魔法少女リリカルなのは これがメイドの歩む道   作:クラッチペダル

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12 狼とメイド

「ふっ!」

 

周囲の木々を蹴りつけ宙を舞うセナはその拳を黒衣の少女にためらい無く振りかざす。

それを手に持った戦斧で受け止めた少女は、しかし受け止めた拳のあまりの強さにその場から吹き飛ばされる。

だが元より宙を自由に舞える少女は、吹き飛ばされようとすぐさま態勢を立て直し、自由落下の体勢に入ったセナをみて金色に光る円錐状の光弾を4個生み出した。

その光弾の先端が向いているのは、当然セナだ。

 

「フォトンランサー……ファイア!!」

 

その光弾は少女の指示を受け、恐るべき速度でセナへと殺到していく。

自由落下中のセナにそれを避けることはできない。

それを考慮しての絶対にはずさないと確信できる攻撃。

しかし、その攻撃に晒されているセナが浮かべる表情は……余裕の笑み。

 

「『自由に空を飛ぶこともかなわぬ相手、このタイミングなら避けれるはずが無い』あなたはそう思っていらっしゃるでありますな? だがしかし、ぬりぃであります!!」

 

 

そう言ってのけたセナは、まず一個目の光弾を上半身を捻ることで避け、二個目の光弾を足を蹴り上げるかのように振って、その勢いにより回転することで避け、三個目はそのまま振るった足で蹴りつけ消しさり、四個目を真正面から両手で掴み取る事により攻撃に対処することに成功した。

その光景、特に最後の物にはさすがの少女も唖然とした様子で口をあけて呆ける。

それ故に、セナが掴んだフォトンランサーを握ったままの右手を振りかぶっていることに気づくことが一瞬遅れた。

 

「返すであります」

 

霞んで見えるほどの速度で振るわれた腕によって投げられた光弾は行きの速度をはるかに凌駕する速度で自分を放った存在の元へと帰っていく。

少女はそれに対し慌てて左手の平を突き出し、そこに金色の障壁を生み出して光弾を防いだ。

その隙にセナは空中で体勢を整え、華麗に地面に着地した。

そして空中にいる少女に向かって手のひらを上にした状態での手招き。

所謂挑発である。

 

「……?」

「おや? 思っていたのと違う反応……」

 

しかし、その動作を見た少女の反応は怒りとは程遠いもので、その動作は何を意味しているのかと言うことが分かっていないという風な物であった。

せっかく挑発まで決めたというのに、どうにも調子が狂うセナであった。

若干の気恥ずかしさを誤魔化すように、咳払いを数回し、改めて空中にいる少女を見やる。

先ほどは頭に血が上っていたためか気づいていなかったが、ある程度冷静になった今のセナは気づいてしまった。

 

「……マントと水着っぽい、なんとも露出の多い格好……セナは敵ながらあなたの将来が不安でならないでありますよ」

「よく分かりませんが……なんだか馬鹿にされているような気がします」

 

セナの呟きが聞こえたのか、セナを見下ろす少女は若干声を冷たいものとしてそう言う。

そんな少女に対してセナは肩をすくめる。

 

「まさか、純粋な心配でありますよ。お気に障ったのであれば謝罪は一応。さて、おしゃべりはここら辺にしておくでありますか」

 

そこまで言い放ったセナはいつでも空中に飛び上がれるように、どのような攻撃にも対処できるようにやや前傾姿勢になる。

それれをみて、少女も手に持った鎌を握りなおす。

そして、先に動いたのは……セナ。

地面がくぼむほどに強く地面を蹴りつけたセナは、その蹴りつけた際の力を存分に使って上空にいる少女へと向かっていく。

それをみて少女もセナへと向かって飛行する。

そして、戦闘開始時の焼き増しのようにセナと少女がぶつかり合う……かと思われた。

 

「やっぱパスであります」

「へ?」

 

しかし、突然セナはそんな事を呟いたかと思うと体を捻りながら少女の鎌を潜り抜け、それどころか少女の体の後ろのほうへと回りこんだ、

そのまま攻撃に移るかと思いきや、先ほどの呟きどおりそのまま何もせずに近場の木の頂点へと向かって落下していく。

視線でセナを追っていた少女は、セナのいきなりの行為に疑問を覚えるが、ふと強い魔力を感じ視線を前へと戻す。

そこには、杖の先端を少女に向け、その先端に桜色の魔力を収束させているなのはの姿があった。

そして、桜色の奔流が少女に襲い掛かった。

 

「……ごんぶとレーザーが飛んでくるでありますからな」

 

誰に聞かせるでもなく先ほどの言葉の続きを、ぼんやりとした目で少女がいた場所を通り過ぎていく桜色の光を見ながら呟くセナ。

しかしその目はすぐさまはっきりとした光を取り戻し、そのまま背後に裏拳を振るう。

そこには先ほどなのはの砲撃に飲み込まれたはずの少女がいた。

 

「まぁ、あれで終わるとは思っていなかったでありますよ。さすがに露骨すぎたでありますからな」

 

少女は先ほどの砲撃を間一髪と言うところで回避していたのだ。

普通であればそんなことは不可能なタイミングだったが、しかし彼女の速さは戦闘開始直後にしっかりと見ている。

あの速度があればよほどの事が無い限り回避、後に攻撃は可能だろう。

 

「私を最初に狙ったのは私のほうが脅威度は高いから……といったところでありましょうか?」

「あの子は確かに魔力は大きい。でもそれだけです」

「……ずいぶんと余裕な態度でありますな」

 

セナは少女が握る鎌の柄の部分に裏拳を押し当て、自身に刃が当たらないように押しとどめながらそう呟いた。

それに対し、少女は若干の間を置いた後、こう呟き返した。

 

「そうですね……信頼できる家族が来たので」

「家族? ……っ!?」

 

少女の呟きに疑問の声を上げた瞬間、何かに気がついたセナは腕に力をこめて鎌ごと少女を押しのけ、そのまま飛び上がる。

瞬間、先ほどまでセナが立っていた場所が粉砕された。

 

「今のに気づくなんてやるじゃないか」

 

先ほどまで自身がいたところに目を向けると、そこには一匹の狼がいた。

しかし、その狼は野生の狼と言うわけではないだろう。

橙の毛並みを持つ狼が果たしているのかと言う事もあるが、何より先ほどから口を開きしゃべっている。

そう、狼がしゃべっているのだ。

その様子を見たセナはしばらく悩んだ後、口を開いた。

 

「……『キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!』」

 

まったく驚いた様子がない声の調子だった。

それを聞いた狼も狼の隣で聞いていた少女も「何こいつ」と言った表情でセナを見つめる。

その視線を受けたセナはしばらく表情をピクリとも動かさなかったが、やがて頬を赤らめて顔を背けた。

 

「何でありますか、さっきから私の行動への反応が期待したものと全然ちがうであります。これがボケ殺しでありますか……」

「こんなときにボケないでください!」

 

ぼそりと呟くと、いつの間にかそばに来ていたなのはに突っ込みを入れられる。

なのはの突っ込みにそれもそうかと気持ちを切り替えたセナは並び立つ一人と一匹をみやる。

 

「その狼が家族でありますか?」

「そうだよ。まったく驚いたね、まさかフェイトから手伝ってくれって来たときは」

 

どうやらいつの間にか連絡を取り、援護の要請をしていたようだ。

 

「ま、そういうわけだ。悪いけどさっさとやられてくれないか……なぁ!?」

「っ!」

 

狼が言葉を言い切るか否かと言うタイミングで、狼はまっすぐにセナ達のほうへと向かってくる。

そして振り上げた前足の爪が狙っているのは……セナだった。

 

その爪を何とか受け止めたセナだったが、狼はそのまま突進の勢いを利用してセナを遠くへと押しやっていく。

 

「セナさん!?」

「ちぃ! お嬢様、このワンコロは私に任せて、お嬢様はその少女を頼むであります!!」

 

急に襲い掛かられたセナに心配の声を上げるなのはだが、セナからの返答を聞きたぶん大丈夫だろうと判断し、少女のほうに向き直る。

とはいえ、やはり多少の心配はあるわけで。

 

「だぁれがワンコロだって!? 私は狼だ!!」

「やかましいであります! 狼だってイヌ科イヌ属でありましょうに!!」

「ぶっとばす!!」

「なんの! こっちこそぎったんぎったんに伸してずいぶん前に忘れてて出来なかった犬鍋のリベンジをしてやるであります!!

「だから私は犬じゃないっての!!」

 

しかし、そんな心配も後ろから聞こえてきたこのやり取りで完全に吹き飛んだ。

このやり取りを聞いてなのはは思う。

 

あ、これ絶対大丈夫だ、と。

 

ならば自分はあの少女の事に集中すればいい。

なのははそう頭を切り替えると少女をみやる。

金色の髪に、真紅の瞳が映える、きれいな少女だった。

しかし、その真紅の瞳は……なんだろうか、なぜか悲しそうな光を宿しているようになのはは思えた。

 

なのはがそんな事を思っているとは分かるはずも無い少女は、手にした鎌を握りなおし、そして口を開いた。

 

「ジュエルシードは頂いていきます」

「そうはいかないよ。私だって、ジュエルシードを集めてるんだから」

 

少女の言葉にそう返したなのはは、レイジングハートをしっかりと握り締める。

 

「ユーノ君と約束したの。集めるのを手伝うって。だから渡さないよ」

 

なのはの言葉に、なぜか少女は瞳に宿らせる悲しみの光をより強めた……となのはには思えた。

 

「そうですか……だったら」

 

そこまで言って少女の姿がぶれ、そして消えた。

消えた少女を探そうとなのはがあたりを見渡す。

 

『Master!!』

「えっ?」

 

次の瞬間、少女が現れたのはなのはの背後。

既に鎌は振りかぶられており、あとはなのはに向かって振り下ろすだけの体勢。

当然、なのはに対処のための時間は与えられていない。

 

「……ごめんね」

 

その言葉とともに、金色の刃がなのはに向かって振り下ろされた。




前の更新から既に一ヶ月以上経っていた件。
いくらなんでも空けすぎだろうと自分で思う今日この頃。


と言うわけで、まだ月村邸の庭での話は続きます。
今回はアルフさんに来てもらいました。
理由は、セナ&なのはのタッグにフェイト一人って鬼畜じゃね? と言う理由から。
アルフさんは今までの暴走体と違ってきちんとした理性とかもありますので、苦戦はしていただきましょう。

なんか学校での戦いからセナさんはハードモードに突入してる感じです。

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