IS学園潜入任務~壁の裏でリア充観察記録~   作:四季の歓喜

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今話はどっちかと言うと助走回で、本番は次話になります。
いつもIS戦の話を書く時は頭を悩ませていましたが、訳合って今回は結構さくさく書けそうです。まぁ、そんなこと言って結局いつも更新は遅くなりますが…;


動く暗躍者達

 幾つか予想外な事態に見舞われたものの、今年度のIS学園で半ば恒例となっていたイベント襲撃も起こらず、どうにか無事に終わった運動会から数日、学園の生徒達が日常に戻るように、セイス達も通常の活動を再開していた。彼は今日もカメラ片手に、外出中の一夏を尾行中である。

 因みに、運動会勝者の特権、一夏との同棲権は、様々なハプニングが重なって企画者兼進行役だった筈の楯無に手に渡った。そして彼女は早速その権利を行使して、一夏を街に連れ出してデート(多分一夏はそう思ってない)と洒落込んでいるのだが、ぶっちゃけ邪魔でしょうがない。付近に潜伏していた同業者は既に壊滅しており、この場で一夏が襲われる可能性は極めて低い。故に、楯無が役に立つ、あるいは利用出来るような事態は発生しないと思った方が良いだろう。早い話、邪魔。

 不用意に近付くと勘付かれるので、こうして遠くの物陰から見張るしか無い。今もこうして、あの鈍感と色ボケに向けてカメラのシャッターを切る以外にやることが無い。でも一応、写真はちゃんと撮っておく。

 

「タイトルは『男性操縦者、ロシア代表と逢引?』ってとこだな。コレは、そこそこ売れる」

『一夏が一緒に写ってちゃあ、ファンクラブの連中は高値で買ってくれないぞ?』

「センテン○スプリングは買ってくれる」

 

 正式にラヴァーズ入りしてからというもの、楯無の一夏に対する態度や接し方が露骨になってきたので、向こうが欲しがりそうな瞬間がホイホイ撮れるようになり、一部の週刊誌が高く買ってくれたので最近は懐が温かい。少し具体的に言うと、マドカを食事に何回か誘っても平気なくらいには稼げた。ラヴァーズ達との写真も、同じように高値で引き取ってくれる筈だ。下手なバイトよりも稼げるので、この仕事をしている間はパパラッチを副業にするのも本気で検討すべきかもしれない。あ、でも箒の写真だけはやめておこう、天災に即バレして怒りを買う未来しか見えない。て言うか、良く考えたら織斑の写真って時点で…

 

「……もしかしなくても俺、やっちまったかもしんねぇ…」

『どうした?』

「こっちの話だ。ところで、もう帰って良いか? 一夏には楯無が付いてるし、俺は必要ないだろ」

『それもそうだが、姉御の指示だからな……っと、その姉御から通信だ。ちょっと待て…』

 

 世界最強に命を狙われる可能性を頭の隅に追い払い、愚痴った直後に入ってきた姉御からの連絡により、オランジュとの通信が暫し中断される。が、思ったよりもすぐに戻ってきた。そして、唐突にこんなことを訊ねてきた。

 

『なぁセイス、お前って飛行機ダメだけど、別に乗り物に弱いって訳じゃないよな?』

「なんだ唐突に。まぁ、実際そうなんだがよ…」

 

 セイスが夜の飛行機が苦手な事は、既に周知の事実である。しかし厳密に言うと、セイスは飛行機が苦手と言うより幼少の頃のトラウマ、『真っ暗なコンテナに入れられてポイ』を思い出させる空間が苦手なのである。故に基本的に眠れないどころか目も瞑れないが、機内が明るければ飛行機は一応乗れる。他の乗り物に関しても同じで、むしろ好きな方だ。自動車に列車、船とかだと尚更良い。落ちる、と言う状況に縁遠いから。 

 

『じゃあ問題ないな、今から指示する場所へ向かってくれ』

「何か起きたのか?」

 

 十中八九、姉御の通信が切っ掛けだと思うが、それでも訊いてみた結果、オランジュは何でもないようにこう応えた。

 

『別に大したことないさ。ちょっと海まで行って、でかい船に乗って貰うだけだ』

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「という訳で指示通り、アイゼンとバンビーノに加えセイスも向かわせましたよ、姉御」

『分かったわ。あなたは、そのまま彼らのサポートを続けてちょうだい』

 

 隠し部屋でオランジュが目を向けるパソコンのモニターには、拠点を再びこの付近に移したスコールの姿があった。そして先ほど、彼女はオランジュ達に新たな任務、日本海に接近中の米軍空母の調査を言い渡したところである。この空母の所属部隊も目的も不明だが、此方の得になる行動を取ってくれるとは思えない。かと言って無闇に攻撃して、薮蛇になるのも御免だ。それ故、無視するにしろ、撃退するにしろ、この空母への対応方針は、相手の目的を探ってから決めることになった。今頃、調査に向かったセイスたち現場組の三人は、技術部から送られた最新装備一式で身を固め、海原へと繰り出している頃だろう。

 

「了解です。ところで姉御、二つほど質問が…」

『何かしら?』

「どうしてアメリカは、このタイミングで空母なんざ寄越してきたんですかね?」

 

 アラクネの強奪、機密軍事施設の襲撃、銀の福音の暴走、学園祭裏工作の失敗、本国での亡国機業メンバー捕縛作戦の失敗、名無し部隊によるIS学園襲撃の失敗…今年に起きた出来事だけを考えても、あの国は散々な目に遭ってばかりである。この状況を少しでも好転させるべく、何かしら手を打とうと躍起になるのは分かるが、それを考慮しても今回の空母接近は謎過ぎる。今頃、此方や日本だけでなく、主要国家各国にこの暴挙とも言える動きを確認されていることだろう。彼らは目的を果たした後、国際社会に向けて何と説明するつもりなのだろうか。

 

『それを確かめる為に、あなた達に調査を命令したのだけど?』

「おっと、そうでした。こいつは失礼…」

『それで、もう一つの質問は?』

「あれから、旦那から連絡はありましたか?」

『その質問、そっくりそのまま返すわ』

 

 先日、オータムに新しいISを手配する為にイタリアへ向かったフォレストは、スコールにその目途が立ったことを報告しながら、さらりと暫く行方を晦ますと告げてきた。碌に理由も教えずに、貸した部下の面倒を頼むだけ頼み、あっさりと通信を終わらせた彼は宣言通り、その日の内にティーガーを含めた腹心達ごと音信不通となり、完全に行方不明になってしまった。それ以降、スコールは当然のこと、彼女の一派への貸し出し要員にすら連絡が何も来ず、フォレストの現在の動向は亡国機業の誰にも分かっていなかった。

 

「相変わらず音沙汰が無い、ってことですね…」

『それで質問は全部? だったら、いい加減仕事に戻って頂戴。私も現場に向かうわ』

「え、姉御も行くんですか?」

『何か問題でも?』

「いいえ全く。むしろ頼もしい限りですが、ちょっと過剰戦力にも程がありませんか?」

 

 オランジュの知る限り、ISを纏ったスコールの戦闘能力は組織でもトップクラスだ。彼女さえ居れば、大抵の戦場では勝利を掴む事が出来るだろう。だが相手が空母とは言え、今回の仕事は調査が目的だ。それにあの三人ならば空母如き、例え撃沈しろと言われても平気でこなせると思うのだが…

 すると、オランジュの疑問にスコールは、苦笑を浮かべてあっさりと答えた。

 

『最近オータムとエムに任せてばっかりで、身体が鈍ってしょうがないのよ』

「あぁ、そういうことですか。分かりました、それではセイス共々精一杯サポートさせて頂きます」

『よろしく頼むわよ』

 

 それだけ言って、彼女は通信を切った。隠し部屋に、再び静寂が訪れ、その中でオランジュは一人、何かを思案するように顎に手を当て、短く呟いた…

 

「目的不明の謎の空母、ね…」

 

 地図に存在しない秘密基地を含め、アメリカの全軍事施設の位置を把握しているスコールが、その動向を把握していなかった?

 

「ダウト」

 

 ましてや、相手は空母。隠密性の高い潜水艦でもなく、瞬く間に目的地に到着可能な航空機やISではなく、ばかデカくて目立つ上に速度も音の壁を越えられない空母なのだ。そんな代物の接近に、ギリギリまで気付けなかった? あのスコールが?

 

「ダウト」

 

 身体が鈍ったから現場に向かう? 世界各国の諜報機関のブラックリストに載っているスコールが、日本近海で、ISを持って、ただの気晴らしの為に現場に向かう。そんな軽い気持ちでやるには、不釣り合いなリスクの多さを、彼女自身が把握していない? 

 

「ダウト。姉御、本当はコレが理由でしょう…」

 

 オランジュがパソコンを操作し、モニターに映し出したのは、とある存在の動向。現在地は太平洋上空、高速で進む方角は西、ソレに記された名前は二つ。『イーリス・コーリング』、そして『ファング・クエイク』。彼女とその愛機は今、空母を追うように日本を目指していた。きっと、楯無も一夏も同じように、同じ場所へと向かっていることだろう。これらがスコールの行動に、無関係な訳が無い。

 それらの情報を一通り眺めたオランジュは、やがて瞑想をするように目を瞑る。米国空母の接近、フォレストの失踪、スコールの不審な言動、アメリカ国家代表の動き、様々な事象を頭の中で整理し、それら一つ一つの裏に隠れた有益な情報を見極める。そして…

 

「……嗚呼もう面倒くさい、本当に面倒くさい仕事を寄越してくれましたね旦那ぁ。それとも、これも愛弟子教育の一環とでも言うんですか…?」

 

 呟くと同時に目を見開いたオランジュは立ち上がり、隠し部屋に設置された戸棚に手を伸ばした。その中には、仕事道具から日用品まで色々なものが入れられている。当然ながら、彼の仕事道具もそこにある。

 そこから引っ張り出した自身の仕事道具を手に、オランジュは改めて今後のことを考える。これから自分がやらなければならない全てのことを、頭をフル回転させ段取りを組んでいく。これはもう、セイス達には手伝って貰えない、フォレストが行方を暗ました現在、自分にしか出来ない役目。フォレストの弟子にして、亡国機業次期盟主候補たる自分にしか担えない大事な役目。無論、失敗は出来ない。

 フォレストのことだ、彼が行方を暗ますことを切っ掛けにスコールが行動することも、無言の指示と期待に自分が応えることも、きっと全て想定済みなのだろう。その事に対して、色々と言いたい事はたくさんあるが今は時間が惜しい。セイス達のサポートに加え、やることが山のようにある。その内の一つでも失敗すれば、最悪の場合誰か死ぬことになる。だから今は、取り敢えず…

 

「オランジュ改めファントム、この大仕事、謹んでお受けさせて頂きます」

 




○結局その後もセイスが写真を売り込んだ結果、一夏は週刊誌の記事に『女たらし』、『七股野郎』等と書かれてしまったそうな…
○その記事が出回ったその日の内に、記事を書いた出版社は謎の襲撃を受け、本社が崩壊
○犯人の特徴は黒髪の二十代の女性、凶器はIS専用ブレードだったらしいが、未だ逮捕に至っておらず、操作は難航している
○て言うか警察は逮捕を既に諦めている
○姉御始動、阿呆専門も始動

次回、空母に潜入したセイス達。そこで彼らが目撃したものは…

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