IS学園潜入任務~壁の裏でリア充観察記録~   作:四季の歓喜

41 / 104
激闘決着!!……これ、もうタグに『残酷な描写あり』にしないと無理かも…;


真の愚か者 後編

 

 初めてアイツと出会った時、アイツは俺にこう言った…

 

 

 

―――誰の物でもなく、誰を連想させるわけでもない、“自分自身”を持っているお前が羨ましい…

 

 

 

 だけど、俺は逆にアイツの事が羨ましかった。だからこう返した…

 

 

 

―――感情を向けるべき相手を、歪だけどで固い絆を…“生きる理由”を持つお前が羨ましい…

 

 

 

 俺が心から欲した物をアイツは持っていて、アイツが望んだ物を俺が持っていて…その癖して互いにそれを疎ましく思っていて。何だか馬鹿馬鹿しくて、何が可笑しいのか分からないけど、いつの間にか二人で同時に笑っていた…

 

 

 それからだ…アイツと一緒に居るようになったのは……

 

 

 二人で喧嘩して、馬鹿やって、笑って…それに巻き込まれるように、時には巻き込むようにしてどんどん俺の周りに人が集まっていった。どんどん俺の周りが騒がしくなっていった…。

 

 

 何時の間にかその事に愛着を感じ、そして気付いた…

 

 

 

―――何だ…最初から全部、俺は持ってたじゃないか……

 

 

 

 知らぬ間に造られ、知らぬ間に捨てられ、知らぬ間に壊されかけ、そして知らぬ間にソイツらは全員死んでいた。俺に縁ある者達は全員、俺が生きる理由にした復讐を全うする前に消えちまった…。

 

 それを知った時、俺は自分の中から世界が消えてしまったと感じた。自分がやりたいことも、楽しいことも、嬉しいことも、自分を満たしてくれる何もかもが全部消えてしまったと思っていた…。

 

 

 

―――でも、本当は違った……何も俺の前から消えてなんか無かった、ただ見えなくなってただけだ…。

 

 

 俺を拾ってくれたフォレストの旦那達への恩返し、過去を鼻で笑ってやれるくらいに人生を楽しむという目標…『生きる理由』なんて、探せば幾らでも傍にあった。新しく『生きる理由』を見つける度に俺は満たされ、自分の生に喜びを見出すことが出来るようになった…

 

 口には最後まで出さないけど、それに気付けたキッカケをくれたアイツには心から感謝している。そして、誰に言われるわけでも無く俺は勝手に決意した…。

 

 

 

 

―――アイツが望んだ物を手に入れるまで、俺は最後までアイツの馬鹿に付き合おうじゃないか… 

 

 

 

 

 

 そう決めた時…俺は本当に欲しかった物を手に入れることが出来たと、心からそう思えたんだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「ハハッ!!流石に二度も喰らってはくれねぇか!!」

 

 

「あまり舐めないで、よ!!」

 

 

 

 先手必勝とばかりに跳び蹴りを放ってきたセイスを、楯無は自身の専用機『ミステリアス・レイディ』を展開して受け止めた。人外が脳のリミッターを外してまで全力で放った本気の蹴りは、流石にISの椀部装甲に罅を入れることは叶わなかったが、それ相応の衝撃を楯無の腕に伝えた。

 

 互いに一瞬だけその姿勢を維持したものの、楯無が腕を振り払うような形でセイスを突き放した。宙を舞った彼は着地するや否や、再度楯無に向かって突撃する。

 

 

 

「つーか、今日は最初から全展開か。生身の相手に容赦ねーなオイ!!」

 

 

「今まで散々出し抜いといて良く言うわね!!」

 

 

 

 一度目は相手の力量を見誤り、二度目は油断して取り逃がした。三度目と四度目に至っては思い出すのも嫌になる。だが、その全ての敗因は先程の彼の言葉…『生身の相手』という点だ。この世界、この時代においてISは最強の兵器だ。それは揺るぎ無い事実であり、どんなモノが相手でも例外は無い。

 

 だからこそ、IS所持者は目の前の彼を相手にする際に思ってしまうのだ…

 

 

 

―――生身の人間相手に、ISの全力を出す必要など…

 

 

 

 実際、どう足掻いたところでセイスはISに勝つことは出来ない。だがそれ故に、大抵の者は彼の実力を見誤ってしまうのだ…

 

 

 

―――人間を物理的に壊すことが出来るパワー

 

 

―――尋常では無い再生能力

 

 

―――そこらのプロとは比べ物にならない程の知識と経験

 

 

―――それを扱いきるだけの技術と知恵

 

 

 

 ISを持っているというアドバンテージが、この事実に向けるべき眼鏡を曇らせてしまう。何度も彼と対峙した楯無も、学園祭の時に遭遇したダリル・ケイシーとフォルテ・サファイアの二人も例に漏れず目を背けてしまったのだ。最初から全力を出せばセイスを取り逃がすことも無かったのに、ISでは無く“ISの装備だけ”で対処しようとしてしまったのだ。その程度なら、彼に充分対応できると思い込んで…

 

 それを理解した今、最早躊躇する理由等は無い…

 

 

 

「今日こそは逃がさない!!決着をつけましょ!!」

 

 

「ハッ、上等!!テメェのツラもこれで見納めだぁ!!」

 

 

 

 言葉と共にセイスは一気に間合いを詰め、再度全力で打撃を放ってくる。対する楯無は装備の中から蛇腹剣の『ラスティ・ネイル』を呼び出した…

 

 

 

「オラァ!!」

 

 

「ハァ!!」

 

 

 

 その瞬間、人外の拳と学園最強の刃による応酬が開始された。セイスは脳のリミッターを外し、ただでさえ馬鹿みたいな身体能力を限界まで上げながら打撃を次々と放っていく。その動きと速度は最早肉眼で捉える事は不可能であり、人間が受けたのであれば間違いなくスプッラターな光景が出来上がるだろう…

 

 対する楯無はISの補助は勿論の事、ハイパーセンサーまで起動してそれを迎え撃つ。比喩でも何でも無く殺人的なスピードで迫りくるセイスの拳…それを全ていなし、防ぎ、時には装甲で受け止めながら対処していく。小回りはセイスの方がきくのでやや防戦よりだが、まだまだ余裕だ…

 

 

 

「学園祭でオータムを白兵戦でボコッたと聴いたが、やっぱり本当みたいだな…!!」

 

 

「彼女、アホだったから助かったわ!!でも、その分、あなたは、彼女より、タチが悪いッ!!」

 

 

 

 最初こそ拮抗していたものの、自身の身体を顧みないセイスの攻撃に楯無はやや気圧され始めてきた。依然として損傷もダメージもゼロであり、それどころか時折カウンター気味で斬撃を叩き込んでやった。しかし、それに対してセイスは一切怯むことなく向かって来る。

 

 リミッターを外したとは言え、それでもISの装甲に損傷を与えるには如何せんパワー不足なのは否めない。むしろ、攻撃する度に彼の拳や足が鮮血を跳び散らしながら砕ける始末だ。にも関わらず、彼は攻撃をやめない。幾ら自分の身体が壊れようが、幾ら斬撃を喰らおうが再生しては彼女に向かって攻撃を繰り返す…

 

 これが普通の人間による、普通の打撃なら楯無も一切動じることは無かった。しかし現実は違う、彼の拳は絶対防御を発動させる…つまり、生身の部分に喰らったらシールドエネルギーが減るのだ。万が一この戦闘でISを解除してしまった場合、彼とは生身で戦う事になる。そんな状況になって、彼に勝てるだなんて妄言を吐く気にはなれない。

 

 

 

「オラオラどうした、考え事かぁ!?よそ見してんじゃねぇよ!!」

 

 

「クッ!!そこぉ!!」

 

 

「ごふッ!?」

 

 

 

 ほんの一瞬の虚を突き、セイスが渾身の一撃を放ってきた。楯無は咄嗟に反応して装甲の腕部で受け止め、すかさず連結状態の蛇腹剣で彼を貫く。胴体を貫かれたセイスは吐血と出血を同時にし、零れた血が蛇腹剣を伝って地面に落ちる…

 

 

 

「う、ごふッ……ククッ…捕まえたぜぇ…」

 

 

「ッ!?」

 

 

「ははは…ヒャアァハハハハハハハハ!!喰らえオラァ!!」

 

 

「うあッ!?」 

 

 

 

 この程度でセイスが死なないのは分かっていたが、流石にそこからの彼の行動は予想外だった。よりによって彼は楯無の持った剣に貫かれた状態のまま、彼女を殴りつけて来たのだ。激しく動いた事により更にドバドバと血が流れたが、セイスはそんなことお構いなしだ。流石の楯無も手が塞がった状態で、しかも超至近距離で放たれた彼の拳を防ぐことは出来なかった。装甲に覆われてない部分を攻撃された為、絶対防御が発動されシールドエネルギーが減少する……しかも驚くべきことに今の一発で、かなりのエネルギー量が削られた事に気付く。ブレード程では無いが、IS専用ナイフの一撃くらいの威力はあった…

 

 こんなものを受け続けていたら、あっと言う間にエネルギーを削り切られる可能性がある…そう思った時には既に、攻撃を続行しようとしていたセイスを、突き刺した状態の蛇腹剣ごとブン投げていた。投げられたセイスはそのままゴロゴロと地面を転がって行ったが即座に起き上がり、自分に突き刺さった状態の蛇腹剣を両手で握り…

 

 

 

「あ…ぐッ……ぐおおおおおおぉぉぉぉッ…!!」

 

 

 

 

―――強引に引き抜いた…

 

 

 

「ごぼ、ごふッ!?……ふぅ、武器もーらい…」 

 

 

「……いかれてるわ…」

 

 

 

 幾ら傷が塞がるとはいえ、痛覚はちゃんとあると聞き及んでいる。それを知ってる分楯無は、目の前のセイスの行動には驚愕を通り越して異常しか感じなかった…

 

 

 

「ケヒヒ…んなもん、とうの昔に自覚してるさ!!さぁ、続きを始めようじゃねぇか!!」

 

 

「……そうね、いい加減に終わらせましょうか…」

 

 

 

 生身で持つには幾分大き過ぎるそれを両腕で抱え、楯無へと向ける。素手よりかは圧倒的に威力の高い攻撃手段を得た彼は口角を吊り上げ、その目に更なる闘志を宿らせて彼女を睨みつけた…

 

 しかし対する楯無もそんな彼に、同じような薄い笑みを浮かべた。そして、言い放った…

 

 

 

「私の勝ちで、あなたの負けでね!!」

 

 

「あ…?」

 

 

 

 その瞬間、セイスの背後で何かが動いた。気配を察知した彼は咄嗟に後ろを振り向くが時既に遅く、背後にあった何かは一気に襲い掛かる。セイスはどうにか抵抗しようと手に持った蛇腹剣を横薙に払うが、その斬撃は虚しく空を切っただけだった。やがて、セイスの倍の体積を持ったそれは一瞬にして彼を包み込み、その動きを封じてしまう…

 

 

 

「ごッ!?」

 

 

「……ふぅ、本当に苦労したわ…」

 

 

 

 セイスを背後から急襲したのは、楯無の専用機『ミステリアス・レイディ』の第三世代兵装だった。搭載されたナノマシンによって操作される水を戦闘の最中にセイスの背後へと忍ばせ、隙を見て彼を捕縛することに成功したのだ。

 

 水の牢獄に囚われたセイスは暫くジタバタともがいていたが、こうなってはどうすることも出来ない。流石の彼も肺に呼吸が届かねば動けなくなるらしく、段々と抵抗が弱まっていった。そして、遂には…

 

 

 

「……ッ…」

 

 

 

 セイスはその動きを止めた。楯無から奪った蛇腹剣を握ったまま弱々しく四肢をダランと伸ばしながらピクリとも動かずに沈黙しており、これ以上はもう戦えないようだ。

 

 

 

「……何があったのかは知らないけど、本当にどうしちゃったのよ…?」

 

 

 

 深い溜め息と共に、楯無は思わず呟いた。形はどうあれ、これだけ何度もやり合っていれば嫌でも相手の性格が分かってくるものだ。故に普段のセイスと比べ、今回の彼の様子が何やら変だという事も何となく分かってしまった。

 

 対策の為にアメリカから取り寄せたセイスの資料には、彼が本気を出す際にテンションが異常に上がると書いてあった。だが、別に猛り狂うから強くなる訳では無いらしい。アレはただ単に、彼なりに自分を鼓舞しているだけに過ぎないのだそうだ。戦闘で再生能力を生かすには、己の被害を一切顧みない事が一番である。逆に少しでも相手の攻撃を恐れたり、ビビったりすれば宝の持ち腐れになる。だから彼は全力を出す際に狂ったように笑い、自分に迫る攻撃の恐怖を誤魔化しながら戦うのだ。

 

 もっとも…無茶をした後には必ず反動が来るらしく、セイスは極力それを避ける傾向があるとも資料には書いてあったのだが……

 

 

 

「ま、詳しい事は後で聞き出せばいっか…」

 

 

 

 そんな無茶をしてまで自分に戦いを挑むだけに飽き足らず、最初の彼の言葉から察するに命令違反までやらかしているようだ。そうまでして自分を殺したかったのか、もしくは別の理由があるのか…

 

 それも含め、全てはセイスの身柄を拘束した後に考えれば良い。そう思い、楯無は彼を封じ込めた水牢へと近づいた……だが… 

 

 

 

「え…」

 

 

 

―――セイスを閉じ込めた水の繭から、蛇腹剣が彼女へと突き出された…

 

 

 

「きゃあッ!?」

 

 

 

 絶対防御が発動したので直接的なダメージは無かったが、やはりシールドエネルギーが削られた。楯無はすぐさま後ろへと下がり、相手から距離を取る。それと同時にセイスを覆っていた水牢が形を崩し、中から彼がせき込みながら出てきた。その手には依然として蛇腹剣が握られており、さっき水牢の中で見せた弱々しい感じは一切感じさせなかった。

 

 

 

「ゴホッ……小賢しい真似しやがって…」

 

 

「……何でピンピンしてるのよ…」

 

 

 

 普通の人間が息を止められる時間はとっくに過ぎていた上に、セイスの場合不意打状態で溺れさせられたのだ。息を肺に貯めておく時間など無かった筈なのだが…

 

 

 

「ハッ…あんなもん、遥か昔にイヤってほど体験済みだ。とっくに慣れちまってんだよ……テメェ、経験したことあるか…?」

 

 

―――水中に30分沈められた事を…

 

―――身体をズタズタに切り刻まれた事を…

 

―――嵐の様な銃撃を受けてミンチになった事を…

 

―――四肢を引きちぎられた事を…

 

―――ハラワタを引きずり出された事を…

 

―――硫酸を飲まされた事を…

 

―――ハンマーで頭を砕かれた事を…

 

 

 

「俺を止めたきゃ、それぐらいしてみろ。でなきゃ本当に死ぬぞ…?」

 

 

「クッ…!!」

 

 

 

 またしても自分は彼を見誤ってしまった…懲りずに彼の限界をまた普通の基準で測ってしまった楯無は呻きながらも再度彼を水牢に閉じ込めるべく、水を操作する為に意識を向ける。しかし、そこで異変に気が付いた… 

 

 

 

「な、何で…!?」

 

 

 

―――さっきまで意のままに操れた水が、一切反応しない…

 

 

 

「あぁ無駄だよ無駄…テメェの水に入ってたナノマシンは、暫くバグって何も出来やしない。」

 

 

「いったい、何を…!?」

 

 

「何てことは無い…さっきテメェの水に包まれた拍子に、ナノマシンたっぷりな俺の血が混ざったんだよ」

 

 

 

 彼女のISは混入させたナノマシンで水を操作することが出来る。つまり、ナノマシンが作動しなかったらあれはただの水であり…

 

 

「俺のナノマシンは、そこらのより質も濃度も遥かに上だ。性質の違う他のナノマシンと混在した場合、十中八九潰し合いを始める…!!」

 

 

 

 搭載したナノマシンがバグを起こした今、彼女のワンオフ・アビリティーはただの水溜りと化した…

 

 

 

「クハハッ!!ありがとう、楯無!!最大の武器を放棄してくれるなんて、最高のハンデをくれて!!アーハハハハハハハハハハハッ!!」

 

 

 

 目を爛々とギラつかせ、今日一番の狂笑を見せるセイス。その姿は、場慣れしている筈の楯無にさえ冷たい何かを感じさせた…

 

 

 

「ハハハ、ハーハハハハハッ!!……ふぅ、お喋りもいい加減に疲れた。改めて、そろそろ決着つけようじゃないか…」

 

 

「ッ…!!」

 

 

「俺の勝ちで、お前の負けでな!!」

 

 

「ッ…危な!?」

 

 

 

 一息で間合いを詰め、自分の武器を振るってくるセイスから再度距離を取る楯無。それと同時に自分のもう一つの武装であるガトリング内蔵式ランス『蒼流旋』を取り出して彼に銃口を向け、引き金に指をやる。しかし彼女は舌打ちすると同時に、そのトリガーを引くことを躊躇った。何故なら…

 

 

 

「ヒャーハッハァ!!どうした、撃たねぇのか?いや撃てねぇのか、撃てねぇんだよなぁ!!こんな住宅地のド真ん中で、そんな物騒なもんぶっ放せるわけ無ぇもんなぁ!!アハハハハッ!!」

 

 

「ッ…。」

 

 

 

 そうなのだ…ここは普通の民家が集まった住宅地。こんな場所でガトリングなんて撃ったら、どこに弾が飛んでいくか分かったものでは無い。ましてや今は夜、殆どの民家に人が居る。たった一発の弾丸でも民家の塀を軽く貫通するというのに、セイスが相手では何発撃つ羽目になることやら… 

 

 

 

「クヒャハハハハッ!!皮肉なもんだよなぁ!?狭っ苦しいアリーナより、外の方が色々と制限されちまうってのは!?えぇ、オイ!!」

 

 

 

 セイスの言う通り、現状は楯無にとって恐ろしく悪い。主力兵装は封じられ、飛び道具も使えない、飛んだりすれば何処に行かれるか分からず、頼りの絶対防御とシールドエネルギーは地味に減らされていく。対するセイスの方は、最初から己の身一つで戦っているので何も失っていない。それどころか楯無の武器を奪っている…

 

 しかも本当かどうか分からないが、一夏に危機が迫っている可能性もあるのだ。ここで何時までも油を売っている訳にもいかない… 

 

 

 

「おっと、逃げようとか考えたりすんなよ?そんな事されたら、腹いせにその辺の民家にお邪魔して2,3人程あの世への片道切符をくれてやるかもしれない…」

 

 

「なッ…!?」

 

 

 

 そんな考えさえ、セイスはさせてくれなかった…

 

 

 

「そんな真似…あなたに出来るわけ……」

 

 

「出来ないって保証がどこにある?やらないって保証がどこにある?自信があるのなら試してみろよ、きっと驚くぜぇ?ケヒヒヒヒ…!!」

 

 

 

 それが虚勢なのかどうかは判断出来ないが、今回の彼の行動と様子からしてハッタリと思い込むのは少々危険過ぎる。それ故、楯無の選択肢から『撤退』の二文字は消えた… 

 

 

 

「あなたは一体どこまで…!!」

 

 

「堕ちるとこまで…とでも言わせて貰おう。さて、時間もそんなに無いことだし、そろそろ終わらせようか…」

 

 

「ッ!!」

 

 

「テメェとの鬼ごっこは、もうウンザリなんでな。二度と仕事出来ない体にしてやるッ!!」

 

 

 

 

 敢えて真正面から突撃してきたセイスを、楯無は反射的にランスで貫いた。当然ながらその程度でセイスが止まるわけも無く、またもや串刺し状態のまま剣を楯無に振り下ろす。一撃、二撃と至近距離から蛇腹剣を生身の部分に叩き付け、瞬時にシールドエネルギーを削って行く。そして、遂に…

 

 

 

 

「……しまッ…!!」

 

 

 

―――楯無のISが…『ミステリアス・レイディ』が解除された……

 

 

 

「貰ったあああああああああぁぁぁ!!」

 

 

「ッ…!?」

 

 

 

 不意に装甲が解除された事により、地面へと転がる楯無。そんな彼女へ、トドメとばかりにセイスは剣を一気に振り下ろした。最早それを防ぐ手段も、邪魔をする者も居なかった。真っ直ぐと振り下ろされた蛇腹剣は持ち主である楯無へと真っ直ぐに落ちて行き、狙い違わず彼女の首へと叩き付けられた…

 

 そして、セイスの尋常では無い腕力で振り下ろされた蛇腹剣は彼女の首にぶつかり… 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――“絶対防御によって”、その動きを止められた…

 

 

 

 

 

「え…?……うごああああぁぁぁ!?」

 

 

 

 目の前で何が起きたのか理解できず、露骨に隙を見せたセイスは次の瞬間には空高く舞い上がっていた。重力に引っ張られ、地面に叩き付けられながら何とか視線を向けると、“自身のISを纏った”楯無がランスと蛇腹剣を両手に急接近してくるところだった。それを見たセイスはどうにか立ち上がって退避しようとしたが、それを楯無が許すわけも無く…

 

 

 

「はああぁッ!!」

 

 

「ぐおおおおおおおぉぉぉぉッ!?」

 

 

 

 セイスは蛇腹剣で切り刻まれた後、ランスで貫かれた。しかも楯無の動きはそれで終わらず、その勢いのままセイスを近くにあった電柱へと物理的に釘付けにした。大きな轟音と共に電柱へと磔状態になった彼は、その衝撃で口から血と愚痴が零れた…

 

 

 

 

「……昆虫標本の真似事をされたのは、久しぶりだ………ごふっ…!!」

 

 

「ハァ…ハァ……」

 

 

「グッ…答える余裕も無いってか……“一瞬だけISを解除する”なんて真似しといて、何とも締まらねぇ、な………ウッ、ゴホッゴホッ…!!」

 

 

「ハァ……本当に、死ぬかと思った…わよ…!!」

 

 

 

 長引けば長引くほど不利になるこの戦い、楯無に残された選択肢は短期決戦しか無かった。しかし、主な武装が殆ど使えなくなった今、それは随分と難しい話である。

 

 そこで彼女は勝負に出た。昼間、ティナ・ハミルトンはセイスに敢えて隙を見せて不意打ちすることに成功した聴いた。それを思い出した楯無はイチかバチかの賭けに出るべく、シールドエネルギーが切れたと見せかけて彼に決定的な隙を作らせたのである。結果は御覧の通り大成功だが、正直言って生きた心地はしなかった。何せ絶対防御どころかハイパーセンサーまで解除したのだ、人外のスピードで迫ってくるセイスを生身で真正面から向かい合った時は本気で死を覚悟したぐらいである…

 

 

「……改めて考えると、私って彼女にとんでもない無茶させたみたいね…」

 

 

「まったくだ……クソ…1日の内に、二度も同じような方法に引っ掛かるなんて……うッ…」

 

 

 

 そんな彼の愚痴と血が吐きだされる音を耳にしながら、一回だけ深く深呼吸した楯無は表情を引き締めて彼に背を向けた。向かう先は当然ながら、織斑一夏の元…

 

 

 

「ゴプッ……行くの、か…?」

 

 

「当然よ」

 

 

 

 とは言ったものの、シールドエネルギーはかなり減少しており、ナノマシンは依然としてバグった状態の上に主兵装であるランスはセイスを拘束するのに使っている。明らかに万全の状態とは程遠い…

 

 

 

「そんな状態で行ったとこで、どうこう出来る相手じゃないぞ…お前だって、そのぐらい分かってるだろ……?」

 

 

「あなたの仲間にも、昼に似たような事を言われたわ…」

 

 

 

 勝負がついた故か、自分をそんな状態にした楯無を気遣うような彼の物言いに彼女は思わず苦笑を浮かべる。そしてその表情のまま振り向いて、言葉を紡ぐ…

 

 

 

「その時にも言ったけど、私はIS学園生徒会長にして学園最強。最後までその様に振る舞うまでよ…」

 

 

「……そうかい、好きにしやがれ……まぁ、もっとも…」

 

 

 

 

 

―――パァン!!

 

 

 

 

 

「…もう間に合わないと思わけどな…」

 

 

「ッ!!」

 

 

 

 突如、住宅地に響いた一発の銃声。それを耳にした楯無は血相を抱えながら踵を返し、脱兎のごとく駆け出して一夏の元へと急いだ。その場に残されたのは、串刺し状態で電柱に括りつけられたセイスのみ…

 

 

 

「……行ったか…」

 

 

 

 楯無の気配が遠のいた事を確認したセイスは自分に突き刺さっているランスを掴み、有らん限りの力を籠めて動かしてみる…

 

 

 

「ふんぬ!!…グブッ……駄目だ、ビクともしねぇ…」

 

 

 

 ところが思いっきり深々と背中越しの電柱へと貫通している上に、自分の体に刺さったままなので出血が止まらず力が思う様に入らない。ランスは抜ける気配を見せず、彼の傷口と口から更に血が流れただけであった…

 

 

 

「あ~ぁ、畜生……痛ぇからやりたく無かったが、仕方ねぇか…」

 

 

 

 ギリッと歯を食いしばり、改めて腕に力を込める。しかし今度はランスを抜くためにでは無く、ランスに抉られて体積が減った身体を横に動かすようにして……そして…

 

 

 

「ぐッ…あ゛ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

―――ブチブチブチッ!!……ドシャッ…

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「……もう、どうやって捕まえれば良いって言うのよ…」

 

 

 

 驚愕、呆然、脱力…その全てを篭め、楯無はついつい呻くようにして呟いた。

 

 結果だけ言うと、一夏は無事だった。偶然(ある意味必然)そこに居合わせたラウラが彼を助けたようで、普通にピンピンしていた。それを確認した彼女は先程捕らえた彼の身柄を改めて拘束するべく、即座に戻って来たのだが…

 

 

 

「まさか彼…自分の横っ腹千切ったの…?」

 

 

 

 さっきの場所に残されていたのは電柱に突き刺さったままのランスと、夥しい量の血痕であった。肉片こそ残っていなかったものの、周囲には比喩でも誇張でも無く血の海が出来上がっており、早いとこ処理しなければ色々と面倒な事になりかねない…

 

 そして良く見ると血の海から一筋の川が伸びており、それは段々と量を減らしながら近くのマンホールへと続いていた。どうやら、這いずりながらそこに逃げこんだらしい。まき散らされた血の量の減り具合からして、今頃傷も再生して塞がってしまっているだろう…

 

 

 

「一日の内に同じ様な方法で、ねぇ……毎回同じような展開で逃げられてる私は、それ以下じゃない…」

 

 

 

 スコールを逃がした事も含めると本日二度目になる、本気で悔しそうな彼女の呟きは、これまた誰に聞かれることも無く消えていった…

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「……本当についてねぇな、おい…」 

 

 

 

 地上で楯無が呻いていた頃、セイスもまた下水道内部で呻いていた。その原因は身体の損傷、ナノマシンの過剰な活性化による反動などではなく、一つの通信内容によるものだった…

 

 

 

「…アイツ、失敗したのか……?」

 

 

 

 辛うじて逃げ延びた自分に突如として通信を繋げてきたのは、案の定マドカの上司であるスコールであった。組織に逆らう形でマドカの命令違反を手伝ったのだ、その内フォレストかスコールのどちらかが自分を問い正しに来るとは思っていたが…

 

 

『エムの命令違反を手伝ったこと、私との約束を破ったこと、彼女の“首輪を勝手に外していた”事…他にも色々と訊きたいことが山ほどあるから私の所に来なさい……あ、そうそう…』

 

 

 

 

―――エムは私のところに居るから…

 

 

 

 

 一夏を殺せたのなら、むざむざスコールの元に行く理由は無い筈である……実質、殺されに行くようなものだ。それなのに何故…?

 

 

 

「……行くしかねぇか…」

 

 

 

 こうなっては全部バレたと思って良いだろう…シラを切るのも無理だし、逃げるという選択肢は無い。スコールには確実に殺されるかもしれないが、仕方がない……それに…

 

 

 

「……『生きる理由』ってのは、裏返せば『死ぬ理由』でもあるからな…」

 

 

 

 

―――その為に死ぬんなら、文句も後悔もねぇよ…

 

 

 

 多少覚束無いがしっかりとした足取りで、彼は真っ直ぐに歩き出した。自身の死に場所になるかもしれない、スコールのアジトの元へと…

 




次回、また彼が死線を彷徨う羽目に…

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。