IS学園潜入任務~壁の裏でリア充観察記録~   作:四季の歓喜

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七巻に突入!!しかし…


流星の御届け物

 秋も後半に入り、段々と本格的に冷え込んできた今日この頃。今日も今日とて、鈍感君の監視である。今回は週刊誌の取材を受けるべく、篠ノ之箒と二人で取材の申し込みをしてきた出版社へと足を運んでいた。俺はそんな二人の後ろを、一定の距離を保ちながら尾行していた…

 

 

 

「……ハァ…」

 

 

 

 先日の命令違反から数日が経った…間接的にとは言え、彼を殺しかけたばかりだと言うのに、いつもの仕事にもう戻された。やっといて今更だが、正直複雑な気分だ。姉御にも言ったが、俺の中の優先順位はマドカを手伝う事であり、その為なら全てを捨てたって構わないと本気で思ってる。だけど、それ以外の事に全くもって執着が無い訳じゃない。旦那達を裏切ると決めた時、辛くなかったと言ったら嘘になる…

 

 しかし色々と覚悟を決めて裏切り行為に踏み切ったにも関わらず、姉御も旦那も結果的には許してくれた。オランジュに至っては一発殴るだけで済ませてくれた。罰を与える側が終わりと言ったのだから、罪を犯した俺がそれ以上の罰を求める権利は無い。だが、逆にそれが何よりも辛い…

 

 

 

「ただでさえ迷惑掛けたってのに、更に負担を与えてるみたいじゃねぇか…」

 

 

 

 俺を生かすに辺り、旦那や姉御たちは色々と動き回ったのだろう。こんないつでも替えの効く、ただの馬鹿の為にかなりの労力を使ったのは確実だ。亡国機業…ましてやフォレスト組で裏切り行為をした場合、許して貰うにはそれ相応の理由と存在価値が必須だ。それは、俺が用意できる様な代物では無い筈なのだ…

 

 

『そうでも無いんだけどな…』

 

 

「おっと、オランジュか……どうした…?」

 

 

『どうした?じゃねぇよ、まだこの前のこと気にしてるのか…?』

 

 

「……当然だろ…」

 

 

 

 そう答えた途端、通信機越しにオランジュの深い溜め息が聴こえてきた。そして本当に心から面倒くさそうな口調で、俺に語りかけてきた…

 

 

 

『あのなぁ…お前もエムも、やって後悔するなら最初からやるんじゃねぇよ。そりゃ結局失敗しちまったからって言うのもあるけどな、折角丸く収まった騒動を蒸し返そうとするんじゃねぇ。旦那と姉御たちに負い目を感じてるって言うのなら二人の意思を汲み取って、それに見合う振る舞いを見せた方が幾分立派だっつうの!!』 

 

 

「……。」

 

 

『それによ、どうせなら全員が笑って終われるような結末を目指そうぜ?エムも目的が達成できて、お前も満足出来て、旦那や姉御達に利益をもたらす様な結末をさ…』

 

 

「……欲張り過ぎじゃね…?」

 

 

 

 全員が笑って終われるような結末、か…随分と大きく出たもんだ。自分の欲求に遠慮しないオランジュらしい言葉を聴き、返した言葉とは裏腹に思わず口角が上がる…

 

 

 

『俺達は亡国機業だぜ?欲の無い犯罪者が居てたまるかっての』

 

 

「ははは、違げぇねぇ……そうだよな、それもそうだよな…」

 

 

『だからさ、お前もエムも少しばかり俺達に時間をくれよ。それを現実にする為の舞台を、いつか必ず俺が整えてやるから…』

 

 

「……あぁ、分かったよ。期待して待ってる…」

 

 

『おうよ、任せとけ……問題はエムか…』

 

 

「……。」

 

 

 

 俺と同じく御咎め無しに等しい結末を迎えたマドカだが、当の本人はあれから完全に音信不通なのだ。姉御曰く命令通り大人しく部屋で待機しているそうで、時たま街に出て近場をふらつく日もあるらしいが一夏を殺しにいく気配は無いとのこと。

 

 彼女が大人しくしているというのであれば、俺も行動を起こすつもりは無い。もしもマドカが再び復讐の決意を固めるよりも早く、オランジュが先程言った『舞台』が先に整うのであれば万々歳である。

 

 しかし彼女の事だから、翌日にはすぐに元通りになると思っていたのだが……何があったんだ…?

 

 

 

「……ま、何にせよ暫くは目の前の仕事に集中するとしますか…」

 

 

『おう、そうしてくれ。ついでにあの二人、取材中に写真撮影するらしいからそれも少しパクってきてくれ…』

 

 

「分かった、一夏の写真を一枚残らず持って帰ってやるよ」

 

 

『ふざけんな!!野郎の写真なんかいるか!!』

 

 

「あはははは……なぁ、オランジュ…」

 

 

『あ…?』

 

 

 

―――それにしてもコイツと言い、旦那達と言い、マドカと言い、何でこうも俺の周りには……

 

 

 

「……元気出た、ありがとよ…」

 

 

『気にすんな。これからもヨロシクな、相棒?』

 

 

 

 

―――俺なんかに不釣り合いな、良い奴ばっかりなんだろうなぁ…

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「まさか…ここに箒を連れ込むとは……」

 

 

『相変わらず頭オカシイんじゃねぇのアイツ…』

 

 

 

 一夏と箒が『インフィニット・ストライプス』の取材を終わらせ、日も沈みかけた頃…またもやアイツはやらかした。夕飯を外食で済まそうと考えたらしいが距離的にも時間的にも、そんじょそこらの店は遠いし混み合っている。ならばと一夏が箒を連れてきたのは……まさかの『五反田食堂』だった…

 

 俺達と同様に唖然とする箒を余所に、一夏はそのまま箒を連れて中に入っていった。慌てて俺も客として中に入り、テーブルの一つに着いてそのまま監視を続行中である。それにしても…

 

 

 

「自分に惚れてる女を、自分に惚れてる他の女の店に連れてくるとかマジ無いわ……お、今日のカキフライ超美味めぇ…」

 

 

『おい、こっちはカップ麺なんだから飯の話はすんな!!』

 

 

「でも事実だから仕方ない。このカキフライの味も、ワンサマのボケっぷりも…」

 

 

『後者に至っては激しく同意する』

 

 

「だろ?」

 

 

「そうですねぇ、男の風上にも置けない野郎です…」

 

 

 

 無線機越しなのでオランジュは声だけだが、多分俺達と同じ状態だろう。3人で一夏の行いにヤレヤレと首を振る。いつか彼女たちの恋心が報われる日は来るのだろうか……ちょっと待て、“3人”…?

 

 

 

「……おい、なんでお前がここに居るんだメテオラ…?」

 

 

「どうもこんばんは、御二方。レゾナンスでの騒動以来ですねぇ…」

 

 

『うぐ…あの時のトラウマが……!!』

 

 

 

―――フォレスト組の一人、メテオラが何食わぬ顔で目の前に座っていた…

 

 

 

 しかも俺が黙々と夕飯を頬張ってた傍ら、メテオラはメテオラで焼魚定食をついばんでいた。根っからの西洋人のくせに、箸の扱いが俺より上手くてちょっとムカついたのは内緒である…

 

 

『また近くでバイトでもしてんのか?』

 

 

「いえいえ、フォレストの旦那からセイスへの御届け物と言伝を頼まれたんですよ」

 

 

「旦那から…?」

 

 

 

 いったい、何だと言うのだろうか…もしや、先日の件に関することかと不安感に襲われるよりも早く、メテオラがその考えを否定した。

 

 

 

「先に言っときますが、この前の事とは無関係らしいですよ?それと私達はフォレストの旦那が決定した事には何であろうと従いますし、文句は言いません。それが、誰かの裏切りを許す事でも……ねぇ…?」

 

 

「……。」

 

 

 

 その誰かとは、勿論俺の事だろう。本人はそう言ってるが、やっぱり俺の事を許せない仲間達は少なくないのだろう。自業自得なので仕方のないことだが、結構応える…

 

 

 

「……まぁ貴方を生かす事に反対した者は、私も含めて殆ど居なかったんですけどね…」

 

 

「ん…?」

 

 

「おっと、それよりもさっさと渡す物を渡してしまいましょう。えっと、確かココに…」

 

 

「…?」

 

 

 

 思わず俯いて塞ぎ込みそうになったので、彼が呟いた言葉を聴き逃してしまった。もう一度聞き直そうとしたのだが、その前に話題を変えられたので諦めた。そんな俺に、メテオラは自身の上着のポケットから取り出した何かを渡してきた。それを受け取り、よく見てみると…

 

 

 

「……アメリカ行きの航空券…?」

 

 

「えぇ、そうです。貴方には明日から暫く『織斑一夏監視任務』から外れ、アメリカに行って貰います」

 

 

『随分と急な話だな。俺、何も聴いて無いんだけど…?』

 

 

「さぁ?そこは私の預かり知らぬところなので…」

 

 

 

 旦那が何を考えて俺にコレを届けたのかさっぱり分からない。『暫く』と言うからには、左遷やら転属の類でも無さそうだ。昔、一度だけ旦那のオツカイでワインを隣の国にまで買わされに行ったが…

 

 

 

「……もしかして…」

 

 

「いや、買い出しでは無いそうです。」

 

 

「ほ、それは良かっ…」

 

 

「アメリカの知人に、借りたままだったDVDを返してきて欲しいそうです」

 

 

 

 

―――ドガッシャアン!! 

 

 

 

 

「お、お客さん大丈夫ですか!?」

 

 

「大丈夫、デス…」

 

 

 

 思わず脱力した勢いでデコをテーブルに打ち付け、皿を粉砕してしまった。幸い、飯は完食してあったので被害は皿だけだったが…

 

 いや、今はそれよりも…

 

 

 

「別に俺じゃなくて良くね?オランジュでも出来るだろ、それ…」

 

 

「と、言われてますけどオランジュさん?」

 

 

『現在、この電話番号は使われておりません。ぴーっと言う発信音の後に…』

 

 

「……この野郎…」

 

 

「そもそも、旦那は貴方を指名してます。私でもティーガーさんでも無く、貴方を…」

 

 

「解せぬ…」

 

 

 

 郵送で良いじゃん!!堅気の業者でも良いじゃん!!AVだったとしても別に良いじゃん!!しかも隣町ならまだしも、海を越えた大陸って……やっぱり旦那、先日の事まだ怒ってる…?

 

 ゲンナリして、自然と溜息を吐いた。しかし、それに反してメテオラはニヤニヤしていた。そして、その表情のまま口を開いた…

 

 

 

「まぁまぁ、良いじゃないですか。何せそのチケットの行き先は首都ワシントン……“アメリカ政府の御膝元”ですよ…?」

 

 

「…?」

 

 

「軍事関係の施設は郊外に置くものですけど、政治関係の建物はその逆です。例えば、“政府直営の病院”とかね…」

 

 

「ッ!!」

 

 

「あと依頼を達成する為の期限は決まってますが、早めに依頼が完了した場合は残りの期間を好きに過ごして良いそうです。過去の因縁にケリをつけるなり何なりと、ご自由にどうぞ…」 

 

 

 

 己の中で何かが沸々と込み上げてくるのを感じた。その正体は奴に対する怒りと憎しみであり、それを晴らす機会に巡り合えた事に対する歓喜だ……自然と笑いが込み上げてくる…

 

 

 

「……は、ははは…!!」

 

 

 

 

―――アメリカ政府の御膝元?

 

 

―――政府直営の病院?

 

 

―――好きに過ごせ?

 

  

―――そうか、そういう事か…

 

 

 

 

「おやおや、随分と良い笑顔ですねぇ。それで旦那からの依頼、引き受けてくれますか…?」

 

 

「勿論だ…!!」

 

 

 

 断る理由が無い。旦那が用意してくれたその舞台には、アイツが居る。俺がずっと殺したいと思っていた、アイツが居る。そして、アイツの居る場所で好きにしろだって?最高じゃないか!!

 

 

 

「……旦那には借りを作ってばっかだなぁ…」

 

 

「返したいのなら、これからも頑張って働いて下さい。では、私は少しアレに参加してきますかね…」

 

 

「ん…?」

 

 

 

 徐に立ち上がったメテオラの視線の先に目をやると、何故か一夏が店の客に詰め寄られていた。そういえばさっき、泣き叫ぶ看板娘の声を聴いた気がしたが……気のせいでは無かったようだ…

 

 

 

「あれ?でもお前って確か、更識簪のファンじゃ…」

 

 

「……だからこそですよ。この前、織斑一夏は彼女に狙いを定めたでしょ…?」

 

 

「あぁ…」

 

 

 

 諸事情により、最近は一人で色々と行き詰まってる更識簪。姉である楯無はそんな妹の現状を打開するため、一夏に彼女の事をお願いしたのが事の発端である。それ以来、一夏は彼女にアプローチしようとしているのだが…

 

 別に彼女に惚れたわけじゃ無いんだよな。しかも初対面でまたビンタくらってたし…

 

 

「甘いですよセイスさん!!あのセシリア・オルコットしかり、ラウラ・ボーデヴィッヒしかり!!奴と関わった少女たちは、どんなに最悪な出会い方をしても最後には奴に恋心を抱く!!悔しいですが、それに例外は無いのですッ!!」

 

 

「そ、そうか……えっと、つまり…?」

 

 

「別に元から私達のってわけじゃありませんが『更識いもう党』の一員として、何かあの唐辺木野郎に彼女を奪われた気がしてムカつくんですよ!!だから、良い機会なんで皆様に便乗してきます。そして一発あのクソッタレに俺の拳を…!!」

 

 

「おぉい、口調変わってるぞぉ…」

 

 

『良く言ったメテオラ!!俺の分も頼んだぞ!!』

 

 

「任せて下さい!!では、行って参ります!!」

 

 

 

 何時の間にか戻って来たオランジュの言葉に力強く頷き、メテオラは剣呑としたあの一団に混ざりにいった。それを見やってから溜息を一つ吐き、手に持ったチケットに目を落とす。それだけで、自然と笑みが浮かんできた…

 

 

 

「……待ってろよ『先生』、俺が殺しに行ってやるからよぉ…」

 

 

 

―――その時の彼の表情は、まるで翌日の遠足を楽しみにする子供の様な純粋さと、獲物を見つけた獣の様な恐ろしさを兼ね揃えていた…

 

 

 

「村上信三郎、四十二歳、建設業!!」

 

 

「山本十蔵、三十九歳、土木業!!」

 

 

「吉岡修一、四十七歳、運送業!!」

 

 

「寺田克己、三十四歳、サービス業!!」

 

 

「クリス・マッケンシー、二十九歳、自営業!!」

 

 

「メイス・トーラス(仮名)、二十二歳、接客業(仮)!!」

 

 

 

「「「「「我ら蘭ちゃんファンクラブ同盟!!」」」」」

 

 

「と、そのオマケ!!」

 

 

 

「は、はぁ…」

 

 

 

「「「「「というわけで死ねぇ!!」」」」」

 

 

「年貢の納め時じゃこのタラシ野郎おおおおおぉぉぉ!!」

 

 

 

 

―――ドグワャッシャ!!

 

 

 

 店長である厳さんの剛腕に巻き込まれ、瀕死になったデスクワーク派を運ぶのはちょっと疲れた…




時系列七巻は殆どオリジナルになります。ちょいちょい原作キャラは出しますけど…

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