IS学園潜入任務~壁の裏でリア充観察記録~   作:四季の歓喜

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時間ギリギリ…


置き土産 後編

 

 あの日最初に耳にした音は、自分が収容されている監禁室の扉が乱暴に開かれる音だった。また誰かが自分を嬲りに来たのかと思って視線を向けると、扉越しに立っていたのは自分にとって特に見慣れていた人物の…

 

 

「……先生…?」

 

 

「……。」

 

 

 淡い金髪をロングで伸ばしており、他の奴らと同様に白衣を纏った20代後半の女性…『シェリー・クラーク』である。彼女はこの狂った施設で唯一暴力以外の方法を用いて接触してくる人であり、自分が知る中で最もマシな人間であった。彼女が教育と称して教えてくる物事は多少なり面倒くさいと感じるものも多かったが、楽しかった時もあった…

 

 だがこの人は、自分の部屋に来るなんてことは今まで一度も無かった筈だ。いつもは守衛辺りが殴り起こしに来て、そのまま引き摺られるようにして彼女の部屋に連れて行かれるのが常である。

 

 なのに何で今日は、険しい表情を浮かべながら息を切らして立っているのだろうか…?

 

 

 

「……来なさい…」

 

 

「え…?」

 

 

 

 言うや否や彼女は俺の腕を取り、監獄にありそうな固いベッドで寝ていた俺を強引に引っ張り出した。訳が分からず俺はただ戸惑うしか無かったが、無視するようにして彼女は俺を部屋の外へと連れ出す…。

 

 すると、外に出てみて漸く異変に気付いた。いつもなら不気味な位に静かなこの研究施設が、尋常じゃ無いくらいに喧噪に包まれていたのだ。警報装置は鳴りっ放しな上に、チーフや他の研究員たちの怒号や悲鳴が次々と聴こえてくる…

 

 

 

「……先生、何があったの…?」

 

 

「いいから黙ってついて来なさい」

 

 

 

 俺の疑問にそれだけ答え、彼女はそれっきり何も語らない。言いようの無い不安感に襲われ、思わず逃げようかとも考えたがすぐに諦めた。これまでも何度か脱走を試みたが、一度たりとも成功しなかったからだ。しかも奴らとて馬鹿では無く、データを取る時以外は俺が全力を出せない様ナノマシンに機能制限を掛ける薬品を定期的に投与している。この薬品が一端切れるまで、あと半日は掛かるだろう…

 

 

 

「おい、クラーク!?まだ終わってなかったのか!?」

 

 

「……チーフ…」

 

 

 

 背後から投げかけられた野太い声。振り向けば、俺を苦しめる野郎たちの纏め役が立っていた。よほど慌てていたのか、髪はボサボサで髭は全くもって剃れてない。腕にはやたら文字がびっしり書かれた書類を無数に抱えている…

 

 

 

「早くしろ!!出来るだけ証拠を消さないと、俺達は永遠に豚箱行きだ!!」

 

 

「分かってます…」

 

 

「特に“ソイツ”の存在なんて言語道断だ!!絶対に処分しろよ!?」

 

 

 

 

―――『処分』と…チーフは俺の事を指差しながら、ハッキリとそう言った…

 

 

 

 

「はい、勿論です…」

 

 

「俺とヘンリーで可能な限り時間は稼ぐ!!その間にお前はソイツを確実に処分しとけ、いいな!?」

 

 

 

 それだけ言ってチーフは踵を返し、さっさとその場から立ち去っていった。だが、その時の俺は何も感じることも考えることも出来なかった…

 

 

 

―――処分…?

 

 

―――俺は、処分される…?

 

 

―――まだ、何もアイツらに仕返し出来て無いのに…?

 

 

 

 

「……行くわよ…」

 

 

「い、嫌だ…!!」

 

 

 

 何とか逃げ出そうと抵抗してみるが、ナノマシンの力を抑制されたその時の俺は普通の子供と大差ない力しか持ってない。先生に掴まれた腕を振りほどくことも出来ず、そのまま引っ張られるようにして連れて行かれた…

 

 

―――忘れることが出来ない、あの忌々しい最後の記憶の場所へ…

 

 

 

「……着いたわよ…」

 

 

 連れて来られたのは幾つもの大型コンテナが鎮座する、この研究施設の第三倉庫。第一、第二倉庫の物資が陸路で送られた物を収容する場所であることに対して、この第三倉庫は空輸…つまり輸送機によって運ばれた物資を収容する場所だ。

 

 そして俺の目の前にこれ見よがしに大きなコンテナが一つ、大きな口を開いて佇んでいた…

 

 

 

「さぁ、中に入りなさい…」

 

 

「い、嫌だ…」

 

 

 

 まるで自分を喰らおうとしている様な目の前のコンテナも、いつもとまるで雰囲気が違う先生も、何もかもが怖かった。逃げ出す方法を考えることさえ放棄した俺は、ひたすら嫌だを連呼することしか出来なかった…

 

 

 

「……とっとと入りなさい…!!」

 

 

「嫌だ…!!」

 

 

「ッ…我が儘言ってないで早く!!」

 

 

「嫌だ、まだ処分なんてされたくない…!!」

 

 

「あなたに選択肢なんて無いのよ!!」

 

 

「嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……!!」

 

 

「あなたに居られると私が困るのよッ!!」

 

 

「嫌、だッ…!!」

 

 

「いい加減にしなさい!!さっさと…」

 

 

 

 

―――さっさと私達の前から消えなさいッ!!

 

 

 

 

「ッ…!!」

 

 

「ほらモタモタしないで!!」

 

 

「あ…」

 

 

 

 彼女の口から出たその言葉にショックを受けた俺は一瞬だけ抵抗を完全にやめてしまい、その隙に彼女は俺をコンテナの中に放り込んだ。それとほぼ同時にコンテナの口を閉じられ、外からガチャンと鍵を閉める音が響く。コンテナの中に放り投げられた時に頭を打ち、しかも当たり所が悪かったせいか意識はそこで途切れてしまった。

 

 だが意識を手放すギリギリまで、扉が閉められる間際に見たた彼女の顔が、ずっとチラついていた…

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「……アイツは一体何処に居る…?」

 

 

「それはあんたの返事次第よ。で、どうなの?うちに来るの?」

 

 

 

 アイツらも随分と御手軽な方法で俺を処分しようとしたもんだ。幾らスペインとは言ってもド田舎の、それも人里から恐ろしく離れた場所にダイレクト投下しやがって……今思えば、あれが初めての外国ということになるのだろうか…?

 

 いや、それは置いといて…取りあえず辛うじて死にはしなかった。投下されるちょっと前に機能制限の薬の効果が切れ、コンテナと一緒にバラバラになったが再生能力の御蔭で一命は取り留めた。だが、それからが大変だった。何せ俺は英語しか教わっていなかったし、身寄りどころか金も持っていない。土地勘だって無いし、自分がスペインに居たという事実が分かったのも放逐されてから数年後の事だ。

 

 

 

「……随分とハードな人生送ってたみたいね…」

 

 

「簡単に言ってくれるな。もっとも、似たような人生を送って来た奴は組織に何人も居たけどよ…」

 

 

 

 何度も飢え死にしかけ、何度も獣に襲われた。運が悪い日には、近くの住民に獣と間違えられて猟銃の的にされた事もあった。食い物を求めて乞食の真似もしたし、そんな俺を狙ってくるチンピラや不良をボコボコにした日もあれば、逆に大人数でフクロ叩きにされたりもした。

 

 

―――だが何よりも、一番辛かったのは…

 

 

 

 

「で、そろそろ返事を聞かせてくれると嬉しいのだけど…?」

 

 

「……感傷に浸るくらいさせろよ…」

 

 

「こっちはキャノンボール・ファストの観戦を諦めてまで仕事してるのよ?文句言わないで」

 

 

「そーですか…」

 

 

 

 せっかちな奴め……だがもう少し、もう少しだけ時間が稼げれば良いのだが…

 

 

 

「何か企んでるみたいだから、次にイエスかノー以外で返事したらもう二、三発撃つわよ…?」

 

 

「……イエス…」

 

 

 

 前言撤回、いい加減にやるとするか…

 

 

 

「返事は『ノー』だ」

 

 

「……理由は…?」 

 

 

「アイツが生きていると分かった今、直々に殺しに行きたいのは山々だが……亡国機業を立ち去ってまでやろうとは思えないんでな…」

 

 

  

 確かに願っても無いチャンスなのは間違いない。最早完全に諦めかけていた復讐を、それも一番憎んでた奴に出来るかもしれないと考えると気持ちが昂る。しかしその為に亡国機業を抜けることを想像してみた瞬間、その高揚感は嘘の様に消えた。これが何を意味しているのかは、言うまでもない…

 

 

 

「確かに嬉しい報せだったよ、御蔭で人生の楽しみが増えた。ただ今の俺の優先順位にとっては、そんなに大事なことじゃ無い……アイツに対する御礼参りは、またの機会にするさ…」

 

 

「……その機会とやらがあると思ってるの…?」

 

 

 

 目の前の拳銃が露骨にカチリと音をたてる。俺がちゃんと状況を理解しているのかどうかを疑うような表情を浮かべ、ティナは半ば呆れたように溜息を吐いてみせた。勿論こんな状態で動けば目の前の銃で確実に撃たれるし、避けられないだろう。それを踏まえて尚、敢えて言わせて貰う…

 

 

 

「あぁ…当然、な!!」

 

 

「ッ!?」

 

 

 

 辛うじて無事だった左腕で床を殴りつけるようにして勢いを付け、強引に立ち上がる。撃ち抜かれた両膝は依然として塞がっておらず、さらには上手く足に力が入らなくて後ろによろけてしまった。すかさずティナは俺に向かって銃弾を数発放ち、その全てが俺に命中する。銃撃の衝撃で更に後方へと下がり、最終的にエレベーターに背を預け寄りかかる形となった。

 

 

 

「何をする気か知らないけど…!!」

 

 

 

 これ以上悪あがきはさせまいとばかりに、彼女は弾倉に残った分を弾切れになるまで一気に撃ってくる。やはりというか腕は確かな様で、俺の動きを封じるべく手足の関節を集中的に狙ってきた。その全ては一発残らず命中し、並の人間なら泣き喚いて相手に許しを請うレベルの痛みが俺を襲ってくる。しかし…

 

 

 

「…この程度、とうの昔に受け慣れてんだよ……!!」

 

 

 

 歯を食いしばり、激しく痛む両足に鞭打って軽くジャンプした。俺がまだ動けたことに驚愕するティナを余所に、そのまま浮いた両足の裏を背後の壁にピタリとくっつける。そして撃たれた事によって絶賛損傷中の足をパキポキと悲鳴を上げさせな、銃創から血を盛大に流しながら力を込めて…

  

 

 

「ロケット頭突きいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃッ!!」

 

 

「嘘で…ぐはッ!?」

 

 

 

 負傷した足に自分でトドメをさしながら勢いを付けた渾身の突貫攻撃は、俺から20M以上離れた場所に立っていたティナに見事に直撃した。本気でやったその一撃は、防弾チョッキを付けた彼女を凄まじいスピードで反対側の壁に叩き付け、そのままズルズルと床に崩れ落ちさせることに成功する…

 

 うちの無敵超人と名高いティーガーの兄貴を一度だけダウンさせたことがあるそれを受けたティナは、驚愕と唖然が混ざったような表情を浮かべ、突撃した勢いが無くなって床に伏している俺に視線を向けてきた。そして、息も絶え絶えに言葉を紡ぎ始めた… 

 

 

 

「ま…だ、特殊弾の…効果は続い、てる筈じゃ…?」

 

 

「何だ、やっぱり効果時間に限りがあったのか……あぁ安心しろ。絶賛出血中だから、多分まだ効いてるんじゃないか…?」

 

 

 

―――もっとも…その効果とやらも、すぐに終わると思うが……

 

 

 

 日々あらゆる場所から取り入れ、盗み出す事を繰り返した結果、亡国機業の科学力は世界規模で見てもトップクラスのレベルになっている。そんな場所に身を置きながら、その技術の恩恵を受けない理由なんてある筈が無い。当然ながら、ただでさえ凄まじい再生能力を持っていた俺のナノマシンは組織の手によって改造済みである。

 

 基本的な性能の向上は勿論の事、ティアに撃たれた特殊弾に対する対策も既に終わっている。そろそろ体内のナノマシンが、撃ちこまれた異物に対する免疫を造り終える筈だ。後2分もすれば酷使した身体も元に戻る事だろう…

 

 

 

「……じゃあ…何で、動けるの……よ…」 

 

 

「あ?そんなの決まってる…」 

 

 

 

 

―――ただの痩せ我慢だ… 

 

 

 

 

「ほんと…滅茶苦茶、よ…あんたは……」

 

 

「誰だって6年間、毎日身体に鉛弾ぶち込まれたら嫌でも慣れるっての……ま、今度会う時は機関銃(ミニミ)でも持ってくるこったな…」

 

 

「はは…覚えとく、わ……」

 

 

 

 それだけ言ってティナは意識を失い、完全に沈黙した。何も身に着けて無かったら内臓破裂位してたかもしれないが、相手はプロな上に防弾チョッキも装着してたから大丈夫だろう。下手に殺すと彼女の上司や楯無…それどころかIS学園そのものが本腰入れて俺を殺しにくるかもしれないので、出来るだけ殺人沙汰は避けときたいのが本音だ。

 

 

 

「おぉ、痛ぇ…」

 

 

 

 倒れた体勢のまま左腕を乱暴に振ると、鉛色の塊が飛び出てカラカラと音を立てながら床を転がっていった。もしかしなくても、さっきティナに撃ちこまれた弾丸である。異物を取り出した左腕で身体をゆっくりと起こし、残った手足も同じ様にして弾丸を取り出す。胴体に撃ちこまれたものは、後で隠し部屋に戻った時にでも取り出すとしよう…

 

 

 

「しかし、今更になってアイツがなぁ……ククッ…!!」

 

 

 

 これは本当に思いもよらない収穫だ。かつての俺をフォレストの旦那と出会うまで支え、生きる目的となってくれた復讐への執着。だが施設の奴らが一人残らず死んだと聞かされた途端、それは決して叶わぬ…それでいて無意味なモノへと成り下がった……

 

 

―――何もかも全て、アイツのせいだ…

 

 

 そんな気持ちが俺の中を占めたが、アイツも死んでいるという事も同時に聞かされた。それ故に俺は、何を理由に、何を目的に生きればいいのか分からず、まるで抜け殻のように無気力な毎日を送る事になったのだが…

 

 

 

「クククッ……ヒャアアアァァハハハハハハハハハハハハハハハッ!!最高だ…!!」

 

 

 

 感情の高ぶりが抑えられず、誰かが聴きつけてやって来るかもしれないことも忘れて笑い出す。すっかり消えていたと思ったあの時の感情に、再び火が灯ったようだった……しかし、それでも… 

 

 

 

「ハハハハハハハハハハッ!!……あぁでも、暫くは無理だな。一夏の監視って何時までやらなきゃいけないんだ?病院で寝たきりとか言ってたが、この仕事やってる最中に死んだりしないだろうな?……“出来れば”俺の手で葬りたいが…」

 

 

 

 そう、“出来れば”…今の俺にとってはそのレベルだ。二度と叶わないと思ったことが実現出来るかもしれないのだ、嬉しくないと言ったら嘘になる。だが、そこまで執着する気にはなれない。今の俺には生きる理由と目的が、何より欲しかったものが充分過ぎる位にある。それを脅かすことになるのならば、復讐(こんなもの)なんて簡単に諦めるかもしれない。

 

 

―――だって、今の俺が大事にしているモノは…昔から俺が欲したモノは既に…… 

 

 

 

「……まぁ良いさ、取り敢えず帰ったら姉御に訊いてみるか…」

 

 

『何をだ…?』

 

 

 

 そう呟いたのとほぼ同時に、一時的に通信を遮断しておいた無線機から声が響く。相手は当然ながら、オランジュだった… 

 

 

 

「ん、オランジュか。待たせて悪かったな…」

 

 

『その口振りからすると、片付いたみたいだな。姉御たちに襲撃開始して貰って平気か?』

 

 

「あぁ、大丈夫だ。ちょいと複雑な置き土産があったが、既に問題無い」 

 

 

『置き土産?楯無が置いて行ったCIA局員ってか…?』

 

 

 

  気を失ってるティナにチラリと視線を向けてそう返事をすると、オランジュは怪訝そうな口調で訊ね返してきた。それに対して俺は、自然と口角が吊り上るのを感じながら言葉を返す…

 

 

 

「それもあるが、違うな。もっと良いものだ…」

 

 

『良いもの…?』

 

 

「あぁ…」

 

 

 

 

 

―――死神が持っていき損ねた、忌々しい俺の過去だ…

 

 

 

 

『……何があったか知らないが、後で詳しい説明してくれよ…?』

 

 

「勿論だ…嗚呼、本当に気分が良い……」

 

 

 

 とは言ったものの、気分に反して俺の身体は限界のギリギリ一歩手前の様だ。既に再生能力は戻り、傷も治ったが如何せん身体が重い。何かしら摂取するなり休眠を取るなりすれば元通りになるとは思うが、逆に言えば何もしないといい加減に支障が出かねない…

 

 

 

「……これ終わったら飯食ってさっさと寝よう…」

 

 

 

 そうボヤいて俺は、マドカ達がキャノンボール・ファストの襲撃を開始した報告を耳にしながら学園最深部『レベル4』へと足を踏み入れた…。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 結果だけを述べるのであれば、忍び込んだ最深部にはそれ相応に価値のあるモノで溢れていた。春先に現れた無人機のデータ、臨海実習に発生した福音事件の詳細…その他にもこれまでIS学園に関わった、それでいて表沙汰に出来ない情報やデータが満載だった。最も危惧すべき人物は計画通り襲撃された会場への対応で手一杯だったようで、まるでこっちに気付かなかったようだ。

 

 その御蔭もあり、あの場所にあったデータの殆どをコピーという形で持ち出すことも出来た。マドカ達も襲撃現場から離脱出来たようなので、今回の作戦は見事に完遂できたと言って良いだろう。

 

 

 

「いやぁ、ここのところ失敗続きだったからなぁ。良かった良かった…」

 

 

「そういや姉御たち、銀の福音のコアを強奪するのも失敗したんだっけ…?」

 

 

 

 ここのとこ肝心な作戦を立て続けに失敗したせいもあってか、最近のスコール達はフォレスト組のサポートを一層頼るようになった事で旦那に頭が上がらない。学祭襲撃作戦において失敗の原因になった挙句ISを失ったオータムに至っては、新しいISを旦那に手配して貰うまでフォレスト組のパシリと化していると聴いた…

 

 

 

「それにしてもセイス…無茶するなと言った手前、いきなり無茶苦茶な真似しやがって。何で部屋に戻った早々に『俺の腹掻っ捌いて鉛弾取り出せ』なんて物騒なお願いしてくるんだ……」

 

 

「仕方ねぇだろ、相手が悪かったんだ…」

 

 

 

 自分でやっても良かったんだが、ちょっと疲れが溜まり過ぎたせいか手元が狂いっ放しだったのでオランジュに頼むことになった。因みに、再生能力のせいで俺の手術の類は少し面倒な作業になる。

 

 だって切開したそばから塞がるんだもん…

 

 身体から異物を取り出す場合、再生速度を落とせるだけ落としてから取りかかるのだが……大抵はこうなってしまう…

 

 

 

―――お、おい!!まだ何も見つけれてねぇんだけど!?

 

 

―――馬鹿野郎、さっさとやってくれ!!俺、麻酔が殆ど効かないんだから早くしないと…

 

 

―――あぁ駄目だ、塞がっちまった!!……すまん、また開くわ…

 

 

―――またかよ畜生ぉ痛てててててててッ!?

 

 

 

「……これだけはどうにかしたい、切実に…」

 

 

「行き過ぎた再生能力ってのも考え物だな…」

 

 

 

 ある程度のモノなら手術しなくても取り出せるし、他の怪我や病気に至っては心配する必要は無い。それでも時たま胴体の真ん中に入り込み、手術しないと取り出せない異物を身体に入れてしまう時がある。よく不老不死の化け物が出てくる話ってあるが、そいつらはどうなんだろうな…?

 

 

 

~閑話休題~

 

 

 

 

「そういえばさ、珍しくエムの奴がISを損傷させやがったぞ…?」

 

 

「……マジか…?」

 

 

 

 マドカの操縦技術は組織内でも指折りだ。その腕前は国家代表に匹敵しており、キャノンボール・ファストの参加した連中では勝てないだろう。あの場に居た者だと、唯一楯無だけは互角に戦えるかもしれないがスコールの姉御を相手にしていたと聴いたので違うだろう……と、なると…

 

 

 

「ラウラか…もしくはプライドと意地による、根性補正で強くなったセシリアにでもやられたか?」

 

 

「あぁ、半分正解」

 

 

「……半分…?」

 

 

 

 聴いたところによると俺の予想通り、土壇場でセシリアが『偏向射撃(フレキシブル)』を身に着けて一矢報いたそうだ。誇り高い彼女のことだ…自分の国の機体が奪われた上に、テロに利用されている事が許せなかったのだろう。学園祭でゼフィルスを纏ったマドカを目撃して以来、ずっと鍛錬を続けていたのを何度か見かけた…

 

 しかし、それは分かったが……半分正解とはどういう意味だ…?

 

 

 

「実はその後、一夏にライフル(スターブレイカー)を真っ二つにされてな…」

 

 

「……。」

 

 

「ぶっちゃけセシリアにトドメ刺そうとした時に、不意打ちみたいな形でやられちまったらしいけどな。まぁそのまま続けてたら、どうせエムがボコボコに返り討ちにしただろうけど……どうした、そんな神妙なツラして…」

 

 

「……いや、何でもない…」

 

 

 

 オランジュは分かってない…いや、スコールの姉御ですら分かってないかもしれない。マドカにとって、その事がどれだけの意味を持つのかを…

 

 

 

「……オランジュ、一夏達は自宅に居るんだよな…?」

 

 

「ん?あぁ、その筈だが…」

 

 

「ちょっと行ってくる…」

 

 

「あ、おい!?どうしたんだよ…!!」

 

 

 

 オランジュの制止を振り切り、俺は隠し部屋を後にする。時刻は既に夕方の5時…日が沈んできたせいか段々と空が暗くなってきていた。

 

 

 

 

「……こりゃ、死ぬかもな…」

 

 

 

 

 自然と俺の口から呟かれたその言葉は、誰に聞かれることも無く消えていった…




『マドカの一夏襲撃』に続く…

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