IS学園潜入任務~壁の裏でリア充観察記録~   作:四季の歓喜

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お待たせしました、久々の更新です。
しかし、書きたいとこまで中々進まない…(泣)

それはさておき、唐突ですが第二回人気投票を開催したいと思います。詳しくは活動報告にて…


森のもてなし 前編

―――カラカラカラカラカラカラカラカラ、カキンッ…

 

 

 乾いた回転音と、甲高い金属音が鳴り響く。その音は一定のリズムを保ちながら、まるで時計の針の様に何度も何度も鳴り響く。明確な意図もなければ意味も無い筈なのだが、目の前でこの音を聞かされる者としては、たまったものではない。

 

 

「なるほど、良く分かった」

 

「は、はぁ…」

 

 

 大都市の沿岸部に並ぶ、幾つもの高層ビル。その中でも一際高い建物の一室で、ウェイは初老の男性と対峙していた。しかし、肝心の相手は彼に見向きもしない。このビルの上層に位置する、どこかの社長室を思わせる部屋で椅子に背を預け、太平洋を一望できる大窓の方を向きながら、愛銃の六連発リボルバーの弾倉をカラカラと回し、トリガーを引いて止めるという行動を繰り返している。

 しかし、ウェイは男の行動を咎める事はしない。ましてや、出来る筈がない。目の前に居るこの男こそが、亡国機業東アジア支部の重鎮『トウ派』の首領、『頭(トウ)』なのだから。

 

―――カラカラカラカラカラカラ、カキンッ…

 

 

「それで、お前は奴の言葉を鵜呑みにして、なんの成果も残さずに引き下がったと?」

 

「申し訳ありません…」

 

 

 自分の直属の上司の言葉に、ウェイはひたすら頭を下げるしか無かった。台頭してきたフォレスト派の失脚を目論んだ今回の計画を完全にしくじり、手玉に取られてしまったのだから。挙句の果てには、脅すつもりが逆に脅されてしまい、プライドもズタズタにされる始末だ。

 そこでふと、ウェイはトウの言葉に引っ掛かりを覚え、思わず口に出してしまう。

 

 

「鵜呑み?」

 

「IS学園での騒動がひと段落して早々に、奴らは幹部会を通して我々を糾弾してきたぞ。幹部会の総意でもあるIS学園での活動を、敵対組織を手引きしてまで妨害したとな」

 

 

 その言葉を聞いて、ウェイは驚きに目を見開いた。確かにあの時オランジュは、『大人しく引き下がれば、今回の件は無かったことにする』と言ったのである。にも関わらず、こうも早く約束を反故にされてしまい、彼は動揺せざるを得なかった…

 

―――カラカラカラカラカラ、カキンッ…

 

 

「そんな、奴は無かったことにすると言って…!!」

 

「それを守る理由が、アイツにあるのか?」

 

 

 そう言われてしまうと、ぐうの音も出なかった。向こうはトウ派と争う事を躊躇う理由が無いに等しい上に、ことの発端は此方にあるので、抗議声明が正式に幹部会を通れば、他の派閥だけでなく幹部達もフォレスト派に付く可能性が高い。この様にオランジュ達には先手を打ち、トウ派に追い打ちを仕掛けられるメリットはあれど、デメリットは何一つ無いのだ。

 

 

―――カラカラカラカラ、カキンッ…

 

 

「常日頃から言っているだろう、破棄しても問題ない契約、協定、条約を相手に結ばせるなと。よもや、忘れたのか?」

 

「そ、それは…」

 

「それに問題はフォレスト派だけではない、人員を借りた挙句無駄死にさせた影剣もだ。奴らは現在、我々に報復する許可を取りつけようと政府に直談判している。それなりに我々と政府には繋がりがあるから、すぐに動くと言うこともないだろうが、それにも限界がある。何かしら手を打たねば、中国も重い腰を上げ大事になるだろう」

 

 

 現在の中国は国柄のせいもあり、IS業界の中心でもある日本とのパイプは、諸外国に比べ少々劣っている。幸運なことに代表候補性の一人が織斑一夏と幼馴染であり、尚且つ交友関係も良好ということもあって、世界唯一の男性操縦者とのパイプ作りに関しては、それなりに有利な立場にあると言える。

 しかし逆を言えば、それが今の中国の限界でもあった。元々日本との外交関係はお世辞にも良好とは言えず、むしろ警戒されている。その為、名ばかり同盟国のアメリカと違い、裏工作に踏み切るのは容易な話では無く、失敗した際も外交面や世論に対するリスクが大きい。

 だからこそ影剣は祖国のために、行き詰ったこの状況を打開すべく、ウェイの提案に乗ったのだ。『敵は此方に手を出すことが出来ない』と言って誘ったにも関わらず、その結果がこんな散々なものでは、怒り狂うのも当然な話である。

 

 

―――カラカラカラ、カキンッ…

 

 

「何か、解決策は考えてあるか?」

 

「検討中です。しかし、必ず私自身の手で…」

 

 

 正直な話、ウェイは焦っていた。″トウの指示だった″とは言え、影剣を引き込み、現場を指揮していたのは自分である。当然ながら、失敗の責任も自分にある。ここで何かしら挽回しない限り、今まで順調に進んでいた出世街道から足を踏み外し、最悪の場合は次期盟主候補の肩書も剥奪されてしまうだろう。

 とは言っても自分はトウの指示には最低限従ったし、影剣の対処もそんなに難しい話では無い。中国の闇を担う暗躍機関とは言え、亡国機業に比べれば所詮は三流の弱小組織。これまで通り、五月蠅くする奴を皆殺しにしてしまえば、全て解決する。

 

 

――――――カラカラ、カキンッ…

 

 

「ところで、オランジュの奴は何か言っていたか?」

 

「は?」

 

 

 そんなことをウェイが頭の中で考えていた時、唐突にトウが口を開いた。何故ここで、それも彼の口からオランジュの名前が出てきたのか理解できず、思わずウェイは間の抜けた返事をしてしまう。

 

 

「愚痴でも皮肉でも良い、通信の最後に何か言っていなかったか?」

 

 

 トウのその言葉に、ウェイは当時のことを思い出す。そう言えばあの時、完全な敗北感に苛まれ、失意のままに通信を切ろうとした刹那、ふいに彼は思わせぶりな言葉を自分に残した。プライドをへし折られた上に、計画失敗の責任のことで頭が一杯だった為その時はオランジュの言葉の意味を少しも考える事が出来なかったが、今考えると随分思わせぶりな内容であった。

 急に直前までの高圧的な雰囲気を消し、『ところでウェイ、最後に一つ良いか?』と、まるで世間話でもするかのように、幾分穏やかな口調で喋り始めたと思ったら、彼はこう続けた…

 

 

―――俺は今まで、『尻尾(ウェイ)』を名乗る人間に2人会っている。その全員が…

 

 

「『反乱を企てた末に、一人残らず処刑されている』、だろう?」

 

「え、あの……はい…」

 

 

 トウの言う通り、確かにオランジュはそう言った。ウェイ自身も、『尻尾』の名を冠した前任者たちの末路は話に聞いている。二人とも有能だったそうで、自分と同じくトウ直々に次期盟主候補に推薦され、その手腕を如何なく発揮したと言う。しかし、その結果増長してしまい、トウに反旗を翻したのだが志半ばで処断されてしまい、今となっては存在そのものがタブーとなりつつあった。

 そんなトウ派の誰もが知っている事を、何故あのタイミングでオランジュが言ってきたのか、今になって考えてみると可笑しな話だ。

 

 

「ですが、私は前任者達とは違います。私は決してボスを裏切ったりしません。その証拠に、今回の任務だって…」

 

 

 そもそも自分はこれまで、そしてこれからも、トウに対して忠実であり続けるつもりだ。実際、今回の計画の殆どを立案し、実行の指示を出したのはトウである。現場の指揮を任された当初は、正直に言うと無茶であると感じた。しかし他ならぬトウの命令であり、相手が日頃毛嫌いしているフォレスト派とあっては、ウェイとしても断る理由は無かった。その結果、散々な結末を迎えてしまったが…

 とは言え、自分の欲望を満たす為、そして保身の為にも、トウに忠誠を誓い続ける意思は変わらない。故にオランジュの言葉も、愚かな前任者達のことなど、知った事では無い。

 

 

「成程、やはり貴様はバカだ」

 

「え?」

 

 

 ウェイの言葉に、トウはそう返した。予想外過ぎる返事にウェイは面食らうが、その意味を問うよりも先にトウが口を開いた。

 

 

―――カラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラ…

 

 

「ウェイ、影剣の対策は、まだ検討中と言ったな?」

 

「は、はい…」

 

 

―――カキンッ!!

 

 

「折角だ、簡単に全てを解決出来る方法を教えてやろう」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

 

 困惑の表情から一転、ウェイの顔が喜色に染まる。一瞬だけトウから放たれた剣呑な空気に呑まれそうになったが、その言葉だけで彼は全てがどうでも良くなった。いつも以上に腰を低くし、ゴマをする様にしてトウに少しだけ近づき…

 

 

「ありがとう御座います。それで、その方法は…」

 

 

 その直後、部屋に複数の銃声が鳴り響く。それに合わせる様にして、ドサリと音をたてながら、ウェイが勢いよく仰向けに倒れた。自分の身に何が起きたのかを少しも理解する暇もなく、その目に何も映さなくなった彼は、部屋に自身の血で赤い池を作りながら、無言で天井を眺め続けた。

 そんなウェイに一瞥もくれず、トウは自身の拳銃から薬莢を取り出して床に捨てる。そして、六連発銃から取り出された″5発分″の薬莢は甲高い音を響かせた。その音が合図だったかのようにトウの部屋の扉が開かれ、ウェイとは別の男が入ってくる。トウは物言わぬ躯となったウェイから視線を外し、海が一望できる大窓の方へと向き直り、何事も無かったかのように口を開いた。

 

 

「持って行け」

 

「関係者には何と伝えておきますか?」

 

「手柄に目がくらんで暴走し、独断で影剣と手を結んだ挙句、競争相手とは言え同志に手を出そうとした愚か者だ。それを問い質した途端ヤケになり、私に襲い掛かってきたので已む無く殺した。尚、あくまで今回の件はこのバカの独断であり、トウ派の意思では無いことを強調しておけ」

 

「中国政府には御機嫌取りの為に、賠償金も一緒に渡しておきますか?」

 

「不要だ。だが代わりに、政府が追跡している麻薬組織の情報を送ってやれ。そうだな、いい加減に目障りになってきた『龍の目』辺りが良いだろう」

 

 

 トウの口から淡々と告げられる指示を耳にしながら、男は持ってきた死体袋にウェイの躯を黙々と詰め込む。それと同時に、頭の中でその指示に従う為の段取りを頭の中で次々と組み立てていった。

 

 

「それでも調子に乗って喚くようなら、力ずくで黙らせろ。方法は任せる」

 

「御意に」

 

 

 そして、その言葉を最後に男は部屋から去って行った。後に残ったのは再び愛銃の弾倉をカラカラと回し始めたトウだけであり、ウェイのついでに血だまりの始末も男がしていった為、まるで先程の出来事など最初から無かったかのようだ。

 と、その時、トウの部屋に備え付けられていた電話がベルを鳴らした。相手が誰なのか分かっていた彼は躊躇う事無く受話器を取り、挨拶も無しに口を開く。

 

 

「用件は何だ?」

 

『おや、その様子だとウェイ君はもう死んじゃったのかな?』

 

 

 受話器から聞こえてきたのはどこまでも冷淡なトウとは対照的に、一部の人間を非常に苛立たせる程に軽薄な声音。言葉とは裏腹に、どこか楽しげな雰囲気さえ感じさせる、この男。現在、最も口を利きたくなかった相手であり、確実に接触してくるであろうと予想していた相手、亡国機業ヨーロッパ支部実働部隊纏め役、通称『フォレスト一派』の首領、フォレスト本人だ。

 

 

「正当防衛、ならびにトウ派として今回の件に対し、適切な罰を与えたに過ぎん」

 

 

 相変わらず感情の籠もってない冷めた口調で、トウはそう答える。当然ながら、これは建前だ。今回の件を計画したのはトウであり、ウェイは彼の命令に忠実に従っただけに過ぎない。しかし、最初から失敗することが前提だったとはいえ、今回の結果はあまりにお粗末だった。せめてフォレスト一派期待の若手チームを何人か殺せれば儲けものと考えていたが、結果は御覧の通りである。おまけに、幾ら使い捨ての駒を募る為の餌だったとは言え、仮にも次期盟主候補の肩書を持たせていたウェイが予想以上に使い物にならなかたのが痛い。せめて事の後始末くらい出来れば考えたが、そうでないのなら価値は無い。与えたコードネームと同じように、本来の役目を果たしてもらう事にした。

 

 

『あらら残念。賠償金代わりに、彼を貰おうかと思ったんだけどなぁ…』

 

「それは困る。奴は無能だが、無知ではない」

 

 

 しかし何より、これが一番の懸念だった。確かに全ての責任を押し付け、真実を闇に葬る為でもあったが、ウェイを殺した最大の理由は、彼の身柄がフォレスト派に渡る事を防ぐ為だ。仮にとは言え次期盟主候補、手に入れたトウ派の組織情報は、他の派閥からしたら非常に貴重なものである。みすみすそれを渡してしまい、利用されたら堪ったものでは無い。

 

 

『まぁ良いや、今回の件に対する落とし前に関しては、要相談ということにしておこうかな』

 

「そうしてくれると助かる」

 

 

 相手もその意図に気付いているだろうが、深くは追及してこない。本来なら幹部会に提出した抗議文を用いて他の派閥を味方に引き込みながら一気にケリを付けるとこだが、トウが既に無関係を主張し、それを否定する為の証人は既に死んでいる。その結果、互いの主張は平行線を辿り、他の派閥もどちらに着くか決めかねる事になるだろう。ましてや現在、組織全体が興味は他にあり、派閥同士の小競り合いに構う暇はない。最終的に、身内の暴走による被害の責任をトウ派がとる事になるだろうが、逆に言えばそれだけで済む。

 実際のところ、フォレスト派とトウ派が戦争した場合、かなりの確率でフォレスト派に軍配が上がるだろう。しかし、もしフォレスト派がトウ本人による関与の裏付けを取らずに強硬策に出た場合、間違いない他の派閥が動くだろう。今でこそ静観を決め込んでいる者達が殆どだが、急速に勢力を拡大させ始めたフォレスト派を危険視しているには、トウ派だけではないのだ。

 

 

「ところでフォレスト、実は少々悩みがあるんだが、聞いてくれるか?」

 

『聞くだけなら構わないよ』

 

 

 受話器を肩に乗せ、空いた手で一発の銃弾を取り出し、空っぽの弾倉に装填する。そして勢いよく弾倉をカラカラと回し、言葉を続けた…

 

 

「昔から自宅の近くに雑木林があるんだが、先日の大雨以降、異様なまでに増殖されてしまってな…」

 

 

 そう言いながら立ち上がり、彼は改めて大窓から海を眺める。当たり前だが、視線の先には雑木林など無い。眼下に広がるのは、世界の中心となりつつある、遥か極東に浮かぶ島国へと続く大海原。その方角に、トウは瞳に静かな憎悪を浮かべながら、視線を向け続けた。

 

 

「今となっては目に余る規模にまで増えてしまい、ここからの眺めも随分と悪くなってしまった。目障りな事この上ないので、近々一本残らず伐採してやる予定なんだが、どう思う?」

 

『別に良いんじゃない? まぁ、君ってそう言うの下手くそだから、大分苦労すると思うけど。どうせだから、草むしり程度で我慢したら?』

 

 

 傍から見れば、なんてことない普通の世間話。しかし、彼らから発せられる雰囲気は、お世辞にも穏やかとは言い難い。もしもこの場に空気を読める者が居たら、確実に逃げ出していただろう…

 

 

『あぁそう言えば、僕も最近困ったことがあってね…』

 

「ほう?」

 

 

 そんな折、今度は向こうが語り出す。向こうも向こうで依然として軽薄な態度は消えていないが、発せられる言葉に幾分の冷たさが宿っていた…

 

 

『ここ最近になって、僕の庭にトカゲが現れるようになったんだ。大した力も無いのに、目の前をチョロチョロと動き回るモノだから鬱陶しいよ本当に。その癖してこっちが本気になると、いつも尻尾を切って逃げられてしまうんだ。やっぱり、頭を踏み潰さないとダメなのかね…?』

 

「それはそれは、御苦労なことだ。似たような境遇、立場、悩みを持つ者として、微力ながら応援させてもらおう」

 

『それはどうも、君も森林伐採なんてらしくもない真似、精々頑張ってね。それじゃあ、失礼するよ』

 

 

 流れる沈黙。トウの部屋には受話器から流れる通信音と、カラカラと弾倉が回る音だけが響く。だが、やがて彼は受話器を握り潰し、その残骸を床に投げ捨てた。それと同時に銃口を向け、カチリと一度トリガーを引いて弾倉の回転を止める。まるで受話器の先にまだ先程の通話相手が居るとでも言わんばかりに、冷たくも激しい憎悪を籠めた視線をぶつける。そして…

 

 

 

「……言われなくとも、根絶やしにしてやるさ…」

 

 

 

 呟きと共に、もう一度引かれたトリガー。それにより発射された弾丸は、既に粉々になっていた受話器を完全に粉砕した…

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「ふん…」

 

「相手はトウか?」

 

 

 先程まで使っていた携帯電話を、通話が終わるや否やゴミ箱に捨てたフォレストを見て、ティーガーはそう言った。問われたフォレストは黙って肩を竦めるだけだったが、ティーガーはそれを肯定と捉えた。

 

 

「しかし、それはさておき御苦労様。オータムはどうしてる?」

 

「良いとこ取りしていった私が気にくわなったのか、この店にクロエ・クロニクルを連れてくるまで延々と文句を言われた。殆ど右から左へ聞き流してやったが…」

 

 

 学園襲撃の実行犯でもあるクロエ・クロニクル。この店へと招待した篠ノ之束との交渉に用いるカードにする為、彼女の身柄をティーガーとオータムの二人掛かりで行ってきたのだ。一人非常に不満を抱いたようだが作戦は見事に成功し、現在篠ノ之博士と交渉中のスコールの元へオータムが連れて行ってることだろう。彼女がクロエ・クロニクルを溺愛していることは確認済みであり、人質としての価値は充分にあることはフォレストも認めている。そして今回のコレの言いだしっぺはスコールであり、博士と直接交渉する役目も本人が希望したので譲った。しかし…

 

 

「甘い、甘過ぎるよスコール、君は天災を舐めている。世界中の奴らにも言えることだが、竜と竜騎士だけで、竜飼いに本気で勝てると思っているのかい?」

 

「……ところでフォレスト、料理出来たんだな…」

 

 

 ティーガーの視線の先に居るフォレストの姿は、彼の事を見慣れた者からしたらハッキリ言って違和感しか感じない。コック帽をかぶり、白い作業服に前掛けを身に着け、食材を刻みながら鍋やフライパンに放り込む彼の姿は、まさにシェフそのものだ。

 まぁ、現在二人が居る場所はレストランの厨房なので服装自体は間違ってないし、そう言ったティーガー自身も今はウェイターの制服を身に着けさせられているのだが…

 

 

「おや、言ってなかった? 僕って結構、料理は出来るんだよ」

 

「初耳だ。掃除や整理整頓が出来るのは知っていたが、貴様の性格上、流石に料理までやるとは思ってなか…」

 

 

―――チーーーン!!

 

 

「……前言撤回だ。良く見れば、殆ど冷凍食品やレトルトではないか…!!」

 

「美味しくないモノを美味しくするのが料理ってもんでしょ。試しにコレ食べてみる? お湯で温めるシチューとカルボナーラソースで作ったグラタン」

 

 

 とは言え、このなんちゃってフルコースを出され、それを食べた天災は普通に『美味しい』を連呼しており、同席していた某セレブな大雨もちょっと口にしていた。味覚音痴の疑惑がある天災はともかく、スコールは一口で即席料理を組み合わせただけだと気付いたのだが、これはこれでアリと心の中で呟いていたとか…

 

 

「しかし、スコールも面倒な事を頼む。クロニクルを拉致しろなど…」

 

「すんなりこなしてきたけどね、君とオータム。ていうかガツガツ食ってるけど、もしかして結構気に入ったのかな、そのグラタン?」

 

「まぁ、普通に美味いな。何故、眠り薬なんぞを混ぜたのかは不問にしてやる位には…」

 

 

 ジト目で睨みながら発せられたティーガーの言葉に、フォレストは思わず苦笑した。彼が混ぜた薬は、普通の人間にとっては死なない程度とは言え、非常に強力な効果を持つ睡眠薬だ。とは言え、魔改造の果てに化物となりつつあるティーガーが相手では、欠伸の一つも起こすことが出来なかったが…

 そんなこと、今更過ぎて確かめるまでもない。にも関わらず、そんなことをした理由が分からず、ティーガーは怪訝な表情を見せた。

 

 

「どうした?」

 

「スコールの指示で、それと同じものを混ぜた料理を篠ノ之博士に出してるんだけど……君と同じ反応を見せてるんだよね…」

 

「……なに…?」

 

「いやぁ、天災様の身体能力については知ってたけど、これは想像以上だ。人質による脅迫は確実に失敗するだろうけど、IS製造の承諾に関してはエムの存在で五分五分、そして僕達の本命2つは…」

 

 

 その時、突然厨房の外から大きな音が聴こえてきた。まるで誰かが殴り飛ばされた音のような、ISを使いながらの乱闘が始まったかのような、とにかく複数の誰かが激しい動きで暴れまわっている。その音を耳にしながら、フォレストは自然と笑みを浮かべた。そして…

 

 

「このメインディッシュ次第だね…」

 

 

 今日の為に用意した、とびきりの一品を台車に乗せながら、彼は動き出した…

 

 




○ウェイの死体を片付けた男の名前は『右腕』
○他にもトウの本物の側近には、『左腕』、『目』、『耳』など、身体の名称が付きます
○出す機会が訪れるかは分かりませんが…
○他の派閥の候補達はオランジュに引けを取らない程に有能です
○10年の付き合いってこともあり、二人きりだと幾分フランクな旦那と兄貴
○旦那の言う本命2つは、次回に判明

次こそはもっと早く書き上げたい…

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