IS学園潜入任務~壁の裏でリア充観察記録~   作:四季の歓喜

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自分の中で区切りが悪かったんで、外伝の前にもう一話だけ更新しときます。


インターバル

 

 

マドカに与えられた、スイートルームの一室。明らかに値の張りそうなもので溢れ返ったその部屋は今、濃い血の臭いで満たされていた。常人ならば、その悍ましさに吐きかねない程の強烈な臭い。しかし、そんな血の臭いに囲まれながらも、部屋の主は眉一つ動かさずに部屋の中央で、この惨状を作り出した張本人と向き合っていた。

 

「ほれ、リスだ」

「おー」

 

 セイスの血で作られた小動物を手に持って、目をキラキラさせながら…

 

「本当に面白い。リムーバーもそうだが、技術部の連中って実は凄いんだな」

「マニュアル読んだ時はバカじゃねぇのと本気で思ったが、今となっちゃ感謝の気持ちでいっぱいだよ。ほれ、次のリクエストは何だ?」

「それじゃあ、コレ」

「お前の愛用ナイフか、余裕だぜ」

 

 セイスガがそう言った途端、マドカの手の上に乗っていたリスが形を崩し、その姿を見る見るうちに変えていく。やがて、真っ赤で生臭くも可愛いリスは、マドカが持つ高性能ナイフ(ただし赤一色)へと変身した。もう何度目か分からない能力の無駄遣いとも言えるセイスの一芸に、マドカは心の中で拍手を送った。

 近辺の敵勢力を粗方壊滅させたセイスは、あの通信の後、大人しくスコールのアジトへと戻った。その頃には頭も冷え、指示に真っ向から逆らおうとしたことを思い出して肝も冷えたが、幸いにも小言を幾つか貰うだけで済んだ。その後は別命があるまで待機しているように言われたのだが、ここで自分の部屋は自分で壊してしまったことを思い出す。その気になれば我慢できないこともないが、ここまで来てあんな吹き抜けで休む気にもなれなかったセイスは結局、マドカの部屋にお邪魔する事に決めたのだった。戻ってから顔を会わせた時は、何故かマドカにやたら身体を心配され不思議に思ったセイスだったが、自室が崩壊していた理由を問われ、その時になってようやく新型ナノマシンと、それによって手に入れた力について説明。折角なので、再び部屋を壊さない程度にB6のお披露目をすることに決め、今に至る。彼女の反応を見る限り、新型に対する印象は至って好評のようだ。

 

「何してんだ、お前ら…」

 

 と、その時、部屋の扉から誰かの声。二人が顔を向けると、いつの間にか二人の人物が立って居た。一人は金髪の、どことなくスコールに似た雰囲気を持つ少女。その一人の後ろに隠れるようにしながら、セイス達の様子を窺うようにしている黒髪の小柄な少女。その二人の顔を見た途端、セイスは好戦的な笑みを浮かべ、ゆっくりとした動作で立ち上がり、改めて彼女達と向き合った。

 

「これはこれは、何やら見覚えのある顔が二つ、雁首揃えていらっしゃる…」

「なんだ、オレとフォルテのこと覚えてたのか」

「仮にもお前ら専用機持ちの代表候補性だったろ、そりゃ顔ぐらい覚えとくさ。それ抜きにしたって、あの時は中々に痛い思いしたからな。あれ以来、テメェらのことボコボコにする段取りを考えなかった日は無かったよ…」

 

 思い出すのはIS学園の学園祭、その時に果たした邂逅と遭遇戦。片やISまで使って殴り飛ばされ、片やISを纏っているにも関わらず、殴られた上に逃げられた。あの出来事は互いにとって、忘れがたい記憶となって頭に残っていた。機会さえあれば、今度こそぶちのめしてやろうとさえ思っていた。今日、この日までは…

 

「スコールおばさんから話は聞いてるか?」

「一応な。ま、これまでのことはお互い水に流して精々仲良くしようや、ダリル・ケイシー……いや、レイン・ミューゼル…」

 

 レイン・ミューゼル…それが、ミューゼル一族の一員にして、スコールの懐刀である彼女の本当の名前。IS学園にスパイとして潜入すること約二年半、役目を充分に果たしたと判断された彼女は、多くの手土産と共に再びスコールの元へと戻ってきた。

 

「ところで、お前の本名は何ミューゼルなんだ、フォルテ・サファイア?」

「いや、私はそういうのじゃ無いッス」

 

 その手土産の一つが、レインの背後から身を乗り出してまでセイスに異を唱える彼女、ギリシャ代表候補性フォルテ・サファイア、そして彼女の専用機コールド・ブラッドだ。

 

「今日からコイツも亡国機業の一員だ、スコールおばさんにも話は通してある」

「そう言う訳なんで、先輩共々よろしくっス」

「へぇ、お前がねぇ…」

 

 こちらも学園祭の時、セイスがやり合う羽目になった内の一人だ。普通の人間なら立ち上がれなくなるような痛い一撃を思い出して、彼は二人に攻撃を受けた部分が疼いた気がした。

 事前にスコールから話を聞かされていたからこの程度のリアクションで済んでいるが、もしもそうでなかったら、気配を感じた時点で殺しに掛かっていたかもしれない。

 

「おい、フォルテはオレの女だからな、手ぇ出すなよ」

「お前もソッチかよ、流石は姉御の親族。それと安心しろ、俺も敵と味方の分別くらいつけれる」

「そうか、なら良い」

 

 僅かに滲み出た殺気を感じ取ったレインにくぎを刺され、セイスは肩を竦めて答える。そんな彼を一瞥した後、レインはマドカに目を向けた。

 

「お前もよろしくな、エム」

「ふん」

 

 素っ気ないマドカの態度に、流石のレインも苦笑いを浮かべた。スコールからどんな奴なのかセイスの事と一緒に聞かされてはいたのだが、ここまで露骨だともう笑うしかない。

 マドカとしても、ただでさえセイスを傷つけたことがあるレイン達に良い印象を抱ける訳も無く、加えて親族なだけあってレインの顔立ちと雰囲気がスコールとそっくりなところが余計に気に入らず、二人と仲良くしようとする気は欠片も無いうようだ。

 

「ハッ、聞いてた通り可愛げの無い奴だな。まぁそのぐらいお固い方が、身も心も溶かし甲斐が……冗談だよ、冗談。だから全員落ち着け…」

 

 ナイフの風切り音と血の臭い、そして隣から漂ってくる冷気に、レインは命の危機を感じた…

 

「まったく冗談が通じないな、どいつもこいつも」

「生憎とボケ担当は、うちの阿呆専門で間に合ってるんだよ」

 

 

◇◆◇

 

 

「ぶえっくし!!」

「うわ汚ねっ、風でも拗らせたか?」

「んー、そんな気はしないんだけどな……誰か俺の噂でもしたか…?」

「どんだけ暇なんだよそいつ、オランジュのこと話題に出すとか」

「どういう意味だそりゃオイ?」

 

 

◇◆◇

 

 

「んじゃ、挨拶も済んだ事だし、そろそろオレ達も行くわ」

「それじゃお二人とも、失礼するっス……先輩は後でオハナシっス…」

「え゛…」

 

 結局、フォルテに引き摺られるようにしてレインは帰って行った。どうやら、本当に挨拶の為だけに顔を出したようだ。姉御辺りに、一度は顔を出しとけとでも言われたのかな…

 

「お前にしては随分とあっさりだったな」

「昨日までならともかく、流石に姉御の部下と知った上で手を出すのは不味いだろ」

 

 何も知らされていなかった当時ならまだしも、もう姉御直々にレインのことを説明された今、手を出したら完全な味方殺しになる。そんなことしたら、どうなるかなんて言うまでも無い。

 まぁ、あの時は色々あったが、さっきも言った通り水に流して、これからは仲間としてやっていこう。オータムみたいな性格だったらちょっと話は違ってきたかもしれないが、幸いレインもフォルテもそこまで嫌な奴じゃあ無さそうだし。

 

「嗚呼でも、本音を言えば少し残念だ」

 

 あの時は碌に武器も持たずに生身だったから良いように殴られたが、今の俺にはB6がある。炎と冷気が相手じゃ相性的に不利なのは否めないが、やりようは幾らでもある。エネルギーを削り切って、ISを解除させたら、そこからはずっと俺の番だ。殴って、潰して、切り刻んで、串刺しにして、泣き叫んで許しを請われたところをまた殴って、磨り潰して、それから…

 

 きひっ

 

「セヴァス」

「っと、どうした?」

 

 いけない、いけない、なんかいつの間にかボーっとしてた。マドカに声掛けられなかったら、そのまま寝てたかもしれない。やっぱり、疲れてるのかな俺。それを分かっていたから、姉御も戻れって言ってくれたのかな。そう言えば俺、どうしてあの時、姉御に逆らおうとしたんだろ。今思うと、不思議でしょうがない。今まで、マドカのこと以外で姉御に逆らおうなんて、思ったことさえ無かったのに…

 

「お前こそ、どうした…」

「何が?」

 

 どうしたと言われても、単にこれからレイン達とは仲間としてやっていくんだなって、改めて思っただけなんだけど……あれ、その筈だよな…?

 そして、どうしてマドカはそんなに心配そうに俺の事を見つめてくるんだろうか。帰ってきた時も、こんな顔してやたら俺の身体を気遣ってくれたんだけど、もしかして今朝のサンドイッチに悪戯で何か変なものでも仕込んでいたのか。だとしたら、さっきの『サンドイッチありがとう』の言葉を返せと言いたい。

 

「……いや、多分気のせいだ、忘れてくれ…」

「気のせい?」

「きっと、お前も私も疲れてるのさ。それよりも、もっと見せてくれ、宴会芸」

「宴会芸言うな」 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

「スコール・ミューゼルにとってレイン・ミューゼルは隠し玉。隠し玉ってのは、存在を隠してこその隠し玉。俺達フォレスト派に存在を隠してたってことはつまり、そう言う事なんだろうな」

 

 以前から不穏な動きを見せていたが、このタイミング…存在隠すべき相手が消えたと判断し、レイン・ミューゼルを手元に戻したという事は、スコールがついに本腰入れて動き出すという事だろう。

 

 尤も、隠し玉の存在は自分も、あの人もとっくに把握していたが…

 

「どうにかして、セイス辺りがうっかり殺しちゃう展開にでもなってくれりゃあ儲けもんだったが、流石にそこまで甘くはなかったか…」

 

 あの学園祭以来、同士討ちを警戒したのか、セイスやアイゼンがレインと遭遇しかねない、もしくは敵対する可能性が高い指示をスコールは絶対に出さなくなった。レインのことを伝えられる前と後では、殺してしまった時の面倒が段違いなので、この展開は非常に残念だ。態々自分とあの人以外には、フォレスト派のメンバーにさえレインのことを把握させなかったと言うのに、これでは『知りませんでした』で済ませることが出来ないじゃねーか。あーあ、折角レインの件はあの人に任されていたってのに…

 

「ま、今となっては過ぎたことか…」

 

 別に絶対に殺す必要は無いし、むしろ殺す羽目にならなくて良かった気もするけどな。あの人も、『対処を任せる』としか言って無かったしな。それよりも、今はこっちだ。さっきの電話でオコーネル社傘下の子会社は一通り制覇したから、次は欧州諸国の非合法組織…は、バンビーノに任せれば良いとして、問題は各国の諜報部の連中と話付けなければいけないことか。正直、そろそろ電話の受話器を持つ腕が痛くなってきたな。でも、これやらないと後が大変だから…

 

「さて、もうひと頑張りするかね……もしもし、私、ファントムと申しますが…」

 

 これ終わったらボーナス弾んで下さいよ、旦那…






次回こそ外伝で弾と虚さんのデート回。因みに、舞台をプールと遊園地、どっちにするか絶賛お悩み中…;

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