ていうか、シリアスになると全然執筆が進まん!!いつになったらセイスを学園に帰らす事が出来るんだ!?(泣)
「……ん、ここは…?」
突如感じた揺れにより、マドカは目を覚ました。未だに意識がハッキリしない頭で周囲を見回してみると、自分の居る場所がホテルの部屋ではなくなっている事に気づいた。腰掛けているのは部屋のベッドから一人用ソファーの様な座席に変わり、窓から覗く景色は混み合った街並みから暗い夜空に浮かぶ雲を見下ろす光景に変わっていた。どうやらここは、飛行機の中のようだ…
「おや、起きたか…」
「む、セヴァス…」
声がした方を向くと、行きと同じようにセイスが隣の席に座り、半ば呆れたような視線をこっちに送っていた。因みにオータムは彼の隣の席に居たが、ぐっすりと眠っているので此方には無反応である。
「何故、もう帰りの飛行機に乗っているんだ…?」
「お前が寝てる間に色々とあったんだよ……それより、ホレ…」
「うん…?」
セイスはどこからか一枚の紙を取り出し、マドカに手渡してきた。依然として重い寝ぼけ眼を擦りながらそれを受け取り、目を通す。その結果、彼女は一気に目が覚めるほどに目を見開いた…
「ぶッ…!?」
「……後で返せよ…」
思わず噴出してしまう程に高い値段が書かれた領収書…やたら見覚えのある金額は、間違いなく自分が頼んだ例のワインの代金だ。その事が分かった途端、結局疲労と空腹に負けてボトルを空け、一人でそれを飲んだという記憶がハッキリしてきた。飲んだ後の事は殆ど何も覚えていないが、微妙に頭がガンガンするので、飲んだ量も確実にグラス一杯どころでは無いだろう。
昼間の件でセイスに迷惑を掛け、自己嫌悪に苛まれていたにも関わらず、このザマである。我ながら、色々な意味で最低な奴だと思う。どこの世界に、醜態を晒したその日に酔い潰れ、更なる迷惑を掛ける奴が居るのだろうか…?
「す、すまない…」
とにかく、マドカはセイスに頭を下げた。元々あのワインは一緒に飲むつもりだったが、彼への祝いの品として支払いは自分で全額払う予定だった。結局は自分で殆ど飲んでしまったようなので、贈り物もへったくれも無いが…
そんなマドカをセイスは暫くジッと見つめ、沈黙を続けた。セイスが何も言わないのでマドカは不安になってきたが、彼女が沈黙に耐えられずに何かを言うよりも早く、彼の方が先に口を開いた。
「なぁマドカ、さっきの部屋でのやり取り、どこまで覚えてる…?」
「さっき…?」
その言葉に反応してマドカが顔を上げると、セイスの顔が目に入った。気のせいで無ければ、彼の表情はそれほど怒っている様には見えなかった。ただその代わり、どことなく不安の色は浮かんでいるが…
それはさて置き、マドカはおぼろげな記憶を手繰り寄せてみた。自己嫌悪に苛まれ、自分はセイスの隣に居るべきでは無いと結論付けようとして、そこへホテルマンが例のワインを持ってきて、流石に自重すべきだと思ったにも関わらず飲んでしまい…
「……スマン、部屋であの酒を飲んでから記憶が…」
酒が凄く美味かったのは覚えているが、グラス一杯分を飲んでから、さっき目覚めるまでの間の記憶がスッポリと抜け落ちている。
いや、何か頭の隅に引っ掛かって残っているような感覚はあるのだが、無理に思い出そうとすると妙に顔が熱くなったり、胸の内が温かくなる様な気分になってくる。まるで、とてつもなく恥ずかしい思いをしたような、嬉しい思いをしたかような状態だ…
「あ、いや…覚えてないのなら、それはそれで別に構わない……」
それだけ言ってセイスはマドカから目を逸らし、『そうか、覚えてねぇのか…』と呟きながら、何やら一人で考え込み始めた。そんな彼の姿を見てマドカは『どうした』と声を掛けようと口を開きかけたが、途中でやめた…
(今更どうしようと言うんだ…私はもう、セヴァスとは……)
ワインの件を思い出すにあたり、先程まで考えていたこと…セイスの為にも、これ以上は彼と共に居るのはやめる決心をした事も思い出したのだ。
セイスには今まで何度も支えられ、救われてきた。それに比例して、自分も彼の力になりたいと心から思ってきた。だが、現実はどうだ?自分は彼の力になるどころか、彼の死神になろうとしているではないか。彼の文字通り命を掛けた行動と想いに甘え、彼が死ぬ一番の要因になろうとしているではないか…
(それに…今日の事で、いい加減に愛想を尽かされただろう……)
そう思うと、胸にズキリと少しだけ痛みが走った。流石に唯一心から気を許した相手に嫌われるというのは、考えるだけで悲しい気分にさせられる。しかし、幾ら自分との繋がりが大切とは言っても、誰が好き好んで、こんなロクデナシで疫病神のような自分を大切にし続けてくれるというのだ…?
それに自分の為にも、何よりセイスの為にもそれが一番なのだ。彼が自分を嫌ってくれれば、彼が自分との繋がりに価値を見出さなくなれば、彼が自分の為に命を懸ける必要はなくなるのだから…
(だからもう私は、セヴァスとは…)
これまで自分は、セイスに対して何も報いることが出来なかった。いつだって自分は迷惑を掛け、安らぎを与えて貰う側だった。今日という日を迎えるまで、彼という唯一の存在にどれだけ救われてきたことか…
(セヴァスとは、二度と…)
だが、それも今日で終わりだ。セイスと絶交してしまえば、彼が自分の為に命を懸ける事はなくなる。そうすれば、彼が簡単に死ぬ事はなくなる。それこそ、自分が望んでいる事そのものではないか…
---だが…
(なのに私は、この期に及んで何を今更ッ…!!)
セイスとの交友を、繋がりを断つと決心した途端、さっきとは比にならない程の痛みが胸に走る。この締め付けられるような痛みはまるで、彼の元から離れることを悲しく感じているようだ…
いや、事実悲しいのだろう。普通に考えて、セイスから離れることが悲しくない訳が無い。何しろ自分をここまで理解し、肯定してくれるのは、彼しか居ないのだから…
(だからと言って…だからと言って、このままで良い訳が無いだろう!! セヴァスが私の為に、死んで良い訳が無いだろうがッ!!)
大切な存在だからこそ、自分は彼を失いたくない。彼を死なせないで済むと言うのなら、この程度の悲しみがどうしたと言うのだ。彼に愛想を尽かされようが、交友を断たれようが、生きているのであればそれで充分ではないか…
(何を躊躇っているんだ私は…)
---嫌だ…
(迷う必要なんて無い。それでセヴァスが生き続けることが出来るのなら、それだけで…)
―――離れたくない…!
(……それだけで、充分だろう!? なのに、なのにどうしてッ…!?)
―――繋がり続けていたい…!!
(どうして、涙が止まらない…!?)
いつの間にか、目から涙が少しずつ溢れ出していた。セイスとの繋がりを断つべきであると思っていながら、どうしてもその選択を躊躇い、拒絶する自分がいるようだ。
だが、いつまでも彼に甘える訳にはいかない。ましてや、場合によっては彼の命に関わることなのだ。これ以上決心が鈍る前に、自分は彼との繋がりを断たねばならない。そう思ったマドカは、頬を伝う熱いソレを腕で拭った…
「マドカ、ちょっと良いか…?」
「ッ!!!?」
―――ほぼ同時に、セイスが声を掛けてきた…
「……どうした…?」
「い…いや、なんでもない……」
「…?」
唐突に話し掛けてきたものだから驚き、その余波なのか涙も止まった。どうにか表情を取り繕い、改めて彼の方へと顔を向けると、こっちを見てキョトンとしていた。どうやら、幸い涙を流していたところは見られなかったようだ。そして、マドカの様子にセイスは少しだけ怪訝な表情を見せていたが、すぐに気を取り直して喋り始めた。
「俺さ、新しくやりたい事が出来たんだ」
「え…?」
あまりに突然過ぎる話に、当然ながらマドカは戸惑った。しかし、セイスはそんな事など御構い無しとばかりに話を続ける…
「あんまり詳しい事は言えないんだけど、俺はその為に暫く死ぬ訳にはいかなくなっちまった…」
「それは、つまり…」
―――それはつまり…セイスはもう、私の為に命を懸けないで済む理由が出来たということか…?
「とは言っても、別にお前を手伝う事をやめる訳じゃないぞ? 俺は最後まで、お前の復讐に付き合い続けるし、お前の味方であり続けるつもりだ…」
「ッ!! 待ってくれ、それじゃあ何も…!!」
何も変わらない…このままでは、彼が死に急ぐような生き方は何も変わらない。焦燥感に駆られ、彼女は思わず口を挟もうとした……
「なんだよ…お前を手伝ったら、俺が死んじまうとでも言うのか?」
「そうに決まっているだろう!?」
実際に彼の無茶を目の前にしたのは今日が初めてだが、キャノンボール・ファストの時を考えれば、彼が今ままで自分の知らないところで死に掛けた事を想像するのは難しくない。
だから、このまま放っておけば、いつか彼は確実に死んでしまう…
「俺が死ぬ? んなわけ無いだろ…」
「実際この前、自分でスコールに殺されようとしたじゃないか…!!」
「グッ…結果的に生きてるからノーカンだ、ノーカン……」
「ふざけるなッ!!」
自分でもビックリする位に大きな声がでたが、当然ながらセイスの方はもっと驚いていた。突然大声を出したことを皮切りに、二人の間に再び沈黙が舞い降りた。暫く見つめ合う形で五分、十分…もしかしたら一分だけだったかもしれないが、異様に長く感じた沈黙は、セイスが先に破った。
「……俺は、死なねぇよ…」
「だから、それは…!!」
再び激昂しかけたマドカだったが、セイスは手を翳す様にしてそれを遮り、言葉を続けた。いつの間にか彼の瞳には、諦めの色が浮かぶと同時に、何かを決心したかの様な光が宿っていた。そして…
「少なくとも、お前が『自分自身』を手に入れて、本当の意味で『織斑マドカ』に成るまでは、俺は死なないよ……だって、俺のやりたい事っていうのは…」
―――生きて、お前の隣に在り続けることだから…
・最初は色々と誤魔化しながら話を進めようとしたセイス
・しかし無理そうなので、一部の本心を吐露することに…
・めっさ修羅場ですが、二人はここが夜中とはいえ、旅客機の中であることを忘れてます…(笑)