ハイスクールD×D Dragon×Dark   作:夜の魔王

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一件終着

「あー全く、とんだ災難だぜ」

 黒い炎をパタパタと叩き落としながら、朧は小さく――人間サイズだが――なった九尾の(かたわ)らに降り立つ。自分で構わずやれと言ったのにとんだ言い草である。

「後は洗脳の解除か……」

 人型に戻った九尾の御大将だが、未だ瞳に光がなかった。

(んー、やっぱりこの前用立てた術式か。だったら解除法もあれかな。弄らず使ってたらの話だけど)

 朧は九尾の顔に手を向け、魔方陣を展開する。幾つもの歯車のような形の魔方陣がキチキチと音を立てて動く。まるで金庫破りである。破るという意味では間違ってないが。

(あー、大まかな構成は変わってないけど微妙に変化してるな。時間かかりそう)

「どうだい兄ちゃん。九尾の御大将の洗脳は解除できそうかい?」

「……ええ、まあ。時間はかかりそうですが、何とかなります」

「それじゃ、頼んだぜい」

(頼まれてしまった。敵だというのに)

「ああ面倒な。無理矢理解くと後遺症残すし、丁寧に解くのは時間がかかるんだよなぁ。一体何分かかる事やら」

(折角三秒で解ける解除キーを設定したのに改変されて……時間がかかりすぎて捕まったらどうする)

 内心でうんざりする朧の服の裾が引かれる。

「母上は大丈夫か……?」

「大丈夫、何も心配は要らないよ」

 朧が小さい子に涙目の上目遣いで見られてやる気を出さない訳なかった。

 程なくして八坂の洗脳は解除され、親子の抱擁を見た朧は満足そうに微笑み、黙ってその姿を消した。

 

 

 

「朧さん」

「……ああ、ルフェイか。お疲れ様」

 表の二条城の近くで佇んでいた朧を見つけたルフェイが駆け寄って声をかけると、朧は気の抜けた返事を返した。

「どうしたんですか? ぼうっとしてましたけど」

「……ああ。ヴリトラに力を削られたからか、八坂と九重の抱擁をみたからか……昔のことを少し思い出した」

 その時の朧が、彼にしては珍しく遠い目をしていた。

「昔ですか?」

「そう。色々あり過ぎて何年前かも分からないほど昔の話」

「何年前って言っても、朧さんは今十代ですから、そんなに昔の話でも無いんじゃ?」

 朧は肩を竦める。

「さて、どうだろうね。中学校まではまともに卒業したけど、そこから二年前に駒王学園に入学するまでの間には色々ありすぎたから……生年月日もろくに覚えてない」

「でも、見た目は十代後半に見えますけど……?」

 そう言うルフェイに朧は苦笑する。

「俺は一応悪魔の血を引いてるんだよ? 見た目を変えることぐらいできるさ。それに、オーフィスと出会ってから彼女に合わせてか、俺も見た目の変化は無かったからな。正確なことは戸籍でも見ないとわからないさ」

 そこで朧は二三度首を横に降る。

「まあ、俺のことはいいんだよ。今は帰ることだけ考えればいいさ。京都を取り囲んでいる防衛網ももうすぐ解かれるだろうから、その後で転移すればいいだろう」

 ルフェイと朧の二人なら包囲網の中からでも協力すれば脱出することは可能であるが、それは疲れるのでやめていた。

「けど、朧さんは修学旅行中ではないんですか?」

「別にいいんだよ。学生になったのだって、駒王学園を経営しているのがグレモリーだったからだというからで、その目的は既に果たしたから、内申には興味ないのさ。成績はいい方だし」

「そういう問題ではないかと思いますけど」

 苦笑するルフェイに朧がポンポンと頭を叩くと、近くに数人の男が近づいて来た。

(悪魔か……堕天使か……どっちでもいいか)

禍の団(カオス・ブリゲード)だな?」

「で?」

 男の一人がそう尋ね、朧がそれに短すぎるくらい端的に返す。

「捕縛する!」

 周りの男が悪魔方式の魔方陣を一斉に展開する。

「悪魔か。どちらでもいいや。ルフェイ、下がってな」

「はい」

 ルフェイが朧から二三歩離れると、展開された魔方陣から一斉に魔力の波動が放たれる。

「今更この程度……」

 魔力の波動は朧が引き抜いた霞桜に切り裂かれて霧散する。

「霞桜、何年振りかは分からないけど……血煙、作ってよし」

 朧がそう言った十秒後、数人の悪魔は一人残らずこの世から姿を消した。

 

 

 

 

 

「ヴァーリ、帰ったぞ」

「ただいま帰りました!」

 場所は京都から変わってヴァーリたちがよく根城にしている場所。

「ああ、二人共ご苦労だった」

「そんなに言うならもっと労え。まあ、それはどうでもいい。土産だ」

 朧はヴァーリにケースに入った円盤を投げる。

「それ、イッセーの新能力の録画映像」

「ふむ、後で見させてもらう。直接見た感想は?」

「三つ合わさったら俺には勝ち目がない」

 朧の感想は率直で思ったままのことだ。

「つまり、今では付け入る隙があるわけだ」

「隙というならあいつは隙だらけだよ。新能力も隙は多いがな」

「簡単に説明して貰えるか?」

「砲塔を追加しての砲撃形態、装甲を薄くしての高速移動形態、装甲を厚くしての攻撃力、防御力の増加。悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を想像してもらえればいい」

「つまり、『女王(クイーン)』に相当する形態もあるということか」

「できるかどうかはさておきな。見た三形態についてなら簡単に弱点を言えるが?」

 朧の申し出にヴァーリは首を横に振る。

「必要ない。それは自分で考えてこそだ」

「言うと思った」

 踵を返して立ち去ろうとする朧をヴァーリが呼び止めた。

「ところで、グレモリーとバアルの試合の日取りが決まったそうだ」

「興味ない。戦いは嫌いなんだ」

 


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