IS学園潜入任務~壁の裏でリア充観察記録~   作:四季の歓喜

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時間が無ぇ上に文章が少し消えた!?てなわけでちょっと荒いです、すいません!!


朱色、出る 後編

 さて…馬鹿に対する制裁も終えた後、不安が残るもののオランジュに一夏の見張りを任せた俺は本来の仕事に戻った。多くの人でごった返すショッピングモール『レゾナンス』の店内を何気ない足取りで徘徊し、お目当ての人物を捜す。

 

 そして、案外そいつらはすぐに見つかった。一般人に紛れ込んではいるが、先日のアメリカ野郎共みたいに裏社会の臭いを消し切れてない御同類を確認することが出来た。

 

 

 

「中国政府非合法部隊ねぇ…」

 

 

『所謂タカ派の犬だよ。IS情勢で日本に対し完全には優位になれなかった上に、世界唯一の男性操縦者まで日本に現れる始末だ。国の基本方針としては幼馴染の凰鈴音を突破口にして縁だのコネだの作るつもりらしいが、あそこも一枚岩じゃないからな…』

 

 

「またそろそろ国の名前変わるんじゃないか?内乱と改名は、あの国の御家芸みたいなもんだろ…?」

 

 

『おいおい、中国の皆さんに謝れ』

 

 

 

 漸く真面目にし始めたオランジュと通信機越しで軽口をたたき合いながらも、目は奴らから離さない。今の会話の通り、俺が警戒して態々出向いた理由はその中国非合法部隊……確か名前は『影剣』だったか?とにかく、そいつらだ…。

 

 本来なら夏祭りの時みたいに現場には俺一人でも充分だったのだが、こいつらはCIAやそこら辺の犯罪者集団よりタチが悪い。裏の人間が祖国に忠誠を誓うのはどこの国の組織も変わらないが、この『影剣』は度が過ぎてる上に歪みまくっている。

 

 

 

「確か、この前は標的一人の為に地下鉄で脱線事故を起こしやがったんだっけか…?」

 

 

『そんで、その前は外国の研究員だか要人を拉致して外交問題に発展しかけたな。当の中国は最後まで“拉致じゃなくて招待”って言い張ってたけどよ……ま、どっちも影剣の独断って事になってるらしいが…』

 

 

 

 この影剣が他の組織と違うのは、躊躇なく表の人間を巻き込むところだ。国の利益になると思ったならそれを免罪符に迷うことなく行動を起こし、手段を選ばずに目的を達成する。結果的に国を国際的な窮地に追い込むこともあるが、なまじ成果をあげているせいで中国も簡単には奴らを切り捨てる事が出来ないのが現実だ。

 

 そんな輩がこの時期、このタイミング、この場所に来たということは、もう殆ど彼らの目的は確定した様なものだろう。

 

 個人的にボコりたいってのもあるが奴らの場合、下手をすると一夏を拉致するどころか抹殺をやりかねない。最悪の場合、レゾナンスを爆破するなんて暴挙に出る可能性だってある…。

 

 

 

「たまに思うんだけどさ、俺って犯罪者なのに楯無や日本政府より仕事してない…?」

 

 

『あ~それは……気にしたら負けだ…。むッ!?』

 

 

「どうした…?」 

 

 

『シャルロットさんと蘭ちゃんが一夏とアイスを食べさせ合いっこし出した!!オノレワンサ…』

 

 

「通信終了」

 

 

 

 また頭痛くなってきた…そういえば、偶々買い物に来てた五反田蘭と合流したとか言ってたっけ?そんで今は3人でどっかのレストランでランチタイムと洒落込んでるとか…。

 

 ていうか、あの野郎は常に両手に花を持たないと気が済まない性質なのか?もう今更彼女が欲しいとか喚いたり叫んだりしないけどさ、こう露骨にされると未だにイラッと来るんだよ。何か言われなくても分かってることを改めて言われてる様な…

 

【お前に真似出来るかバーカ!!m9(‐◇‐)】って言われてる様な……いや、被害妄想だけどさ…

 

 

 

「……何か、悲しくなってきた…」

 

 

 

 早いとこ終わらせて、さっさと帰ろう。そんで今日はもう寝ちまおう。それが良い…

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

(やばいやばいやばいッ!!まさか『影剣』が来るなんて!?)

 

 

 

 レゾナンス店内を必死の形相で走る一人の少女…楯無は焦っていた。いつもの様に適度に生徒会の仕事をサボりながらノンビリやってた今日の昼ごろ、その知らせは突如としてやって来た…

 

 その知らせとは、悪質組織ブラックリストの中でも特に上位に入ってる、中国の『影剣』のメンバーが日本に入国しているというものである。あの組織の最悪さは楯無も良く知っており、最も警戒すべき組織の一つであると認識していた。よりによってその影剣が、このタイミングで現れるという事実が物語っている事はただ一つ…

 

 

 

(確実に一夏君を狙ってる…!!)

 

 

 

 何で本当にいつもいつも日本政府は、間に合うか間に合わないかのギリギリのタイミングで仕事を寄越してくるのだろうか?それも事と次第によっては国の世界に対する立場が関わるような物事を…

 

 何はともあれ、護衛対象である一夏が危険であることに代わりは無い。二つの意味で腹が立ったその報告を受けた楯無は即座に学園を飛び出し、彼の外出先であるここに大急ぎでやって来たという訳だ…

 

 

 

「……と、一人目見つけたぁ…!!」

 

 

「は…?」

 

 

 

 店内を走り回って一夏を捜していたその時、ふいに発見した裏の人間独特の雰囲気を放つ一人の男。顔は間違いなくリストに載っていた写真と一致していたので、楯無はその走った勢いを殺さずに…

 

 

 

「せいやあああぁぁぁ!!」

 

 

「な、何だ貴sぐぼへらッ!?」

 

 

 

 飛び蹴りを放って男が寄りかかってた壁にそのまま叩き付けてやった。男は激痛に少し呻いた後、意識を手放して静かになった。

 

 と、その時…自分の背後から殺気と何か金属特有の『チャキリ』という音を感じた。感覚からして一般人ということは有り得ない。なので、遠慮することなく…

 

 

 

「ほいっと!!」

 

 

「な!?」

 

 

 

 後ろに忍び寄り、拳銃を構えていた影剣の一人。そいつの手から拳銃を弾き飛ばし…

 

 

 

「そんな物騒なモノ…」

 

 

 

―――ドスッ!!

 

 

 

「ぐふっ!?」

 

 

「女の子に向ける…」

 

 

 

―――ガッ!!

 

 

 

「ごあッ!?」

 

 

「酷い人は…」

 

 

 

―――金ッ!!

 

 

 

「ッーーーーーーーーーーーーーーー!?」

 

 

「地面とキスでもしてなさい!!」

 

 

 

―――ゴッ!!

 

 

 

 腹、顎、男の急所、側頭部に連続で強烈な一撃を貰った男は、何とも悲壮感漂う表情を浮かべながら床に崩れ落ちたる。余談だが、三発目辺りで見る者に何とも同情を誘う悲痛な表情になってた…

 

 

 

「さて、次にいきましょうかね……ッ!?」

 

 

 

 そう言葉を発して次の標的を探そうとしたその時、横から何かが凄まじい速度で飛んでくる気配を感じた。慌ててその場にしゃがみ込み、何とかソレをやり過ごす。すると自分の頭上を通り過ぎたそれは、さっき蹴り飛ばした男以上の勢いで壁に叩き付けられて崩れ落ちていた…。

 

 

 

「て、影剣の一人じゃない…!!」

 

 

 

 よく見るとソレは人間であり、リストにあった影剣の一人であった。そいつが飛んできた場所へと視線を移すと、影剣が飛んできたのは従業員室だった。さらに耳を澄ませてみると、さらに何かが聴こえてくる…

 

 

 

『この、テロリスト風情がぁ!!』

 

 

『うっせぇ!!共産主義のくせに格差社会上等の矛盾国家が!!』 

 

 

『き、貴様ぁ!!我らの祖国を侮辱するか!!』

 

 

『はん!!いつも近くの国に喧嘩売ってるテメェらが言うかよ!!』

 

 

『死ねぇ!!』

 

 

『お前がな!!』

 

 

 

 

―――ドガァン!!

 

 

 

 打撃音なのは間違いないのだが、まるで大砲でもぶっ放したかのような轟音が響いた。それとほぼ同時に従業員室の扉を突き破りながらまた一人、先程の男の様に凄まじい勢いでまた影剣のメンバーが吹っ飛んできた。

 

 しかしこの時、今度は軽く避けれたが新たな懸念事項が生まれた。先程聴こえてきた二人の人物による会話…片方は目の前で転がってる男で間違いないのだが、もう一人の声は何処かで聴いたことがある様な気がするのだ……ていうか、絶対にアイツだ…

 

 そう思いながら扉に手をやり、ゆっくりと開けて中に入ってみると……やっぱり居た…

 

 

 

「う~ん、どうすっかな…」

 

 

「……あら奇遇ね、セイス君…」

 

 

「ん?…げぇ、楯無!?」

 

 

 

 先日、自分を散々酷い目に遭わせてくれたセイスが居た。彼は何故か部屋の真ん中であぐらをかきながら何かを悩んでたところのようで、こっちが声を掛けるまで気付かなかったようだ。

 

 

 

「この前はありがとね、ほんと……御蔭様で二度と味わいたくない地獄を経験出来たわ…」

 

 

「あの時は…その、俺もちょっとオカシクなってて……」

 

 

「あ゛?」

 

 

「いや何でも無いですスイマセン」

 

 

 

 この前は真夜中に出会い頭に片栗粉入りにの熱湯を顔面にぶちまけられ、生ゴミの臭いを嗅がされ、醤油を被り、バナナの皮で転ばされ。粉塵爆波で吹き飛ばされ掛けた。おまけに濡れ衣で織斑先生の折檻を受ける羽目になるように工作する徹底ぶりだ。根に持つなという方が無理な話だ…

 

 

 

「まぁ…元々追う追われるの立場だから、何を今更って話よね。とにかく、会ったからには容赦しないわよ……?」

 

 

 

―――『ここで会ったが百年目』

 

 

 

 いつもの扇子にそう文字を浮かばせ、いつもの微笑を浮かべる楯無。それに対してセイスは引き攣った笑みを浮かべるが、途中で何かを思い出したかの様な表情を見せながら口を開いた。

 

 

 

「時に楯無…」

 

 

「ん、何?遺言でも残したいのかしら…?」

 

 

「お前、影剣の奴ら何人倒した?」

 

 

「?……二人よ…」

 

 

 

 影剣と亡国機業に直接的な繋がりは無いし、むしろ敵対している。だから別に言っても構わないだろうと思ってそう答えた瞬間、目の前のセイスは何処か安心したかのような態度を見せ…

 

 

 

「俺が倒した10人と合わせたら丁度全員か。なら、もう良いよな…」

 

 

「あら、他の奴らも倒してくれたの…?」

 

 

「結果的にだけどな…」

 

 

 

 そう言うや否や彼は床からゆっくりと立ち上がり、これまたゆっくりとコッチを振り向く。そこで漸く気付いたのだが、彼は腕に何かを抱えていた。それは30センチ前後の大きさを持っており、パソコンでは無いのだがやたら機械的でボタンやらコードやらが付いていた。しかもタイマーの様なもの設置されており、何かのカウントダウンでもしているのか映されている数字がどんどん小さな値に変わっていった。

 

 

 

―――て、これってどう見ても…

 

 

 

 

「時限爆弾じゃないッ!!」

 

 

「うん、そう。せめてコレくらいはやってくれよ?日本政府直轄、さん!!」

 

 

「んなっ!?」 

 

 

 

 その言葉と同時にセイスは何を思ったのか、楯無に向かってその爆弾を思いっきり投げつけた。突然の彼の奇行に楯無は一瞬だけ反応が遅れたが、何とか避けることが出来た。しかし、彼女の気が休まる事は無い。自分の背後には部屋の扉…一般客で溢れる、店内の大通りのど真ん中に繋がっている。案の定投げられた爆弾は扉をぶち破り、多くの客人が居るその場所へと飛んで行った…

 

 

 

「せ、セイス君!?貴方一体何を……て、もう居ないし!!」

 

 

 

 唖然として扉の方に向けていた視線を、何のつもりか問い詰めるべくセイスの方へと向けると既に彼の姿は無かった。良く周囲を見渡してみると天井の換気口が破壊されており、その下には丁度いい感じの高さの踏み台が置いてあった。もしかしなくても、そこから逃げ出した様だ…

 

 

 

「あぁもう!!本当にいつかぶっ飛ばしてやるんだからッ!!」

 

 

 

 また逃げられたのは腹立だしいが、今はとんでもない場所に投げられた爆弾の方が一刻を争う。すぐに意識を切り替え、従業員室から店内へと飛び出す。すると、やはりあんな勢いで吹っ飛んできたせいで目立ったのか、セイスに投げられた爆弾の着弾点には多くの人だかりが出来ていた。

 

 因みに、投げられた爆弾は壁にめり込んでいた…

 

 

 

「どいてどいて!!危ないから下がって!!」

 

 

 

 状況に焦りながら人だかりを掻き分け、急いで爆弾の元に急ぐ楯無。秒読みされてた数字は良く見てなかったが、あまり長くは無かったのは確かだ。こんな場所で爆発されたらと思うと、より一層危機感と焦燥感に駆られる。それでもどうにか爆弾の元に辿り着き、息を切らしながらソレに目をやる。場合によってはISの展開も想定しなければならないかもしれない…

 

 

 

「……へ…?」

 

 

 

 しかし、そんな彼女の焦り、緊張、不安、覚悟…その他諸々は全て無駄になった。それを見た途端、口からは間抜けた声しか出て来なくなった。何故なら…

 

 

 

 楯無の目の前には、未だにカウントダウンを続ける時限爆弾…

 

 

 しかし、その爆弾には一枚のメモ用紙がくっついていた…

 

 

 その一枚のメモ用紙には、こう書かれていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――『処理済み』

 

 

 

 呆気にとられる楯無の目の前で爆弾はカウントをゼロにし、『プスンッ』と彼女の声以上に情けない音を出しながら沈黙した…。

 

 余談だが、またセイスにしてやられた事を悟った楯無は、レゾナンスから帰る際に6の数字がでかでかと書かれたサンドバックを購入したとの事である…

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

『どういう事だ貴様、我々と貴様らは不可侵協定を結んでた筈だろう!?』

 

 

「おいおい、何寝ボケたこと言ってんだ。先に協定を破ったのはソッチだろ?織斑一夏はうちの獲物だ、手を出すんじゃねぇよ」

 

 

 

 レゾンナンス内にある店の一つに、その男は居た。そいつは携帯とコーヒーカップ片手に優雅にくつろいでいたが、この電話の相手のせいで口調と表情は苛立ちの色を帯び始めていた…

 

 

 

『……テロリスト風情がッ…!!』

 

 

「口の利き方に気ぃ付けろや、潰すぞ三下。何なら、今からテメェら影剣と戦争始めても良いんだぜ?」

 

 

『クッ…!!』

 

 

「そっち特有の厚顔無恥は今に始まったことじゃねぇし、今はそれなりに利害が一致してるからコッチも大目に見てるんだ……だが、いつまでも分を弁えない様なら、テメェらの大事な国ごと消すぞ…?」

 

 

『ッ!!』

 

 

 

 低く、ドスを効かせて呟いた一言は効果があったようで、電話越しで喚き続けていた相手は突然黙り込んだ。それを確認した男は口元に薄っすらと冷たい笑みを浮かべ、最後の言葉を紡ぐ…

 

 

 

「じゃあな。もう下らない要件で電話してくるんじゃねぇぞ、クズ共」

 

 

『キサッ…!!』

 

 

 

―――ブツッ!!

 

 

 

 一方的なセリフで一方的に通話を終わらせ、彼は即座に上着のポケットから別の通信端末を取り出す。そして、先程のやり取りの舌も乾かぬ内に別の相手に電話を掛ける。すると、ほんの数コールで相手は電話に出た…

 

 

 

『はい、もしもし』

 

 

「やぁ、僕だよ」

 

 

 

 男は先程とは打って変わって、人の良さそうな柔らかい雰囲気を出して相手に応じた。今の彼にさっきのチンピラ染みた乱暴な口調と雰囲気は一切なく、一人目の電話の相手が今の彼を見たら卒倒し兼ねないほどの変わりっぷりである…

 

 

 

『これはこれは、貴方自ら連絡を下さるとは。もしや、既に依頼は完了したので?』

 

 

「勿論。契約通り、影剣の構成員12名…全て仕留めさせて貰った。まだ息のある奴もいるが、一人残らず更識家が連れて行ったよ」

 

 

『相変わらず素晴らしい手際です。では、今回の報酬を振り込ませて頂きます。御確認下さい。』

 

 

 

 言われてまた別の通信端末を取り出す。それを操作し、自分の口座に繋げて中身を確認してみる。すると、確かに決して少なくない金額の報酬が振り込まれていた。しかし…

 

 

 

「……半分ほど足りないんだけど…?」

 

 

『それが、我々のボスが貴方に直接会いたいと仰いまして…報酬の残りも、その時に渡すと……』

 

 

「ふぅん…それはまた、急な話だね。罠でも張り巡らせてるのかい?」

 

 

『ま、まさかそんな恐れ多いことを…』

 

 

「ははは、冗談だよ。折角の御招待だ、喜んでお受けしよう」

 

 

『ありがとう御座います。それでは、会合の場はいつもの場所…我々のアジトでお願いします。お会い出来る日を心待ちにしております』

 

 

「あぁ、楽しみにしててくれ……『龍の意志の下に』…」

 

 

『はい、『龍の意志の下に』…』

 

 

 

 その言葉を最後に、通話は終了した。男は今のやり取りにしばし考え込む様な仕草を見せ、少ししてからまた別の通信端末を取り出し、とある人物に電話をかける。心なしか今度の端末は、先程の3台より値が張りそうな代物だった…

 

 そして、さっきより多めのコール数の後、相手は電話に出た。それに準じて男の口調と雰囲気が再度変わる…

 

 

 

「あぁ、もしもし。わたくしで御座います」

 

 

『……貴方ですか。今忙しいのですが、何の用です…?』

 

 

 

 今度の相手は女性。しかしタイミングが悪かったのか、いささか機嫌が悪そうだ。それでも彼は大してその事を気にせず、話を続けた…

 

 

 

「この前お受けした依頼の完了、さらには『龍の目』に関する情報が手に入ったことの報告です」

 

 

『なッ!?……コホン。ご、御苦労様です…』

 

 

「はい、どうも」

 

 

『しかし影剣に被害を与えることは確かに依頼しましたが、我々でさえ手を焼く大規模マフィアの情報なんて頼んだ記憶は無いのですが…?』

 

 

「あぁ、お気になさらず。ただのサービスで御座いますよ。此方としても、貴方達の様な理性的な方々とは末永くお付き合いしたいものですからねぇ」

 

 

『……そうですか…』

 

 

 

 祖国の穏健派であり保守派であるこの女性は、疑い深い性分なのだろう。これだけ柔らかい態度で接しても、いまいちな反応を見せてくる…。

 

 

 

「……まだ私の事を信用してはくれないみたいですねぇ…?」

 

 

『当然でしょう、『Mr.ファントム』。いくつもの裏組織を崩壊に導いた、悪魔め…』

 

 

「おや、私の事は御存知でしたか。」

 

 

『何を企んでいるかは知りませんが、もしも我々にとって不利益を招くような真似をすれば…』

 

 

「えぇ、肝に銘じておきますよ。ところで…」

 

 

 

 彼が一度も通り名を名乗ったことは無いにも関わらず、その正体を暴いて見せた電話越しの女性。その事により一時的に雰囲気が高揚していたが、それも彼の言葉によってすぐに冷めることになった…

 

 

 

「“貴方程度”が調べれらることを、貴方の上司が知らないとでも思ってます…?」

 

 

『え?』

 

 

「それでも尚、貴方の上司は貴方に『彼(わたくし)の機嫌を損ねるな』と忠告してた筈ですが……もしや、行き届いてませんでしか…?」

 

 

『そ、それは…』

 

 

「これは大変だ…もしかすると、此方でも似たような事が起こるかもしれない。そう、例えば……大事な大事な代表候補生の外出先に、危ない裏組織の人間が待ち構えている…なんて大切な情報を伝え損ねるかもしれませんねぇ?あぁ、高機動パッケージの試運転というもっともらしい理由で、彼女を危険から遠ざけることも出来なくなるかもしれませんね。ははは…」

 

 

『待って下さい!!も、申し訳ありませんでした…今の言葉は取り消しますので、どうか……!!』

 

 

「とまぁ、冗談はココまでにしましょうか…」

 

 

『じょ、冗談…?』

 

 

「えぇ、冗談です」

 

 

 

 通信機越しから深い安堵の溜息が聴こえてきた。まぁ、どこからどこまでが冗談で、どこまでか本気かは言わなくても相手は分かるだろう。そして改めて認識してくれた筈だ……こっちの恐ろしさを…

 

 

 

「何にせよ、此方の要件はそれだけです。依頼達成の証と例のデータは送っておきましたから、報酬の方はよろしくお願いしますよ?」

 

 

『……はい…』

 

 

「では、精々凰嬢によろしくお伝えください……楊麗々候補生管理官…」

 

 

『ッ!?』

 

 

「じゃ、失礼」

 

 

 

 まさか名前を知られてるとは思ってなかったのだろう、通信を切る寸前に息を飲む音が聴こえた気がする。まぁ、今となってはどうでも良いが…

 

 一通り必要な連絡を終わらせた彼は、さっきまでのやり取りで地味に疲れたのか盛大に伸びをしていた。しかし、その表情はどこか満足げである。

 

 

 

「……しっかし、俺が『ファントム』ねぇ…」

 

 

 

 周囲の人間に付けられたその通り名は、皮肉にしか聴こえない。よりによって自分がそう呼ばれるようになるとは、夢にも思っていなかった。だって自分は、本当にそう呼ばれていた男の弟子の弟子だ。実力は足元にも及んでいない。

 

 まぁ、それなりの実力はあると自負してはいるが…

 

 

 

―――ピピピッ!!

 

 

 

「ん…?」

 

 

 

 不意に聴こえてきた着信音。先程使った携帯の内、一番最初に使っていたものが鳴っていた。表示された相手が非通知なところを見るに、散々悪態を吐いてやった影剣かもしれない。なので口調と雰囲気を最初の乱暴なモノに代え、出た。

 

 

 

「んだよ、しつけぇな!!下らない内容で電話すんなつったろうがクソが!!」

 

 

『僕だ』

 

 

「ごめんなさい!!本当にごめんなさい!!」

 

 

 

―――その師匠本人だった…

 

 

 

『やぁ、Mr.ファントム。随分と偉くなったね』

 

 

「すいません、マジですいません!!謝るから勘弁して下さい!!そしてその通り名はやめて下さい!!恥ずかしくて死ねるッ!!」

 

 

『冗談だよ。で、結果は…?』

 

 

「……全て滞りなく…」

 

 

『よろしい』

 

 

 

 あの通り名は本当に恥ずかしい。本来なら自分達にとって最強と最高を意味するその言葉は、自分如きが名乗って良い代物では無いのだ…

 

 

 

『要件はそれだけだ。これから少し忙しくなるから、先に聞いておこうと思ったのさ…』

 

 

「さいですか…」

 

 

『では、早々で悪いがこれで失礼するよ。』

 

 

「ういっす、お疲れ様です…」

 

 

『……おっと、最後に一つ言い忘れてた…』

 

 

「ん…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――君ならそう遠くない日に、堂々と『亡霊(ファントム)』を名乗れるようになるさ…

 

 

 

 

 

 

『これからも精進したまえよ、次期盟主候補君…?』

 

 

「……ありがとう御座います…」

 

 

 

 そう言うや否や、自分の師匠…フォレストからの電話は切られた。何気なく周囲を見渡してみると、丁度自分の反対側に座っていた彼ら3人が食事を終え、席を立とうとしていた。

 

 

 

「さて、セイスに連絡でも入れるか…」

 

 

 

 まだ彼に自分のこの面を見せたことは無いが、今後も見せる気は無い。それはあの人に渡された課題であり、自らに課した掟なのだから…見せた時にどんな反応されるかビビってるだけかもしれないが…

 

 ま、取り敢えず今は…

 

 

 

「この時間を満喫するとしますかねぇ…」

 

 

 

 次期亡国機業盟主候補、快楽主義者のお調子者…オランジュはそう言って席を立ち、静かにシャルロット……もとい一夏達の後を追跡するのだった…

 

 


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