魔法少女リリカルなのは これがメイドの歩む道   作:クラッチペダル

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10 猫とメイド

その影は、その場所から足元に広がる街を見下ろしていた。

これは決して比喩表現などではない。

その影は、確かに宙に浮かび、その街を見下ろしているのだ。

夜の闇につつまれていながらも、しかし自らが放つ光で闇に飲まれることを拒否している街を見下ろす影の正体は一人の少女。

光を眩く反射する金糸を持ち、黒衣に身を包んだその少女は、しかしその手に少女の幼さとは不釣合いな戦斧を持っていた。

 

不意に戦斧のヘッドにあしらわれている黄色い宝石が、点滅する。

次の瞬間、先ほどまで少女がいた場所を黒い何かが高速で通り過ぎた。

少女の足元から上昇してきたそれは、その後もしばらく上昇した後に速度を落とし、旋回。

その時点でようやく何かの全容を見ることが出来た。

それは巨大な鳥だった。

全身を黒い羽毛で覆ったその巨大な怪鳥は、その全身の中で唯一黒では無く赤い光を放つその双眸で自分が通過した、先ほどまで少女がいた場所を見つめ、やがてそこに誰もいないと言う事を確信するとその巨体に見合った巨大な翼を羽ばたかせ、その場から飛び去ろうとし……

 

「バルディッシュ」

『Yes sir』

 

その怪鳥よりもさらに高所から急降下してきた少女の金色の光を放つ刃で胴体を一刀両断され、二つに切断された怪鳥は文字通り空に散った。

後に残ったのは青い光を放つ菱形の宝石。

 

「見つけた、一個目のジュエルシード」

 

現れたその宝石を、少女はまるで大切な宝物を手に取るかのようにやさしく握り締めた。

 

 

※ ※ ※

 

 

学校での暴走体との戦いの翌日、なのはとセナはとあるサッカー場に来ていた。

なぜそんなところに二人がいるのかといえば……

 

「みんなー! がんばってー!!」

「あんたら気合いれなさいよー!!」

「ファイトー!!」

 

今日は士郎がコーチ兼オーナーを務める少年サッカーチーム、翠屋JFCの試合の日なのだ。

なのは達がここにいるのは翠屋JFCの応援のためである。

ちなみに、この場にはアリサとすずかもおり、試合をしている選手に負けないくらいに熱くなりながら応援している。

特にアリサの熱の入れようはすさまじいものがある。

自分が応援しているチームが負けるということは自分も負けるということであり、負けず嫌いなアリサはそれが気に食わないため、応援にも熱が入るというものだ。

そしてセナはそんななのは達が座っているベンチの後ろに控えている。

なのは達のように声を出しての応援はしていないが、それでも試合の展開に一喜一憂している。

 

ふと、チームの応援をしていたすずかがなのはとアリサの方を見て口を開いた。

 

「そういえばなのはちゃん、アリサちゃん。試合の応援が終わった後時間あるかな? 久しぶりにお茶会を私の家でやろうかなって思ったんだけど……」

「いいじゃない。私は特に用事は無いから大丈夫よ」

「私は……」

 

すずかの提案にアリサはすぐさま賛成し、なのはは言葉を濁す。

本来であれば応援が終わった後はセナとユーノといっしょにジュエルシードの捜索をしよう

と思っていたため断ろうとしたからだ。

しかし、せっかくのお誘いを断るというのも気が引けてくる。

なのはは悩みに悩み、結局断ろうと口を開き……

 

『いいじゃないか。行って来なよ、なのは』

『ユーノ君? だけど……』

 

なのはの膝の上で試合を見ていたユーノからの念話で、断りの言葉を出そうと開いた口を閉じる。

 

『なのは、確かにジュエルシード集めも大切だよ。でもなのはにとって友達との時間はもっと大切だと思う』

『ユーノ君……』

『それに、いつもなのははがんばってるし、少しでも気晴らしとか、休息が必要だなって思ってたんだ。だから、ね?』

 

 

ユーノの言葉に、なのはは再び悩む。

確かに、最近はジュエルシード集めに集中していて、親友達と遊んだりと言うことは無かったと記憶している。

自分はジュエルシード集めが大事で、親友は大事じゃないのか?

答えは……否。

 

『……そうだよね。うん、分かったよ。でも、ユーノ君も一緒に行こう? ユーノ君もがんばってるんだし、やっぱり休息は必要だよね?』

『ははは、一本とられちゃったね』

 

ユーノとの念話を終えると、なのはは念話にやや集中させていた意識を現実に引っ張ってくる。

 

「うん、私も大丈夫だよ、すずかちゃん」

 

ジュエルシードの事も大事だが、親友の事も大事だ。

ならば、今日ぐらいは魔法少女では無く普通の小学生である高町なのはに戻ったところでバチは当たらないだろう。

なのははそう考え直すと、すずかの提案に賛成した。

 

 

※ ※ ※

 

 

「さぁそこに一列に並べであります! いいでありますか!? 人の言うことを聞かぬのはただの猫であります、人の言うことをよく聞く猫はよく訓練された猫であります! あなた達はそこらへんにのさばる野良猫どもとは違う、誇り高き月村家の猫であります! さぁ! 格の違いを見せ付けるであります!!」

『ニャーーー!!』

「セナさん、すずかちゃんの家で何やってるの……?」

 

自身のメイドが人様の家の猫に向かって大声を出すという暴挙に出ているさまを、なのはは頭に手を当てながら見つめていた。

セナの言葉を聞いて本当に猫達が横一列に整列しているという光景もなのはの頭痛を加速させている。

ちなみにセナの前で横一列になっている猫の飼い主はと言うと……

 

「すごい……あんなやんちゃだった子達がしっかり整列してる……!」

 

なぜだか知らないがやけに感動していた。

これで飼い主も怒っていたのなら、自分も従者の暴挙を大手を振ってしかれるというものなのに、よりにもよって喜んでしまっている。

果たしてどうすればよいのやら。

ゆっくりしに来たはずなのに、何でこんなに疲れてるんだろう? となのはは思わず真剣に悩んでしまった。

そしてそんななのはを微笑み交じりの視線で見つめるアリサ。

 

「アンタも大変ね、あんなメイドらしくないメイド雇っちゃって」

「う~、たまに私もセナさんってほんとにメイドなのかが不安になってきたよ」

 

特にアリサやすずかの家のメイドと比べてしまうとそれが顕著になる。

確かに、確かにセナは優秀だと思う。

それでも、そうだとしても果たしてあのような事をやってしまう彼女を本当にメイドといってもいいのだろうか?

あーとかうーとか悩み始めたなのはを見て、アリサはため息一つ。

こうなってしまったなのはを元に戻すにはあの言葉しかない。

というわけで早速アリサはテーブルにうなだれているなのはにその言葉を投げかける。

 

「そうねぇ。じゃあなのははそんなセナさんは嫌いなのかしら?」

「それは無い」

 

恐るべき即答である。

問いかけから顔を上げ、さらに返答するまでの時間、およそ0.1秒かそれ以内。

分かりやすいなのはの様子に、アリサは今度は盛大に笑い始めた。

 

「あははは! だったらいいじゃないの。別にそういうの気にする家じゃないでしょ? あんたの家は。なんだかんだでセナさんはなのはに仕えてて、なのははなんだかんだでセナさんが好き。それで問題ないでしょ?」

「……それもそうだね。うん、そうだよね!」

 

アリサの言葉に納得し、先ほどまでの悩みなどどこ吹く風。

実に晴れ晴れとした表情で紅茶を飲み始めるなのは。

ここはアリサの華麗な話術に賞賛を送るべきところなのだろうが、実はこのようなやり取りはもはや何度もやっているやり取りだったりする。

始めの頃は本当にどう返答してやればいいものかと悩んだものだ、とアリサは誰にも知られずに昔を懐かしむ。

今ではもうこんなやり取りも慣れたもの。

 

「ま、それだけ付き合いが長いって事よね」

 

このやり取りの変化がその証左だというのなら、いいではないか。

こんなやり取りを何回もやっても。

そう心の内で思いながら、アリサはカップに口をつけるのだった。

 

「アンタも大変ねユーノ、あんな飼い主とその従者で」

「キュ、キュー……」

 

なお、アリサの膝には片手でティーカップを持っているため空いている左手でもみくちゃにされたユーノの姿があった。

どうやらなのは達からユーノを強奪した後、今までずっとユーノをもみくちゃにしていたらしい。

 

 

※ ※ ※

 

 

セナが月村家の猫達と戯れ終わってからしばらく、ようやくお茶会はお茶会らしく静かで優雅な雰囲気へとなっていた。

なお、その雰囲気をぶち壊していた当人は、

 

「猫が愛らしすぎて暴走したであります。後悔も反省もしないであります」

 

などと供述しており、さすがに腹に据えかねた主人にすばらしい角度の手刀を食らっていた。

もっとも、それで痛がったのは手刀を繰り出した主人のほうだが。

 

「……?」

 

そんな主を見るセナが、ふとその視線を窓の外へと向ける。

窓の外には快晴の空が広がっており、別段変わった様子は無いのだが、しかしセナはその空の向こうに何かを見つけたかのようにじっと窓の外を見つめる。

それからしばらくの後、なのはとユーノは勢いよく窓の外へと視線を投げかけた。

 

『ユーノ君、この感じって……!』

『間違いない、ジュエルシードだ!』

 

念話で互いに確認しあった後、なのはは現在の自分の状況を思い出す。

 

『……どうしようユーノ君、今私部屋を出れるような状況じゃないよ~!』

 

そう、現在なのははお茶会と言うことでこの場にいるのだ。

学校であればやや気は引けるが早退だなんだと抜け出す理由はつけれる。

しかし今の状況で相手に違和感を与えることなく部屋を長時間抜け出せるようなクレバーな考えはなのはには思いつかなかった。

かといって無言で部屋を出るなんてとんでもない。

こういうときに頼りになるであろうセナへは助言は頼めない。

何せ彼女は念話が出来ないのだから。

だからといって長時間念話でユーノと会話しているわけにもいかない。

こうしている間にも事情を知らない友人は話しかけてきていて、それに自分は応えねばならないのだ。

いくら魔法を使う際に必要だからといって会得したマルチタスクを使って今は応対しているといっても、それを長時間続けていられる自信はまだないし、そうなれば友人達にも不審がられるだろう。

 

と、そのときポケットに入れていた携帯が震え出した。

ユーノとの念話を一旦打ち切り、友人にごめんといいながら、なのはは携帯を開いた。

待ち受け画面にはメールを一件受信したという通知。

受信したメールを見て見ると、その差出人はセナだった。

思わずセナを見やるが、その視線をセナは小首をかしげて受け流している。

その点を不審に思いながらも、なのははメールの中身を見る。

画面に表示されたメールの中身には、裁量とはいいがたいかも知れないが、少なくとも現時点では最善と呼べる手段が記されていた。

思わずセナのほうを見ていると、再び携帯が震えだす。

見ると差出人はやっぱりセナ。

しかし、今セナを見ていたがメールを打っている様子など無かったのだが……

 

メールの中身を見るとたった一文。

 

『メイドのなせる技であります』

 

なのはの中でメイドに対する謎が深まった瞬間だった。

ともかく、セナの考えをユーノに念話で伝える。

それに対し、ユーノは快く賛同するのだった。




どうにも最近執筆ペースががた落ちで、続きをまってくれている方には申し訳ないという思いがいっぱいです。

今回もちょろっと原作とは違った展開になりました。
といっても巨木のあれを抜いただけなんですけど。
前回の学校での戦いでジュエルシードに対する考えとかを改めて、それでなお覚悟したということで、アニメでは覚悟を改める事件だった巨木の話を抜いたんですが、いかがだったでしょうか?

なお、月村家敷地の戦いは、大筋はアニメと変わりません。
ただセナさんがいるのでいろいろセリフとかは変わると思います。

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