IS学園潜入任務~壁の裏でリア充観察記録~   作:四季の歓喜

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申し訳程度に仕込んでた爆弾、ついに爆破ぁ!!


大運動会堪能

 

 

―――玉打ち落とし

 

「IS学園伝統の競技ねぇ…」

「伝統って言葉が使えるほど、歴史長く無いだろこの学園」

 

 浮遊機能と粒子化装置まで搭載した、無駄に高性能な発射装置から放たれるボールをISで撃ち落し、ボールの色や大きさに準じて増えるポイントを稼いで競う、IS学園ならではの内容である。

 そして、この競技に参加するのは専用機を持った各チームの団長達(体操着着用IS装備)である。一夏を巡り割と頻繁に競い合う彼女達だが、全員が一斉に専用機を使用して、しかも学園公認で勝負する事は流石にレアケースで、一般生徒で溢れる応援席も一層の盛り上がりを見せていた。

 

『それでは、ISによる玉打ち落とし、スタート!!』

 

 薫子から実況を変わった楯無の声を合図に空中の装置からボールが発射され、専用機持ち達は一斉に動き出す。シャルロットのラファールが二挺のライフルで弾丸の雨を降らせ、箒と紅椿が降ってくるボールを切り裂きながら赤い彗星と化す。セシリアが相変わらずの正確無比な狙撃を披露すれば、鈴が双天牙月と衝撃砲のコンビネーションを繰り出し、それ諸共ラウラのレーゲンが停止結界で降ってくるボールの動きを止め、レールガンで一網打尽にした。それに負けじと、簪が打鉄弐式のマルチロックオンシステムを起動させ、放たれたミサイルの群れが無数のボールを消し去る。それぞれが実力を如何なく発揮し、競技は観客席も含め段々と白熱していった。

 

「さ、流石にコレに忍び込むのは危険か…」

 

 オランジュのこの言葉に、バンビーノだけでなくアイゼンも首を縦に降った。そこらの学校でやってるような玉入れや鈴割に紛れ込む自信はあるが、こんな弾丸と閃光が飛び交う戦場さながらのこの空間に、幾ら現場組のアイゼンとバンビーノと言えど、身を投じて無事でいられる自信は無かった。

 今回は至近距離の写真は諦め、大人しく観客席から安全に撮影するとしよう。

 

「だが俺は行く」

「「「セイスううぅ!?」」」

 

 言うや否やステルス装置を起動させたセイスは、躊躇することなく戦場へと飛び込んだ。

 思わず叫び、顔色を変えたオランジュ達だったが、すぐに別の理由で唖然とすることになった。乱入して早々に飛んできたティアーズのレーザーを、セイスが軽々と回避したのである。その後もミサイルを避け、双月牙を受け流し、突っ込んできたリヴァイブ自体を飛び越えたりと、アイゼンでさえ参加を遠慮した玉打ち落としの会場に人知れず躍り込んだセイスは、受ければ即死のISの流れ弾の数々を余裕で避け、挙句の果てには彼女達が撃ち漏らしたボールまで避けながら、高速で宙を縦横無尽に飛び回る専用機持ち達の雄姿を手に持ったカメラに次々と収めて見せたのだ。

 この光景を前に、セイスのことを良く知っているオランジュ達でさえ驚きを隠せなかった。セイスの身体能力が非常に高い事は周知の事実であり、彼がその力をフル活用すればISの攻撃を避ける事も確かに可能なのだが、それを踏まえても彼の動きは異質だ。そもそもあの一撃必殺の攻撃が飛び交う死の空間に身を投じ、あんな風に微塵も迷わずに動き続けられる筈が無いのである。あのような、まるで日頃から慣れ親しんだ状況だとでも言わんばかりに…

 

「……あぁ分かった、多分慣れちゃったんだ。ISの攻撃に晒されること自体に…」

 

 そう言ってオランジュは、セイスの今までのことを思い出して頭を抱えた。

 これまでセイスはISを纏った楯無と二回、ダリルとフォルテを同時に一回、イーリスと一回、生身で戦っている。その時は不意を打ったり、相手にISの使用に制限を強いたりと有利な状況を作ってはいたが、史上最強の兵器と謳われるISと向かい合ったのは事実。その経験が彼から、ISの兵装に対する恐怖や動揺を克服させてしまったらしい。普通なら向けられるだけで怯み、竦み上がるような巨大な砲口や刃、そこから放たれる砲撃、弾丸、斬撃も、セイスにとっては既に『ちょっとデカいだけの攻撃』に過ぎないようで、今更向けられて怯むような代物では無いのである。ましてや直接狙われている訳でもない現在の状況なら、人外染みた身体能力を持ってすれば、当てる意思が微塵も籠められてない流れ弾程度、避け続けるなどセイスにとっては造作も無いことだった。

 

「……俺、現場組の先輩として頑張って来たけど、もうアイツに喧嘩で勝てる自信無ぇわ…」

「そうか。じゃあ、行ってきます」

「え、ちょ、アイゼええええええええぇぇぇン!?」

 

 セイスの動きを見て何かしらの火が付いたのか、セイスに続いてアイゼンが会場に飛び込んだ。セイスと生身の勝負で引き分けた実績は伊達では無いようで、これまた人間離れした動きで華麗に流れ弾を避けながら写真を撮りまくっている。そのことに気付いたセイスは対抗意識を燃やしたのか更に動きが早くなり、それに合わせてアイゼンの動きも早くなる。いつの間にか玉打ち落しの試合会場で、二人の何かの勝負が本格的に始まっていた。

 

「もう、ついて行けない…」

「この際だ、あの体力バカ二人は放っておこう。俺達はコレで、安全に楽しもうぜ」

 

 そう言ってオランジュは、ポケットから黒光りする手の平サイズの何かを取り出した。それは先日、悲運の死を迎えたゴキブリ型ロボ、『助六』の後継機である『弥七』だった。更に見た目がリアルになり、隣でオランジュが取り出すところを見たバンビーノでさえ、一瞬それが本物のゴキブリと重い、身体をビクリと震わせた程である。

 その弥七を起動させ、オランジュは空へ向け飛翔させた。そして、技術部の科学力を無駄に詰め込まれた弥七は、ゴキブリ型とは思えない高い飛行能力で、あっという間に目的の場所へと辿り着き、ピッタリと張り付いた。その場所とは、玉打ち落しの会場で最も高い位置にある、ボール発射装置である。

 

 

「よっしゃ。後は弥七のカメラを起動して、ラヴァーズの姿をゆっくり…」

 

 

―――二秒後、箒の放った流れ弾で、弥七は発射装置ごと爆散した…

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

―――軍事障害物走

 

 ライフルを組み立てた後にそれを担いで、梯子を上ってポールで降りて、ネットを匍匐前進で潜り抜け、最後に組み立てたライフルで的を撃ち抜くと言うもの。先程の玉打ち落としに続き、そこらの一般的な学校ではまずお目に掛かれない内容である。

 

「お、この競技は面白そうだな」

「兄貴とか普通に気に入りそう」

「いやいや、コレ競技と言うかただの訓練じゃん。兄貴主導でいつも似たようなことやってんじゃん…」

 

 何かしらのタガが外れた体力バカ二人のせいで、すっかりツッコミ役に回ってしまったオランジュの言葉も空しく、競技開始の合図を告げるピストルの音が響いた。

 

「うわっ、のほほんさんライフル組立てんの超早ぇ!?」

「下手するとバンビーノ並だな、『組立の本音』の異名は伊達じゃねぇな…」

「あの子そんな異名持ってたの!?」

 

 因みに、姉の方には『分解の虚』と言う異名が付いてる。無論、妹と同じく工科生としての異名であり、決して物騒な意味合いではない。実家は暗部関係だし、彼女の名前の字が奈落の首領と同じだが、決して裏社会の凄腕としての通り名とかではない。闇に紛れ、人知れず標的を始末し、その屍をバラバラにするような真似は、決してしていない……筈である…

 それはさておき、肝心の軍事障害物競走の方はと言うと、驚異的なスピードでライフルの組み立て済ませたのほほんさんが周りに一気に差をつけ、トップで走っていた。そして走る度に揺れる彼女のとある部分に、実況席の一夏を含めた野郎共の視線が、自然と集まる。

 

「……改めてみると、デカいな…」

「そうだな…」

「よし、取り敢えず一枚撮rゲハぁッ!?」

 

 バンビーノが邪な思いを抱いてカメラを構えた瞬間、彼の身体が強烈なボディブローを受けたかのようにくの字に曲がり、そのまま地面に崩れ落ちる。セイスは一瞬だけ、笑顔を浮かべつつも冷めた目でバンビーノを見下ろす少年の幻影が見えた気がした。

 

「と、ところで、もしもこの競技にお前ら3人が挑戦したら、どう言う結果になる?」

 

 守護霊から話と狙いを逸らすべく、オランジュは現場組の三人にそんなことを尋ねてみた。

 

「ライフルの組み立て速度だけなら、この二人に勝てる自信がある。だけど梯子を上った辺りでアイゼンに、ポール降りた辺りでセイスに追い抜かれると思う」

「そして俺は匍匐前進の編み抜け辺りでアイゼンに追いつけると思う」

「最終的には、俺とセイスの引き分けで終わるかと」

 

 顔色が悪いままだが復活したバンビーノ、それに相槌を打つ様にしながらセイス、アイゼンの順に返ってきた答え。彼らの返事を元に、手先の器用なバンビーノがマッハでライフルを組み立て、随時安定した速度を維持するアイゼンに、驚異的な身体能力で駆け抜けるセイスを想像し、オランジュは一言。

 

「やっぱり、うちの現場組はヤバい…」

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

―――騎馬戦

 

 

 先程までのイカレタ競技とは違い、一部おかしな追加ルールはあるものの、基本的なルールは一般的なものと変わらない。三人の騎馬役の上に、鉢巻を巻いた騎手役が一人、そして騎手同士が互いに互いの鉢巻を奪い合うのである。間違っても、バットを構えた騎手同士が、互いに相手を叩き落とそうとするような競技ではない。

 

「アレ、俺の知ってる騎馬戦と違う。金属バットは、安全ヘルメットは?」

「言っとくが、昔やったアレは普通の騎馬戦じゃないからな!?」

「グッ、トラウマが甦る…」

 

 セイスが十歳の頃、現場組が遊び半分でやってみた騎馬戦。騎馬組んでヘルメット被ってバットで殴り合うといった、ルールもかなり適当で、どうしてそうなったのか忘れたがセイスを肩車したティーガーに残りの全員で立ち向かうと言う謎の状況になっていた。

 当初はハンデを抱えたティーガーに、訓練で扱かれる日頃の恨みをぶつけるチャンスと意気込んでいた面々だったが、最初に突撃した一組目の騎手がセイスに一瞬で叩き落され、二組目がティーガーに蹴り崩された瞬間、彼らは自分たちの認識が非常に甘かったことを悟った。そして、そこからはもう一方的な蹂躙にしかならなかった。ハンデになると思ったセイスは逆に立派な戦力と化しており、ちゃんとしたルールを作ってない騎馬戦で、ましてやティーガー相手に四人掛かりの騎馬を作ったところで、動きが鈍くなる分、自分達が不利になるだけだったと気付く頃には、一人残らず地に倒れ付していた。

 

「それはともかく、騎馬戦なら俺でも紛れ込めそうだな。オランジュはどうする?」

「バンビーノは平気でも俺は無理だ、下手すると誰かにぶつかる…」

 

 幾ら姿が見えないとは言え、直接ぶつかれば流石にバレる。しかもこの騎馬戦、6チームが一斉に戦うので参加人数も半端無い上に、楯無の無茶振りで高得点鉢巻を装着した一夏を途中で投入する予定になっているので、間違いなく大混戦になる。裏方組のオランジュには、そんな中を誰にもぶつからずに動き回るなんて真似は不可能だろう。

 

「じゃあ、俺が肩車してやろうか?」

「え、マジで?」

 

 騎馬セイスの乗り心地は、思いのほか快足だったと、乗り物酔いした上に腰を捻って痛めた為に顔を青くしたオランジュは語った。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

―――昼休み

 

 運動会もひと段落して、時は昼休み。一度グラウンドを後にしたセイス達は現在、学生寮付近の通りに戻っていた。

 

「昼休憩か…」

「飯どうする?」

「折角だし、このまま俺達も外で食べちまおう」

「けど、飯は隠し部屋の中だぞ?」

 

 突き出される4つの拳。しかし、その内の一つは二本の指がしっかりと立っていた。所謂チョキである。

 

「んじゃ、オランジュよろしくー」

「さっさと戻ってこいよー」

「飲み物忘れんじゃねぇぞー」

「畜生めえええぇぇぇ!!」

 

 ジャンケンに敗北したオランジュは慟哭を上げながら走り出し、隠し部屋へと向かっていった。いつもの事だが、本当に彼はこういう時に限って運が無くなる。

 と、その時、グラウンドの方角から人の気配が近付いてきた。

 

「おっと、誰か来たぞ」

「隠れ…る必要は無いのか、見えないから」

「でも、せめて横にずれようか」

 

 特に慌てた様子も無く、三人は音も無く通路の隅へと移動する。すると、近付いてくる気配に比例して、聞き覚えのある二人分の声が段々と聴こえてきた。セイスにとって、名前がすぐに出てこないが聞き覚えのある声と言うことは、恐らく一夏と同じクラスに居る一組の生徒だろう。少なくとも一夏と接点を持つ生徒が殆ど居ない三組の生徒だったら、まともに印象に残ってないので気付くのがもう少し遅かった筈。

 

「どうしよう…シャルロットの頼みだから引き受けちゃったけど、本当に私なんかで良いのかな……」

「別にそんな気負うような内容でもなくない? ただシャルロットの着替えを手伝うだけじゃん」

 

 そして案の定、近付いて来ていたのは谷本癒子と岸原理子、共に一組の生徒だった。時折クラスメイトにすら『ウザい』と称される岸原は相変わらず元気そうだが、それとは逆に谷本の方はどことなく憂鬱そうな雰囲気を出していた。

 二人の言葉から察するに、この後に予定されている競技で、参加者であるシャルロットの手伝いを谷本が任され、彼女はそれに何かしらの不安を抱いているようだ。しかし次の競技名には確か、『生着替え』とか良く分からない単語が表記されていたような…

 

「なんなら、代わってあげようか?」

「いや、それはそれでダメな気も……ッ…!?」

 

 と、彼女らがセイス達の目の前を素通りしようとした瞬間、谷本が急に足を止めた。そして、とある一点に目をやるや否や息を呑み、そのまま膝から崩れ落ちる様に蹲ってしまった。

 

「ちょっ、どうしたの!?」

 

 岸原が慌てて谷本のことを覗きこむと、彼女は蹲ったまま自分自身を抱きしめる様にして、カタカタと震えていた。身体は小刻みに震え、目の焦点は合っておらず、呼吸も荒くなっており、その様子はまるで、何かに怯えているかのようだった。

 セイス達は一瞬だけ、谷本が自分達のことに気付いたのかと焦ったが、彼女の視線は全く見当違い方向に向いているし、一般人が自分達の気配に気付けるとは思えないので、恐らく違う。

 

「……ゴメン、もう大丈夫。落ち着いたから…」

「いや、全然そうは見えないよ。皆には私が伝えておくから、今から医務室に…」

「ううん、平気。さ、行こ…」

 

 そうこうしている内に谷本は立ち上がり、岸里の心配も余所にその場から歩き出した。明らかに顔色が悪いが、それでも彼女は学生寮の方へと向かって行った。思わず此方も心配になったが、姿を現す訳にもいかず、どうすることも出来ない。そんなセイス達の目の前を、何も知らない彼女は横切り…

 

 

「大丈夫、アレは全部、夢。怖い人達も、あの黒い人も、最初から居ないんだから、大丈夫…」

 

 そんな言葉を、呟いた。近くに居た岸里にすら聴こえない小さな声で、まるで自分に言い聞かせるように呟かれたその言葉。それを耳にした三人は思わず息を呑み、その場で硬直した。特にアイゼンに至っては、一種の焦燥さえ感じていた。頭を過ったとある可能性に心から有り得ないと思うものの、先程の谷本の言葉と、直前まで彼女が視線を向けていた場所…つい先日、自身の手で真っ赤に染め上げたあの場所が、全てを物語っていた。

故に彼は、隠し部屋に辿り着いたであろうオランジュに通信を繋ぐことを、躊躇わなかった。

 

「オランジュ、俺が影剣を始末した時の映像を全部調べろ、今すぐにだ…」




○原作で谷本さんが書置きして逃げた時には、既にこの展開は決めてました
○撮影の許可は出ましたが、度が過ぎると守護霊の天罰が…
○オランジュ肩車したセイスの機動力は、セ○ウェイ並

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