IS学園潜入任務~壁の裏でリア充観察記録~   作:四季の歓喜

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中々シリアスが終わらないので、今までのアイ潜の空気を取り戻すために奴を投入!!

時系列と舞台は七巻の中盤辺り。簪が一夏を意識し始めた時期であり、そして…


幕間 朱色のG6作戦!! 前編

 

「いやぁ誰も居ないと、広々としてて良いな~」

 

「ほんと、快適だ~」

 

 

 セイスがアメリカに行ってからというのもの、IS学園に秘密裏に建設された隠し部屋は、オランジュが増援として派遣される以前より静かになっていた。セイスが単独で任務を行っていた時はマドカが時々訪れたり、スコールやフォレストが通信を入れてきたりとそれなりに賑やかであったが、彼が留守にしている今は全くもって正反対の状況である。

 

 

「セイスが居ない今、何をしようが俺の勝手!!」

 

「お菓子を好きなだけ食おうが…」

 

「あいつのゲームで遊ぼうが…」

 

「持ち込んだエロ本を読もうが…」

 

「限りなくフリーーダーーーム!!」

 

 

 エムが関わらない限り、基本的に堅物の代名詞とも言える我が相棒。そいつがフォレストの旦那の御使い兼私用で不在になっている今、この隠し部屋は己の城と化した。いつもなら文句を言われたり、眉を顰められたり、激しいツッコミを入れられかねないバカをやろうが誰も自分を咎めないし、止められない。

 

 

「そして、こうやって“独り寂しく腹話術で人形と会話してようが”…」

 

「誰もツッコんでくれないし、止めてくれないし、構ってもらえないから超寂しいな畜生おおおおおぉぉぉぉぉ…!!」

 

 

 叫ぶと同時に、オランジュは先程まで自分と悲しくて痛いやり取りをさせていた、手に持っていたガ○プラを壁に向かってブン投げる。最新技術が無駄に投入された『1/100・オーバーフラ○グ』は壁に激突した直後、スペシャル&リバースして(跳ね返って)オランジュの顔面に戻ってきた。反射的に身体を反らして躱そうとしたが、その拍子に後頭部をデスクの角にぶつけてしまい、頭を抑えながら悶える様にして床をゴロゴロと転がる羽目になってしまった。しかし、これだけ阿呆なことをやっても自分にツッコミを入れてくれる相棒も、追い打ちをかけてくる食いしん坊姫も居ないので、虚しい事この上ない…

 

 

「おぉ痛ぇ……ていうかセイスの奴、よく三ヶ月も耐えれたな…」

 

 

 セイスの場合、先程も記述したが来訪者や通信を入れてくれる者が居たというのもあるが、潜入初期の頃は情報収集に使う機材の設置、学園全体の施設や設備の把握、標的の行動パターンの推測、懸案事項の対策など、やるべき事が大量にあったというのも大きい。それに対して現在はというと、カメラや盗聴器は充分に設置してあるし、施設の詳細は何も見ずに地図を作れるほど把握出来ている。あとは一夏の行動を全て予測出来るようになれば完璧だが、基本的に“巻き込まれる側”な彼から目を離すのは未だに危険である。当分はこの監視任務も続行することになるだろう。とは言えセイスもオランジュも、だいたいは一夏の行動を予測できるようにはなっていたりするのだが…

 

 

「……まぁ、いいや。昨日と違って、今日の俺にはコレがあるもんね~♪」

 

 

 寂しさを誤魔化すための独り言をやめれないまま、オランジュは部屋の隅にある収納スペースからあるものを取り出す。銃器やらピッキング道具が収められているそこから取り出されたそれは、手のひらサイズの黒いケースだった。しかし、この黒いケースはただの入れ物に過ぎない。肝心なのはこの中身である。その中身の事に思いを馳せると、オランジュはつい頬が緩も、同時に遠い目をしていまう。

 

 

「ふっふっふッ…技術班に金を貢ぐこと早数週間、幾つもの失敗を繰り返し、やがて完成したコイツを思う存分に使える日がやって来た!!」

 

 

 本当は今年の初めあたりから製作が開始されていたのだが、これを完成させるまでの道のりは予想以上に険しかった。暇を持て余している技術部の連中を焚きつけるのも、開発の為の資金を集めるのも大変に苦労したものである。ティーガーの兄貴にコレの存在を知られた時は己の口車をフル回転させ、どうにか見逃して貰えた記憶もあり、改めて思うと感慨深いものだ。

 初号機は理論上のスペックが引き出せず、二号機は技術版の連中が張り切りすぎてオーバーロードを引き起こした。三号機と四号機はどうにか完成にこぎ付けたが、サイズとデザインに難ありという事でボツに。五号機に至っては試運転中、バンビーノがうっかり踏みつけてしまったせいで破壊されてしまった。だが、ついに…

 

 

「なんの因果かセイスと同じ6番目…だが、だからこそコイツには相応しい数字だ!! まるで、あいつの様に優秀で、不屈の魂を宿していそうじゃないか!!」

 

 

 なんかもうヤケクソ気味な雰囲気が垂れ流し状態だが、オランジュは黒いケースの蓋を開け、それを取り出した。それは彼の手のひらより少し小さく、余裕で収まる程度のサイズだった。色は全体的に茶色ベースのボディを黒光りさせており、テカテカしている。形はやや楕円形であり、六本の足と二本の触覚が目立つ。というより、どこどう見てもコレは、女子が見つけ次第悲鳴を上げるモノの代名詞である…

 

 

---ゴキブリにしか見えなかった…

 

 

 

「特と見よ!! これが数ヶ月に渡り研究され、ついに完成の日を見た『ゴキブリ型偵察ロボット』、通称『助六君』だぁ!!」

 

 

 ゴキブリを手の平に翳し、高々と天井に向かって掲げるオランジュ。傍らから見たら病院に直行させられそうな姿だが、やはり誰も居ないので返ってくる反応は無い。いい加減に心が折れそうだが、気持ちを切り替えることによって上がってきたテンションを維持する。

 

 

「見た目や手触りだけでなく動きまで本物そっくり。その上この小さな体には特殊なカメラが搭載されいて録画は勿論の事、写真撮影だって出来ちゃう優れもの!! 今ならお値段はなんと、俺の月給半年分!!……高く付いたぜ…」

 

 

 本来ならもっと安くて済む筈だったが、壊れたり壊されたりして六機も作る羽目になったのが大きかったかもしれない。しかし、幾ら予算が掛かろうが、彼はこの『助六君』の製作を諦める事が出来なかった。何故なら…

 

 

「ぬっふふ………この助六君さえあれば、もうセイスに頼まなくてもIS少女のデータが取り放題…」

 

 

 オランジュはセイスと比べて身体能力は高くなく、むしろ組織では低い方に分類される。流石に一般人よりかはあるが、下手すると武術経験のある一夏に惨敗する可能性がある。代表候補生なんぞとやり合った日には、身体が残るかさえ怪しいところだ。それを踏まえると、セイスの様に身一つで隠密行動をする勇気なんて微塵も沸かない。夏休み中に壊れた機材を回収に行った事はあるが、あの時だって随分とハラハラしたし、何より今は普通に新学期が始まっている。自分の実力では生徒や職員と鉢合わせしないように隠密行動を取るなんて、無理な話だ。

 

 

「だがコイツは違う!! この助六君は俺たち裏方組よりよっぽど素晴らしい動きを見せるし、何より任務に対して忠実だ!! セイスに頼もうものなら渋々と、もしくは全力で断られる様なエロい…もとい貴重なシーンであろうが、助六君は文句一つ言わずに撮ってきてくれる!! ていうか、助六君って遠隔操作だし!!」

 

 

 煩悩率100%な動機だが、つまりそういう事である。早い話オランジュは、覗き及び盗撮目的でこの助六君を開発したのである。因みにティーガーに助六君の存在を知られた時は『今後の組織のスパイ活動に役立てる為』と即席の建前を用意し、冷や汗を滝のように流しながら全力で誤魔化した。幾ら自腹を切って開発したとはいえ、こんなくだらない理由で作ったとなれば大目玉を喰らうのは確実だ。まぁ実際のところ、開発中にこの助六君の有用性が認められ、本格的に量産が決定されたとか……嘘から出た真とは良く言ったものである…

 

 

「けれど給料半年分は流石に痛かった…ま、その悩みもすぐに解決するけどな!!」

 

 

 貯金も半ば使い果たしてしまい、正直言うと現在の懐事情は厳しい。しかし、それもこの助六君で入手した写真やら画像をファンの連中との取引に用いれば即座に解決だ。そもそも貯金の使い道の大半はファンクラブ主催のオークションであり、欲しいデータは渡す前に自分の元へと直行させれば良いのだ。今まではオランジュにIS少女のデータを独占させないように、メテオラ達がセイスにデータを組織へと直送させていたが、今となってはそれも無意味なものだ…

 

 

 

「さぁ、起きやがれ助六…否、救世主『G6』!! その機能を持って、全ての貴重なシーンを撮り尽くせ!!」 

 

 

 

 そして彼は無駄に悪役っぽい笑みを浮かべながら、助六君を起動させるのであった。けれども彼は調子に乗るあまり、大変な事を失念していた。実はここ最近、織斑一夏の周囲にとある変化が起きた。その変化とは単に彼が楯無に以前からお願いされていた簪の件なのだが、ついこの前に半ば強引な形で専用気保持者によるタッグトーナメントでの、彼女とのペア申請を成功させたのである。

 

 

---その事に対して“彼女たち”が心中穏やかで居られる訳が無かったのだが……

 

 

 

 

「うおっ、マジで本物みたいにキモい動きだ!! これならラウラでさえ分からない筈だ、あっはははははは!!」

 

 

 

 

---彼はその事をすっかり忘れたまま、助六君を死地へ…もとい、静かな怒りを宿した恋する乙女たちの元へと向かわせるのだった……

 




時系列は、セシリアがレクイエムを奏でることを宣言し、鈴が荒ぶり、シャルロットが絶対零度の微笑を浮かべ、ラウラが一夏の写真に穴を空けて衛生兵を呼んだ辺りです…

要は、七巻の中で彼女たちが最も虫の居所が悪かった時期ですwww

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