ハイスクールD×D Dragon×Dark   作:夜の魔王

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噂にも玉石混合


「ヴァーリ、無事に済んだようで何よりだ」

覇龍(ジャガーノート・ドライブ)の使用は大分堪えたがな」

「それにしても、これがあのフェンリルかー。しっかり小さくなっちゃって」

 グレイプニルの影響で大型犬サイズになってしまったフェンリルに左手を差し出すと、その手を噛まれた。神殺しの牙でガブりと。

「殺す気かこの狼!」

 首にグレイプニルの一部で首を絞める。

「ダメですよ朧さん!」

 ルフェイに羽交い絞めにされた。

「止めるなルフェイ、このワン公には上下関係を教えてやる!」

「だからダメですって、ばッ!」

 バキッ

(あれ? ルフェイ、今俺のアバラからしちゃいけない音がしたよ?)

 脂汗をダラダラ流しながら、俺は何度目かの意識を失った。

 

 

 

 

 気がついた時、何故か俺はヴァーリチームと一緒に森林の中を歩いていた。

「はっ、一体何が? そもそもここはどこだ?」

 その疑問には隣を歩いていたアーサーが答えた。

「あなたはルフェイに気絶させられた後、彼女に心配させまいと無意識で普通に動いていたのですよ」

 自分で言うのもなんだが、俺どんだけだよ。

「で、今はどこへ向かっているの?」

「日本の未開地区に封印された『血煙(ちけむり)』と呼ばれた悪鬼と呼ばれた存在がいるそうで」

「物騒な非確定情報だな。大分雲を掴むような話を追い求めるようになって来たな」

 粗方の相手にはケンカ売りまくって来たからな。もう戦ってくれる相手がいないというのも事実。そろそろ神に戦いを挑むんじゃないかとヒヤヒヤしてます。

(まあ、もう好きにしたらいいんじゃないかな)

 どうせ俺はついていくだけだし。

 

 

 更に森を歩くこと数分、目的地に到着したのだが……

「ただの農村にしか見えんのだが」

 目的地の村は日本人が農村を説明しろと言われたときに考えつくような、なんの変哲もない農村だった。

「封印って話なら、こういう場合は大抵寺社仏閣にあるはずだが」

 高台を見上げると、そこには周りと比べて一回りも二周りも大きな建物があった。

「まあ、あれだろうな」

「確かに、あそこからは嫌な気配がするにゃ」

 黒歌が仙術でそちらの気配を察してニンマリとする。

「それでは、行ってみよう」

 

「はー、立派なお寺だな。こんな外れの村にあるにしては凄いなー」

 築何年かは分からないが、少なくとも数十年は経過しているだろう。

「誰か居ないかね。いた方が目的の物を見つけやすいし、後腐れもないからな」

 黙って力押しですると逃げ出す必要が出てくるからな。

 ちなみにヴァーリチームは茶を飲んで待機中。あいつらは戦い以外は使えない場合がほとんどだからだ。

「んー……あ、いたいた」

 仏殿近くを竹箒で掃除しているセミロングほどの長さの黒髪をツインテールにしている十代前半ほどの少女を見つけた。

(帯下から前開きになった紫色の小紋に赤の膝丈のプリーツスカートか……キャラ立ってんなー)

 こんな片田舎にいる女の子の格好とは思えない。

「はい彼女ー、俺と一緒に一夏(ひとなつ)――今秋だけど――のアバンチュールを過ごさな――ゴフっ!」

 竹箒が腹に叩き込まれた。

 (うずくま)る俺を少女が冷たい灰色の瞳で見下ろす。

「初対面の女性をナンパしないでください」

「すいませんでした」

 ああ、土下座だよ。土下座したさ。

 

「ところで、この寺に何か封印されてませんか? 具体的には血煙とか呼ばれた」

「昔、三百年ほど前に千人斬りした悪鬼が眠っているそうですよ。それの名前が血煙だとか。伝聞ですのではっきりした事は分かりませんが」

 本当にいたよ。

「それと戦いたいって奴がいるんだけど、構わない?」

(まあ、これでうんと言われる事は――)

「いいですよ。ただし、周りに被害を出さなければ」

「いいの!?」

 言われたよ。うんって。

「あー。それじゃあ戦いたいって奴呼んでくるから。あ、俺は黒縫朧って言うんだけど、あなたのお名前は?」

厄詠(やくよみ)葛霧(くずきり)です。以後よろしくお願いします」

 

「それじゃあ、始めようか」

 ヴァーリは既に光の翼を出してやる気満々で本堂の前に立っていた。

「それでは、封印を解きますね」

(あの子、普通にしてるけど……)

 異常の中で普通にしているのは十分異常なのではないだろうか?

「この御札を剥がしたら中から封印された悪鬼が現れるそうですので、お気を付けください」

 そう言った瞬間なんの躊躇(ためら)いもなく札を剥がし、もの凄い速さで逃げた。

 その瞬間バンッと扉が開き、中から抜き身の日本刀を携えた鎧武者(よろいむしゃ)が現れた。

「うわー、時代錯誤ー」

 三百年前という事を考えれば丁度いいのかも知れないが。

「まずは小手調べと行こうか」

 ヴァーリが魔方陣を展開した。

「おい待て、まだ結界張ってないぞ。――黒歌、ルフェイ、やるぞ」

「了解にゃん」

「はい」

 三人がかりで特殊な結界――普段いる空間とは少し位相がずれた擬似空間――を張る。

「これで覇龍(ジャガーノート・ドライブ)を使わない限りは大丈夫だから遠慮なくやれ」

「ああ」

 ヴァーリは頷くと魔方陣から魔力の塊を放った。

()ォォォォォ」

 鎧武者が片手に持った日本刀を一閃すると、魔力の塊が切り裂かれて霧散した。

「うわぉ。魔力って斬れたんだ」

「普通は斬れたりしないにゃ」

 でも実際には斬れている。

「ならば、今度はこれだ」

 北欧の術式が展開され、炎や氷を始めとした各属性の入り混じった魔術が放たれる。

()ォォォォォ!」

 鎧武者の刀に握った右手が霞むほどの速さで動き、放たれた魔術を全て切り裂いた。

「なるほど、どうやら魔力の類は効かないようだ。なら――」

 ヴァーリの背中の光翼の輝きが増し、ヴァーリのオーラが増大する。

「葛霧ちゃん。危ないからこっちおいで」

「それでは遠慮なく盾にします」

「発言にも遠慮がないね君」

Vanishing(バニシング) Dragon(ドラゴン) Balance(バランス) Breaeker(ブレイカー)!!!』

 ヴァーリは白の鎧を纏うと、光の軌跡を残して鎧武者へと殴りかかった。

 ギャキッ

 金属音がしてヴァーリの手甲と鎧武者の刃が火花を散らす。

「ヴァーリの速度に反応できるのか。あの鎧武者――ていうか日本刀?」

 さっきから右腕しか動いてないし。

「亞ァァァッ!」

 鎧武者の右腕が掻き消えた様に動き、ヴァーリの鎧の各所に火花が散り、鎧の欠片が光を反射する。

「おーおー。近接であそこまでヴァーリを追い込む相手は久しぶりだぜぃ」

「余り舐めるなよ」

 刃の僅かな閃きしか見えない猛攻の隙間を縫ってヴァーリの一撃が鎧武者の胸部を砕いた。

「……中身が無いだと?」

 壊れた箇所から見える鎧の中は空であり、本来あるべき中身がなかったのである。

「惡ォォォォォ……!」

 胸郭を壊された鎧武者は怒り狂ったように刀を振り回し、ヴァーリを後退させた。

「こうなると粉々に砕く他ないな」

 両腕にオーラを集中させ、ヴァーリが再び高速で動いて接近するが、鎧武者は高速で刃を振るいヴァーリを寄せ付けようとしない。

「近づけないか……ならば、こうだ」

Half(ハーフ) Dimension(ディメンション)!!』

(オン)!」

 辺り一帯の空間を半分にする技が発生したが、鎧武者の気合の入った一刀が断ち切った。

「あれまで斬れるのかよ!」

 何でもアリだな。だが、その振り切ったのは悪手だった。

「これで終わりだ」

 オーラを発する拳が振り抜かれ、鎧武者をバラバラに打ち砕いた。

 

「あー、やっと終わったか」

 近くに突き立った日本刀を引き抜き、やれやれとため息を吐く。

「葛霧ちゃん、結局あれ何だったの?」

「遥か昔、妖刀を手に入れてから豹変し、見る者を皆斬り殺した過去の亡霊です。今では刀に取り憑かれ、鎧だけになってしまっても(なお)人を殺し続ける亡霊です」

「……その妖刀って、これ?」

 手に持った日本刀を指す。

「はい、それです。ちなみに血煙というのもその刀を指しています」

「これ持つと周りの人を斬り殺すんだっけ?」

「ええ、そう言い伝えられています」

「ふむ。そういう君は何故近くに立ってるんだ? 危ないじゃないか」

「そうですね」

 そう言っても彼女は逃げようとしない。

「……よし、猿と猫ならいくらやっても大丈夫だな」

 あの二人はスケープゴートには最適だな。ただでは死なないし。

 

 操られて分かったことが二つ。

 これを持っているとある程度行動が奪われるようで、俺の場合は右腕は確実に持っていかれて、気分次第で両足も持っていかれる。

 もう一つはどうやら魔法の類を斬れること。どうやら人間を斬りまくった事で怨念が蓄積してそれがディスペル効果を生むようだ。

「尊い犠牲だった……」

「「勝手に殺すな!」」

 こいつらはゴキブリ並みの生命力だな。

「やれ」

 そう言うと右腕に握られた日本刀が二人に向かって襲いかかる。

「くっ、早くも使いこなし始めてやがるぜぃ!」

「変なものに好かれる奴だにゃ!」

(変なもの筆頭のお前らが言うな)

 そう思いながらも右腕は勝手に動き続ける。

(あ、これ肩と腕への負担がかなり来る)

「ステイステイ」

 これで日本刀が落ち着いた。

(まるで犬だな)

 俺の周りには犬はいなかったから、新鮮である。あ、最近ではフェンリルが居たか。

(今度(きじ)を見つけたら鬼退治に行こう。あ、不死鳥でいいか)

 次は鬼ヶ島でも行くか。

 

 

 

「それじゃあ葛霧ちゃん、今日はお世話になったよ」

「いえ、お気になさらず。これも役割ですので」

 時々不思議な事を言う子だな。

「最後に一つだけ。あなたが持っていくあの妖刀のことです」

 俺は足元の影に仕舞い込んだ鞘がない日本刀を見る。

「これがどうかしたかい?」

「それの銘は『霞桜(かすみざくら)』と言います。製作者が付けた本当の名前、覚えおいておいてください」

(なんでそんな事知っている?)

 などとは思ったが、どうせ訊いても答えてはくれないのだろう。

血煙(ちけむり) 霞桜(かすみざくら)ね……中々良い名だ。覚えておこう」

「誰も一緒にしろとは言ってませんが、まあいいでしょう。今の所有者はあなたなのですから。(もっと)も、凶器の所持者は居ない方が良いのでしょうけど」

「違いない」

 二人揃って肩を(すく)める。

「それじゃあ、またお会いしましょう。黒縫さん」

「ああ、また会おう。葛霧ちゃん」

 


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