皆様、お久しぶりで御座います。もう一つのサイトでの活動を優先したり、IS原作の再開に伴って展開の練り直しをしたりで一ヶ月近くも放置しておりましたが、そろそろ此方も本格的に再開させたいと思います。
しかし、暫く離れていたせいで、アイ潜の雰囲気を忘れかけるという情けない事態に…;
という訳で申し訳ありませんが、今回は準備運動を兼ねた番外編になります。時系列は七巻の最後辺り、どの本編かIFルートの話になるか未定な単品です。この次に外伝のラジオを終わらせ、本編の再開となる予定です。
外伝と本編の続きを待っている皆様、もう少しだけお待ちくださいませ…orz
(どうして…こんな事、に…?)
タッグトーナメントに合わせて発生した、無人ゴーレム襲撃事件。楯無はその時に負った傷は誰よりも深かった為、今回の負傷者の中で彼女だけが一日入院を余儀なくされた。とは言っても本格的な治療は終わっているので、点滴に繋がれたまま安静にしていれば済む話である。パジャマ姿で医務室のベッドに一人横になりながら、退屈な時間を過ごしていたら、時刻は既に深夜を迎えていた。そして現在、何故か彼女は…
「クッ……痛ッ…!?」
「おいおい、無理に動くと傷に響くぞ?」
―――手錠でベッドに拘束されていた…
「お…願い…もう、やめて……」
「ははは、何を言ってやがる。本番は、まだまだこれからだぜ…?」
目に涙を浮かべながら懇願する楯無の頬をぺチペチと叩きながら、彼女の両手を手錠でベッドに拘束した張本人は残酷な笑みを浮かべるだけだった。男の表情を見て、楯無は再び絶望する…
「どうして…こんな、真似を……?」
「どうして? どうしてかって? そんな事、言わなければ分からないのか? あ、因みに防音処理は完璧だから、幾ら叫んでも誰も来ないぞ?」
―――楯無を追い詰めている男…セイスは、ひたすら冷酷な笑みを浮かべる……
「ククク、中々に良い顔するじゃねぇか……テメェには何度も散々な目に遭わされたんだ、この程度で済むとか思うんじゃねぇぞ?」
「い、いや…やめ、て……もう、やめてッ…!!」
「ヒャーーーハハハハハァ!! さぁ泣け、喚け、苦しめ楯無!! その無様な姿で、この俺を楽しませてみせろぉ!!」
「お願い…お願いだから、やめ……いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
―――彼女の絶望に染まった叫びが、狭い医務室の中に限りなく響いた…
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―――遡る事、数十分前…
「……ん…?」
やる事も無く、一眠りしていた楯無は、腕に走る違和感に気付いてを目を覚ました。何故か中途半端な万歳の格好で腕を広げており、手首に固い感触を感じた上に動かせないのである。
いまどき金縛りなんて流行らないとか考えつつ、微睡んだ意識をハッキリさせた途端、思わず目を見開いてしまった…
「何、コレ…?」
動かせなくなった手の方に視線を向けて彼女の目に入ってきたのは、二つの手錠で別々にベッドに拘束された自分の両手だった。咄嗟に外そうと試みるが、どういう訳か一切外れそうに無い。この分だと関節を外しても無理そうなので、仕方なくISを使う事を即座に決意した。
しかし、いざ探してみると、すぐ傍に置いてあった筈の『ミステリアス・レイディ』が見当たらない。ある程度近くにあれば、意識するだけで呼び寄せる事が出来るのだが、それが出来る気配もしない…
「探し物は、コレか…?」
「ッ!?」
自分以外誰も居ない筈の医務室で、自分以外の…それも、聞き覚えのある声がした事により、彼女は自然と身体を強張らせる。恐る恐る視線を声の方へと向けると、医務室に置いてあった椅子を引っ張り出して、自分と向かい合う様な形で座っている一人の男が目に入る。しかもそいつは腕に包みを抱えながら、彼女が今まさに探していた物…待機状態の『ミステリアス・レイディ』を、空いている方の手でポンポンと投げて弄んでいた。
「……セイス、君…?」
「よぉ、お元気?」
―――亡国機業に属する彼女の宿敵、セイスが居た…
「……何をしているのかな…?」
「お前から武器を奪いました。因みに、その手錠も俺がやった」
「……ふざけてる…?」
「俺は至って大真面目さ」
今までに無い位に良い笑顔を浮かべ、そんな事を抜かすセイスに、楯無も引き攣った笑みを浮かべるが、内心では最悪な状況に対して焦りを感じた。
確かにこの男とは知らない仲でも無いが仲間という訳ではなく、むしろその逆である。そもそも、この前なんて殺されかけたばかりなので尚更だ。そんな男を目の前にして、この様な無防備な状態でいることは限りなく危険な状況なのだが…
「そうだ、お前に見せたい物があるんだけど…」
「……何かしら…?」
突然再開した会話に少しだけ動揺するも、何とか平静を装いながら対応する楯無。彼女が内心で焦燥感に駆られまくっていることを知ってか知らずか、セイスは抱えていた包みから一枚の紙を取り出し、それを彼女の方に見せた。
その紙に書いてあった内容を見た瞬間、今度こそ彼女は全身から血の気が引くような感覚に襲われ、動揺を隠すこともせず、反射的に身体を強張らせてしまった…
「私の…暗殺、指令……?」
「というわけで…」
「ッ!?」
呆然とする楯無を余所に、セイスは凶器でも取り出すつもりなのか、再び包みに手を突っ込んで何かを取り出そうとしていた。彼の行動を目にして我に返り、命の危機を本格的に感じた楯無は全力で抵抗を試みるが、やはり手錠はびくともしない。唯一拘束されていない足はセイスに届かず、それ依然にISと生身で互角にやり合う彼を相手に自分が出来ることなどたかが知れている。
それでも、彼女は諦めることなど出来なかった。自分にはやるべき事、やりたい事がまだ山ほど残っている。それに何より、やっと最愛の妹と仲直り出来たばかりなのだ…
「痛ッ…!!」
「無駄な抵抗はよせ、傷が開くぞ…?」
「黙りなさい…私はまだ、こんなとこで死ぬわけには……!!」
しかし生憎と、今の彼女の身体はその精神に付いていけなかったようで、最早殆ど動かせなかった。それでも尚、楯無は最後まで抵抗を諦めなかったが…
「そうかい……けど悪いが、こっちは時間が限られてるんでな…」
「ッ!?」
「さっさと終わらせて、帰らせて貰おうか」
身動きできない楯無の目の前で、セイスはまだ何かが入っている包みに手を突っ込む。そして、ニヤリと不気味な笑みを浮かべ、中からソレを取り出そうとした。
中から出てくるのは自分の命を奪う凶器か、はたまた拷問の為の道具か…どちらにせよ、楯無には最悪な結末しか齎さないだろう。しかし更識家当主としてのプライドがそうさせるのか、そうと分かっていても彼女は、決して最後までセイスから目を離そうとしなかった。そして……
「……」
「どうした、楯無?」
「……ちょっと…」
「ん…?」
「……何よ、それ…」
「何って、お前…」
---『毛糸玉』と『棒針』ですが、なにか…?
「……それを、どうするの…?」
「いや、お前に対する見舞いの品だけど?」
「……私、編み物苦手なんだけどな~?」
「知ってる、だから持ってきた。ついでにほら、『猿でも分かる編み物入門』も一緒に持ってきた」
「……」
「そうだ、夜食も持ってきてやったぞ。ほれ、お湯で作れる『即席坦々麺』」
「……随分と、負傷者の胃に、悪そうな、チョイス、ねぇ…?」
「だろう? そして極め付けはコレだ『百合の花』。因みに枯れかけだから、その内に花が落ちるぜ?」
「あなた本当に何しに来たのッ!?」
思わず怒鳴り声を上げてしまったが、傷に響いたのか楯無は痛みに呻いてすぐに黙った。そんな楯無の様子を見たセイスはと言うと、彼女のその様子が可笑しかったのか腹を抱えてケラケラと笑っていた…
「ぬははははは。いや、学園最強(笑)が大怪我したって言うから、これは良い機会だとばかりに日頃の鬱憤を晴らしに…もとい、知らない仲でも無いから見舞い位には顔出してやろうかと……」
楯無は知らないだろうが、ここ暫くセイスは諸事情により、IS学園どころか日本にすら居なかった。そして、ついさっき帰ってきたところで、その直後に留守番役だったオランジュに最近の出来事を教えて貰ったばかりなのである。
無人機が改良された上に量産されて襲撃してきた事にも驚いたが、楯無が深手を負ったという事の方が彼にとっては驚きだった。彼女が負傷すること自体はどうでも良いし、むしろ再起不能になってしまえと思わなくもないが、一応は強敵認定している相手が自分以外の者にやられると言うのは何だか面白くないのだ。どうせやられてくれるなら、自分の手で酷い目に遭わせてやりたいのである。
「そして気付いたら、お前に対する嫌がらせの品を持って見舞いに足を運んでた」
「このヒトデナシッ!!」
「俺、元から人間じゃねぇし」
「そういう意味じゃないわよ!!……取りあえず、私を殺しにきた訳では無いのね…?」
「まぁ、な。前のアレはちょっと事情が違ったし、さっきの指令も遂行期限はとっくに終わってる。現状としては、これまで通り時と場合によって利用したりされたりの関係を続けたいのが本音だ…」
「あ、そう…」
「……それに、お前をココで殺したら、確実に俺が呪い殺されるし…」
「え…?」
「いやいや、こっちの話…」
セイスのその言葉に、取り敢えず楯無はホッと胸を撫で下ろした。一時はどうなるかと思ったが、彼の言動と雰囲気からして、もう命の心配はせずに済みそうだ。ISを奪われ、ベッドに拘束された時は本当にどうしようかと…
「……ところで、さっきの嫌がらせの品々はともかく、私の今のこの状況は何…?」
「ははは、良くぞ聞いてくれました~」
楯無のその疑問に嬉々と返事をし、再びセイスは包みに手を突っ込んだ。それにしてもあの包み、そんんなに大きく見えないのだが、一体どれだけの量の私物が突っ込まれているのだろうか…
そうこうしている内に、彼は包みの中から一枚のDVDと、小型テレビを取り出した。小型テレビはともかく、楯無はDVDのパッケージに書いてある文字…ていうか、タイトルに目が行った。
「『エンドレス・ナイトメア』? ホラー映画か何かなの?」
「そうだ。ぶっちゃけ言うと、コレが今回のお前に対する嫌がらせの主力」
「え? もしかして、この拘束は…私に怖い映画を無理やり見せる為とか、もの凄いおバカな理由!?」
「ピンポーン」
それを聞いた瞬間、楯無は今日一番の深さを誇る溜め息を吐いた。拘束されてなければ、頭を両腕で抱えながらヘナヘナと床に崩れ落ちていたかもしれない…
「……こんな、しょうもない事で…」
「そのしょうもない理由で拘束された本人が言うなや…」
「うるさいわよッ!!……ていうか、私がホラー映画如きで参ると思ってるの…?」
「そんなまさか…」
楯無もセイスも裏社会の住人である。スプラッターな光景は日常茶飯事なので見慣れてるし、肉体に比例して精神も鍛えられているので、並大抵の事には動揺しない。ゾンビやエイリアンも、セイスからしたら自分の方が出鱈目な存在なので『臭いだけの雑魚』というイメージしか湧かないし、楯無もそんな彼と毎回戦ってるので『恐い』という感情が殆ど湧かないのだ。
「……それに俺らの場合、本物のホラー現象経験してるし…」
「ん? 心霊スポットにでも行ってきたの…?」
「いや、もっと恐ろしいとこ……」
―――流石に、ここ…IS学園に本物の幽霊と、お前の身内にそれに匹敵するとんでも少女が居るとは言えない……
「取り敢えず、それはこの際置いとくとして…とにかく見てみろ、面白いから。どうせ暇だろ?」
「……まぁ、良いわ。あなたのせいで目が醒めちゃったし、何だかんだ言って、そのお土産が一番まともそうだし。そもそも、動けないし…」
そう言って楯無は、ガチャガチャと手錠を無意味と分かりながらも鳴らす。やっぱり外れないと分かった彼女は、それを最後にようやく諦めたのか、完全に大人しくなった。
その様子を確認したセイスは、早速と言わんばかりにテキパキとDVDプレイヤーのセッティングを始める。本音を言えば、楯無が並みのホラー映画にビビるとは微塵も思っていない。へタレで駄目な部分もあるにはあるが、仮にも彼女は同業者の中でもトップクラスの実力者。堅気の人間が作ったフィクションなんぞにビビるようなタマじゃにのは、セイス自身よく分かってるつもりだ。
「よし、セッティング完了。ほれ、臨場感出す為にヘッドホンを…」
「あら、準備が良いわね。ついでに、この手錠も外してくれないかしら…?」
「だが断る」
「……チッ…」
更識楯無という人間が、ホラー映画を恐れるような人間で無いことは百も承知。それでもセイスは、どうしても彼女にこのDVDを見せたかった。実は、このDVD…
「敵対組織の人間と一緒に映画鑑賞って……私ったら、本当に何やってるんだか…」
「なにを今更言ってやがる。お、始まった…」
―――スコールの姉御を、“マジ泣き”させた実績を持ってたりする…
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―――そして、冒頭に戻る…
「いやああああああぁぁぁぁぁぁ!? お願い!! お願いだからセイス君、止めて!! そのリモコンの停止ボタンで再生を止めてえええええぇぇぇぇぇ!!」
「ふははははは、嫌なこった!! もっと泣け、喚け、叫べぇ!!」
「じゃあせめてヘッドホンを外してええええぇぇぇぇぇ!! 怖い!! 本当に怖いわよコレえええぇぇぇぇぇぇぇ!? そして傷に響いて痛いいいいいぃぃぃぃぃぃ!?」
正直言って予想通りの反応だったが、予想以上に面白いというのがセイスの素直な感想である。まるで普通の子供のように泣き叫び、手錠をガチャガチャさせながら必死に逃げようとする楯無は、彼女の事をそれなりに知っているセイスにとって新鮮だった。
話によればこのDVD、アメリカへ行った時に訪れた例のじーさんの所有物の一つらしい。旦那はアレなものを中心に借りていたらしいが、あのじーさんは実際色々なジャンルをコレクションとして所持しているそうだ。その事を聞いた姉御が興味半分でオススメの品を求めたところ、これを渡されたみたいなのだが……
―――基本怖いもの無しである姉御が、三日三晩一人で眠れなくなるという事態が発生した…
よりによってオータムが留守の間に見てしまったらしく、その日はマドカの部屋にお邪魔して夜明けを待ったとか…流石のマドカそれには心底驚愕し、割とガチで夢なのではと疑ったとの事である。
無論、マドカは姉御に理由を尋ね、それを聞いた。最初はこれが現実なのかと余計に疑ったらしいが、頬を抓ったら痛かったのでやっぱり現実であると認識。そうなると、やはりそのDVDの内容が気になるのは当然であり、マドカがそのDVDを手に取るのはある意味必然だった。
―――その結果、寝不足エージェントが一名追加される羽目になったが…
その話をマドカから聞いた時、セイスは何をバカなと思ったが、実際に現物を鑑賞してみたら即座に考えを改める事になった。とにかくこの映画を作った奴は、酷くタチの悪い性格をしているとしか考えられないのである…
「きゃああああああああああああぁあぁあぁぁぁぁぁ!? 何か聴こえてきゃああああああああああああああああ!?」
(言えない、まだ始まって4分の一も終わってないなんて言えない……面白くて…)
割と穏やかな冒頭のシーンの時から、ギリギリ何を言っているのか分からない位の音量で、ブツブツと誰かが念仏みたいものを呟いているのだ。音量が小さく、見ているシーンとは全く関係なさそうなので、大抵の者が『気のせい』と思って聞き流してしまうのだが、その時既に製作者による罠は始まっている。
暫くホラー映画とはとても思えない穏やかで平和的なシーンが映され続けるのだが、その間にも謎の呟きは聴こえ続ける。そして最初は無視出来た謎の呟きはその執拗さと、段々と大きくなる音量により、否が応でも気付かされてしまうのだ…
―――『殺してやる』と呟き続けている事に…
それに気づいた頃には既に、呟きと呼べるような音量では無くなっており、心なしか憎悪を籠めたかのような暗く荒れ狂った口調に変っていて、本編そのものが穏やかなシーンを映し出しているという矛盾が余計に視聴者へ一層の恐怖を植え付ける。しかしその呟きは、耳が痛くなるほどの音量にまで大きくなった瞬間、唐突にプツリと聞こえなくなるのだ。
突然の事に一瞬戸惑うものの、恐怖の呟きから解放された事に気付くと安堵し、大抵の者は改めて映像へと集中してしまう。その時に見る者が目にするのは、複数の幼稚園児達が公園で無邪気に遊んでいるというこれまた微笑ましいワンシーンなのだが…
(ここで確か、狙い澄ましたかのように子供達が一斉に笑顔でコッチ向いて、無邪気な声で…)
『『『『『殺してやる』』』』』
「いいいいいいいいいいいいいいいいいいやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!?…………きゅう…」
「……あ、墜ちた…」
盛大な悲鳴を上げた後、ついに限界を迎えたのか、楯無は気絶してしまった。まだ半分もいってないが、この僅かな時間に先ほどの様な心臓に悪いシーンや音がギッシリだった事を考えると、良くもった方だろう。自分だって、日頃のアレで免疫が無かったら彼女らと同じような事になっていたろう。それにこのDVD、最後に近づけば近づくほどホラー要素が強くなっていくので、頑張って最後まで見ると確実に後悔するから、序盤でギブアップして正解だったかもしれない…
「それにしても、ちょっとやり過ぎたか…?」
起こさないように手錠を外し、布団をソッと被せてやりながらポツリと呟く。自分達の立場から考えるに、互いに迷惑を掛けてナンボな関係だが、流石に今回は少しやり過ぎ感は否めない。
というかノリと勢いに任せ、日頃の恨みを晴らすつもりでやったは良いが、次に彼女と会う事があったら確実にヤバい事になりそうだ。下手をすれば、問答無用で前回の『昆虫標本の刑』を課せられそうな気がする…
「ま、その時はその時で考えるか…」
そう言いながら、テキパキと荷物を片付け始めるセイス。担担麺と百合は学園の職員室にあったものをパクッたので置いていくが、編み物セットとDVDは私物であり、自分の直接的な痕跡になるので持って帰らなければならない。なので持ってきた包みに編み物セットを突っ込み、続いてDVDプレイヤーを入れようと手に持ったのだが…
「……」
思わず動きが止まった。このプレイヤー、楯無が気絶した時点で停止ボタンを押したので、もう既に何も映されていない筈なのだが、生憎とモニターはしっかりと映し出しされていた…
『こ・ん・ば・ん・わ♪』
―――笑顔で手を振る、獣の着ぐるみを纏った本物のホラー少女が…
『怪我人をイジメるのは感心しませ~ん』
「……は、はははッ…」
『というわけで、あすち~ヨロシク♪』
『りょーかーい♪』
小さな画面の中に居る彼女がそう言った途端、ポンッと肩に置かれた冷たい手と、超至近距離から聞こえてきた少年の声。色々と悟ってしまったセイスは引き攣った笑みを浮かべ、ゆっくりと後ろを振り向いた……そして…
「お…お手柔らかにお願いしまッ……」
『却下。それじゃ、ちょっと向こうに逝こうか?』
「向こうってあの世か!? ちょ、誰か助けぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
―――今日の教訓・人を呪わば穴二つ…
・翌朝、気付いたらセイスは、富士の樹海のど真ん中に居た…
・この日を境に暫く、楯無が一夏の部屋に寝泊まりする回数が激増した…