魔法少女リリカルなのは これがメイドの歩む道   作:クラッチペダル

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今回で温泉旅行のエピソードは終わりです。

これからは文章量は減らさないようにしつつ展開は早めでやっていきたいと思っている今日この頃。

それと昨夜こちらのミスで新しい話が投稿されていないのに新着に載っちゃうという事態が発生してしまいました。
今更ですが、この場でその事について謝罪させていただきます。


16 今の全力を

なのはが彼女と今のように向かい合うのは二回だ。

ただ、以前と違うことは、少女は当然として、なのはも戦闘意欲にみなぎっているということ。

 

「いろいろ聞きたいことは、まだやっぱりあるよ。でも、あなたはそれを今の私には話してくれないよね」

 

なのはは、月村邸で出会ったときの少女の態度から何を聞いても少女は自分に何も語ってくれることは無いであろうということは察していた。

とはいえ、彼女は彼女とのお話を諦めたわけではない。

話してくれないなら、話してくれるようにするまでなのだ。

 

……たとえば、力づくでとか。

 

「だったら、今は聞かないよ。あなたに勝って、そしたら聞かせてもらうもん」

「……あなたじゃ私には勝てない」

「そうかもしれない。でも私はやる前から諦めたくないんだ。だから……」

 

---行くよ、名前も知らない女の子。

 

なのはがぽそりと最後の言葉を呟くと同時に、彼女の背後に五つの桜色の光を放つ球体が出現した。

それはそのままなのはの周囲をまるで踊るように周り、そしてその動きを止めた。

 

「これが、私の新しい魔法! 行くよ! レイジングハート!!」

「All right my master」

 

なのはが、レイジングハートを振り上げ、そして振り下ろす。

それと同時に球体……魔力スフィアは各々の軌道を描き、少女へと殺到していく。

その光景は、さながら光の精霊を操る指揮者のよう。

 

「ディバインシューター、シュート!!」

 

ディバインシューター。

高速で動き回る少女相手に今までの砲撃では対処できない。

そこでなのはがユーノやレイジングハートと相談し作り上げ、セナを相手に調整を重ねた魔法がこれだ。

一発の威力こそ普段の砲撃に比べれば当然劣る。

しかし、複数の魔力スフィアが立体的な軌道を描きながら少女に殺到していくと言う、砲撃には不可能な芸当が可能なのだ。

それを避けることは当然可能。

しかし砲撃と違い、避けた所ですぐさまスフィアは進行方向を変え、少女へと再び向かっていく。

また、元から彼女に当てるためではなく、彼女自慢の速度を殺す為に動いている物もある。

現時点での欠点は、一度に制御できるスフィアは六つまでと言うところだが、それを加味したとしても、この魔法は少女にとっては厄介な代物だった。

 

(この子、強くなってる……!)

 

少女はディバインシューターをかわしながら、なのはに対しての驚きを隠せなかった。

以前は、ただ魔力が大きいだけの素人だったのだ。

それが今では、誘導制御が可能な射撃魔法を駆使して自身を追い詰めようとしている。

射撃魔法の誘導制御と言うものは、言うほど簡単なものではない。

射撃魔法を誘導するためには思考を誘導にまわす必要がある。

デバイスの補助があったとしても、本当の素人なら制御で手一杯となり、自身の動きがおざなりになってしまうものだ。

その逆もまた然り。

それがどうだろう、なのはは誘導こそまだ無駄に大きな軌道を描いている部分もあるが、それでも自身の動き、射撃魔法の制御をそこそこのレベルで両立させている。

以前と比べれば、それは明らかな成長だ。

当然、この程度で負ける、とは少女自身も思ってはいない。

だとしても、この短期間でこれほどの成長を見せたことは脅威とも捉えることができた。

 

この急激な成長も当然、なにせあのセナを相手に何度も何度も試し、その都度ユーノたちと相談、仕様変更を繰り返したのだ。

普通になのははディバインシューターと言っているが、レイジングハートは正式名称としてディバインシューターVer,2.3と登録していたりする。

ちなみに、Ver,1台ではセナまったく歯が立たなかったりとかし、今バージョンでもよほどなのはの調子が良くない限りかすらせることすら出来なかったりする。

 

 

閑話休題。

 

---この少女はこれから先、ジュエルシード収集の大きな障害の一つとなるだろう。

 

少女はぼんやりとだが、そんな未来が来ることを確信していた。

 

「けど、私も負けられない……!」

 

自身のデバイスを握りなおし、少女はなのはへ向き直る。

その瞳には、確固たる意思が秘められていた。

そう、彼女も負けられない。

なぜなら、笑って欲しい人がいるのだから。

 

 

※ ※ ※

 

 

一方のセナはと言うと、思った以上にアルフ相手に苦戦していた。

何せ現在地点は森の中。

狼と人の姿を自由に取れるアルフは時に森の木々の影に隠れ、時に飛び出し奇襲するという戦法でセナを翻弄しているのだ。

おまけに、獣由来のスタミナにより未だにその動きには衰えが無いというおまけ付き。

 

もっとも、確かにアルフい苦戦しているが、セナ自身は怪我などは一切無いのだが。

その理由は……

 

「そうら!!」

「させない!!」

 

セナの肩にしがみついているユーノのおかげであった。

単純にセナが前、ユーノが後ろを見ていることで擬似的に前後の視界が確保できていることで、あらゆる方向からの奇襲に対応しやすいという事に加え、ユーノの防御魔法により、セナが守られているため、セナはアルフをなかなか捉えられないが、アルフはアルフでセナ達に触れられないと言う事態になっているのだ。

 

「守りは僕が何とかします!」

「援護感謝であります!!」

 

セナはアルフからの奇襲をかわしながらある場所へと向かって走り続ける。

その間にもアルフの爪や牙がセナを襲うが、それらが決してセナに食い込むことは無い。

 

「ちぃ! 前から行っても避けられて、後ろから行っても固いシールドと来たもんだ。厄介だねあんたらコンビは!!」

「敵の嫌がることは!」

「進んで……って程じゃないけどやる!!」

 

アルフの言葉に、セナ、ユーノの順に答える。

どうやらユーノも順当にセナの空気に染まってきたようだ。

 

「そしてそんな事を考えていていいでありますかね?」

「何をいきなり……っ!?」

 

急にセナが立ち止まり、アルフをまっすぐに睨みつける。

そう、まっすぐに。

そこでアルフは気づく。

今、自分達がどこにいるのかを。

 

現在セナ達がいるのはなのはと少女が戦っている場所からそれほど遠くない河原。

周りにアルフが隠れれるような木々は一本も存在しない。

離れた場所に木はあるものの、そこに隠れたところで何になるというのか。

つまり、現時点でアルフの奇襲戦法は封じられたのだ。

 

「こちらを捉えようと必死で、周りの景色にあまり注意がいっていなかったようでありますな。私がここに向かっているとも気づかずに、あなたはここまで付いてきてしまったのでありますよ」

「ここなら奇襲できるような遮蔽物も無い、つまりセナさんを遮るものも無い。ここからが僕達の反撃だ!!」

 

セナ達の言葉に思わずアルフは歯噛みする。

頭に血が上りすぎていたと、今のアルフは自覚できている。

 

「そちらにもなにやらのっぴきならぬ事情があることは薄々分かっているであります。ですがこちらにも事情がありまして、はいどうぞとくれてやるわけにはいかんのでありますよ」

 

昼間にも言ったが、今日に限り出来ればさっさと持っていってもらいたかったが。

そんな思いを心の内におしとどめておく。

 

「……さて、二対一……若干こっちが卑怯くせぇ気はするでありますが、まぁそれは置いといて……行くであります」

 

拳を握り締め、セナはアルフへと飛び掛っていった。

 

 

※ ※ ※

 

 

「アーク……セイバー!!」

 

黒衣の少女がその鎌を振るうと、鎌の刃を構成していた金色の魔力刃が切り離され、さながらブーメランの要領で回転しながらなのはへと向かっていく。

その速度はそれほど速いものではないが、しかしまっすぐ飛ぶのではなくなおかつ変則的な動きをするため回避は非常に難しい。

しかし、それに対しなのはは回避を試みる。

もちろん防御魔法で防ぐという手もあるといえばあるのだ。

しかし、先ほどまでの戦闘で、アークセイバーと呼ばれる魔法に関して言えば防御と言う選択はいい物ではないと把握している。

 

『Flash Move』

 

レイジングハートのコアが点滅し、次の瞬間、なのはに当たるかと思われたアークセイバーがなのはが先ほどまでいた空間を通過していく。

先ほどまで視界にいたなのはの姿が一瞬で無くなり、少女はほんの一瞬動揺する。

今の彼女には、その一瞬で十分。

 

「シューター、いっけぇぇぇぇぇぇ!!」

 

その声が聞こえてきたのは、少女の背後。

振り向くとそこにはレイジングハートを横ぶりに振り切ったなのはの姿と、レイジングハートを振るという動作をトリガーとして少女へと殺到するディバインシューターが。

 

『Defenser』

 

フェイトがそれに対しアクションを起こす前に、彼女のデバイスのコアが点滅し、彼女の前に膜状のシールドを発生させる。

それに当たったシューターは全て膜の表面をすべるように彼女の後方へと流れていく、ある程度はなれた場所で方向転換し、再び彼女へと向かっていく。

しかし、一旦動きを緩めたそれへの対処は、彼女にとっては簡単だった。

 

『Blitz Action』

 

再び少女のデバイスがコアを点滅させると、少女の姿は一瞬消え去り、彼女が再び現れたときには、全てのシューターが破壊されていた。

その様子を見ていたなのはは、自身のデバイスに問いかける。

 

「……やっぱり速いね」

『Does it give up?』

「まさか」

 

デバイスから帰ってくる軽口に、なのはもおなじく軽口で返す。

分かりきっていただろう。

あの少女の武器は速さだということは。

 

先ほどのフラッシュムーブでの奇襲も、これからはうまく行くかどうか。

だが、それでも最後まで戦おう。

途中で諦めて、それで後々あのとき全力を出しておけば……などという後悔をしないように。

 

「だから見せるよ。今の私の全力を!!」

 

たとえ、その全力が彼女に届かなくても、胸に誇れるものが出来るはずだから。

 

「ディバインシューター、セット」

『Divine Shooter』

「バルディッシュ」

『Photon Lancer』

 

自身の周囲に五つの魔力スフィアを作り出す。

その様子を見て、フェイトも周囲に魔力スフィアを作り出す。

そして、両者が同時に動いた。

 

「シュート!!」

「ファイア!!」

 

少女達の掛け声とともに、桜色と金色の光が尾を引いた。

それらは互いにぶつかり合い、各々の色の光の粉を撒き散らす。

その粉は現れてはまるで空気に溶けていくかのように消えていくが、次から次へとぶつかり合う光がそれを生み出すため、やがて夜空は二色の光で照らされ始める。

 

「アクセル!!」

 

そして、なのはが叫ぶ。

そのワードに反応し、ディバインシューターが加速した。

 

「っ!?」

 

急激な加速による動揺。

それにより、少女の動きが一瞬停止する。

その一瞬で十分だった。

 

シューターが少女に着弾し、少女はまるで翼を失ったかのように地面へと向かって落ちていく。

 

「はぁ……はぁ……って、このままじゃあの子落ちちゃう!?」

 

あくまでなのはは彼女とお話しするために勝ちたいわけで、彼女を殺したいわけではない。

地面へと無抵抗で落ちていく少女をなんとか救い上げようとなのはは少女へ向かって飛んでいき……

 

少女が自分の方へデバイスを向けていることに気が付いた。

 

「……え?」

「フォトンランサー……ファイア」

 

少女の赤い瞳が、なのはをまっすぐに射抜く。

続けざまに唱えられた言葉と同時に撃ち出された金色の鏃は、なのはの胸を撃ちぬいた。

 

「……ごめんね」

 

なのはが聞いたのは、少女と始めて出会ったときと同じ謝罪の言葉。

ぼやけていく視界の中、なのはが見た少女の表情は……とても悲しそうな顔だった。

 

 

※ ※ ※

 

 

「お疲れ様、フェイト」

「アルフもお疲れ」

 

少女、フェイトがなのはと戦った場所から離れた地点で、フェイトはアルフと合流した。

その手には、しっかりと封印されたジュエルシードが二つ握られていた。

 

「二つってことは、あのガキンチョから一個取ってったんだね? さっすが私のご主人様!」

「うん。でも、一歩間違ってたら私が負けてた」

「またまた謙遜しないでもいいじゃないかフェイト」

 

フェイトは二つのジュエルシードを握り締めながら、苦々しげにそう呟く。

それを謙遜と思ったのか、アルフがフェイトの背中を叩く。

その強さに、思わず前のめりにつんのめるが、そんな状態でもフェイトは先ほどの先頭の事を考えていた。

 

フェイトの言葉は、謙遜でもなんでもなかった。

実際、彼女はディバインシューターに当たってしばらくは意識が飛んでいたのだ。

しかし、奇跡だったのか運命だったのか、フェイトはぎりぎりのタイミングで意識を取り戻し、油断しきっていたなのはへフォトンランサーを放ったのだった。

 

まるで卑怯な手を使って勝ったみたいで、フェイトはこの勝利を喜べなかった。

しかし、自分の目的を思い出し、その思いを振り払う。

 

これで、今までジュエルシードは4個。

 

「母さん、喜んでくれるかな?」

「当然だよ! こんなにがんばって集めたんだから、きっと喜んでくれるさ! ……って言いたいけど、どうだろうね、あの鬼婆は」

「母さんをそんな風に言わないでよアルフ。私の大事な母さんなんだから」

「そうだけどさぁ……」

 

未だに苦々しい顔で自分の母への苦言を呈するアルフを小さなため息交じりで見つめながらも、フェイトは自分が母にほめられている光景を夢想していた。




と言うわけでなのはさん、惜しくも敗北となりました。

さて、アニメでは温泉旅行のエピソード終了の時点でジュエルシードの数は、なのは五個、フェイト三個ですが、この小説ではなのは、フェイト共に四個ずつとなっております。
でっかい木になって街に被害をだしたサッカーの応援回のジュエルシードが既にフェイトに封印されており、アニメよりフェイトの所持数が一個多い状態だったためです。(『10 猫とメイド』参照)

次は夜の街での戦いの話になります。

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