IS学園潜入任務~壁の裏でリア充観察記録~   作:四季の歓喜

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お待たせしました、二人の京都旅行開始です。


アイカワラズ~京都珍道中その1~

 

「では失礼します」

「えぇ、御苦労さま」

 

 無事に京都、そしてスコール派のアジトであるホテルにまで辿り着き、アリーシャをスコールの元へと送り届けたセイスとマドカ。簡単な報告と挨拶を済ませると、すぐにアリーシャとの話し合いに入る為なのか、スコールは早々に二人を解放した。マドカに『成り金の鉄人クソババァ』とまで言われる、彼女のセレブリティな部屋から出て十秒後、通路をスタスタと歩く二人はと言うと…

 

「良し、自由の身だ!!」

「バカバカ、姉御に聞かれるだろうが!!」

「ハンッ、知ったことか。それに奴も『御苦労様、後は自由にして良いわ。ゆっくり楽しんでらっしゃい、お金の心配は要らないから』と言ってただろ?」

「言ってない言ってない、そこまで言ってないし、絶対にそんなこと思ってない」

 

これ以上にないくらいに浮かれまくっていた。マドカを嗜めるセイスでさえ、顔がニヤついている。

 

「て言うか金の心配は要らないって、俺の財布の中身にも限界があるから、そんなに当てにされても…」

「安心しろ、抜かりは無い」

 

そう言ってマドカはどこからともなく、ワインレッドの長財布を取り出した。見るからに値の張りそうな、それでいて中身がギッシリの財布は、どう見てもマドカのものでは無い。絶対に誰かのをパクって来たのだろうが、こんな財布を持っていた奴の心当たりは、少なくとも自分のセイスの中には無かった。

 

「オータムの?」

「違う」

「オランジュのか?」

「ハズレ」

「……まさか、姉御の…?」

「そんな自殺行為するくらいなら自分の貯金に手を出す」

「日頃から人の金に手ぇ出す前に自分の貯金に手ぇ出してくれない?」

 

取り敢えずマドカが狙いそうな奴の名前を言ってみるも、全てハズレ。その後も何人かの名前を出すも、全て該当せず。程なくして、セイスは両手を上げて降参の意を示した。

 

「駄目だ分からん。誰のなんだ、その財布?」

「アリーシャ・ジョセスターフ」

「バカ野郎ッ!!」

 

 一瞬にして脳天に落とされた雷げんこつ、畳み掛けるように響く怒声。

 

「お前、仮とは言え協力者に何てことをしやがる。こんな下らない事で怒らせて、同盟関係パァにされたらどうする気だ!?」

 

織斑千冬との決闘、そのお膳立ての約束を守る限りアリーシャは此方に協力してくれる。しかし彼女は基本的に気分屋だ、度が過ぎればどうなるか分からない。幾ら裏工作してイタリアに戻れなくしたところで、彼女が首を横に振ったらそれまでだ。そもそも、仮にも客将とも言うべき彼女相手にそんなことしたら、確実にスコールがぶちギレる。それだけは、何がなんでも防がねばならない。

まぁ尤も、既に客将の心に深手を負わせているのだが、その事実に二人が気付くことは無かった。

 

「お、落ち着け、冗談だ、ドッキリだ、御茶目なジョークだ。謝るから、二発目はやめろぉ!!」

「本当だろうな?」

「あぁ勿論だ、見事に度肝を抜いてやろうと思って昨日から企んでたんだ。因みに、コレはオータムの財布。奴がこの趣味の悪い長財布を使ってるところを何度も見ているから、間違いない」

 

 それを聞いて、暫し考え込む様子を見せるセイス。そして、問い掛ける…

 

「現金は?」

「札束がギッシリ」

「カードは?」

「金色と黒いのが何枚も」

「暗証番号は?」

「チョロかった」

「なら良し」

 

 それはもう、力強いサムズアップだった。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「アレ?」

「どうかしたのかしら、アリーシャ・ジョセフターク?」

「いや、ちょ、財布が……あれ、どこかで落したのかナ、赤い奴なんだけド…?」

(まさかあの娘、やらかしてないわよね?)

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「さて、どうやって誤魔化そうか…」

「何だって?」

「いや、何でもない」

 

軍資金を手に意気揚々とホテルを出た二人は現在、路線バスに揺られながら、京都の街並の景色を堪能していた。任務内容の都合で外出が滅多に出来ないセイスは、今の状況が余程楽しいのか、上機嫌に鼻歌まで口ずさみ始めた。その様子を眺めている内に、予想以上に怒られたので咄嗟に嘘ついて誤魔化したことを、どうやって誤魔化そうか悩んでいたマドカも、取り敢えず今はその事を忘れることにした。そこ、現実逃避とか言わない。

 因みに現在、マドカは私服であることに加え、いつもの変装…伊達メガネに茶髪染めの状態である。

 

「まずは腹ごしらえからだな」

「まずはって言うがお前のことだ、どうせ最初から最後まで花より団子だろ」

 

今日一日で巡るルートは、この数日に二人で計画して既に決めてある。その時、行きたい場所、やりたいことの希望を互いに出しあった訳だが、例によってマドカの希望は『〇〇店の〇〇が食べたい』といったものばかりだった。

 

「失敬な、私だって京都の名所にちょっとくらいは興味あるぞ」

「じゃあ、アレはなんだ?」

 

 そう言って、セイスはバスの窓の向こうを指差す。彼の指の先には、京都を代表する建物の一つである巨大な塔が建っていた。それを見たマドカは、馬鹿にするなと言わんばかりに鼻で嗤い、ドヤ顔で即答する。

 

「スカ○ツリーだろ?」

「違ぇよ」

 

 こいつの口から京都タワーって名称は出てこないだろうとは思っていたが、更に予想の斜め上をいく解答に思わず溜め息。その時にふと、視界に入ってきた一軒の建物。何の店なのか分からないが、まだ早い時間にも関わらず行列できていた。折角なので、敢えて隣のアホに訊いてみる。

 

「あの店は?」

「団子専門店『うぃにっと』。三年前に出来たばかりの新店だが、店主は数々の老舗和菓子店で長年修業を積んだ職人で、その腕前は数々の名店を唸らせる程だとか。一番人気はミタラシ団子で、グルメ雑誌『月刊あや菓子』でも人気ランキングで堂々の一位」

「さっきと打って変わってこの博識っぷりよ、やっぱり団子じゃねぇか」

「団子だけじゃない、湯葉も好きだ」

「やかましいわ」

 

 さっきよりも深い溜め息をついたところで、セイスが再びマドカに目を向けると、彼女の視線は窓の向こうに固定されていた。うぃにっと団子店とやらを、ジーッと見つめていた。信号待ちで止まってたバスが動き出しても、ずーっと見つめ続けていた。なので、問う。

 

「食べたいの?」

「食べたいの」

「降りるの?」

「降りるの」

「停車ボタン」

「スイッチ、オーン」

 

 ピンボーンと言う小気味良い音を鳴らし、同時に席を立つ二人。丁度バス停の手前だったようで、バスはすぐに止まった。早く団子屋に行きたいのか、足早に降車口に向かうマドカと、それを追いかけるセイス。そんな二人はがバスを降りようとした、まさにその時だった。

 

「皆さん、席に戻って下さい」

 

 降車口から、二十代半ばの男が包丁を手に持って乗ってきた。突然のことに乗員乗客の殆どが事態を飲み込めず、思わずポカンとしてしまい、逆に状況を理解出来てしまったものは驚愕と恐怖で固まってしまった。その様子に気を良くしたのか、男はバスを降りようとした乗客達の列、その先頭に立っていた者に包丁を向けながら、芝居掛かった口調で言葉を続けた。

 

「大人しく言う事を聞いてさえくれれば、危害はけぼふぉっ、げはぁ!?」

 

 が、先頭に立っていた者…マドカとセイスが問答無用でダブルヤクザキックをお見舞いし、蹴られた若者は勢いよく外へとぶっ飛び、その衝撃で手放した包丁はクルクルと宙を舞った後、セイスの手に収まった。

 

「百均のか、質屋に入れたとこで、はした金にもならねぇな。返しとこ」

「セヴァス、早く早く」

「はいはい」

 

 そう言って、セイスとマドカはさっさとバスを降りていった。誰もがポカーンとして言葉を発せない中、乗車代として精算機に放り込まれた二人の小銭の音だけが鳴り響いた。

 

◇◆◇◆◇

 

 

『次のニュースです。本日未明、バスジャックを計画したとして、二十代無職の男性が逮捕されました。男は近くの百均で購入した包丁を凶器にバスへ乗り込み、乗員乗客を人質に取り、バスを乗っ取ろうとした疑いが持たれています。しかし通報を受けた警察が駆け付けたところ、男は既にバスの外で倒れ、気を失っていたとのことです。丁度バスから降りようとした乗客の一人が、男が包丁を取り出すと同時に蹴り飛ばして外に叩き出した、と言った証言が多数寄せられており、警察は現在、事情を聞く為にこの乗客の行方を追っています』

 

「……あの二人じゃないわよね…?」

「どうかしたのかナ?」

「い、いえ、何でもないわ。それよりも、貴方が私達に協力することを、私の部下にもギリギリまで黙っておくことに関してだけど…」

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「うまーーーーい!!」

「そりゃあ良かった」

 

 他人の金にモノを言わせ、店にあった団子を一通り買い漁って御満悦のマドカ。店を出て早速一本パクついていたが、お味の方は御覧の通りだ。そして、その上機嫌な表情のまま包みからもう一本取り出し、無言で差し出してきた。折角なので、俺も一本貰って食べてみる。

 

「あ、凄ぇ美味いわこの団子」

「だろう?」

 

 咄嗟に出たシンプルで、それ以外に表現のしようが無い俺の感想に、マドカはどこか満足げだった。しかし、流石は亡国機業で姉御に次ぐグルメ舌、相変わらずこいつが美味いと言ったものに外れ無し。今後も、新しい料理にチャレンジする時は、さりげなく毒見…もとい、味見させよう。

 

「さて勢いに任せて降りちまったが、どうしようか。次のバスまで時間があるが…」

「金なら有り余ってるし、タクシーでも捕まえれば良いんじゃ?」

「それだと何だかつまらない」

 

 とは言ったものの、じゃあどんなのなら面白いんだと聞かれたら、具体的な案は俺も無い。取り敢えず、何か無いかと周囲を見渡すが、バス停前で目に付くのは道路を走る自動車、バス、タクシーばかり。コレと言って特別な物は見当たらず、やっぱりバスかタクシーにするかと諦めた掛けた、その時だった。

 

「あ、人力車…」

 

 ふと視界に映り込んだ、京都ならではの移動手段、人力車。同じ京都とは言え、この辺の地域では余り居ないと聞いていたが、IS関係によって増えた観光客に対応する為に、色々と変化があったのだろうか。

 それはともかく、一度見てしまうとやはり興味が湧く。自動車とも馬車とも違う、人が引くことが前提の乗り物、その乗り心地がどんなものなのか、やっぱり気になる。なんて思ってたら、唐突にクイクイと裾を引っ張られる感触。振り返れば、隣で団子食ってたマドカが俺の裾を掴んでいた。そして、さっきのバスでのやり取りを、問う側と問われる側を逆にして、いざ再現。

 

「乗りたい?」

「乗りたい」

「乗る?」

「乗る」

「すいませーん、乗客二人でーす!!」

「はーい、只今参りまーす」

 

 マドカの呼び声に気付いた車夫が、人力車を引っ張りながら急ぎ足で駆け寄ってくる。しかし、段々と近付いてくるその人の姿に、凄く見覚えがあった。俺と同じ位の年齢、アリーシャとは違う質の赤い髪、頭に巻いたバンダナ。ルックスに関しては悪くなく、むしろ充分にイケメンを名乗って良いのではなかろうか。そんな、十代半ばの若者。

 

「あれ、もしかして?」

「五反田食堂の?」

「あ、常連さんじゃないですか。どうしたんですか、こんなところで?」

 

 監視任務中に足を運んだ回数は数知れず、何を食べるか迷ったら、取り敢えずその店に行くことを選択。監視任務が終わってからも行こうと思うぐらいに、今ではすっかり常連の一人になってしまった。大衆食堂『五反田食堂』、その店主の孫であり、織斑一夏の親友こと『五反田弾』、その人であった。

 こっちの事情が事情なのでまともに会話をしたことは無いが、常連客として何度も訪れる内に顔を覚えられ、簡単な挨拶くらいは交わすようになっていた。その為か、俺達が相手のことを覚えていたように、向こうも俺達のことを覚えていたようだ。まぁ、マドカと一緒に初来店した時に色々とあったという点もあるだろうが。

 

「あ、もしかしてデートですか?」

「いやぁ、仕事の都合でこっちに来ることになったんですけどね。折角京都に来たんで、自由時間を利用して京都の街を観光しようかと」

 

 嘘は言ってない。

 

「て言うか、そっちこそどうしてこんな場所に? まさか、家出…」

「いやいや違いますよ、ちょっと訳あって金が必要になりましてね、知り合いの伝手でこのバイトを紹介して貰いまして…」

「……ははーん…」

 

 そう言えば、彼は布仏虚とちゃっかり交際していた。しかも未だに進展の無いラヴァーズ(主人含む)を差し置いて、相思相愛の、初々しくも非常にラブラブな関係を築き上げているとか。この前も普通にデートしてたし、それを知ったオランジュが妬ましげな溜め息を零した後、何故か俺を見て更に深い溜め息を吐いていた。今更だが、解せぬ。

 それはさておき、とにかく五反田の目的は、愛しの彼女さんへのプレゼント代を稼ぐ為と見た。マドカも同じ考えに至ったようで、微妙にニヤついている。きっと、俺も同じような顔してるんだろう。気付いたら同時に五反田の肩に、二人して手をポンと置いてるし。

 

「な、何ですか二人して、その意味ありげな笑みは?」

「べっつにー」

「とにかくアレだ、頑張れよ」

 

 友人と言う訳では無いが、全くの赤の他人と言う訳でも無い。むしろ顔馴染みとして、ここは純粋に二人の恋路を応援してやろう。て言うか二人の実家を考えると、物理的にも応援してやんないとダメかもしんない。今度、オランジュあたりに相談してみようかな…

 

「あぁもう調子狂うな、まぁとにかく乗って下さい」

「じゃあ、お言葉に甘えまして」

「失礼しまーす」

 

 俺達が察したことを察したのか誤魔化すように、五反田は人力車に乗る様に促してきた。あまりからかい過ぎるのもアレなので、ここは素直に従っておくとする。因みに、どうやって乗るのか分からなかったので取り敢えず飛び乗ってみたら、ちょっと怒られた。

 

「お、良いね。こういうの初めて乗ったけど、思ったより良いわこれ」

 

 初の人力車の乗り心地は、想像していたよりも悪くない。思ったよりも高い場所に座っており、眺めも良い。マドカが団子買いにバス降りたのは、結果オーライだったかもしれない。そう言おうとして隣に座った本人に顔を向けたら、景色そっちのけで次の団子に夢中だった。多分、今のこいつの頭の中には、目の前の団子と、次に向かう店のことしか無い。

 

「それで常連さん…じゃなかった、お客さん、どこに向かいます?」

「あーマドカ、地図出してくれ」

「もが」

「それと俺にも団子もう一本」

「ん」

 

 気を取り直し、マドカが取り出した地図を元に、団子片手に行き先を指定しようとした、その時だった…

 

「捕まえてえええええぇぇぇぇ引ったくりよおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!」

 

 そんな叫びが後ろの方から聴こえ、五反田が人力車の横から背後を窺い、俺とマドカも人力車から身を乗り出した。すると、白マスクにサングラスの男が女性ものの高そうなバッグ片手に、猛スピードで自転車を走らせながらこっちへと向かって来ていた。更に、その男の後方には、先程の叫び声を上げた本人であろう女性が、歩道に倒れながら、無駄と分かっていながらも自転車の男に向かって手を伸ばしていた。

 

「マドカ」

「あむッ」

 

 受け取った団子、うぃにっと団子店の一番人気『ミタラシ団子』を、マドカの目の前に差し出す。マドカはそれを横からパクリと一口で平らげ、俺の手元には何も無い串だげが残る。

 

「あ、そーれ」

 

 それを全力で、男の自転車の前輪に投げつけた。

 

 

―――パァン!! ガッシャン、ゴッ、グシャッ!!

 

 

 俺の投げた団子の串によって前輪がパンクし、バランスを崩して男は転倒。そのまま顔面から道路へと叩き付けられ、うつ伏せに倒れたままピクピクと痙攣していた。そしてトドメを差すように、丁度近くを通り掛かった巡回中の警官が、男の元へと駆け寄って行く…

 

「な、何が起こったんだ?」

 

 引ったくりしか見てなかったせいで、俺達が何をしたのか全く見てなかった五反田が、心底不思議そうにそんなことを呟いた。傍から見れば、引ったくりの自転車がひとりでにパンクしたようにしか見えなかっただろう。

 

「天罰でも下ったんじゃないですか?」

「……。(もぐもぐ)」

 

 何食わぬ顔で、口いっぱいに団子を頬張ってハムスター状態のマドカの隣で、俺はそう言った。




○今回のセイス、いつもより浮かれていますので、酔った時ほどではありませんが、自重しません
○マドカは更に自重しません
○ローランド王国の『ウィニット団子店』、知ってる人、居るかなぁ…
○セイスとマドカの性格って、あのラノベのメイン二人の雰囲気に触発された面もあるんですよね


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