IS学園潜入任務~壁の裏でリア充観察記録~   作:四季の歓喜

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お待たせしました、久々のM&6です。久々過ぎてやりたい放題です…;


そして彼らは…

 

 

「あぁ疲れた…」

「うへぇ、すっかり磯の香りが染み付いてやがる…」

「よぉセイスにバンビーノ、お帰り」

 

 イーリスと一夏をやり過ごし、沈み行く空母から脱出した俺とバンビーノは、IS学園の隠し部屋に帰還した。アイゼンは念の為、この期に及んで夕食デートに出掛けた一夏と楯無を尾行しに行っている。本当にどうしていつもアイツは、あんな大事があった直後に普通に過ごせるのか不思議でしょうがない。

 因みに、行きに使ったボートで海岸に辿り着く頃には謎のジャミングも消え、音信不通だったオランジュとの連絡も繋がり、どうにか事の顛末を報告することが出来た。その時になって俺達がイーリスとやり合ってる時に外で姉御と更識姉妹が戦っていた事とか、その余波のせいで空母が沈んだ事を知らされたのだが、もう全て後の祭りだ。楯無の専用機がパワーアップした事に関しては、真剣に頭が痛いけどな…

 

「すまねぇな、今回何も役に立たなくて…」

「仕方ないだろ、あんなもん誰も予想できなかったさ」

「それにしても、今後どうなるんだろうな…」

 

 オランジュが集めた情報によると、今回の空母襲撃の件は完全に亡国機業の仕業であると断定されてしまったそうだ。しかも主な被害国であるアメリカが中心になって先導している面もあるが、世界各国もこれを良い機会と捉えたのか、今の国際社会は打倒亡国機業の機運が今までに無い位に高くなっているらしい。 こういった事態を避ける為に亡国機業は隠密行動を徹底したり、国の中枢に切っても切れないパイプを繋いだりと様々な工作を行ってきたのだが、下手をすると今回の件でその全てが水の泡となりかねない。

 

「旦那から連絡は?」

「相変わらずだ」

「そうか…」

 

 こう言った状況に最も強いであろうフォレストの旦那は未だに行方不明、姉御への貸し出しメンバー以外とも全く連絡がつかない。一人残らず無事だとは思うが、今頃いったい何処で何をやっているのだろうか。

 と、その時、携帯に着信が入った。着信画面には『マダオ』の3文字。

 

「もしもし」

『フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ(ブツッ)』

「間違い電話だったか」

 

 しかし、二秒後に再び着信。

 

『おい、何故切った?』

「むしろ何故切られないと思った」

『良いじゃないか、お前と私の仲だろう?』

「お前だからこそ引いたわ。どうした、何か嬉しいことでもあったのか?」

 

 昨日と打って変わって、やけにテンションの高いマドカ。流石に二度目の電話で少し落ち着いていたけども、電話のマイクから聴こえてくる声から喜色が滲み出ている。て言うかコイツ、どこであんな高笑いを上げていたのだろう…

 

『いや、もうすぐ完成するんだよ私の新しいIS。後は微調整だけだから、外出許可が降りた』

「おぉそりゃマジか、おめでとう」

『ふふん、ありがとう』

 

 先日より篠ノ之博士の元で製作中だったマドカの新しいIS、『黒騎士』。そのパイロットとなるマドカのデータが開発に必要な為、博士のラボに送られ、彼女は暫く缶詰状態の日々を送っていた。よっぽど退屈だったのか、毎日のように電話とメールを送りつけては愚痴を溢してきたので、悲願達成に近づく為の新しい力を得られる事と同じ位に、そんな暇な日常から開放されることが嬉しいのだろう。少なくとも、コイツがここまでハイテンション且つ素直な状態になったのは、久しぶりだ。

 

『しかも驚け、さっきスコールに黒騎士の完成を報告した時に聞かされたんだが、次の襲撃計画はIS学園の修学旅行を狙うらしい』

「修学旅行て言うと、京都か?」

『そうだ。いつだかお前、一度は行ってみたいとか言ってたろ?』

 

 この国自体、色々と面白いからな。名所中の名所である京の都には一度で良いから行ってみたいと思っていたし、そんな話をマドカにした記憶が確かにある。けれど、この話をしたのって随分と昔な気がするんだが、よく覚えていたもんだ。

 

『京都は良いところだぞ、色々なものがある』

「例えば?」

『元祖みたらし団子、わらび餅、豆大福、金平糖』

「他には?」

『ニシン蕎麦、八橋、柴漬、一銭洋食、すぐき、湯豆腐、千枚漬、湯葉』

「例によって食い物ばっかだな!! そこは普通、清水寺とか金閣寺とか…」

『何だそれは?』

「コイツ、声音から察するに本気で言ってやがる…!?」

 

 そう言えばマドカに限った話じゃないけど、フォレスト派以外の亡国機業の構成員って基本的に社会系、特に歴史関係の勉強がとことん苦手なんだった。旦那や姉御みたいな重鎮クラス、兄貴みたいな出自が特殊な奴ならともかく、幼い時から組織に身を置いている奴ほど教養関係は最低限の知識しか身に付けず、この業界ではクソの役にも立たない世間的な常識の類は誰も積極的に覚えようとしないからだろう。そんなことする暇があれば、生き残る為の知恵と技術を磨くのが普通だ。俺もフォレスト派の孤児院に預けられなかったら、アメリカ史なんざ欠片も覚える気にならなかったと思う。あの場所は、組織入りを選ばない孤児もいるので、そう言ったことも満遍なく教えてくれた。おかげで今は、大嫌いな生まれ故郷の歴史と常識を人並み程度には身に付けている。

 

『その清水寺と金平寺には欠片も興味ないが、お前が行きたいと言うのなら観光ルートに加えといてやる』

「金閣寺な。そもそも俺たち仕事で行くんだろ、そんな遊ぶ暇なんてあるのか?」

『どうせ初日は作戦準備と称した自由時間だから大丈夫だろう、今までもそうだし』

 

 単にマドカが作戦会議では役に立たないから、特別に自由にさせているだけと聞いてるんだが。姉御が今のマドカの台詞を聞いたら、本気でブチ切れるんじゃないだろうか…

 

「まぁ良いか、じゃあそのつもりでいるよ」

『よぉし、言質は取ったぞ。それじゃ今すぐに学園のモノレール駅に来い』

「……なに…?」

『京都観光ツアーの計画を立てるぞ。ついでにセヴァス、お腹が減った』

「え、ちょっと待て、お前、もうそこに居るの?」

『三十分くらい前から、京都のガイドブックの束を持って本土からIS学園を眺めている。それと、今晩はラーメンが食べたい』

「なんで隠し部屋まで来ないんだよ!?」

『流石の私も雑誌がギッシリのダンボール箱二つを持っての移動は疲れる。あの助手の作る炭料理を連日で食わされた私の身体は、もう限界だ』

「馬鹿だろお前、いや馬鹿だったなお前……ラーメンなら、この前に美味い店見つけたよ…」

 

 それじゃ何か、コイツは篠ノ之博士のラボから帰る途中、どっかで京都の旅行雑誌を大量に購入して、そのままIS学園直通のモノレール駅に来たと。そしてそのまま俺に連絡が繋がるのを待っていた、と…

 

「オランジュ?」

「いやセイスが居ないなら掛け直すの一点張りだし、お前ら連絡繋がらないし…」

『じゃそういう事で、待ってるから40秒で仕度して早く来い。美味いラーメンの店、楽しみだ…』

「あ、オイ待て……あの野郎、言うだけ言って切りやがった…」

 

 こっちだって散々な目に遭ってやっと帰ってきたばかりだって言うのに、そんなの知ったこっちゃ無いと言わんばかりのこの態度。食い意地張ってるところも、傍若無人な我侭っぷりも、相変わらずなことにゲンナリするというか、安心すると言うか。何だか今後の組織の行く末なんて難しいこと、悩むだけバカらしくなってきた。

 

「つう訳で、悪いけど行って来て良い?」

「「むしろ、さっさと行け」」

 

 何故か二人はゲッソリしていたけども、取り合えず許可は得た。姉御への報告書作成とか、装備の点検とかも押し付けるのは少し躊躇うが、素直にお言葉に甘えるとしよう。何だかんだ言って、マドカと飯食うの久しぶりだし…

 

(今日くらい、素直に奢ってやるか)

 

 財布の中身をいつもより多めにして、俺は隠し部屋を後にした。因みに、無意識の内に自分の足取りが軽くなり、鼻歌まで歌っていたことには最後まで気付かなかった…

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

---フォレスト一派極東前線基地IS学園支部(通称隠し部屋)にて

 

「やっと行きやがったか、あの無自覚バカップル」

 

「俺もう腹いっぱいだよ。つうかエムも酷ぇし、本人居ないから代わりにセイスの電話に出たら『お前はお呼びじゃないんだよ阿呆』とか言うし…」

 

「そいつは気の毒に……それで…?」

 

「それでって?」

 

「旦那からの連絡…いや違うな、どちらかと言うと指示か。とにかく、何か来たな?」

 

「うん、まぁ、実を言うと、三日前には来てた」

 

「え、マジで?」

 

「指示って言っても、本来ならロシアにある筈のミステリアス・レイディの専用パッケージが何のメッセージも無しに送りつけられただけなんだけどな…」

 

「……それだけ…?」

 

「それだけ」

 

「……やっぱり、あの人の弟子はお前じゃないと無理だよ。少なくとも、俺にはそれだけで旦那の意図を察するなんて出来ねぇや…」

 

「そいつは、どうも。つう訳で、今後はちょいと忙しくなると思うから、いざとなったらヨロシク」

 

「任せろ。あぁだけど、一つだけ言わせてくれ」

 

「うん?」

 

「セイスが居ない時くらい、格好つけてないで休め」

 

「…はハッ、んじゃ、そうさせて貰う。やっぱ、あの狸爺、超、怖い……ガクッ…」

 

「ったく、お前もセイスのこと言ってらんねぇな。ま、今後も無理しない程度に頑張れよ、お兄ちゃん」

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

---某高級ホテルにて…

 

 

「なぁスコール、どうしてセイス達を生かしたんだ?」

 

「うちが人材不足なのは今も変わらないわ。しかも、これから私達がやることを考えたら尚更よ。私の望みが叶うその日まで、彼らにはこのまま働き続けて貰わないとね」

 

「けどよ、お前のやろうとしてることをアイツらが知ったら…」

 

「まぁ私がやろうとしていることは、彼らにとって許容できることじゃないでしょうね。最悪の場合、嫌なタイミングで反旗を翻すことも有り得るわ。それに、ひょっとするとオランジュやトール辺りは、もう私のやろうとしていることに勘付いているかもしれないわね…」

 

「だったら…」

 

「けど、彼らには何も出来ないわ。あの男に対して愚かなまでに忠実だからこそ、何も出来ない。あの男から新たな指示を受け取らない限り、私に対してどんなに疑念を抱こうとも、今まで通り私達を味方として扱い、私の命令に従い続ける。それが彼らにとって、最後に受け取ったあの男からの指示だから」

 

「スコール…」

 

「くくく…あっははははははは!! 皮肉なものね、フォレスト!! 貴方の最大の強みでもあった部下との絆が、忠誠が、信頼が、全て裏目に出るなんて!! お陰で二度と来ることの無い貴方からの指示を永遠に待つ彼らを、私は意のままに操れる!! 組織の中で最も人間であろうとする貴方の部下達が、貴方が居なくなった途端に私の思いのまま、頭空っぽの人形と化したのよ!! 呆気なさ過ぎて、逆に彼らが哀れだわ!!」

 

「……」

 

「貴方が消え、篠ノ之束を手に入れた今、もう誰にも私を止めることなんて出来ない。それに昔から貴方言ってたわよね、面白い物事には目が無いって。だったら私が見せてあげるわよ、世界を巻き込んだ、刺激的で最高に面白い光景を。だから、そこから世界の行く末を眺めているが良いわ…」

 

 

 

 

 

 

    その薄暗い海の底で、永遠に…

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

---そして…

 

 

「束様、よろしかったのですか?」

 

「なにがー?」

 

「……スコール氏からの御依頼の件です…」

 

「理由は忘れたけど、スーちゃんが指定した飛行機を墜として欲しいって奴? それなら、先週に済ませたでしょ?」

 

「ですが、その…」

 

「スーちゃんは『指定した飛行機を墜落、可能なら撃墜して欲しい』としか言ってないもん。ちーちゃんやその他の有象無象に束さんが関わったことを勘付かれないようにアレコレ頑張りながら、ちゃあんとスーちゃんのリクエストには答えたよ。だから、束さんは何も悪くない」

 

「いや、それはそうですけど、これは流石に…」

 

 

 

「まったく、くーちゃんも心配性だなぁ。フォー君もそう思わない?」

 

「そうだねぇ、僕も博士さんに同意見かな?」

 

 

 

 

「ほら、フォー君もそう言ってるよ?」

 

「ですが束様、スコール氏が飛行機を撃墜して欲しかった理由は明らかに…」

 

「いいのいいの。それに約束したからね、束さんのラボを見つけられたら、話ぐらいは聞いてあげるって。まぁ流石の束さんも、その約束をした二日後に来るとは思わなかったけど…」

 

「かの天災の自宅にお伺いするからにはと、ちょっと御土産と御洒落に気合入れてたら遅くなっちゃった。いやはや、遅れて申し訳ない」

 

「……で、話ってのは何かな…?」

 

「うーん、実を言うと話があるのは博士さんと言うより、クロニクルちゃんかな? 最終的な決定権は博士さんにあると思うけど…」

 

「え、私、ですか…?」

 

「うん、そうだよ。ねぇクロニクルちゃん、君さ…」

 

 

 

---家事から戦闘までこなす、とっても便利な雑用係達が居るんだけど、ちょっと雇ってみない?

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 闇に蠢くは、その胸に野望を抱いた暗躍者達の策謀…

 

 世界すら巻き込んで踊り踊らされ、最後に笑うのは一体誰か…

 

 

 

「大将、油少なめ、麺固め、味普通で!! それとチャーシュー二枚追加、麺は大盛で!!」

 

「俺はチャーシュー麺とライス、麺と油と味の濃さは全部普通で」

 

「やっぱチャーシュー追加は無しにして味玉に変更!!」

 

「あれ、珍しいな?」

 

「チャーシューはお前のから貰えば良いやと思った」

 

「大将、チャーシュー追加しといてッ!!」

 

 

 

 彼らの結末は、神にすら分からず…

 

 




これにて原作九巻分終了です。

そして宣言通り、なろうでの活動を再開したいと思います。宣言してから大分時間が経ってしまい、その間に新しいネタが浮かんできたんで、また懲りずに新作を書いてみるつもりです。とは言え、今のところ尽くエタってますから、例によって今回も早々に挫折してハーメルンに舞い戻ってくるかもしれませんが…(マテ

何はともあれ皆様、暫しの間、失礼致します。


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