴してしまったと知れば……こうなる。

 

そしてそんな彼女らの様子を蚊帳の外で見ていたクロノは、頬をぽりぽりとかき、呟く。

 

「……これをどうしろと?」

 

そう呟くしかなかった。




セナさんはショタコンじゃないよ!
ただ単に初心なだけだよ!!

ちなみに途中出てきた『子供と言うには成熟し、大人と言うには未成熟~』のくだりは自分の考えている少年少女観なので、合ってるかどうかは分かりません。
でも当たらずとも遠からずだと自分では思ってたり。

ちなみにセナさんの年齢は大体14~15あたりと妄想しております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。