そしてどんな感想が来るのか不安でしょうがない…orz
あと、急に思い至った思いつきが……詳しくは活動報告にて…!!
「あ゛あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」
マドカは獣の様な叫び声を上げながらゼフィルスのビットを全て展開し、碌に狙いも付けないまま一斉射を行う。彼女の咆哮と、ビットから放たれるBT兵器の発射音が周囲に衝撃と共に周囲に響く…
「ちょっとは落ち着きなさい」
彼女がこれまでに無い程の怒りと憎悪を見せたにも関わらず、その全てを向けられた当の本人は至って冷静だった。ISを本格的に展開し、昼間に楯無の攻撃をあっさり防ぎ切った金の繭の様な防壁でそれを防ぐ…
「さっきの独断行動に加え、私に対する殺意……そろそろ、あなたの暴挙に目を瞑るのは限界だわ…」
「黙れッ…!!」
ビットの一斉射はその衝撃だけでスコールの部屋を半壊させたものの、肝心の彼女は無傷。依然として彼女目掛けて撃たれるビットの閃光は、金色の障壁によって防がれ続けていた。マドカはメイン武装である『スターブレイカー』を昼間に損失しており、現状スコールの防御を貫くことは不可能に近い。それを決して短くない期間をスコールの下で過ごしたマドカは、充分過ぎる位に理解しているつもりだ…
―――ただ、それでも…
「もう分かってるでしょう?エム…今のあなたでは、決して私に勝つことは出来ないわ……」
「黙れ…黙れ黙れ黙れえええええええええええええええええええええええええええええええええッ!!」
―――もう何もかも知った事では無い…
―――勝てずに殺されようが…
―――頭に埋め込まれたナノマシンに脳を焼き切られようが…
―――それが原因で姉さんに復讐を果たせなくなろうが…!!
―――今はただ、この激情に身を任せる以外は…!!
「貴様は…貴様だけは絶対に殺してやるッ!!」
「……もう何を言っても駄目みたいね…」
障壁のせいで姿も表情も見えないが、声だけはしっかりと聴こえてくる。その口調は憎しみに駆られる此方を逆なでするような、とても気怠そうなモノであった。もしかしたら今頃、自分の頭の中に仕込んだナノマシンを起動させようとしているのかもしれない。だが、それを知った所で止まる気は無い。
思考をフル回転させ、現状を打破する方法を模索する。この際勝てなくてもいい、刺し違えったても構わない、最悪の場合一矢報いるだけでも良い……何か、何か手立ては無いのか…!?
「ほら、いい加減に起きなさい。彼女、私の言葉じゃ止まってくれないみたいだから…」
「ウッ……ゴボッ、ゴホッ…!?」
「……え…」
金の障壁の向こうから聴こえてきたのは、さっきと同様の気怠そうなスコールの声と、随分と聴き慣れた咳き込みながらの吐血と呻き声。それが耳に届いた瞬間、マドカの動きと思考が完全にストップした…
「ゴホッゴホッ!!……あ、あれ…?」
「いつまで私の腕に負担を掛ける気?どかないなら、どかすわよ?」
「え、ちょ…!?」
何やら場違いも良い所な会話が聴こえてきたと同時に障壁が消え、それに合わせてスコールが何かを床に放り投げた。一縷の希望に縋りながら、マドカは放り投げられたソイツを凝視する……そしてそれが何なのか分かった瞬間、言葉を失いながら力なくへたり込んでしまった…
「ゴフッ…!!姉御、あの程度じゃ俺…死ねないんですけど……」
「知ってるわよ」
「セヴァ…ス…?」
―――セヴァスが、生きてた…
「それに私は言った筈よ?『心臓を抉られる位の覚悟はしておく事ね』って…」
「いや、確かに言われましたが……まさか、その程度で済むわけ…」
「黙りなさい、そして彼女の顔を見てみなさいな…」
「え?……あ…」
スコールに促されセイスが視線を向けるとそこには、彼が生きていることに安堵して腰が抜けたのか、ペタンと床に座り込んで呆然としているマドカが居た。その表情は色々な感情を振り切ったせいか完全に無表情なのだが、頬を涙が伝っている。そしてその瞳は、セイスの事を真っ直ぐに見つめていた…
そんな彼女の様子に気不味くなって目を逸らし、『あ~』とか『う~』とか呻きながら何か言い訳を考えるセイス。しかし、部屋の惨状に視線がいった途端、色々と悟ったセイスは真っ青になった。マドカが自分のやった事を知ってしまったのは不味い事に変わりないが、気を失ってる間にスコールに牙を向けたのはほぼ確実である。下手をすれば、スコールはマドカを…
「その顔…この期に及んでエムの心配してるの?だとしたら本当に呆れるわ……」
「姉御…マドカは…」
「安心なさい。未遂だから、後で愚痴を漏らして終わらすわ。」
それを聴いた瞬間、セイスは安心したのかホッと胸を撫で下ろした。ところが、それを聞いて漸く我に返ったマドカが立ち上がった…確実にセイスを庇うべく何かする気である。そんな二人の様子に心から呆れつつも、スコールは二人の行動を遮るようにして言葉を続けた。
「あと、セイス…別に貴方を殺す気は無いわ……」
「は…?」
「はい、コレ」
その発言に驚くセイスに構わず、スコールは何処からか取り出した一枚の紙を彼に手渡した。自分の血で真っ赤に染まった手でそれを受け取り、それに書かれた文字を呼んだ瞬間にさっき以上の驚愕を覚えた…
「さ、『更識楯無暗殺指令』…?」
「そうよ。今日のあなたの行動はその命令に従っただけであって、別に命令違反でも何でも無いのよ」
この指令が出された時間は、今朝の6時。充分に余裕を持って受理したことになる。つまり動機はどうあれ、自分はただ単に上からの命令を全うした形になる訳なのだが…
「……何も聴いて無いんですけど…」
「オランジュ辺りが伝え忘れたのでなくて?…一応言っておくけど、失敗した責任を取るとか言わないで頂戴ね。そうなると、最近任務を失敗してばかりのオータムやエムまで責任を取らさなきゃいけなくなるから…」
余りに白々しい物言いにセイスは言葉を失う。幾ら何でも、こんな馬鹿みたいな形で今回の事に決着がついて良いとは思えない……いや、ついてしまっては駄目なのだ。それが恩人たちを裏切った、自分なりのケジメである。そもそも…
「そもそも…勝手に首輪を外した件は……?」
これは今回の事に関係なくやった事だ。おまけに彼女が逃亡する際に。手伝う準備までちゃっかりしていたのだ。幾ら何でもこれは流石に…
「下手にその事を教えて、時期を考えずに暴走されると困るからって点もあったのだろうけど……実際に彼女は何も知らなかったのでしょう?そして命を握られていると理解していても尚、今回の件とこの惨状よ?首輪なんて、あっても無くても最初から変わらなかったのよ」
「いや…そうかもしれませんけど……」
もしもマドカが自由を手に入れたと自覚した時、彼女が一時のテンションに任せて暴走しない自信が無かった。万が一時期を読まずに組織を敵に回した場合、その追撃は容赦の無いモノとなる筈だ。特に、その辺に関するフォレスト達の恐ろしさは身を持って知っている。彼らは様々な場所からISを奪ってくるが、その最中にあらゆる形でパイロットの命を奪っている。暗殺、自殺の誘発、事故に見せかけた策略…その魔の手がマドカにも及ぶと考えるだけで恐ろしくなり、慎重にならざるを得なかったのだ。
今回のマドカの暴走を手伝った件、彼女のナノマシンを勝手に解除した件…自分が罰を受けるべきその両方の罪が消えていくことに、何故かセイスは言いようの無い憤りを覚えてきた。
「勝手にやった事は流石に無視出来ないけど、その件はさっきの一撃でチャラにしてあげるわ…」
「……姉御、悪ふざけも大概にして下さい…!!」
自分がキレるのは筋違いも甚だしい…それは重々承知しているが、どうしても納得できない。どうしてもスコールがふざけている様にしか思えなかった。今回の事を引き起こしといて何だが…いや、引き起こした身だからこそ、事の重さを理解しているつもりだ。故に自分は覚悟を決め、ケジメをつける為にココへ戻って来たというのに……彼女にその覚悟を馬鹿にされている様に感じてしまったのだ…
「俺は組織を裏切ったんですよ!?自分の為に嘘を吐き、貴方達を騙したんだ!!なのに…なのにこんな馬鹿みたいな形で済まそうとするなんて…!!」
「もう一度言うわ…黙りなさい……」
「ッ…」
今までに無い程のすごみを見せたスコールに、セイスは一瞬だけ怯んだ。彼が黙ったことにより、スコールは言葉を続ける…
「今更負い目を感じると言うのなら、黙って私達に従いなさい。そもそも何で私が貴方の望みを叶えなければならないの…?」
「ですが…!!」
「それに……何も私達は、情けだけであなたを生かそうとしている訳では無いわ…」
「え…?」
「とにかく、あなたが幾ら喚こうがこれで話は終わり。今からこの部屋の片付けをするから、邪魔になる前にさっさと帰りなさい」
それだけ言ってスコールは二人に背を向け、手でシッシッと払うような仕草を見せた。『土砂降り(スコール)』の異名は伊達では無く、こうなったら何を言っても耳を貸してはくれない。それを嫌と言う程知っているセイスは、とうとう諦めた。それにこれ以上“この部屋を半壊させた彼女”の目の前で死ぬ事を望んだら、どうなるか分かったものじゃない…
貧血気味でふらつく身体で何とか立ち上がり、マドカに横目で視線をチラリと向ける。彼女の表情を見てみると、自分がこれから何をするのか、どうなるのか分からずハラハラとしているのが分かってしまい、思わず苦笑してしまった。それを確認した後、再度スコールと向き合う…
「『情けだけでは無い』……ですか…」
「……。」
―――それはつまり、意味を裏返せば…
「……姉御、御迷惑お掛けしました。そして、ありがとう御座います…」
「……。」
足はフラフラ、頭もクラクラ…だけどその言葉だけはしっかりと伝え、安定しない足取りで彼女に背を向けた。未だにどうすれば良いのか分からず挙動不審になっていたマドカも、彼のその様子を見て慌てて駆け寄って肩を貸す。そして部屋から出るべくドアノブに手を掛けた時、背後からスコールが声を掛けてきた…
「セイス…」
「はい…?」
「彼女の為に生きると言うのなら、途中で投げ出さずに最後まで付き合いなさい…」
「……。」
相変わらず此方には背を向けたままだが、言葉はしっかりと耳に届いた。そしてその声はさっきまでのスコールとは違い、どこか温かみを感じさせるモノだった。それにセイスは直接的な返事こそしなかったものの、マドカに貸してもらった肩越しに静かに一礼して返した。
それっきり二人は何も喋らず、セイス達が静かに静かに扉を閉める音だけが響いた。去り際、マドカはずっとスコールに何か言いたげな視線を向けていたが……結局、彼女もまた何も言わなかった…
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……本当に腹が立つわ…」
部屋の主と残骸、そして沈黙だけが残ったスコールの部屋…そんな場所で、セイス達が去った時の姿勢のまま、彼女は独り忌々しげに呟いた。
『いやぁ、ご苦労様。協力感謝するよ』
「……。」
そんな時、何処からともなく聴こえてきた男の声。いずれタイミングを見計らって語りかけてくるであろうと思っていたが、分かっていても苛々する…
スコールが手に持った通信機から聴こえてきたのは、セイスの直属の上司であるフォレストの声だった。しかし彼の様子は、自慢の部下が裏切り行為を働いたにも関わらず、どこか楽しげである…
『しかし、いったい何に腹を立てているんだい?セイスの行動を予測できなかった事?それとも、エムに部屋を滅茶苦茶にされた事かな?』
「全て貴方の思惑通りになった事よ……フォレスト…」
『おやおや、それは心外だ。思惑通りだなんて人聞きの悪い。僕はただ、彼がいつ何処で何をするか予想しただけだよ』
「……意味一緒じゃない…」
そうなのだ…今回のエムの暴走、それに伴うセイスの裏切り行為、その両方をフォレストは既に予見していたのである。それも、今回のキャノンボール・ファスト襲撃の計画を練る前からだ。
今回の計画を実行する直前、彼はいきなり二人の暴走を予告してきた。最初こそ馬鹿馬鹿しいと鼻で笑っていられたのだが、セイスが自分の知らない所で色々とやっていた事を聞かされたらそうも言ってられなくなった。それでも半ば信じられず、杞憂に過ぎないと思ってその件はフォレストに任せたのだが…
例によって、二人は行動に出てしまったというわけだ…
「いったい、いつから予想してたの…?」
『彼が貸し出し人材リストに自分の名前を書いた時、かな?君知らないと思うけど、あれ事後承諾だったんだからね…?』
あの時から段々とセイスの最優先事項が分かり、その為なら何をするか分からないと言う事も理解出来た。そして、その起爆剤が何であるかも…
『彼はある意味自分の欲求に忠実だ。中途半端な欲望で身を滅ぼす奴は何処にでも居るが、彼はそれを満たす為に敢えて自分を捨てる。改めて考えても、彼は何処か壊れてるね…』
彼の何がそうさせているのかは推測するしか無いが、とにかくセイスは自分を顧みない。本末転倒であろうが矛盾していようが、そのたった一つの大切なモノの為に全てを捨てる。例えその中に、別の大切なモノが含まれていようとも…
「よくもまぁそんな子を手元に置こうとするわね…優秀なのは認めるけど、流石に不安定だわ……」
『君が言えた事か?そもそも今のセイスとのやり取り、九割アドリブ…ていうか君の本音だろ?』
「……。」
『僕も彼に情が湧いたのは否定しないけど、優秀だからという理由だけで彼を生かしたつもりは無いよ。組織全体で見れば、今の彼の代わりに成り得る人材は居なくも無いからね……最低限の忠誠心と仁義くらいは持ってて欲しいとこかな…』
「……それを試す為に、今回の事を…?」
『そういうこと』
今回のセイスの罪を帳消しにした『更識楯無暗殺指令』…本人も気付いたみたいだが、アレは今回の彼の裏切り行為を無かった事にする為に用意されたものだ。ただし同時に……
「因みに、彼が戻って来なかった時はどうするつもりだったの…?」
『破って捨てて、ただの裏切り者として彼を始末したさ。そんな事にはならないと思ってたけどね…』
もしも自分達を裏切った事に負い目を感じ、戻って来るだけの気概と相応しい態度を見せたのなら最初から許してやるつもりだった。組織に愛着を持っているのであれば、ある程度譲歩してやれば良い。そうすれば、彼が優秀で忠実な部下で在り続ける見込みはある。それに、やはり彼を失うのは少々勿体無い。替えが利くのは、あくまで“今の彼”だ。将来有望な彼は、数年後はティーガーに匹敵する実力者になるかもしれないとフォレスト達は思っているのだ…
取り敢えず、彼を生かす理由はこんなところだ。しかし他の者達に示しを付ける為にも、建前的にこれだけでは些か不足気味だ。数少ないIS操縦者であるエムはともかく、現状替えの効くセイスは微妙だ。ましてや日頃から裏切り行為には厳しくしていた為に、彼を許すにはもう一つくらい理由が欲しい…
『というわけで、彼の存在価値を一つ追加』
「……その為にエムの暴走まで見逃したの…?」
『いや悪いね、部屋が酷い事になる原因まで作っちゃって。でもこれで君も分かったろうし、他の幹部達を充分に納得させる事が出来る…』
今回のマドカの暴走…それもフォレストは予測していたが、敢えて無視した。全てはセイスの暴走を誘発させ、この状況を作り上げるためだ。そして彼の思惑通りあの二人は、自分の命を投げ出す覚悟で行動に移った…
『君に命を握られていると認識したうえで、彼女は今回の件を引き起こした。未遂だからこそ甘く見て貰えるが、いつか取り返しのつかない事態が起きる可能性がある。』
「……。」
『さらに彼女はセイスが死んだと思った瞬間、我を忘れて君に襲い掛かった。セイスも同じだ…エムの命を天秤に掛けた彼は、自身の命を簡単に捨てる。そこまで互いに依存し合ってる二人だからこそ、本人達の命を握ったとこで肝心な時に意味を成さない……それは今回の出来事を見れば、誰にでも分かる…』
怒り狂った時の彼女の心情は、あの様子から想像するに容易い。元からそうだったとはいえ、首輪の効果が無い場合があるとさっきので完全に証明された。二人は互いの事となると、いとも簡単に狂う。
だが逆に言えば、それさえ利用すればどうにでも出来るのである。現にセイスの死を引き金にスコールへと襲い掛かったエムは、セイスの生存を確認した途端に大人しくなった。セイスもまた同様に、エムの事を考慮した結果、彼女を敢えて組織に留まらせる選択を取った。
『あの二人は充分“互いの枷”に成り得ると、彼女の怒気を受けた君なら思うだろ…?』
「……そうね…」
あの二人は自分の命に関して無頓着だ。しかし、互いの命の事となると何処までも必死になる。故にあの二人を殺さずに本当の意味で止める事が出来るのは、あの二人に他ならない。つまりエムがセイスを唯一止めることが出来る存在であるように、セイスは“亡国機業で唯一エムを止めれる存在”という事になるのだ。これは彼にしか無い存在価値であり、敢えて生かす理由に加えるには充分だ。
「ほんと、貴方は回りくどい方法を選ぶわね…」
『命を握って言う事を聞かせるのは、確かに手っ取り早くて良い。けれど彼らみたいな人間にこれを使うと、この様な形で痛い目を見る時がある。それに僕はね、部下達には自主的に働いて貰いたいのさ…』
脅したり、強要したりするべき時はある。けれどその積み重ねは相手の恨みを買い、自分に牙を向ける切っ掛けになりかねない。だからフォレストは自分の部下が何を理由に、何を求めているのかを徹底的に把握する。欲しいモノは与え過ぎず、かと言って不満も溜まらせない。充分な成果と対価を持って来ればそれ相応の褒美を渡し、失態を犯した時はそれなりの罰を与える。そして幾ら失敗しようが、挽回のチャンスは必ずくれてやる。そうすれば自ずと部下は、進んで自分の為に働いてくれるようになるものだ。
『彼の本当に欲しいモノがそれならば、幾らでも用意してやるさ……期待した働きと、新たに追加された存在価値を全うしてくれるのならね…』
「……自分がエムの枷になってると自覚した時、彼は命を絶つかもしれないわよ…?」
『そうならない様、僕達について来る事が一番の近道であると思わせ続けるまでだよ。今日のエムみたいに適度なガス抜きさせながら、さっさと舞台を整えれば問題ない』
「……。」
相変わらず手際が良いと言うか、ムカつくと言うか…とにかく食えない男である。今でこそ頼もしい味方であるが、敵に回った時を考えると恐ろしいことこの上ない。あの必死になった二人の立ち回りが、結局は全て彼の掌の上で踊らされていたという事実がそれを証明している……いつか、コイツをぎゃふんと言わせる日が来ると良いが…
『おっと…そろそろ時間だ、僕はこれで失礼する。また今度の幹部総会にでも会おう』
「……えぇ、また会いましょう…」
等と考えていた矢先、通信機越しから聴こえてきた彼の言葉。先程思い浮かべたささやかな野望を悟られぬように、スコールは出来るだけ平静を装ってそれに返した……しかし…
『あ、そうだ。後で“彼”に労いの言葉でも送っといてくれ。僕にセイスとエムの対応を頼んできた上に、荒削りだけど今回の大筋を考えたの“彼”だから。』
「彼?……まさか…」
『うん、多分君の予想通り。いやぁ改めてうちの派閥は安泰だね、あっはっはっはっ…』
その『彼』とやらに、スコールは一人だけ心当たりがあった。しかし、もしもそうであるのなら大したものだと関心し、同時に腹芸の巧みさにゲンナリする。今日彼と何度か会話したが、それらしい素振りを一切見せなかったのだ。何が『俺が言っても説得力が無い』だ…
部下の心を独占するような人外、馬鹿のフリした悪魔、変人だらけでありながら有能な部下たち、そしてそんな者達を見事に従え続ける男……何度考えても…
「……本当に滅茶苦茶よ、あなた達は…」
『ありがとう、それは僕たちにとって褒め言葉だ』
その言葉を聞いたスコールは、今日一番の溜息を吐いた…
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……あぁ…やべ、血が足らね…」
「……。」
スコールとフォレストがそんなやり取りをしている頃、マドカとセイスはゆっくりと通路を歩きながら外を目指していた。要件は済んだのでセイスはIS学園の隠し部屋へ帰りたいのだが、それにしては随分と遅いペースになっていた。おまけにさっきから彼に肩を貸し続けているマドカが、完全に黙り込んだままであるのが精神的に辛い…
だが、その沈黙は唐突に終わりを告げた。ダンマリを決め込んでたマドカが遂に口を開いたのだ…
「……なんで…」
「ん…?」
「なんでこんな真似をした!?なんで私なんかの為に死のうとした!?」
「……。」
耳元で怒鳴られ、流石にセイスも顔を顰めざるを得なかった。無論、彼女が怒ってる原因は分かってる。そして絶対にこういう事になるだろうから、彼は黙ってスコールに殺されようと思った。けれども、こうなっては仕方ない…
「答えろセヴァス!!私は…私はそうまでしてお前に……!!」
「それが俺のやりたい事だったからだ。そして、ちょっとハシャギ過ぎて痛い目を見ただけ。お前だって勝手に無茶したんだから、お互い様だ…」
「ッ…そんな理由で私が納得するとでも本気で思ってるのか!?」
「納得も何も、嘘は言ってないさ…」
嘘は言ってない、細かい部分を省いただけ。後は適当に話を切り上げてしまえば…
「……だったら…」
「…?」
「だったらスコールの言っていた、『彼女(わたし)の為に生きる』というのはどういう意味だ…?」
「……あ…」
思わず頭を抑えたくなったが、如何せん身体に力が入らない。今日一日だけで二連戦+α、流れた血の量も半端無くて意識が朦朧としてきた。死にはしないだろうが、ナノマシンの働きが衰えてきたせいか傷の治りも遅い。そのせいでスコールに心臓を貫かれた時は、いつもなら平気にも関わらず意識が跳んだ。
いや…今はそれよりも、この状況をどうするべきか。馬鹿正直に言うのは彼女にとってマイナスだになりかねない。かと言って下手な嘘を吐いてもすぐにバレてしまうだろう。どうしたものか…?
「おい、いつまで黙ってる…!!」
「……。」
考えても考えても、それらしい言い訳も誤魔化しも思い浮かばない。考えては消え考えては消え、その全てがボツとなる。挙句の果てには何も考えられなくなり……ていうか、これは…
「いい加減に…!!」
「……ごめん、本気で限界…」
「え……うわッ…」
そう呟いた瞬間、セイスは糸が切れた操り人形の如く崩れ落ちた。咄嗟の事にマドカは彼を支えきれず、二人して床に倒れてしまった。セイスを心配したマドカは即座に立ち上がり、彼の安否を確認する…
「おい、セヴァス…!!」
「あぁ…大丈夫じゃないけど、大丈夫……ちょっと、寝る………流石に…怪我……し過ぎた、みたい…」
マドカの問いに弱々しくもちゃんと答えたことにより、マドカはホッと胸を撫で下ろした。そんな彼女の様子に、ちゃっかりセイスはこれ以上追及されなくなった事を喜んだ。それが表情に出たらしく、彼女と目が合った瞬間に思いっきり睨まれた…
「……いつか、ちゃんと答えて貰うからな…」
「ははは、期待するなよ……ただ…これだけは、言っと…く……」
「…?」
スコールに吐露した内容全部を言う気は無いが、それでもこれだけは伝えとくべきだと感じた。だから消えそうな意識を気合で留まらせ、その言葉を紡ぐ…
「お前が何処で、何をしようが……俺、は……お前の、味方で…在り続け、る………だか、ら…」
―――俺の命なんて気にしないで…
「お前は…自分の好きなように、生きろ……」
「……セヴァス…?」
「あ、もう…無理……おや、すみ………」
「おい、セヴァス…!?」
まるで遺言みたいな言い方をするもんだから気が気では無くなりそうだったが、ちゃんと息はあった…というか寝息だった。本当に眠ってしまったようである…
「心臓に悪いぞ、馬鹿…」
こっちの気も知らないで穏やかな寝息を立て、深い眠りについているセイス。そんな彼を見て、マドカの手は自然と彼の頭へとのび、そして優しく撫で始めた。自称化物の髪の毛は、思いのほかサラサラで触り心地が良かった…
「…結局、答えてはくれないんだろうな……」
昔から彼は肝心なことは最後まで隠し通そうとする。今回の事も、多分そうなるだろう…
「どうして、お前はそこまで私に…」
「それがセイスの生きる理由で、本当に欲しかったモノ…だからじゃないか?」
「ッ!!」
突然頭上から降って来た誰かの声。視線をセイスからそっちへと向けたら、頭にタンコブ作って露骨に気怠そうな表情を見せるオランジュが立っていた。その頭のタンコブはマドカがスコールの部屋を目指して走り出す際、目の前の彼を突き飛ばした拍子にやってしまったようだ…
「オランジュ…すまなかった……」
「謝られる心当たりが多すぎてどれに対してなのか分かんねぇよ…ま、一応全部って事にしといてやる。取りあえずさっきも言ったが、俺はセイスを引き取りに来たんだ。後は任せろ……」
「すまない…」
さっき見せた雰囲気は鳴りを潜めており、いつもの彼に戻ったようだ。そんな彼だからこそ、彼女は彼に問いかけた…
「……なぁ、オランジュ…」
「何だよ…?」
「さっきの言葉は、どういう意味なんだ…?」
―――自分の為に命を懸ける事が、セヴァスの欲したモノ…?
「どういう意味も何も、この大馬鹿にとってお前は何よりも大切な存在なんだよ。」
「え…」
依然として眠り続ける彼を背中に背負い、面倒くさそうに返された答えはマドカを唖然とさせた。そんな彼女の様子を無視しながら、オランジュはセイスが起きてたら全力で止めに掛かりそうな事実を淡々と告げていく…
「今のセイスはな、ほぼ完全にお前に依存しているんだよ。お前の為なら簡単に死ねる位に…」
「……そんな、わけ…」
「今日のコイツの行動を思い返しても、まだ否定できるか…?」
「……。」
彼の言う通り、彼が自分の為に死のうとしたのは覆し用の無い事実である…
「何時だか酔った勢いでセイスが自分で喋ったんだが…お前はセイスにとっての生きる理由であり、一番大切な『繋がり』なんだとよ……」
「繋がり…?」
「そう、お前を手伝うっていう勝手な誓い…この前、口約束に昇格したんだっけか?それを守り続ける事で自分は生きていると強く実感出来て、それが何よりも心地良く感じるんだとよ……」
「……。」
オランジュの口から出てくる自分の知らなかったセイスの事に、マドカはただただ言葉を失う他無かった。まさか自分がセイスにとってそこまで大切な存在…ましてや日頃から言っていた『欲しかったモノ』になっていたとは、露程も思っていなかったのだ。故に彼女は、その事実に何も言う事も出来ず呆然とするしか出来なかった…
「まぁ、無理かもしれないが後の詳しい事は本人に聞いてくれ。俺はコイツを連れて隠し部屋に帰った後一発ぶん殴る予定なんだが、お前も来るか…?」
「私は…今日は、いい……」
今日はもう、オランジュの誘いに素直に乗れるような気分では無かった。このまま彼と共にいつもの場所へと赴き、意識を取り戻した彼を問い詰めたいのは山々だが……今の状態で彼と向き合ったら、冷静にいられる気がしなかった…
「そうか。じゃ、俺は帰る…」
「あぁ、またな…」
挨拶もそこそこにオランジュはセイスを背負いながら、マドカに背を向けて歩き出した。マドカもまた、彼らに踵を返してその場を離れ始める…
「……だが最後に一つだけ忠告だ…」
「え…?」
そんな時、背中越しから聴こえてきたオランジュの声。マドカが咄嗟に振り向くと、彼はこちらに背を向けたまま言葉を紡いだ…
「今のコイツを生かしているのは俺達や姉御じゃ無い……お前なんだよ、マドカ…」
「ッ……。」
「お前が何しようが基本的に勝手だが、それだけは忘れるな…」
それだけ言ってオランジュは再び歩きだし、今度こそ帰路についた。広くて長い通路にただ一人立ち尽くしたマドカはまともに返事をする事も出来ず、彼に背負われたセイスを見つめ続けた…
「……セヴァス…」
思わず口から零れたのは、自分なんかを生きる理由と『欲しかったモノ』に当てはめた、数少ない自分の理解者で最も信頼出来る少年の名前。そして…
―――この大馬鹿にとってお前は何よりも大切な存在なんだよ…
―――完全にお前に依存しているんだよ。お前の為なら簡単に死ねる位に…
―――お前はセイスにとっての生きる理由であり、一番大切な『繋がり』なんだとよ…
―――それを守り続ける事で自分は生きていると強く実感出来て、それが何よりも心地良く感じるんだと…
―――今のコイツを生かしているのは俺達や姉御じゃ無い……お前なんだよ、マドカ…
「セヴァス……私はいったい、どうすれば良い…?」
嗚咽混じりで呟かれた彼女の問いに答えてくれる者は、誰も居なかった…
次回、『M&6アメリカ珍道中』