魔法少女リリカルなのは これがメイドの歩む道   作:クラッチペダル

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11 黒い魔法少女とメイド

メイド服に備え付けられていたポケットの中で周りに気づかれないように携帯をいじっていたセナは、なのはにメールを送信し終えると、そのまま携帯をいじっていた手をポケットから抜いた。

伝えるべきことはメールで伝えた。

後は都合よく事が進めばいいというだけなのだが……

 

(……先ほどの感覚は……いったい?)

 

しかしそんなことよりも、セナは先ほど自身が感じた感覚の事が気がかりだった。

それは今まで感じたことの無い感覚。

体の奥にある何かが揺さぶられたかのような感覚だった。

そしてその感覚を覚えた直後のなのはとユーノの反応。

恐らく、あの感覚はジュエルシードの反応ということなのだろう。

 

(問題は、なぜ私がそれを感じ取れたのか、と言うことでありますな)

 

ユーノいわく、魔力と言うものは魔法が魔法を使える素質、極端に言ってしまえばリンカーコアが無ければ感じ取れるものではないらしい。

実際、セナはもちろんの事、なのはを除いた高町家の誰もが、魔力と言うものを感じ取ることが出来なかった。

そしてジュエルシードを捜索する場合はジュエルシードから放たれる魔力を感知することでありかを特定する必要がある。

だというのに、なぜ魔法が使えない、魔力を持たない自分がジュエルシードの存在を感知できたのか?

しかも今までもそれを感じていたのならいざ知らず。何故か今日に限って。

セナはこの答えの見えない現象に薄ら寒さを感じながらも、しかし悩んだところで答えが出るものではないと頭の中で割り切ると、意識を思考の海から引っ張りあげた。

 

(まぁ、もしかしたらあの感覚はジュエルシードが関係なかったり……たまたまタイミングよく別な何かを感じただけだったりするかもしれないでありますし、これ以上考える必要もないでありますな)

 

結局は言うことにしておくのが一番だ。

まずは今近くにあるであろうジュエルシードを何とかすることが先決だ。

そう思考を切替ながら、セナはその瞬間を待った。

経過した時間から考えて、恐らくあと十秒以内にやってくるはずだと考えながら。

そしてきっかり十秒後、その時は訪れた。

 

「すずかちゃ~ん、お茶のおかわりをもってきました! お茶菓子もありますよ~!」

『ユーノ君、GO!!』

 

月村家のメイドのうちの一人で、主にすずかの世話を任されているメイドのファリンが、足元をふらふらとさせながらも扉をあけて部屋へと入ってきた。

それを見たなのはは念話でユーノに指示。

その指示を聞いたユーノはそのまま勢いよくファリンに向かって走って行き……そのままファリンの足の間を通り抜け、部屋の外へと飛び出した。

当然、いきなりそんな事をされたファリンはたまったものではなく、ただでさえ危うかったバランスをとうとう崩してしまう。

その際、手に持っていた紅茶のおかわりと茶菓子が乗っていたトレーを空中に放り投げる形になってしまったが、それが床に落ちることをセナが許すはずも無い。

 

「ほっ!」

 

ファリンがバランスを崩した瞬間に動き出していたセナはそのままファリンの腰に右腕を回しファリンが倒れるのを阻止。

そしてそのまま腕でファリンを抱きかかえるかのように引っ張、りしっかりと立たせるとそのまま空中で舞っているトレーを空いている左手で回収。

ファリンがしっかりと立っていることを横目に確認したセナはファリンの腰にまわしていた右腕をはなし、今度はあいた右手で茶菓子が乗っていた皿とティーポッドを掴み、皿だけをトレーに載せる。

あとは両の手を器用に動かし、空中にぶちまけられた紅茶と茶菓子をそれぞれティーポッドと皿で床にこぼすことなく受け止めきった。

その動きに一切のよどみは無かった。

 

「「「「おぉー!!」」」」

 

思わずその場にいた三人娘とファリンが声を上げながら拍手をする。

お茶会の最初から実は部屋にいたファリンの先輩メイドのノエルも、声は出してはいないが感嘆の意を表情で表している。

 

「驚いていただけたようでなによりであります」

 

そういうとティーポッドを持った右手をそのまま右へと伸ばす。

その直後、カチャリと小気味のいい音を立てながらティーポッドの蓋があるべき場所へあるべき形で着陸した。

それを確認すると、そのままセナはポッドとトレーをテーブルへと運び、それが終わるとファリンの方へと向き直った。

 

「それで、大丈夫でありますか?」

「へ? あ、はい! おかげさまで大丈夫です!」

「ならいいであります。しかしユーノ様はいきなりどこへ行かれたのありましょうか」

 

そう呟くと未だに開きっぱなしになっている部屋の扉を見つめる。

しばらく待っても戻ってくる様子はまったく無い。

 

「何か気になるものでも見つけたのかな? ちょっと私探してくるね」

「あ、ちょ、お嬢様!?」

 

待ってもユーノが帰ってくる様子が無いと分かると、なのはは部屋を飛び出し、セナの制止の声も聞かずに走り去ってしまった。

それを見たセナはしばらく唖然とした後、ため息を一つ。

 

「よほどユーノ様の事が心配みたいでありますな。あっという間に行ってしまわれたであります……というわけで、申しわけありませんがお嬢様を追いかけてくるでありますよ」

「あの、私たちもなのは追いかけたほうがいいですか?」

「バニングス嬢と月村嬢はここで待ってて欲しいであります。もしかしたら入れ違いになるかもしれないでありますからな」

 

心配そうに声をかけてくるアリサたちに丁重な断りの言葉をいい、セナはなのはを追って部屋を出た。

そしてしばらく歩いた後、ポケットから携帯を取り出した。

そこには一通のメールを受信したとの知らせ。

メールを開くと、差出人はなのは。

本文には簡潔に、『玄関』とだけ書かれていた。

それを見たセナは、そのまま玄関へ向かって歩き出した。

 

そう、先ほどのやり取りはセナ達がお茶会を抜けだすためにうった芝居だったのだ。

まずいきなりどこぞへと行ってしまっても違和感のないユーノを部屋から出し、対外的にはユーノの飼い主であるなのはが帰ってこないユーノを心配して探しに行く、最後になのはの従者であるセナがユーノを探しに行ったなのはを追いかけるという名目で部屋を抜け出して芝居はおしまいと言うことだ。

もう少し時間があればもう少しマシな考えも思い浮かんだのであろうが、しかし既にジュエルシードは発動していたため、悠長に考えている暇などあるはずも無かった。

 

セナが玄関へたどり着くと、そこには既にバリアジャケットを装着したなのはと、なのはの肩の上に乗っているユーノがセナを待っていた。

 

「遅れて申し訳ないであります」

「大丈夫だよ、そんなに待ってないし」

「行きましょう。今は安定してますが、いつまた不安定になるか分かりませんから」

 

ユーノの言葉に頷くと、セナ達はジュエルシードの反応があった地点まで駆け出す。

しかし、ユーノとなのはが先導して向かっている場所の先を見て、セナが怪訝な表情を浮かべる。

 

「あの……向こうは月村家の庭と称した森があるはずですが……」

「ええ、そこからジュエルシードの反応が出たんです」

 

ユーノの言葉に、走りながらも口をぽかーんとあけてしまうセナ。

まさか月村家敷地内にジュエルシードがあるとはさすがに予想外だったようだ。

 

「? セナさん、分からなかったんですか? 私たちよりも早く気がついた風に思ったんですけど……」

「いえ、何か背筋に電流が走ったような、異様な感覚はしましたが、あくまでそれだけでありましたし」

 

会話を交わしている間も、二人はユーノのナビゲーションを受けてジュエルシードがあるであろう地点へと近づいていく。

そして、もう少しでジュエルシードが捕捉出来るであろう地点までたどり着いたとき、不意にセナ達の進行方向から強い光が放たれた。

 

「きゃっ!?」

「っ! お嬢様!!」

 

突然の事態になのはは思わず悲鳴を上げ、そんななのはをかばうようにセナが抱きしめる。

やがて光は消え去った事を確認したセナはなのはとなのはの肩に乗っているユーノの無事を確認した後、己の体を見下ろす。

なのはにもユーノにもセナにも、何も異常は無かった。

 

「……?」

 

てっきりジュエルシードからの何かしらの害があるものだと思ったのだが、しかし自分達には何も起こっていない。

先ほどの光の意味に首をかしげていると、ふとなのはの表情がおかしいことにセナは気がついた。

目を丸く見開き、何かに驚いているかのような表情をセナに……正確にはセナの背後へと向けている。

 

「お嬢様? どうかなされたのでありますか?」

「セ、セセセセ、セナさん、う、後ろ……」

「後ろ?」

 

なのはの言葉に、セナは背後に振り向く。

 

『にゃぁ!』

 

とてつもなく大きい子猫がそのつぶらな瞳でじっとセナ達を見つめていた。

 

「……は?」

 

思わずセナも表情を崩す。

しばらくその猫を見つめた後、セナは自身の目をこすり、そしてもう一度目を開く。

やはり大きな子猫がセナの視界を占領していた。

 

「いや、は、え? 猫? 大きい子猫? でも大きければ子猫じゃないはず……でも実際大きいけど子猫みたいにふわふわもこもこ……」

「セナさん、キャラ崩れてる」

「ハッ!?」

 

なのはの言葉に正気に返ったセナは頭を振ると自分の頬を何度もはる。

 

「戻れ普段の私! 戻れ先ほどまでの私!!」

 

目の前の大きな猫よりもむしろ急に従者がやり始めた奇行に目を奪われているなのはを尻目に、しばらく自分の頬をはりながら呪文のように何度も言葉を呟く。

やがて自分の頬をはることをやめたセナは、先ほどまで崩れていた表情を普段の物に戻し、やがて口を開いた。

 

「ふぅ、危うく自分を見失う所だったであります」

 

既に見失っていたのでは?

とは口が裂けても言わないなのはとユーノだった。

 

「……コホン。そ、それで? この子猫……と言っていいのか分からない存在は一体全体どうしてこんな事になってしまったでありますか?」

 

そう言ってセナ達に興味をなくしたのか月村家の広大な庭を我が物顔であちらこちらに歩き始めた猫を指差すセナ。

あちこちへ行っては何かを見つけたのか地面に顔を近づけ、かと思えばふと何かを追いかけるように駆け回るその姿はまさしく好奇心旺盛な子猫そのものだが、いかんせんサイズが異常だった。

 

「えっと、たぶんあの猫の『大きくなりたい』って願いをジュエルシードが叶えた……のかなぁ? とは思うんですけど……」

「あれじゃ大きくの意味が違うよぉ……」

 

なのはの突っ込みももっともだ。

何度も言うが、今のあの猫の姿は異常にでかい子猫と言うものだ。

子猫の時期特有のふわふわした毛並み、愛くるしい瞳はそのままに、本当にサイズだけが大きくなっていた。

これではむしろ拡大していたといったほうが正しいかもしれない。

明らかに異常だった。

少なくとも、セナの正気をしばらくトバす程度には。

 

「案外ジュエルシードも融通が利かないでありますな。それとも本当にあの意味で大きくなりたかったのか……」

 

しばらく巨大な子猫が遊びまわる様子を呆けた様子で見つめ続ける二人と一匹。

しかしその猫が歩くたびに周りの木々がなぎ倒されている様を見てすぐさま気を取り直す。

 

「ってそんな事を考えている暇は無いでありますな。さっさと封印しなくては月村邸の庭がピンポイントで台風一過な状況になってしまうであります」

「でも、あの猫ちゃんを攻撃するの? ……なんだかそれってすごい罪悪感というか」

「うっ……」

 

気を取り直して封印を進言したものの、なのはの返す言葉で言葉に詰まるセナ。

確かにあの猫を攻撃するというのは気が引ける。

いつものように猫を取り込んだ暴走体というのならばむしろ情け容赦はかける気も起きないが、大きいとはいえ見た目が子猫となると攻撃の手も伸びないというものだ。

それに様子を見てみると、暴れまわっているというよりあの子猫にとっては普通にあちこちに遊び歩いているだけなのだ。

だが、自分のサイズと言うものはもう少し考えて欲しかったりはする。

 

「と、とりあえず結界は張っておきます。このままじゃ誰に見られるとも分かりませんし」

「このサイズなら既に見られている可能性もあるでありますが、頼むであります」

 

ユーノの言葉にセナが頷くと、ユーノは結界を展開する。

範囲はこの猫をすっぽり包めて、なおかつ月村邸には届かないという範囲。

 

「……あれ? これって……魔力反応?」

 

そして結界を展開し終えたとき、ユーノはそれに気がつく。

何か魔力を放つ存在が結界内に存在していた。

それは当然自分やなのは、目の前の巨大な子猫以外でだ。

そして、その存在が放つ魔力がふと大きくなった。

 

「これは魔法の発動!? なのは! セナさん! 誰かがこの結界内に……っ!」

 

ユーノのその警告に、なのはとセナは身構え、周囲を警戒し始める。

そしてその瞬間、なのはの顔面の横を金色の光を放つ何かが高速で過ぎ去っていった。

 

「……え?」

 

過ぎ去っていった何かが巻き起こした風でなのはの結わえられた髪がなびく。

そして背後から聞こえる猫の鳴き声……いや、これはもはや悲鳴と言ったほうが正しいだろう。

なのは達が背後を振り向くと、そこには体を横倒しにしぐったりとした様子を見せる巨大な子猫がいた。

 

「ね、猫ちゃん!?」

「誰でありますか!?」

 

なのはが思わず子猫に駆け寄り、セナが周囲を見回しながら声を張り上げる。

その声に応えたわけではないだろうが、一つの影がセナ達の近くにある木の頂上へと降り立った。

 

その少女は金糸のような長い髪を二つ結いにし、黒い装束に身を包み、その右手には幼い彼女には不釣合いともいえる無骨な戦斧を携えていた。

 

「……バルディッシュと同型のデバイスに使い魔、それとその協力者……私と同じジュエルシードの捜索者」

「あなたは……?」

「なのは気をつけて! あの女の子も魔導師だ!」

 

その少女は手に持った戦斧をなのはへ突きつけると、それほど大きくない声量で、しかしはっきりとした声で宣言した。

 

「ジュエルシード、頂いていきます」

 

瞬間、少女の姿が掻き消えた。

 

「へ!?」

 

なのはが突然の事態に動転し、しかし突然視界から消え去った少女を探そうと周囲を見回す。

そんななのはの背後から少女は近づき、なのはへその戦斧を振り下ろした。

その速度はまさに高速。

普通であればなのははそれに反応することは出来ず、そのまま振り下ろされた刃に倒れるだろう。

しかし、その普通をあっさり超越している存在がここにはいる。

 

「そうは問屋は卸さないでありますよ!!」

 

なのはの背後から迫っていた戦斧は、横合いから伸びてきたセナの足と衝突し、なのはに当たることは無かった。

そしてその足は、しっかりと戦斧の刃を受け止めている。

 

「っ!?」

 

その光景に少女は目を見開く。

隙を見逃さず、セナはそのまま足を振り切る。

その勢いで少女はなのはとセナがいる地点から大きく吹き飛ばされる。

 

「……お嬢様に害をなす事を私が許すとでも? 否、断じて否!」

 

振り切った勢いで体を一回転させていたセナはそのまま地面に右足を叩きつける。

ズシンと重たい音がし、セナの足を受け止めた地面が足の形に陥没した。

 

「この私、セナの目の前では、不届き物がお嬢様に触れることは出来ぬと知るべきでありますな」

 

セナは地面に沈んだ足を引き上げると、そのまま上げた足で今度は地面を蹴り、そのまま少女へと向かって突貫をかけていった。

 

「くっ!?」

「あなたが誰なのかは存じ上げませぬが、『お嬢様に手を出した』。それだけで完全無欠に敵であります。私、敵には容赦する気は毛頭無いであります故……お覚悟を」

 

セナのその言葉と共に、変形し金色に光る刃を出したことでまるで死神の鎌のような形となった少女の戦斧と、セナの拳がぶつかり合った。




セナさんに何かしら武器を持たせたい持たせたいと思いつつ、結局いつ持たせようかどころか何を持たせようかさえ絞り込んでいない今日この頃。

個人的にメイドさんが大きな剣を振り回すのに萌え、なおかつ燃えるので、持たせるとしたらそういう類。
でも槍とかハルバードとかそういう長物類も捨てがたい。

というわけでいまだ絞り込めてないので、しばらくは素手ゴロでがんばってもらいたいと思います。

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