しかし、携帯でも投稿出来たら良いのになぁ……感想も、見れても返事が出来ないから辛い…
「さてと…それで、これからどうするんだ?」
「一応この馬鹿共以外にもう一人だけ仲間が居るんだ。そいつが拠点にしているホテルへ向かう予定なんだが、お前らも連れて行けってスコールが…」
「……姉御が…?」
馬鹿の二人を瞬殺し、今後の事をオータムに尋ねてみたらこう返された。ぶっちゃけ別行動の予定だから一緒について行く意味なんて無いんだけど、姉御はいったい何を考えているのだろうか…?
「仕方ない、姉御が言ったのならついて行く…」
「分かった……けどその前に、アレをどうにかしろ…」
そう言いながらオータムは、俺が三秒でボコボコにした馬鹿兄弟を指差した。割とガチで暴力の嵐に晒された二人は現在気絶しており、傷だらけのボロ雑巾と化して地べたに突っ伏している。しかも、ホースに至っては動けない事を良い事にマドカに踏みつけられていた…
半殺しにはしたが、その衝撃で気を失っただけなので起こそうと思えばすぐに目を覚ます筈だ。暫く身体のアチコチが痛むと思うが、その辺は知った事では無い。ていうか…
「思いのほか打たれ弱かったな。うちも変態は多いけど、ただのバカは殆ど居ないぞ…」
「私達だってそうだ……あの二人以外は…」
「何で姉御の部下やってるの、あの二人…?」
「確証は無ぇけどよ。この前、スコールがあの二人の事を『弾避け』って呼んでた…」
「……要は木偶の坊である事に変わりは無いと…」
姉御がうちの旦那との部下共有化を望んだ理由が、分かった気がする…
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「で、いきなりコレか…」
「……スマン…」
場所は変わってココは、首都に配備された地下鉄のホーム。交通網のスムーズ化を図り、最近になって増設されたのである。ISによる技術革新の恩恵も受けたのか、乗り心地はIS学園のモノレールに勝るとも劣らない。その為平日休日、昼夜問わず利用者は多いのである。
―――そんな場所で、只今絶賛迷子中である…
「本当にスマン…」
「ホットドッグ齧りながら言われてもなぁ…」
ここに来て食い意地スキルを発動させるとは思わなかった。いざ電車に乗ろうと思った瞬間、隣に居た筈のマドカが消えていたのである。キョロキョロと首を動かして彼女の姿を探していたら、出店で買ったホットドッグ両手にいそいそと戻ってくるのをすぐに見つけた。呆れて思わず溜息を吐き、目の前に視線を戻した時に異変は起きた……ていうか、気付いた…
―――乗ろうと思った電車とオータム達が消えていたのだ…
どうやら一瞬目を逸らしている内にオータムたちは乗車してしまい、俺達は置いてきぼりを喰らったようだ。地下鉄なので暫く携帯の電波は期待できず、今のオータムはISを持ってないので通信も出来ない。この年になって迷子とか、本当に笑えねぇ…
「参ったなぁ…」
「行き先のホテルの名前は分かってるから大丈夫だろう?確か、『ホテル・グラハムS』だったか…」
「そりゃそうだが……ていうか勝手に離れるなよ、ガキじゃあるまいし…」
「もう限界だったんだ、許せ」
いつどこ行っても、そのセリフを聴かされている気がする。そしてその言葉を聴く度に俺の財布の中身は質量を減らしていき、最後に残るのは領収書と請求書だけ。何とも理不尽なお決まりだ…
「……それに昨日は、お前のせいであまり食事が喉を通らなかったんだ…」
「え、何だって…?」
「いや、何でも無い……それより、一つ食べるか…?」
そう言ってマドカは、俺に手つかずのホットドッグを差し出してくる。特大のパンに挟まれたソーセージにはケチャップとマスタードがたっぷり掛けられており、できたてアツアツなのか湯気がほんのりと昇っていた。確かに、これは思わず買いたくなるかもしれない…
「んじゃ、御言葉に甘えまして…」
「うむ」
結局、殆ど躊躇う事無く受け取った。何故かマドカの表情に安堵の色が浮かんだ様に見えたが、多分気のせいだろう。突如湧いてきた食欲に身を任せ、貰ったホットドッグをパクリと一口…
「あぁクソッ!!やっぱ電車間に合わなかったか!!」
「もう、だから急いでって言ったのに…」
「「ッ!?」」
齧った瞬間、聴こえてきた二つの声。聴き覚えが全くないので知り合いでも何でも無いと思うが、やたら声が出かかったので思わず後ろを振り向いてしまった。視線の先には二十代半ばの女性が二人立っており、片や電車に間に合わず項垂れ、片や時刻表とスケジュール帳を見比べていた。
「……あら、意外とすぐに次のは来るみたいね…」
「マジ?良かったぁ…」
何やら約束の時間的なものがあるらしく、それまでに目的地へと向かわなければ行けない様だ。それにしても、このデコボココンビ臭漂う二人……どこかで見た事あるような気がするんだが…
その事を尋ねようと視線をマドカに戻したら、何故か彼女はピシリと固まっていた。意地でも後ろを振り向かないとでも言わんばかりに、身体の向きを正面にしっかり固定していた…
(どした?)
(……不味い…)
(いや、美味かったぞ…?)
(馬鹿、ホットドッグじゃない!!後ろの二人だ!!)
いったい後ろの二人がどうかしたのだろうか?馬鹿兄弟の時の様な嫌悪感を浮かべている訳じゃ無いものの、ただひたすらに焦っている様に見える。怪訝に思い、改めて後ろの二人に視線を移す。良く見れば身体の姿勢に芯があり、ただの一般人では無さそうだ。しかし、ここはアメリカで首都ワシントン。現役の軍人が仕事や私用でこの辺をうろつくなんて事は日常茶飯事だ。それに日本には、現役の特殊部隊隊長な眼帯高校生が居るじゃないか。国家代表とサシで勝負できるマドカがこんな様子を見せる理由なんて、無い筈なのだが…
「ところでナタル、小銭持ってないか?途中まで走ったから喉が乾いて…」
「自分で買いなさいよ…」
「ちょっと今、細かいのが無くて…」
「しょうがないわねぇ……ほら、手出しなさいイーリ…」
「サンキュ」
(『ナタル』?『イーリ』?……おぉう神様よ、そんなに俺が嫌いか…!?)
二人の会話に出てきたその呼び名を耳にして、漸く思い出した。マドカが焦った理由にも納得したが、それと同時に俺も彼女と同じ様な状態になりそうだ。現に胃がキリキリしてきたぞ…
つーか何でこんな場所で、それも二人仲良く雁首揃えて現れるのかね?学園祭の時もそうだったけど、アメリカはそんなに物量作戦が好きなのか?それとも、俺には不幸を呼び寄せる疫病神でも憑いているのだろうか?
(何にせよ、まさかこんな場所で『ISテストパイロット』と『アメリカ国家代表』と遭遇するなんて…)
―――アメリカ合衆国所属のISテストパイロット・『ナターシャ・ファイルス』
―――アメリカ軍中尉兼国家代表選手・『イーリス・コーリング』
―――この国で、最も出会いたくなかった二人である…
直接的な面識の無い俺はまだ良いが、マドカはそうも言ってられない。何せつい最近、『シルバリオ・ゴスペル』のコアを強奪するべく軍の基地を襲撃した際に彼女は二人と向かい合ったばかりなのだ。顔をバイザーで隠していたとは言え、首根っこ掴んで持ち上げた相手にバレない自信なんてある筈が無い。
俺は完全に私服姿だが、マドカはいつもの髪染めと伊達眼鏡を着用して変装中である。しかし会った時に顔を隠していた手前、下手に隠そうとすればするほどボロが出る様な気もするが…
『間もなく、次の電車がやって参ります。乗車の方は…』
「お、来るってよ」
「今度は忘れ物無いでしょうね?」
随分と日本的なアナウンスが流れ、それと同時に線路の向こうから列車の警笛が響いて来た。そこでふと思ったのだが、敢えてこの列車を見送ってやり過ごせば良いのでは無かろうか?余計に時間が掛かってオータムを一層イライラさせる可能性が大だが、この二人と同じ車両に乗りたくないし、少しでも離れる事が出来るのなら背に腹は代えられない…
そう決心したのとほぼ同時に電車が颯爽とやって来て、丁度駅に停車して扉を開けた。俺はマドカに『この列車には乗らない』と言うべく、横を振り向いた……しかし…
「……マドカ…?」
―――あいつ、また居なくなりやがった…
「おい、早く乗れよ」
「あ、すんません。ちょっとツレがどこかに…」
「ツレって、あれのこと…?」
イーリスに急かされ、ナターシャに電車の方を指差されるたのでそっちを見ると、マドカがちゃっかり優先席にち座りながらコッチを不思議そうに見つめていた。あの野郎、何でさっさと列車に乗ろうとしないんだろう?って顔しやがって…!!
―――仕方ねぇ…乗り込み次第、別の車両に移動するしかない!!
「すいません、失礼しました…!!」
言うや否や俺は慌てて乗り込み、速攻でマドカに近寄って襟首を掴んで立たせた。俺に掴まれたマドカは軽く混乱しているが、それに構っている暇は無い。本当は降りたかったのだが、マドカを立たせた時にはすでに扉が閉まってたので諦めるしかなかった。パッと見た感じ、この車両は空いているだろうからナターシャ達はここで席を確保する筈。移動してしまえば居合わせる事は無い…
「お、おいセヴァス?いったい何を…」
「黙れい、今は静かにしてろ…!!」
「う、うむ…」
何やら口答えしようとしたマドカを睨んで黙らせ、俺たちは急ぎ足で乗り込んだ車両から別の車両へと移動する。通路のドアを開けて隣の車両へと移る直前に後ろへ視線を向けると、アメリカ最強のコンビが丁度座る場所を確保しているところだった。その光景を目にして少し安心し、俺はマドカを引き摺るようにしながら移動した…
「ったく…あの二人が乗った電車見送って、次のに乗った方が安心だったのによぉ……」
「あ…」
零れた呟きが耳に届いたのか、マドカの口から間の抜けた声が出た。どうやら、本気で何も考えずに乗ったようだ。てっきり、自分の身を顧みない捨て身の嫌がらせだと思ったのだが…
「……すまん…」
「……。」
「どうした…?」
「……お前こそ、どうした?…」
昨日の歯切れの悪さと言い、悪意の無い迷惑行為(うっかり)と言い…ぶっちゃけ、いつものマドカからはまるで想像出来ない姿である。さっきの馬鹿兄弟のせいで調子狂わされたのだろうか?
「私は…いつも通りだ……」
「顔色悪いぞ?」
「大丈夫だ……ちょっと個人的な悩みで、考え事をしていたから…」
「……そうか、分かったよ…」
そう言われると、どうしようも無い。マドカがこの『個人的な悩み』と言った物事はほぼ必ず、内容を最後まで教えてくれない。大抵、彼女が自分自身で解決したいと思ってる悩みらしく、ある程度時間が経てば勝手に解決してスッキリした表情を見せてくれる。今回もきっと、そんな感じなのだろう…
「今は無理に訊かない。でも、本当にヤバそうに感じたら…」
「分かってる…精々、これ以上醜態を晒す前に何とかするさ……」
そう言ってマドカはいつもの様に、ニヤリと笑いながら軽く返事をしてきた。さらに、そのまま俺から視線をずらして、地下鉄故に真っ暗な外を眺め始める。それに倣う様に、俺もそちらへと身体を向けた。横目でチラリと隣を見ると、マドカは依然として外を眺め続けていた。そんなに面白いとは思えないのだが、本人がガン見するほど夢中なのならそっとしといてやろう…
そう思ってしまったが故に、俺は気付くことが出来なかった。方向こそ一緒だが、マドカの焦点は外では無く、電車の窓ガラスに映っていた自分と俺に向けられていた事に……そして…
―――窓ガラスに映った自分に怒りと憎悪を、俺に悲しみと憂いの視線を向けていた事に、俺は気付く事が出来なかった…
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「う~ん…」
「どうした、ナタル?」
セイスとマドカが去った後、ナターシャは一人何かを悩むようにしながら首を捻っていた。先程の少年と少女を…特に少女の方を見ていると、何だかモヤモヤした気分になるのだ。自分の友人や知人にあの様な者達は居ないのだが……
「……きっと、気のせいね…」
「そんな事よりさ、一体どんな場所なんだろうな?やっぱ一流って呼ばれるだけだけあって、凄いとこなのかね…?」
「言っとくけど私達は遊びに行くんじゃなくて、仕事で行くの。しかも、拠点に使うのは反対側のビジネスホテルよ…?」
私服姿な上にまさかの交通手段だが、この二人は断じて休暇中という訳では無い。CIAからの情報により、先日の不届き者の仲間がこの付近に潜伏しているという事が分かったのだ。しかも奴らはあろう事か、周辺の地域ではかなり有名になっている一流ホテルを拠点にしている可能性が高いそうなのである。
これまでの報告や先日の経験からも分かる通り、奴らは組織の戦力としてISを保有している。戦闘になった際、一般のCIA局員や軍人では歯が立たない。『アラクネ』を奪われ、『銀の福音』はコアの凍結を余儀なくされ、そのコアを狙って軍事基地を襲撃してきた犯人には逃げられてと、アメリカではここ暫くIS関係で碌なことが起きてない。これら負の連鎖を断ち切るという意味合いも籠め、今度は確実に良い結果を出す為に政府は、この過剰戦力とも言えるアメリカIS界トップ2を動かした。
「んなこと言われなくても分かってるって……ただ、気になるじゃないか。『ホテル・グラハムS』って割と有名な場所なんだぜ…?」
「それは知ってるけど、情報が正しければあの『亡国機業』の経営下なんでしょ?私としては、あんまり良い印象は無いわね…」
「あ、そう…」
自分達が向かうのは、奴ら…亡国機業の拠点の一つと言われる『ホテル・グラハムS』。その向かい側に建っているビジネスホテルへと赴き、待機しているCIA局員達と合流するのだ。まだ『ホテル・グラハムS』の実態を完全には把握してい無いため今日明日という訳では無いが、突入が実行される日はそう遠くないだろう。そうなれば、奴らは全力で抵抗すると思うが、こっちも全力で迎え撃つまでだ…
「もしも前回の手練れが何人も居るようなら、こっちも覚悟決めないといけないかもね…」
「ナタルの新型と、私の『ファング・クエイク』がありゃ充分さ。何が来ようが負けないよ」
―――復讐を果たしに来た狂犬
―――迷いを生じさせた、もう一人の復讐者
―――闇に潜む亡霊達
―――大国の威信を担う者達
―――そして…
「何にせよ、さっさと終わらせてシェリーの見舞いにでも行こうぜ…」
「あら、そう言えば彼女が入院してるのってホテルの近くだったわね…」
―――偶然か必然か、全てが交差する瞬間は、すぐ其処に…
さて次は本編を進めるべきか、それとも学園編を進めるべきか…