こちらをアメリカ兵と思い込み、イーリスを偽者と誤解した一夏を味方につけてからというもの、空母内での戦闘は更に激しさを増した。5人の居る格納庫は完全に戦場と化し、戦いの余波によって周囲には元が何だったのか分からない位に粉砕された残骸が所狭しと並んでいた。本来なら、一機何百億とする戦闘機が所狭しと並んでいた筈なのに、今は無事な機体を探す方が難しい。
「やれ、織斑ぁ!!」
「うおおおぉぉぉ!!」
「チぃッ!?」
零落白夜と言う即死技と称しても過言ではない武器を持っているところで肝心の担い手は一夏、国家代表とやり合うには実力も経験も足りない。故に先程まで防戦一方にならざるを得なかったのだが、その足りない部分をセイス達が補い始めたことにより戦況は、すっかり一変した。
バンビーノの声に応えるように気合の雄叫びを上げ、雪片を構えて突貫してくる一夏の白式をイーリスは軽々と避ける。しかし反撃に移る前に鉛弾の嵐がどこからともなく襲い掛かり、それを妨げる。銃弾は装甲に覆われていない部分へ的確に命中し、絶対防御を発動させることによりファング・クエイクのエネルギー消費を強要させていた。
「あぁクソッたれ、鬱陶しい真似しやがってぇ!!」
声を荒げながら銃弾の飛んできた方向へ展開した射撃兵装を撃ち込むも手応えはなく、逆の違う方向からの銃撃で更にエネルギーを減らす。戦いの余波で粉砕された艦載機の残骸を掴んで投げつけても、結果は同じだった。逆に投げ返されるように飛んできた残骸により、射撃兵装を壊される始末である。
楯無のミステリアス・レイディなら話は別だったが、イーリスのクエイクではステルス装置を起動させたセイス達を補足することは非常に困難で、それに加えて一夏の白式の存在がある。一夏自身はともかく、彼の持つ雪片弐型、それに搭載された零落白夜は危険だ。今はエネルギー温存の為か零落白夜は起動させていないが、万が一にでもあの技が掠りでもしたら、その時点で致命傷になりかねないので警戒を解けず、そのせいでイーリスは先程から狙撃手を探すことが出来ない。一夏に意識を向ければ銃弾、銃弾に意識を向ければ一夏、この繰り返しである。
「お前らいい加減にしろ!! 私は偽者なんかじゃ…」
「耳貸すなよ織斑一夏、そのままやっちまえ!!」
「わ、分かった!!」
「聞けってこの野郎!!」
世界最強の兵器と呼ばれたIS、それも国家代表の駆る最新機が、ただのライフル弾によりダメージを受けている。IS関係者が聞いたら絶対に信じないであろうこの状況に陥ること五分、元々気が短いイーリスの苛立ちは既に限界に達していた。
(バカは扱いやすくて助かる)
物陰からイーリスを狙い撃ちながら、セイスは胸中でそう呟いた。バンビーノ発案の寸劇で一夏を騙した後、気付いたらこの中で一番IS戦に精通するようになっていたセイスが戦闘の指示を出すことになったのだが、取り敢えず今のところは順調だった。
イーリスが相手ではどうせ攻撃の当てられない一夏には、敢えて牽制役に回って貰うことにした。とはいえ零落白夜の存在は、持っていると言う事実だけで確かな効果を発揮する。相手が零落白夜の存在を知っているのなら尚良い、どうしても意識せざる得なくなるからだ。ただのライフル弾によるダメージも、それを撃って来る奴らの事も、零落白夜に斬られる事と比べたら些細なことになってしまう。お陰で、攻撃を当てても一夏が一度突撃してしまえば、反撃と対処は必然とそちらが優先される。その僅かな隙さえあれば移動して位置を特定されることを防ぎ、次の攻撃に移るぐらいセイス達にとっては朝飯前だ。しかも一夏に突撃のタイミングを指示しているバンビーノの采配もあって、今のところ此方の被害は軽微であり、実質ワンサイドゲームと化していた。
「畜生がああああぁぁぁッ!!」
「うおわ!?」
「ゲッ…」
しかし、やはり国家代表はそんなに甘く無かった。遂にその苛立ちが限界突破したのか、今日一番の咆哮と共に、クエイクの拳を突っ込んできた一夏にカウンター気味に叩き付け、勢いよく吹き飛ばす。そのまま一夏は壁に叩きつけられて崩れ落ちたが、そんなの知ったこっちゃないと言わんばかりに無視してイーリスは、ライオンを連想させるような怒りの形相を浮かべ、バンビーノをギロリと睨み付けた。
「仮にも仲間だから手加減してやれば調子に乗りやがって、このバカ共ッ!! もう知らね、恨むなら勝手に勘違いしたテメェら自身を恨めよ!?」
「ちょ、待ッ!?」
言うや否や、瞬時加速まで使って一気にバンビーノとの距離を詰めるイーリス。バンビーノは覆面の下で必死の形相を浮かべながら戦闘スーツの能力をフル起動させて横に飛び退き、死神の宿った鋼鉄の拳の回避に奇跡的に成功する。しかし、彼の代わりにクエイクの拳を叩きつけられた隔壁は、余りの威力にクエイクの拳よりも遥かに大きな穴を空けられていた。先日、走熊2号で楯無とやり合ったばかりなので、イーリスの駆るクエイクが保持する純粋なパワーが如何に大きいのか良く分かる。もしも生身の身体に命中したら、このスーツの防御力など紙ペラ同然だ、間違いなく死ぬ。
その物騒な代物を、まだ体勢を整え切れてないバンビーノに対し、イーリスは躊躇無く振り上げた。
「先に行くよ、援護よろしく」
「任せろ」
直後、アイゼンから投げ渡された分も合わせ、両手に構えた二丁のマシンガンを背後からイーリスの頭に集中砲火させるセイス。絶対防御によって全て防がれたが命中した衝撃は殺しきれず、彼女は僅かによろけた。その隙にバンビーノはその場所から逃げ出し、彼と入れ替わるように飛んできたアンカー付ワイヤーがクエイクの右腕に喰らい付いた。
「あぁ? 何だコレ…」
彼女が呟くと同時に、地を這うように迫る黒い影。この空母に乗り込んだ時と同様に左腕に装着した装置でワイヤーを巻き上げながら、ワイヤーを打ち込んだ場所へ引き寄せられるように、そして飛ぶように猛スピードで迫るアイゼンである。対するイーリスは彼の接近に一瞬だけ驚いたが、すぐに意識を切り替えて迎撃の体勢を取った。そして一夏を仕留めた時と同様に、迫るアイゼンにクエイクの左拳をカウンターの要領で振るう。しかし…
「はぁ!?」
ハイパーセンサーにより、イーリスにはハッキリと認識することが出来た。クエイクの拳が当たる直前、その軌道に沿う様にして身体を逸らし、それを回避するアイゼンの姿を。そして彼はそのまま、ワイヤーを打ち込んだクエイクの右腕に"横向き"に着地。直立するクエイクに対して垂直と言う、重力を感じさせない姿勢で左手にワイヤー装置、右手に拳銃を持ったアイゼンは、その銃口を迷わずイーリスの首に向けた。
「結構痛いらしいから、気をつけてよ?」
「がグぅッ!?」
技術部の新作は、スマートな外見に反してマグナムの威力を超えていた。絶対防御越しに届いた衝撃に、イーリスは呻き声にも似た悲鳴を漏らす。例によって致命傷こそ負わないものの、喉を直接殴られたかのような感覚に襲われては流石に耐え切れず、激痛に思わず二歩三歩と後ろへとよろけるイーリスだったが、同時に右腕に張り付いたアイゼンごと壁を殴りつけた。勢いよくぶん殴られた壁は凄まじい轟音と共に、一瞬で粉砕された。しかし、そこにアイゼンの姿は既に無い。イーリスが腕を振り上げたと同時にワイヤーの固定を解いて、足場にしていたクエイクの腕を蹴り付けて離脱した彼は再度ワイヤーを発射、今度は彼女の右肩に命中させ、そこに移動していた。
いつの間にか自身の肩に仁王立ちしていたアイゼンに気付き、イーリスは驚愕に目を見開いた。その隙を逃さず、アイゼンは更に両目、眉間、顎、こめかみ、鎖骨と追い討ちの銃弾を次々と叩き込んでいく。命中する度に彼女の口から苦痛を感じさせる声が漏れ、衝撃と激痛で身体が仰け反る。
「っとうに痛てええぇぇなこの野郎おおおおぉぉぉぉ!!」
「うおッ」
弾切れにより一瞬だけ止んだ銃撃の合間を逃さず、イーリスは渾身の力を振り絞って床に拳を両拳を叩きつけた。イーリスの立っている場所を中心に、爆撃されたかのような衝撃が周囲に広がり、その余波で瓦礫が四方八方に飛び散る。流石のアイゼンもこれには堪らず、衝撃と無差別に飛んでくる瓦礫を回避しながらイーリスから離れる。着地と同時にIS用大型ライフルを展開していたイーリスが砲撃してきたが、ワイヤーを駆使して縦横無尽に跳び回って回避、そのまま離脱を試みる。だが、遂に六発目の砲撃がアイゼンの着地地点を粉砕し、足場を崩した彼はその場で転倒してしまう。
動きを止めたアイゼンに銃口を向けるイーリスの思考は、荒ぶる感情とは逆に冷え切っていた。相手は所詮生身の人間だし、一応は同じアメリカ人、手加減も油断もしていたのは事実。そんな相手に、良いようにやられているこの状況は、前回相手にしたAL-No.6のことを嫌でも思い出させた。故に断言する、目の前に奴らは、白式を纏った織斑一夏よりも遥かにタチが悪い。最早、奴らが本当にアメリカ兵なのか否かなんてどうでも良いくらいだ。
(だからこそ、もう容赦はしねぇ。敵を、ISを相手にするつもりで、全力でブッ潰す!!)
アイゼンを確実に葬るべく、イーリスは引き金に掛けた指に力を込めた。だが…
「させるかよ」
「うごぁ!?」
それよりも早く、飛んできた巨大コンテナがクエイクに直撃した。ワイヤーを打ち込み、装置と戦闘スーツの機能、そして自身の身体能力の全てを使ったセイスが大型ライフルを構えるクエイク目掛けて全力投球したのである。
思いっきり、そして強烈な不意打ちをくらったイーリスは一瞬だけ動きを止めて、その隙を突いて一気に距離を詰めるセイス。その速度はアイゼンを軽く凌駕しており、場合によってはISの領域にさえ届きそうな勢いだった。その驚異的なスピードと、人間離れした動きを前に、イーリスは一種の既視感を覚えた。
「まさか…」
迎撃の為に振るわれた拳は、あっさりと回避され、お返しとばかりに至近距離からの銃撃。その狙いは、装甲に覆われていないIS用スーツの部位。咄嗟に腕部の装甲で庇い、空いた方の腕で殴りつける。反撃の拳は拳銃を弾き飛ばしたが、セイスは止まらない。逆に自身の拳をイーリスの顔面に叩き込み、エネルギーを消費させた。
ふざけた身体能力、危険を顧みない攻撃、絶対防御さえ発動させる拳。その全てに合点がいったイーリスは、衝撃で頭が揺られそうになるのを何とか耐えて忌々しそうに、それでいて因縁の相手に会えた喜びを僅かに滲ませながら、吼える。
「やっぱりテメェか、AL-No6ッ!!」
「その名を呼ぶなっつたろが、脳筋女」
「うるせぇよ黙れ。前回の借り、全部この場で返してやる!!」
「そいつは無理だな、やれ一夏ぁ!!」
言うや否や、イーリスの前から飛び退くセイス。その途端に背後から迫る気配、センサーを確認すれば、零落白夜を発動させた一夏が瞬時加速で一気に接近してくるところだった。
「そこだああああああぁぁぁぁッ!!」
―――必殺の意思を籠めて振るわれた横薙ぎの鋭い一閃は、なんの抵抗も無く振り切られた…
「甘ぇよ、バカ野郎!!」
「ぐああああああぁぁぁぁ!?」
―――空振ったのだから当然である…
零落白夜が当たる直前、イーリスは瞬時加速を使って急上昇し、必殺の一撃を飛び越える様に回避した。その勢いを再び瞬時加速を逆向きに使って相殺し、立て続けに瞬時加速を使って一夏に突撃、そのまま彼を床に叩き潰した。一夏は床にめり込みながら驚愕していたが、個別連続瞬時加速を可能とするイーリスにとって三連瞬時加速など容易いことだった。
「梃子摺らせやがって、取り敢えずコレで後3人…」
「悪いが後なんて無ぇよ、コレで終わりだ」
声に反応して顔を上げたイーリスは、同時に言葉を失った。少し離れた場所に一機、激しい戦闘の余波を逃れた戦闘機が、いつの間にか彼女の方を向いていたのである。正確には、戦闘機の正面にイーリスが移動していただけなのだが、そこはどうでも良い。何故ならこの戦闘機、いつでも出撃できるよう武装と燃料は既に搭載された状態だった。ISには全体的に劣るが、最新鋭の装備と性能を保有する強力な機体だ。その戦闘機が、機首をイーリスの方へ向けていた。
―――コクピットに、バンビーノを乗せた状態で…
「全弾発射ぁ!!」
バンビーノは一切躊躇せずトリガーを引き、それと同時に機の大口径バルカン砲、そして複数のミサイルが中途半端に広いようで狭い格納庫の中、一夏を抑えつけるイーリスのファング・クエイク目掛けて飛んでいく。
「クソッ、がぁ!?」
迫る破壊の流星群に焦るイーリスは再び瞬時加速で離脱しようと試みるが、それを妨げる様に彼女の背中で爆発が起きた。先程の戦闘の最中、どさくさに紛れてセイスが彼女の背中に最後のグレネードを張り付けており、それをアイゼンが狙撃して爆破させたのだ。その事に最後まで気付けなかったイーリスは見事に出鼻を挫かれて、衝撃でその場にこけるように、一夏に覆いかぶさる様にして床に倒れた。そして…
―――今日一番の大きさを誇る衝撃と爆音が、巨大な空母を揺らした…
◇◆◇◆◇◆◇
「おーい織斑一夏、生きてるかー?」
「ゲホッ、ゴホッ…」
「あぁ生きてたか、良かった良かった」
セイスに声を掛けられ、白式から黒煙を燻らせながらも一夏は起き上がった。艦載機の集中砲火を受けたイーリスはその場に倒れ伏し、そのままピクリとも動かなくなった。まだファング・クエイクが解除されていないところを見るに死んではおらず、エネルギーも残っているみたいだが、絶対防御超しに伝わる衝撃によるダメージの蓄積により肉体の方が先に限界を迎えたようだ。流石に脳筋…もとい国家代表といえど、暫くは動けないだろう。
そのイーリスと一緒にミサイルと銃弾の嵐に見舞われた一夏だが、彼も結構ボロボロだった。イーリスが盾になっていたので直撃こそなかったが、余波だけでも相当な威力があったようだ。白式も健在だが、雪片を杖代わりにして、膝を付いて肩で息をしているような状態であり、彼女の惨状と比べたら明らかにマシだが決して万全とは言えないだろう。
「まさに好都合、って感じだな」
「好都合、だって…?」
「こっちの話だ、気にすんな。それよりも良い戦いぶりだったぜ、流石は世界唯一の男」
「え、いやぁ、それほどでも…」
不穏な言葉が聞こえた気がしたものの、面と向かって誉められたことにより、すぐに気にすることをやめた一夏。最近IS関連で誰かに誉められるということ自体が滅多に無い為、いつにも増して照れくさい気分になっているのか心底嬉しそうに笑っていた。日頃の彼のことを知っている分、なんだか不憫に思えてきたセイス達だった。
「それに、俺よりもアンタ達の方が凄いよ」
「そうか?」
「そりゃそうさ。俺と違ってISを使える訳じゃないのに、あんなに強い奴が操るIS相手と渡り合えるなんて。そもそも、生身でISと戦える人なんて、千冬姉以外に居るなんて思わなかったよ…」
「あのブリュンヒルデと同列に扱って貰えるとは、実に光栄だな」
そう言ってセイスは手を差し出し、一夏は白式を解除してその手を取った。そして、それに引っ張られるように立ち上がろうとして…
「……亡国、機業…め…」
---呟かれたイーリスのその言葉が、耳に届いてしまった…
「どうした、織斑一夏?」
「……なぁ、二つ程質問して良いか…?」
「機密事項に触れなければ」
互いに手を握ったまま、片や冷静に、片や声を硬くして言葉を一つ。
「あんた達は、アメリカの軍人なんだよな?」
「あぁ、そうさ。ちょっと訳ありだが…」
「そうか、だったら…」
片や冷静に、片や酷く緊張した面持ちで、二つ目の言葉。
「だったら、どうして、あんた等の日本語は三人とも…」
「ん?」
---三人とも、訛り方が違うんだ?
「あぁそうか、そいつは盲点だった…」
「ッ!?」
直後、一夏は白式を展開。しかし何をするよりも早く、セイスの拳が顔面に叩き込まれた。生身なら間違いなく首から上が無くなっていた威力だが、絶対防御により衝撃で後ろに10m後ずさる程度で済んだ。
「IS学園には世界中から人が集まってくるからな、そんな場所に半年も居れば聞き分ける位は出来るようになるか。因みに、誰がどの国の訛りで喋ってた?」
「あんたはスペイン、アンタの隣に居る奴はイタリア。後ろで銃を構えているのは、絶対にドイツだ」
「大正解。ったくバカな分、勘は働きやがる…」
(あんまりセイスも人のこと言えない気がするんだけど…)
と、そんなやり取りをしている最中、一夏はハッとしてとある方向に目をやる。無論その先は、仰向けになってぐったりするイーリスで…
「じゃあ、もしかして、あの人は…」
「私は、偽者じゃ無いって…最初から…言ってるだろ、がッ…!!」
「す、すいませんでしたぁ!!」
言うや否や直前までイーリスに襲われていたことなんて忘れ、白式を纏ったまま彼女に全力で土下座する一夏。そんな光景を尻目に、セイスはバンビーノに投げ渡されたとある物を、一夏にばれないようにコッソリと構えた…
-―-直後、空母が爆発と共に揺れた…
「おい、何だ!?」
「あ、そう言えばこの空母、自沈システム作動させてるんだった。イーリスと一夏のことで伝えるの忘れてた…」
「バッカ野郎!! いや、でも待て。この揺れは、中からじゃなくて、外からの砲撃じゃあ…」
想定外のことに、流石のセイス達も動揺せざるを得なかった。その騒ぎ声に一夏は視線を三人に戻したのだが、セイスを見て思わずギョッとしてしまう。何故なら僅かに目を離した隙に彼は、バンビーノが武器庫から持ってきた、見るからに威力のありそうな大型ロケットランチャーを手に持っていたのである。
咄嗟に雪片を展開し、身構える。まだ少し息が上がったままだが、それでも戦う意思を見せる一夏にセイスは溜め息を吐いた。
「なんだ、やる気か?」
「当たり前だ、黙ってやられるような真似はしない!!」
「そうか、そりゃ困った」
元々セイス達は、一夏がイーリスに攫われる事を危惧してこの戦闘に介入した。そのイーリスはセイス達の手によってエネルギーをギリギリまで減らされており、最寄の在日米軍基地か大使館に辿り着くのが限界だろう。一夏を強引に連れて行こうとして抵抗された場合、それを制圧する為にエネルギーを使ったら帰還する為の余力は間違いなく残らない。しかし、それに反して一夏の白式はまだまだ戦闘をする余力は残っている。
「まぁ俺たち亡国機業に言いたいことは山程あるだろうが、生憎とのんびりする余裕は無さそうだ。俺達は帰らせて貰う」
「ふざけんな、待てってうおッ!?」
直後、再び空母が揺れる。やはり外から何かしらの攻撃、或いは流れ弾が直撃しているようだ。揺れの大きさから考えるに、自沈システムよりも先にそれが原因で沈みそうだ。だから…
「おい、織斑一夏」
「ッ!!」
「テメェの死因は既に決定されているんだ、こんな所で死んでくれるなよ?」
そう言ってセイスは一切躊躇うことなく、ロケットランチャーの引き金を引いた。しかし、砲口が向けられた先は一夏では無かった。あろうことかセイスは、ランチャーを天井へと向けたのだ。
「な!?」
「え…」
上に向けてロケット弾は真っ直ぐに、"イーリスの真上"の天井へと命中、同時に爆裂。崩壊した天井が、瓦礫の雨となって動けないイーリス目掛けて降り注ぐ。
「間に合ええええええぇぇぇぇ!!」
セイス達からの追撃がくる可能性すら無視して、一夏は瞬時加速まで使って全力でイーリスの元に飛んでいった。そして辿り着くや否や雪片を一閃して大振りな瓦礫を切り裂き、その勢いのまま左腕に荷流電子砲を展開。それを拡散式で放ち、残りの小振りな瓦礫たちを全て一掃した。
そんな彼の姿をイーリスは、ポカンとした表情で見つめていた。
「お前、どうして…」
「どうしてって、助けるのは当然でしょう?」
「いやお前、アイツら来るまで私に襲われてたろ? 私ら一応、敵同士だったろ?」
「あ、忘れてました…」
「……馬鹿だろ、お前…」
一夏の言動にイーリスは思わず呆れるが、自然と笑みも零れてくる。愚直なまでに馬鹿で無鉄砲なのは否めないが、元々そういう輩は嫌いじゃ無い。ナターシャが彼のことを気に入っている理由が、なんとなく分かった気がする。
「って、それよりもアイツらは…!?」
咄嗟にセイス達が居たところに目を向けるが、既に彼らの姿は無かった。因縁浅からぬ亡国機業の手掛かりとも言える彼らを逃してしまい、思わず一夏は拳を床に叩き付けた。
「くそッ…」
「落ち着け織斑一夏、今は脱出するのが先決だ。この空母、マジで沈む…」
そう言ってイーリスは、ゆっくりとした動きで立ち上がった。そして彼女の言葉を証明するかのように、空母の揺れが段々と大きくなっていく。
「コーリングさん、もう動けるんですか?」
「イーリスで良い。まだ身体中痛ぇけど、ここから脱出する余裕くらいはある。さっき助けてくれた礼だ、出口まで案内してやるからついて来い」
「あ、ありがとう御座います」
「ただし、逸れたら置いてくからな?」
「大丈夫です、怪我人に置いてかれるような鍛え方はされてませんから」
「ハッ、ガキが一丁前に生意気言うじゃねーか。じゃあ、遅れるんじゃねーぞ!!」
「は、はい!!」
―――二人が脱出してから数分後、アメリカ軍の秘匿艦は海の底へと沈んでいった。事件の当事者達の証言により、この事件の黒幕は亡国機業であると断定。これを機に国際社会は、遂に重い腰を上げることになる…
○戦闘スーツと技術部の新作があって、狭い艦内で戦ったからこそ今回のあの戦績
○外で戦ったらセイス達が死ぬ
○セイス達は来る時に乗ってたボートが無事だったのでそれで帰還
○一応、今のところ姉御はセイス達を殺す気はない
○でも利用はしました
次回、事後処理&久々のM&6にて原作十巻分ラストです。それが終わったら、ぼちぼちなろうでの活動を再開する予定です。