ハイスクールD×D Dragon×Dark   作:夜の魔王

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今にして思えば、これがドライグにとっての受難の始まりだった……。
もしくはおっぱいドラゴン誕生の予兆でもある。


世界一酷い禁手のなり方。

「クソっ!」

 小猫と朧の格闘戦を見ながら、一誠は自分の不甲斐(ふがい)なさを(ののし)った。

(自分より小さい女の子が戦ってるのに、俺は何もできないのかよ!)

 神器(セイクリッド・ギア)が使えない以上、一誠は小猫より弱く、こうなっても仕方ないのだが、それで納得などできるはずがなかった。

(どうすればいい!? どうすればこの状況で禁手(バランス・ブレイカー)に至ることができる?)

 一誠は考えた。必死になって考えた。今までで一度考えた。そして思い至った。思い至ってしまった。

「部長……分かりました。俺が何故、禁手(バランス・ブレイカー)に至れなかったのか」

 一誠には、アザゼルのとある言葉を聞いてから、ドラゴンに追いかけられている時も考えていた事があった。

「俺が禁手(バランス・ブレイカー)に至るには、部長の力が必要です」

「私は何をすればいいの?」

 それを聞いた一誠は、意を決して言った。

「部長のおっぱいをつつかせてください」

 その瞬間、朧の身を包むオーラが激減した。

「――ッ! ……分かったわ。それであなたが禁手(バランス・ブレイカー)に至れるなら!」

 このやり取りに朧のテンションは下がる一方である。シリアスモードで無かったらもっと自分を大切にしろとか叫んでいた。実際今もプルプル震えている。

「本当にいいんですか、部長……」

 それにリアスがドレスの胸元をはだけさせる。それを見た朧のテンションは更にダダ下がりして、小猫の一撃を喰らって吹き飛び、木に激突した所でタンニーンのブレスを吐きかけられる。

 もう煮るなり焼くなり好きにしろといった風情(ふぜい)である。

「小僧……一体何をしようとしている?」

「乳をつついたら禁手(バランス・ブレイカー)になれる可能性が高い!」

「俺との修行は無駄か!?」

 流石の元龍王も呆れ気味である。

「ねえ美猴。あれは何かの作戦かしら? リアス・グレモリーが乳房をさらけ出して赤龍帝と何かしようとしているわ」

「俺っちに()くな。赤龍帝の思考回路は俺っちたちとは別次元にあるんだってばよ」

 木陰に隠れてこそこそと話していた二人は、朧に気づかれ魔術の一斉射撃を撃ち込まれた。更にタンニーンのブレスも吹きかけられた。しかし、そのどちらの威力も先ほどよりも弱まっていた。

「おっさん、大変だ! 右と左、どっちをつつけばいい!?」

「知るかこのバカ野郎ォォォ! とっととつついて至れェェェ!」

 タンニーンの叫びに、朧が内心で大いに頷いた。ちなみにこの二人は現在死闘中である。

「部長、オススメは!?」

「だったら同時につつけばいいでしょ!」

 朧は小猫の両手を掴んでくるくる回り始めた。

「にゃーん」

「……にゃーん」

 現実逃避し過ぎである。

 そんな中、一誠がリアスの乳に指を(うず)めた。

「……ぃやん」

 それを聞いた瞬間、一誠には見えた。

 

 ――宇宙の始まりが。

 

『至った! 本当に至りやがったぞ!』

 一誠の中のドライグが笑うが、半ば自棄糞(やけくそ)である。

Welsh(ウェルシュ) Dragon(ドラゴン) Balance(バランス) Breaker(ブレイカー)!!』

 赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の宝玉に光が戻り、一誠を赤いオーラが包む。

「……小猫、お前の相手はここまで。ダンスの相手はまた今度ね」

 朧はそう言うと、小猫を魔術で作った檻の中に閉じ込める。

禁手(バランス・ブレイカー)赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)』! 主のおっぱいつついてここに降臨!」

 一誠のオーラが赤い鎧と化し、その身を包んだ。

「史上稀にすら見ない禁手(バランス・ブレイカー)へのなり方を見せてくれてありがとう。控えめに言って最低だな」

『相棒、それは俺も同感だ。これは酷い。そろそろ泣くぞ』

「エロくてゴメン。それで首尾は?」

『三十分の間禁手(バランス・ブレイカー)を維持できる。弱いお前にしてはまずまずだ』

「それでは小手調べと行こうか! 赤龍帝(せきりゅうてい)籠手(こて)だけに!」

 広げた両手の間に無数の黒槍を出現させ、それの穂先に魔方陣を出現させる。

黒槍(こくそう)穿(うが)て!」

 発射された黒槍は魔方陣を通過すると黒いオーラを纏い、一誠目掛けて直進する。

「ドラゴンショット!」

 一誠が撃ちだした魔力の弾は、黒槍を消し飛ばして朧へと直撃すると赤い閃光が奔り、爆音が響き渡り風景を消し飛ばした。

「……っ!」

 その直後、檻に入れられた小猫が一誠の元に飛ばされてきた。

「小猫ちゃんゴメン! こんなつもりじゃ……」

 その一撃の威力には、一誠も驚いて来た。

「ハハハ! 久しいなこの赤い一撃! この周囲一帯を覆っていた結界が消し飛んだぞ!」

『全身のオーラを手元に集めて放つ一撃だ。連発はできないが威力は通常よりも何倍も上だ』

「朧の奴、死んだんじゃないか……?」

 立ち上る土煙を見ながら一誠がそう言うと、土煙に不規則な動きが生まれた。

「……フフフ、フフフフフハハハハァッ!!」

 土煙が吹き飛び、哄笑を上げる朧が現れる。

「中々にいい感じだなぁ! 面白くなって来た!」

 朧は全身を黒いオーラに包むと、一誠目掛けて突撃する。

「貴様の相手は赤龍帝だけではないぞ!」

 上空からタンニーンが炎を吐くが、朧はそれに一切構わずに直進し、炎の中を突き抜けて一誠へと肉薄する。

「う、うぉぉぉぉ!」

Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)Boost(ブースト)!!』

 朧の鬼気迫る勢いに、一誠は思わず全力の一撃を繰り出す。伝説のドラゴンが、生身の人間に。

 一誠の鎧に包まれた拳と、朧のオーラに包まれた拳が激突する。普通に考えれば朧の右拳は吹き飛んでもおかしくない。だがその一撃は拮抗し、鎧にひびを入れた。

「らぁ!」

 そして、朧は重なり合った拳をずらし、一誠の胸へと手を当てる。

徹寸勁(とおしすんけい)……!」

 朧が震脚と共に放った一撃は赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)を素通りし、一誠に直接衝撃を伝えた。

「ぐっ……おおっ!」

 一誠はそれに耐え、反撃の拳を朧の腹に叩き込んだ。

「がはッ!」

 口から血を流して朧が吹き飛ばされる。

「やるなぁ赤龍帝!」

 口から血を流しながら、朧が左腕にオーラを集中させ、右手に今までとは形式の違った魔方陣を出現させる。

「奥の手、見せて――」

 そこまで言った所で近くの空間に裂け目が生まれ、そこから背広姿の男が姿を見せる。

「そこまでです。悪魔に気づかれましたよ」

 手に絶大な聖なるオーラを発する剣――聖王剣コールブランドを持つアーサーがそう言うと、陰から美猴と黒歌が姿を見せた。

「ふーん。で?」

 そう言って継戦しようとした朧は、美猴と黒歌に両腕を掴まれる。

「落ち着けって! それはやりすぎさね!」

「そうにゃん! これ以上はおふざけじゃ済まないわよ!」

「貴様らだけには言われたくはないわ!」

 激怒して美猴と黒歌を振り払う朧に、アーサーが静かに声をかける。

「朧、オーフィスが寂しがっていましたよ」

「さあ行こう今すぐ行こう待っててねオーフィス今行くよ。それでは皆さんまた会う日までさようなら!」

 そう言い残して、朧は足元に高速で魔方陣を展開。それが光るやいなや四人はこの場から転移をした。

 誰の介入も許さないほど見事な逃げ方に、一誠たちは何も言えなかった。

 


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