IS学園潜入任務~壁の裏でリア充観察記録~   作:四季の歓喜

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案の定長くなって区切る羽目になったよ畜生ッ!!何とか今日中に終わらせてぇ…(泣)

しかし色々と不安なんで、今回は特に感想や指摘よろしくです!!


生きた理由 中編

―――2年前

 

 

 

「フォレスト達との同盟ですって…?」

 

 

「はい。私達と貴方達の人材を互いに共有し、実質一つの派閥に合併しようと…」

 

 

 

 亡国機業の幹部、『スコール』。その美貌もさる事ながら、仕事の手腕と優れたIS操縦者という点から幹部勢の中でも特に一目置かれる人物の一人である。その立場と名声は伊達では無く、彼女が醸し出す雰囲気はただ者では無いと言う事が嫌でも分かる。

 

 そんな大物に、たった一人で向かい合ってる男…否、少年が居た。まだ十代前半である彼は、これでも立派な亡国機業のエージェントの一人である。既に何度か手柄を立て、将来有望の新人と称されている。それでもまだ幹部と一対一で話し合える様な立場には程遠く、この状況は他の者からしたら異様な組み合わせに他ならない。

 

 

 

「確かに悪くない話だわ……彼が関わって無ければ…」

 

 

 

 『亡国機業は幹部会と実行部隊の二つに分かれている』というのが外部の組織からの認識だが、厳密に言うと少し違う。確かにその括りで分けることも出来るが、その前に担当する地方ごとに勢力が区分されている。それぞれの地区を任された幹部達が自分達で部下を集め、自分達が中心となって組織としての活動を行なう。それが最近の亡国機業の方針である。

 

 そしてスコールはアメリカと日本を主な活動拠点としており、フォレストはヨーロッパを主な活動拠点としている。両者共に亡国機業の重鎮と言っても過言では無く、互いの派閥が所持している戦力は強大だ。故に二人の組織内における発言権は拮抗しており、スコールにとってフォレストは目の上のたんこぶに他ならなかった…

 

 

 

「……だけど、ここ最近は人員不足になってるのも事実なのよね…」

 

 

 

 白騎士事件以来、ISはどの業界においても必要不可欠な存在となった。実際スコールの今の地位は、自分も含めIS所持者が自分の派閥に複数居ることが大きい。無論、それだけで幹部になれた訳では無い…しかしISが三機というのは中々に大きな戦力だ。他にも一機や二機ほど所持している派閥もあるが、その点だけは他を圧倒している。

 しかし諜報能力、各自の戦闘技術、人脈の豊富さ…非IS所持者の部下においてもスコールの部下はツブが揃っているが、それに関しては他の派閥にも言えた事だ。むしろ質と量では他の派閥…特にフォレスト達に至っては圧倒的に劣っているのが現状だ。その事もあって、今回持ち掛けられた提案にも一考の価値はあった。

  

 

 

「……分かったわ、その提案を受けましょう…」

 

 

「ありがとう御座います。では早速、フォレストに報告を…」

 

 

「ただし…」

 

 

 

 被せるようにしてセイスの言葉を遮り、スコールは彼に渡された同盟条件のリストを翳した。それにはフォレストが貸し出し可能な人材の名簿と、同盟を組む際の取り決めが書いてあったのだが…

 

 

 

「リストに書いてある面子に不満は無いし、『借りた部下のに対する指揮権』も構わないのだけど…『生殺与奪権の共有』だけは却下よ」

 

 

「何故です…?」

 

 

 

 『生殺与奪権の共有』…つまり部下が何かやらかした場合、片方の一存で罰を与えたり処分できなくなる可能性がある。一応『未遂までなら殺さない』という線引きがされているようだが、スコールとしては勘弁して貰いたいところである…

 

 

 

「私はフォレスト程優しくないし、甘くないの。幾ら未遂とは言え、失態や迷惑…特に裏切り行為を試みた者に容赦する気は無いわ。未来の火種は早々に刈り取る主義なのよ…」

 

 

「……。」

 

 

「ま…それ以外の事に関しては文句無いし、その条件だけを撤回すれば同盟の話は承諾するわ」

 

 

「……分かりました…」

 

 

 

 機械の様な無表情で少々考え込んだ後、セイスはスコールに返事をした。その様子に彼女は満足げな表情を見せる……しかし…

 

 

 

「ちょっと失礼します…」

 

 

「え…?」

 

 

 

 何を思ったのか、セイスは彼女が持っていたリストをスッと取り上げた。そして懐からペンを取り出し、何かをスラスラと書き込み始める。やがてペンを持った手の動きは止まり、セイスはあっさりとスコールにリストを返したのだが…

 

 

 

「これで、よろしいですか…?」

 

 

「……あなた本気…?」

 

 

 

 フォレストが貸し出す事を承認した人材のリスト…そこには数々の腕利き達の名前が連なっていたが、流石に側近であるティーガーや愛弟子のオランジュなど、彼の直属やお気に入り達の名前は入って無かった。別にそれも仕方のない事だと思うし、だからこそ自分も側近であるオータムを貸し出すことを堂々と渋る事が出来るのだ。そう考えていただけに、驚きを隠せなかった…

 

 

 

 

―――目の前のセイスが、リストに自分の名前を書き足した事が…

 

 

 

 

「フォレストはこの事を…?」

 

 

「最優先事項は貴方が断ろうとした条件です、その為にある程度は譲歩して構わないと言われました。」

 

 

「……。」

 

 

 

 これは願っても無いチャンスだが、逆に彼の考えている事が解せない。このセイスという少年は特殊な過去と体質を持っており、才能もある事で組織内でも有名だ。フォレストの派閥内では、ティーガーに次ぐ実力の持ち主であるとさえ言われている。それ故にスコールも常日頃から彼を手に入れたいと思っていたが、そんな人材をフォレストが大事にしないわけが無かった。自分を含めたどの派閥もセイスを引き込もうと躍起になった時期があったが、結局は誰もそれに成功しなかった位だ…

 

 

―――それなのに、何故…?

 

 

 フォレストの派閥にISを扱える人材は存在しておらず、それを手に入れたくて彼がこの同盟を持ち掛けてきたことは間違いない。その為にある程度譲歩する決心をしたという事は、考えられなくもないだろう。しかし、だったら最優先事項が変だ。彼の場合、その程度どうでも良いと考えそうなのだが…

 

 言葉にし難い違和感の正体を探っていたその時、スコールは一つの考えに思い至った…

 

 

 

(……まさか…これはフォレストの意思では無く、彼の独断…?)

 

 

 

 自分が手に入れる事が出来る人材の事ばかり考えていたせいか、自分がフォレストに貸し出す人員の事を忘れていた。何せフォレスト配下の腕利き多数に対し、こちらはIS操縦者一人と居ても居なくても構わない諜報役を数人渡すだけで済んでいる。ましてや貸し出す事になるIS操縦者は、確かな実力を持っているがとんでもない問題児だ。いつどんな形で暴走するか分かったものじゃないし、組織に身を置いた当初は他の部下と揉めて相手を半殺しにした事がある……そういえば…

 

 

 

「そういえば、あの時もあなたは彼女の事を…エムの事を擁護するような真似をしてたわね?」

 

 

「……。」

 

 

「あの時はエムに喧嘩を売った相手が彼女に『織斑千冬』という禁句を使ったという事もあるし、その部下は丁度始末する予定になっていた無能だったから問題は無かったけどね…?」

 

 

 

 詳細はあまり知らないが、あの場に居合わせたセイスはエムの味方をしたと聴いている。出会った当初、二人は険悪だった筈だが今ではそれなりに仲が良いようだ。そうだとしても、彼がここまでする理由は分からないが…

 

 

 

「……まぁ、良いわ。あなたが仮にとは言え、私の部下になるのなら充分に利益がある。同盟はこの条件で構わないわ…」

 

 

「承知しました。」

 

 

「でも、これだけは覚えておきなさい…」

 

 

「…?」

 

 

 

 もうこの際、セイスが何を考えて行動しているのかはどうでも良い。肝心なのは、自分が使う事の出来る全てをどれだけ上手に扱うかだ。それが例え復讐鬼と成り得るIS操縦者であろうが、どこか壊れている人造人間モドキであろうが…仮に目の前の彼が何かを企んでいようが、自分はそれさえ利用してしまえば良いのである。

 

 

 

「私に損をさせる様な真似をした場合、同盟の条件に関係なく殺されると思っておきなさい。せめて、心臓を抉られる位の覚悟はしておく事ね…」

 

 

「……その程度じゃ俺は死ねませんよ。でも、肝に銘じておきます…」

 

 

 

 終始無表情に思えた彼の表情…だけど去り際に見せたそれは、どこか苦笑している様にも見えた……

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「あの時は敢えて訊かなかったけど、何故あなたはそこまでエムに入れ込んでるの…?」

 

 

 

 思い出すのは数年前、本格的にセイスがフォレストとの同盟を持ち掛けて来たあの日。それを境にスコールは、セイスという一人の少年に本当の意味で興味を持った。期待通りの成果を自分達にもたらし、依然として交流が希薄だったフォレスト達との仲介役にもなってくれた。いつしか充分に信頼できる部下の一人にまでなっていた…

 

 故に今のスコールにとって、ただの裏切り者としてあっさり始末する事が出来ない存在になっていた…

 

 

 

「私だけにならまだしも、あなたにとって恩人であるフォレストにまで反旗を翻す真似を…しかも、彼女に仕掛けた抹殺用のナノマシンまで……」

 

 

 

 命令違反を犯したエムを、彼は止めるどころか手伝った。しかも用意周到な事に、組織から逃げる準備までしていたそうだ…

 

 そして、ノコノコと戻って来たエムの身体検査をした時に発覚した驚愕の事実…それは、彼女が命令無視や裏切り行為などの暴挙に出た際に発動するようになっていた、彼女の脳を焼き切る抹殺用のナノマシンが完全に破壊されていた事である。普通、身体に仕込んだそれは取り出すことは出来ても破壊することは難しい。しかもタチが悪い事に、再度彼女に同じ物を仕掛ける事が出来なかった。何度ナノマシンを投入しようとしても、何故か彼女の体内に混ざっていた“誰かのナノマシン”がそれを宿主の異物として排除してくるのだ…

 

―――その“誰かのナノマシン”とは、言わずもがな…

 

 

 

 

「一体いつ仕込んだのよ…?」

 

 

「部屋の食い物に混ぜたら、食い意地張った誰かさんが勝手に取り込みました…まさか、あそこまで簡単に成功するとは俺も思いませんでしたけど……」

 

 

 

 それを聞いて思わずスコールは頭を抑えた。よもや、こんな方法で彼女の首輪を外すとは…

 

 

 

「……それで、質問には答えてくれるのかしら…?」

 

 

「俺がエムに入れ込む理由ですか……どうしても言わなきゃダメですか…?」

 

 

「当たり前じゃない」

 

 

 

 この期に及んで喋る事を渋るセイス。死ぬ間際に言って良い事かどうか悩んでいるらしいが、彼もそれなりにスコール達に対する負い目があった様だ。遂に覚悟を決めたのか、彼は徐々に語り出す…

 

 

 

「俺がフォレストの旦那に拾われるまで、復讐を生きる理由にしていたのは御存知ですよね…?」

 

 

「……えぇ、聴いたわ…」

 

 

 

 彼の生い立ち、過去、経歴…その全てを彼女は知っている。そして…

 

 

 

「そして、それが決して叶わぬ代物になったという事も…」

 

 

「……。」

 

 

「その時、俺は世界が消えたように感じました。生きる為の理由も目的も見つけられず、生きている喜びさえ見出せないくらいに……俺を拾ってくれた恩人達や、気に掛けてくれた仲間達に目を向ける事すら放棄して、独りで勝手に塞ぎ込んで腐ってました…」

 

 

 

 どれだけ嬲り者にされても、どれだけ過酷な環境に放り出されても、どれだけ孤独を感じても心に刻まれた『復讐』の二文字だけが彼を生かした。それが呆気なく消え去った途端、セイスの世界は一度壊れてしまった。何をしても満たされず、何をしても心が空っぽ…そんな状況が暫く続いた。

 

 

 

「そんな時ですよ…こんな俺の状況を羨ましいとか抜かした、アイツに会ったのは……」

 

 

 

 余りに無神経なその言葉に、自分は久しぶりに本気でキレた。半ば本格的な殺し合いになりかけたが、その最中に自分は相手の事情を知った。そして自分はまるで先程の再現をするかのように、彼女に対して相手の現状が羨ましいと言ってしまった。そこから乱闘の第二ラウンドが始まってしまったのだが、最初とは少しだけ感覚が違った…

 

 

 

「俺が欲したモノを持ってる奴は俺を羨み、アイツが望んだモノを持ってる俺はアイツを羨んだ。だけど互いに互いが持ってるモノが嫌で嫌でしょうがない…これが笑わずにいられますか?」

 

 

 

 自嘲気味な笑みを浮かべ、彼は語り続ける。その出会いを切っ掛けに、二人は互いの事に興味を持った。基本的に相手に対して意地を張ったり、いがみ合ったりするのが常であった。しかしそれも長く続けば愛着が自然と湧くようになるもので、いつしか二人とも進んでそれを望むようになっていった…

 

 

―――そして長い時間を共有するにあたり、二人は互いの事を理解した…

 

 

 最初こそ互いに互いの事を毛嫌いしていたが、実際のところ自分達は似た者同士であると感じた。形は違えど互いに復讐者であり、自分が欲したモノと望みを叶えるために生きている。そんな自分と同じ様な境遇を持った者に、二人は初めて出会えたと思えたのだ…

 

 

 

「本当に嬉しかったんです。自分を理解してくれる奴が、気の許せる相手が出来たのは…」

 

 

 

 自分には出来ないと、無意識の内に諦めかけていたそういう存在。復讐が不可能となって完全に無気力になって以来、ここまで喜びを感じたのは初めてだ。否、生まれて初めてだったかもしれない。 

 

 それからというもの、心に幾分の余裕が出来た為か周囲に意識を向けるようにもなった。そして気付くことが出来たのだ…

 

 

―――いったい自分は今まで何をしていたのだろうか?ちょっと目を向ければ、空っぽな自分を満たしてくれるモノは幾らでも在った…

 

 

 

 

「彼女は全ての切っ掛けに過ぎない…だけど、だからこそ俺は彼女に感謝しているんです。こんな俺に生きる理由と、“本当に欲しかったモノ”を与えてくれたから…」

 

 

「……本当に欲しかったモノ…?」

 

 

「えぇ、そうです…」

 

 

 

 復讐が今まで自分を生かしていたのは、確かだろう。ただ最近思う様になったのだ…自分が本当に欲しかったモノは、違うんじゃないだろうか?と……

 

 そして、やはりそれは正しかった。自分が完全に諦めた復讐を達成する機会…それが不可能になると分かっていても、それと今日の行いを天秤に掛けた時、自分は迷う事無く後者を選んだ。

 

 

―――自分が勝手に決意し、当の本人には口約束程度にしか思われてないであろう、あの誓い…

 

 

 

 

 

「俺は復讐自体を望んだ訳じゃ無かった……俺は『復讐』という名の『誰かとの繋がり』に縋っていたんですよ…」

 

 

「ッ…」

 

 

「だから俺はティナ・ハミルトンに復讐を対価にしてCIAに勧誘された時も、あんなにも簡単に断る事が出来た。『復讐』と『現在』を比べたのでは無く、『奴ら』と『貴方達』を比べたから……そして俺は、エムとの…マドカとの『約束』という名の『繋がり』に、生きる喜びを見出す様になっていたようです。」

 

 

 

 自分に生きる喜びを感じる切っ掛けをくれた、一人の少女。いつしか自分は、そんな彼女の望みを叶えてやりたいと思う様になった。そして同時に、その事に対して生き甲斐を感じるようにさえなった…。

 

 自分が『マドカを手伝う』という誓いを守る限り、自分は彼女との繋がりを感じる事が出来る。それはとても心地の良い感覚で、何よりも嬉しくて、何ものにも代えがたい大切なモノへと成っていた…

 

 

 

「……その為になら、死んでも構わないと…?」

 

 

「えぇ、構いません……姉御や旦那達には悪いですけど、それが何よりも大切に感じてしまうんです。彼女との繋がりを思えば、恐怖も躊いも感じない位に…」

 

 

 

 スコールの問いに、彼は一切迷う様子を見せずに答えた。そんな彼の瞳はしっかりと目の前の彼女に真っ直ぐと向けられ、嘘や同情を誘っている様には見えなかった。彼のその態度に一層の呆れを感じ、深々と溜息を吐いた…

 

 

 

「あなたは本物の大馬鹿ね…」

 

 

「我ながら、もっと器用になれたら良かったと思いますよ…」

 

 

 

 向かい合った二人は、互いに苦笑混じりにそう漏らした。聴いた側も、言った側も馬鹿馬鹿しい事この上ないと分かっているのだ。けれども分かっていてもどうしようも無いという事も理解しているのだ……だから、その時は遂にやって来た…

 

 

 

「何か言い残すことはある…?」

 

 

「いや、特に無いです。むしろマドカには何も言わないで下さい、流石に恥ずかしいです。地獄に行ってまで羞恥心で悶えたく無いですから…」

 

 

 

 

―――どうか、俺のことは気にせず生きてくれますように…

 

 

 

 

「分かったわ……本当に不器用ね、あなたは…」

 

 

「自覚してます…」

 

 

 

 

―――どうか、アイツが望んだモノを手に入れられますように…

 

 

 

 

「……それじゃ…」

 

 

「はい」

 

 

 

 

―――どうか、俺の生きた理由に意味があったと言える位に、アイツの生に光が差しますように…

 

 

 

 

 

「……さようなら、マドカ…」

 

 

 

 

 自身のISを部分展開させたスコールの光景を最後に、彼は目を閉じた……そして…

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「間に合え…間に合え…!!」

 

 

 

 スコールの部屋を目指し、マドカは息を切らせながら全力で走っていた。その表情はいつになく必死であり、同時に追い詰められていた…

 

 

 

『あの大馬鹿は、監視対象である織斑一夏を殺そうとするお前を止めるどころか手伝った』

 

 

 

 先程オランジュの口から聴かされた、セイスに関する驚愕の事実。ただの冗談や戯言だと思っていたそれを、セヴァスは本気で実行していたのだ。その事でスコールは彼を呼び出したと言う事は、彼女が彼をどうする気なのか考えるまでも無い…

 

 

 

「何で…何でこんな馬鹿な真似を……!!」

 

 

 

 そんな真似をしてまで…自分から命を捨てる様な真似をしてまで、自分の復讐を手伝って欲しいなんて思っていなかった。ましてや、日ごろ彼が恩を感じていた者達を裏切るなど、彼にとって苦痛以外の何物でも無い筈だ。その証拠に、セヴァスはケジメを着けるべく自らここに戻って来た……

 

 

 

「頼む……間に合ってくれ………!!」

 

 

 

 今更自分が行ってどうこう出来るとは思えないが、それでも行かねばならないと感じた。そう思った時には既にオランジュの静止を振り切り、医務室を飛び出してスコールの部屋へと駆け出していたのだ…

 

 

 

「もう少し、で…!!」

 

 

 

 次の角を右に曲がれば、不本意ながらも行き慣れてしまったスコールの部屋だ。言い様の無い不安感と焦燥感に駆られながらも、目的地に近づいている実感を覚える事が出来た…

 

 やがてその曲がり角を通った所で、遂にスコールの部屋を正面に捉えた。ノックもベルもする気なんて微塵も起きず、辿り着くや否や咄嗟にドアノブを手に取って回す。幸い、鍵は掛かってなかったようですぐに扉は開いた…。

 

 

 

 

「スコールッ!!」

 

 

「あら、エムじゃない。ノックもしないで何の用かしら…?」

 

 

 

 部屋の扉を開いて彼女の視界に入って来たのは、相変わらず成金臭漂う金が掛かってそうなスコールの部屋。その中央に、部屋の主であるスコールは立っていた。何故かISを部分展開しており…

 

 

 

 

「…あ……」

 

 

「どうしたの、何か用があって来たのじゃなくて…?」

 

 

 

―――嘘だ…

 

 

 

 

「…あ…あぁ……ッ!!」

 

 

「おかしな子…何も無いのなら、さっさと帰ってくれる?私、今ちょっと機嫌が悪いのよ…」

 

 

 

 

―――嘘だ、有り得ない… 

 

 

 

 

「……あ、ああぁぁぁ…ッ!!」

 

 

「そうだわ、暇ならコレを片付けてくれるかしら?部屋が汚れるし、何よりも邪魔だから…」

 

 

 

 

 

―――嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ認めたくない認めたくない認めたくない認めたくない認めたくない認めたくない認めたくない認めたくない認めたくない認めたくない認めたくない認めたくない認めたくない認めたくない認めたくない認めたくない認めたくない認めたくない認めたくない認めたくない認めたくない認めたくない認めたくない認めたくない認めたくない認めたくない認めたくない認めたくない認めたくない認めたくない認めたくない認めたくない嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…!!

 

 

 

 

「適当にそこら辺に捨ててくれれば良いわ。だから、早くしてくれない…?」

 

 

 

 スコールが『邪魔』と称し、部分展開されたISに貫かれ、赤い液体を滴らせながら部屋を汚すソレ…

 

 

 何時もなら、そんな状態になっても軽口を叩いて見せるソレ…

 

 

 立て続けに激しい戦闘を続け、自慢の再生能力が劣化した状態になっているであろうソレ…

 

 

 スコールに貫かれたソレはピクリとも動かず、一切音を発することなく沈黙していた…

 

 

 目の前に居るソレは、今最もマドカが会いたかったモノで、会いたくなかったモノ……

 

 

 

 

 

 

 

―――スコールに心臓を貫かれたセヴァスは、死んでいる様にしか見えなかった…

 

 

 

 

 

 

「キサマああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 

 

 

 

 不思議な事にこの瞬間、彼女は織斑千冬に向けた時以上の憎悪と怒りを覚えた…

 




早けりゃ今日中、遅くて明日の午前…

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