IS学園潜入任務~壁の裏でリア充観察記録~   作:四季の歓喜

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やっと…終わった……(泣)
次回からギャグパートが本格的に書けるぞおおおおぉぉぉぉ!!


不器用なりに… 後編

「俺はさ、お前に救われたんだよ…」

 

 

 本人は自覚してないと思うが、俺にとってはそうだった。彼女と出会うことがなければ、俺は『AL-No.6』として空っぽな人形のままだったろうし、仲間たちに人として接して貰えなかったと思う…

 

 

「生きる為の支えを無くして空っぽになった俺に、お前は全ての切っ掛けをくれた…」

 

 

 亡国機業に身を置いたその日まで、生き続ける為の原動力となった復讐心。その復讐心が無意味なものに成り下がった時、全てがどうでもよくなった俺の心は空っぽになった。自分を拾ってくれた恩人達には目もくれず、ただただ自分の殻に引き篭もっては腐り続けた。

 

―――そんな馬鹿な俺の殻を、無自覚ながらも粉々に粉砕してくれたのがマドカだ…

 

 

「だからこそ俺は、お前と一緒に自分の求めたモノを探すことにした…」

 

 

 生きる続ける理由を求めた俺と、確固たる自分自身を欲したマドカ。互いに探し求めたモノを、互いが既に持っている…そんな奇妙な境遇だからこそ、逆に俺達は互いを理解出来たのかもしれない。少なくとも、自分達が互いに助け合うことを約束するのに、そう時間は掛からなかった…

 

 

「けど、いつの間にか目的と手段が入れ替わっちまったみたいだ…」

 

 

 生きる理由を探し続ける過程で、亡国機業の仲間達に恩返しをするという目的が出来た。散々な目に遭わされた過去を、笑い飛ばせるくらいに人生を楽しむという目標も出来た。あの時と比べたら、俺はとても幸せに満ち溢れた人生を送っていると、自身を持って言える。

 でも…どんなに心が満たされようが、幸福を感じようが、殻が壊れたと同時に出来た、俺の芯とも言うべき部分は、決して変わらなかった。それどころか、それは日に日に輝きを増していき、そして……

 

 

「今の俺は、お前の望みを叶えるのを手伝う事に…お前との繋がりを守り続ける事に、何よりも喜びを感じるようになったんだ……」

 

 

―――いつしかそれは、俺が探し続けたモノであり、俺にとって一番大切なモノになっていた…

 

 

「お前が居たから生きることが出来た、お前が居てくれるから生きていられる。だから俺は、お前に心から感謝しているんだ。そして同時に、お前の為になら死んでも良いと思った…」

 

 

 マドカとの繋がりこそが、長い間自分が求め続けたモノ…その事を自覚した時から俺は、一切の躊躇いを捨てた。元々、運良く生きながらえただけの命であり、欲しかったモノを手に入れた今となっては、自分の命に大した未練は無かった。旦那達に恩を仇で返す様な形になることに関しては、少しだけ心が苦しくなる。だが、それでもこの二つを天秤に掛けた時、俺は迷わずマドカに手を貸し続ける事を選ぶだろう。それこそが今の俺にとって掛け替えのないモノであり、俺の全てなのだから…

 

 

「……」

 

 

 俺の言葉をここまで聴いた彼女は、文字通り硬直していた。視線は定まらず、何かを言いたいのに、何を言えば分からないのか、完全に言葉に詰まっている。

 無理もないか…マドカの本心を知った今なら、彼女のこの反応にも納得出来る。だからこそ……

 

 

「でもな…最近になって、ちょっと欲が出た……」

 

「え…」

 

 

 俺の言葉の意味が分からず、マドカは一瞬呆けた表情を見せた。それに構わず、俺は言葉を続ける。改めて決意した、自分の望みを再認識にする為に…

 

 

「俺は自分自身が死のうが、お前が望みを叶え、笑顔になればそれで良いと思ってた。だけど今は…」

 

 

 マドカとの繋がりを実感さえ出来るのであれば、その最中で命を落とすことになろうが本望だった。彼女が望みを叶え、笑顔になればそれで良いと思った。その為に俺は、今まで迷う事無くその身を投げ出すことが出来た。これからだって生きている限り、それを続けるつもりだった。

 だけど、今は…謀らずしもマドカの心の内を知ってしまった今、心の奥底に封じていた願望を無視することが出来なくなっていた。ずっと繋がり続けていたいと思っていた相手に『私も』と言って貰えた俺は、激しく燃え上がるその願望を口にすることを殆ど躊躇わなかった…

 

 

「今の俺は、お前の…『織斑マドカ』の、本当の笑顔が見てみたい……」

 

「ッ!!」

 

 

 よっぽど驚いたのか、俺の言葉を聞いた途端にマドカは目を見開いて固まった。だが、俺は喋り続けた。今の自分が抱いているこの感情が本物であると、改めて心から実感したいから…

 

 

「お前の望み…自分自身を手に入れて、本当の意味で『織斑マドカ』になれた、お前の最初の笑顔が見てみたい。生きて、その笑顔が見てみたい……」

 

 

―――そうとも…彼女を笑顔にするだけじゃ物足らない、繋がりだけじゃ満足できない。そのせいで、今までと違って簡単に命を投げ出すよう真似を躊躇うかもしれない。けれど、俺はもう……

 

 

「だから俺は、それまで死ぬつもりは無い。お前が『織斑マドカ』になれるその日まで、絶対に死んだりしない。そしてどうか、お前が望みを叶えるその日を迎えるまで、俺を隣に居させてくれ……」

 

 

 

―――お前(マドカ)から離れることは、決して出来そうに無い…

 

 

 

「……私は、お前に助けられてばかりで、いつも迷惑をかけて…」

 

「今更気にするとでも思ってんのか、そんなこと?」

 

「私は、お前が死んでまで私を助けようとしてくれたことを、お前を心配するよりも先に、喜ん、だんだ、ぞ…?」

 

「言ったろ? お前を喜ばすことが、俺の生き甲斐だって……それにさっきも言ったが、今後はそこまで無茶しないさ。お前の笑顔を。自分の目で見たいからな…」

 

「私は、お前が死ぬ一番の原因に、なるかもしれないん、だぞ…?」

 

「死のうとしても死ねなかった俺に、その問いはナンセンスだろ」

 

「私は、私、は………私は、お前に甘え続けても……隣に居続けても良い、のか…?」

 

「当たり前だ。むしろ、俺の方から頼む…」

 

「……お前は…本当に馬鹿な奴、だよ…」

 

 

 

 震えた声で途切れ途切れになった問いの数々に、俺は全て即答した。その結果、マドカはゆっくりと俺からを目を逸らすように俯いて黙り込んだ。俺も言いたい事は全て言い切ったので、必然と二人の間に沈黙が舞い戻ってきた。けれど、この沈黙もまた、長くは続かなかった。暫くして、マドカは顔を俯いていた顔を上げた。彼女の顔には僅かに頬を涙が伝った後があったが、先程のまでのような暗いものではなくなり、まるで憑き物が落ちたかのようにスッキリとしていた。そして…

 

 

「セヴァス…」

 

「ん?」

 

「……ありがとう…」

 

「…おう……」

 

 

 

 

---二人の間に先程までのギクシャクした空気は既に無く、いつも通りの…いや、これまで以上に温かい繋がりが、二人の間に生まれていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、まるで愛の告白みたいだったな。私じゃなかったら勘違いしてるぞ?」

 

「あぁ、確かにそうだな。学園に長く居過ぎたせいで、俺もラブコメ馬鹿に影響されたみたいだ、あははは…」

 

 

---ガタンッ、ゴッ!!

 

 

 鈍い音がしたので隣に視線を向けたら、眠っていた筈のオータムが前のめりにズッコけ、そのまま額を前の座席にぶつけていた…

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

9月○日

 今日も1日が始まった。セイスも居らず、助六も無くなった今の俺は孤立した戦士…まさに、ワンマンアーミーだ。はたしてイジられキャラである俺は、この孤独感に耐えきる事が出来るのだろうか?

 既に報告書が愚痴と独り言による日記のようになっているが、この位は御愛嬌として許して貰いたい。だって暇なんだもん…

 

 

10月×日

 一夏が墜落しかけた簪嬢をキャッチして、ハートを墜としてからと言うもの、色々な方面から黒いオーラが発せられている。

 メテオラを中心とする更識いもう党の連中は勿論のこと、一夏を新参者に奪われたラヴァーズの機嫌は特に酷い。その酷さは、先日犠牲になった助六が身を持って教えてくれた。

 今日も各自訓練及び強化スケジュールと称した、一夏処刑のリハーサルを念入りに繰り返している。

そんな中、あの面子の中で最も沸点が低い筈の箒だけは、意外な事に割と静かだった。 

 トーナメントのペアを組んだ楯無が事情を話したのか、それとも嵐の前の静けさと言う奴か…どちらにせよ、彼女が出会い頭に爆発し、一夏を斬り殺さない事を祈るばかりである。

 

 余談だが先日に自分で一夏の写真に穴を空け、泣き顔になったラウラの画像にプレミア価格が付いた。良い感じに財布も潤ったが、さていったい何に使おうか…

 

 

10月△日

 金の使い道が決まった。技術部の連中が、今は亡き助六の後継機を開発中とのことだ。この投資話に便乗して、その見返りにまた試作品を貰うとしよう………グヘヘ…

 それはさて置き、一夏の方に大した動きは見られない。強いて上げるのならば、簪嬢が奴に対して段々と積極的になってきたこと位だろう。そのせいもあってか、ファンクラブの連中からは彼女の恋路を邪魔しろという要求がひっきりなしに送られてくる。馬に蹴られたくないし、名前を言えぬあの方に呪われたくない。そもそも、ファンの象徴たる彼女本人の望みを妨害してどうすんねん。取り敢えずメテオラには、彼らの手綱を一層しっかりと握っておいて貰おう…

 

 

10月△×日

助六の後継機…『弥七』が完成したらしく、トーナメント当日前には試作品を送ってくれるそうだ。楽しみだが、覗き及び盗撮による小遣い稼ぎはセイスが居ない時にしかやれないので、出来ることならもっと早く届けて欲しい。

 おっと、急に背筋が寒くなったな…冷房は入れてない筈なんだが……

 

 

10月△○日

 予定よりも早く『弥七』が完成したらしく、技術部の連中は早々に俺の元へと届けてくれた。ここ最近の唯一の楽しみだったので、素直に喜ぶべきなのだろう。喜ぶべきなんだろうが…

 

 なんでティーガーの兄貴まで来るんだよ…orz

 

 聞いた話によれば近々旦那達もこの近辺で何かするらしく、その下見ついでにセイスの抜けた穴を埋めるべく増援として来てくれたらしい。フォレスト一派最強の男を送ってくれるなんて大奮発も良い所だが、今の俺にとってはなんとも間の悪い話だ… 

 セイス以上に真面目な兄貴のことだ…弥七を使って覗きをやった日には、俺や製作に関わった技術部の連中は一人残らずドキツイ制裁を喰らわされちまうだろう……当分は我慢だな…

 

 そういや今日、簪嬢が泣いていた。意中の相手が苦手な姉と仲良くやっている姿を見たのがショックだったのか、そのまま自分の部屋へと走り去って行った。いつものラヴァーズの面々だったら、彼女みたいに泣いたりせず、そのまま問答無用で一夏を殴りに行ってたろうなぁ…

 

 

10月☆日(昼)

 さて、トーナメント当日になったが…とんでもなく面倒な事態になった。

 普通にことが進むとは微塵も思っていなかったが、流石に無人ISが襲撃してくるとは想像だにしていなかった。しかも、一度に複数…はっきり言って、状況は最悪だ。そして案の定、その場に居合わせた…というか、無人機の目的が最初から彼女達だったのかもしれないが、アリーナのシールドをぶち抜いてきた無人機と鉢合わせしたトーナメント参加者は驚く時間もそこそこに、敵意剥き出しの無人機達と戦闘を開始する羽目になった。最早、一夏のデータ取りどころでは無い。無人機は春先に出現した個体とは比べ物にならない戦闘能力を保有しており、それぞれ二対一の状況でありながら相対する専用機持ち達を圧倒していた。この無人機を送りつけてきた奴がどこの誰かは大体推測は出来ているが、だからと言って俺がどうにか出来る問題ではない。下手をすれば無人機達の標的の一つに俺達が含められており、その内こちらの居場所を嗅ぎ付けて襲いに来る可能性がある。

 

 という訳で兄貴、さっさとこの場から脱出するので準備を……え、何ですって? 『肩慣らしには調度良い』ってあんた何を言って…あ、ちょっどこ行くんすか!? は!?『アリーナに決まってる』!? 嘘でしょ!?

 

 

10月☆日(夜)

 兄貴には二度と逆らわないと改めて決意した。

 セイスがよく使うステルス装置を使用した兄貴は誰にも気付かれないまま、戦場と化したアリーナへの侵入を果たし、そのまま手当たり次第に無人機を狩り尽くしていった…

 音も無く、ISのセンサーにすら捉えきれない速度で背後から忍び寄り、技術部の試作品なのか、やけに機械的な手甲を使用した徒手空拳で無人機の胴とコアを次々と貫いていくその姿は、まさに獲物を狩る獣そのものだった。しかも恐ろしいことに、専用機持ち達の攻撃のタイミングに寸分の狂い無く同調して動いていた為、誰一人兄貴の行動に気付くことは無かった。

 

 セシリアと鈴が相対した無人機のバリア装置を、兄貴が一瞬で破壊したことを…

 

 シャルロットとラウラがトドメノ一撃を加えるよりも先に、兄貴が無人機のコアを貫いていたことを…

 

 ダリルとフォルテのISを本国送りになるまで破壊したのは、無人機では無く兄貴だったことを…

 

『無人機を撃墜したのは専用機持ち達』と、当事者達は一人残らず思い込んでいた。いくら試作兵器によってIS並の攻撃力を持ったからと言って、簡単に出来るようなことじゃねぇよ……てか、怖ぇよ…

 

 それにしても、簪嬢は大丈夫だろうか? 彼女と一夏、箒、そして楯無の四人だけは本当に自力で無人機を撃破していたのだが、その代償は楯無が深手を負うと言う結果だった。まぁ、その負傷のお陰であの姉妹は改めて和解したみたいだし、そんなに悪いことじゃなかったようだ。簪嬢の表情も幾分明るいので、間違いないだろう。今度、彼女が会員登録しているサイトからのプレゼントと称して、何かグッズを送ってあげよう…

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「ねぇ、あなた舐めてるでしょ?」

 

「あ、すんません。それ旦那宛の報告書でした」

 

「これ出すの!?」

 

 

 とあるホテル…そこに店を構えるレストランの席の一つに、スコールは居た。彼女の趣味が良く出ている派手なドレスで身を包み、優雅な雰囲気を出して座っている彼女は絵になっていた…のはさっきまでの話で、ウエイターに渡された特殊な書類に目を通した途端に色々と台無しになっていた。

 

 

「ただの日記じゃない!!」

 

「いえいえ、暗号だらけの状態になってるだけですよ。はい、こっちが姉御用の報告書です」

 

 

 そう言うのと同時に、ウエイターの姿をした男…オランジュは懐からもう厚い書類の束を取り出し、スコールに手渡した。スコールが渡された書類に目を通すとそこには、データや報告がビッシリと記された、まさに彼女が欲しかった内容そのものが書き込まれていた。その報告書の文量は、さっきの日記もどきの倍は軽く超えているのでは無かろうか…

 

 

「ていうか、どうしたのその格好…?」

 

「誰のせいだと思ってるんですか?」

 

 

 無人機によるトーナメント襲撃が一応は収拾し、IS学園にティーガーを残したオランジュはこれまでの報告をスコールにするために単身でこの高級レストランへと足を運んだのである。しかし指定されたこの店に辿り着いたオランジュだったが、ここは正装した客以外お断りの店であり、案の定門前払いを受けてしまった。仕方なく裏口から侵入して控え室に忍び込び、ウエイターの制服を拝借してどうにかスコールの元を訪れることに成功したのであった…

 

 

「余談ですが、それに書かれた内容は、姉御の言うただの日記にも全て書き込まれてますよ?」

 

「どこに!?」

 

 

 スコールは段々と頭が痛くなってきたような気がしてきた。よく仲間内に阿呆専門と言われてからかわれているので忘れがちだが、オランジュはフォレストの愛弟子であり、組織の次期盟主候補の一人なのだ。同じ仲間にすら解読不可能な暗号を書くなんてことは、造作もないのだろう。現に今の彼は、組織の幹部である自分を目の前にしているにも関わらず、一切物怖じせずにやり取りを行うどころか、完全に会話のペースを掌握している…

 なんてことを思っていたら、改めて表情を引き締めたオランジュが口を開いた。

 

 

「ところで姉御、増援の件は許可してくれますか?」

 

「あぁ、そのこと…」

 

 

 今日の無人機による襲撃もそうだが、そろそろ他の裏世界の勢力も怪しい動きを見せ始めていた。このままセイスとオランジュの二人だけでは、いつか対応しきれなくなる可能性が大いにあった。とはいえ、このまま織斑一夏から手を引くという選択肢はあり得ないし、今回たまたま居合わせたティーガーには別の仕事があるので長居は出来ない。そうなると、やはり他から増援を呼ぶしかないのである。スコール一派に人的余裕は無いので、またフォレスト一派から人員を借りる羽目になるが、その位は我慢しよう… 

 

 

「仕方ないわね、ただし…」

 

「協定時の契約は厳守、現場での指揮権は姉御のもの、でしょう?」

 

「……分かってるなら良いわ。今後も、任務頑張ってちょうだい…」

 

「かしこまりました」

 

 

 そう言うや否やウエイターの格好をしたオランジュは、本物の店員と比べても見劣りしない綺麗なお辞儀を見せ、『では、失礼します』と一言だけ言ってその場から離れて行った……一本の酒瓶を手に、とある二人の学生が席に着いたテーブルへと…

 

 

「ちょっと待ちなさい、何をする気…?」

 

「いえいえ、姉御があいつにスーツを買ってあげたように、俺もこいつをプレゼントしようかと…」

 

 

 思わず呼び止めたスコールに、シレッと返すオランジュ。彼は店員を装う為に終始微笑を浮かべていたが、目が笑ってなかった事にスコールは漸く気付いた。

 よく考えれば分かることだが、自分宛のものは勿論のこと、フォレスト用の報告書を仕上げるのに彼は多大な労力と時間を消費した筈だ。それに加えて店員のフリをして店へと侵入するなどという無駄な苦労をした挙句、目の前に見知った奴が女連れで美味いもの食ってたのを見たら色々と我慢出来なくなったのだろう。ていうか今日はやけに淡白な反応を示すくせに突っ掛かってくると思ったが、もしかして…

 

 

「では姉御、またその内に」

 

「え、えぇ…」

 

 

 これ以上喋り掛けると薮蛇になる気がしたので、スコールは一夏と箒が居るテーブルへと向かう彼の背中を見送ることにした。思わず大きな溜め息を一つ吐いてしまい、憂鬱になってきた気分を誤魔化すべく、目の前のテーブルに置かれたワイングラスを手に取り、その中身を一気に飲み干した。

 が、グラスに入っていた飲み物はアルコールの味が一切しなかった。というよりも…

 

 

「……私が注文したの持っていったわね…?」

 

 

 自分が飲む筈だった“水のように透明な酒”を、何食わぬ顔で篠ノ之箒のグラスに注ぐオランジュを見て、思わず苦々しく呟くスコール。彼女のその姿はどことなく、仕事に疲れた居酒屋のOLに似ていた…

 因みに数分後、オータムからスコールに『嘘だッ!!アレで違うって嘘だッ!!』という意味不明なメールが来た。

 




・二人の絆は以前より強くなりました

・が、誰が『愛してる』と言った?(黒笑)

・まぁ、無自覚なだけなんですけどね…

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