『こちらオランジュ、準備完了。いつでも行けるぜ!!』
「……あぁ、そう。精々頑張れよ…」
『おいおいツレないな、相棒!!しっかりサポートしてくれよ!?』
「五月蠅ぇよ馬鹿、さっさと死ね」
本気で苛々する。こいつの馬鹿が始まったのは昨日今日のことでは無いが、今回のことは特に酷い…
『おい山本君、相棒が冷たいんだが…』
『山本じゃなくて中西です!!そんで大丈夫です師匠!!俺が居ます!!』
『良く言った、心の友よ!!いや愛弟子よ!!』
『師匠ぉ!!』
「……もうヤダこの馬鹿共…」
秋の中頃故にやや肌寒く感じるものの、透き渡る青空が広がる今日この頃。そんな日に限って…いや、そんな日だからこそ奴は、また自分の立場も考えず外出タイムと洒落込んでいる。奴とは言わずもがな…
「で、ワンサマーはまだか…?」
『あぁ、まだ見当たらない。もうとっくに学園は出たんだよな…?』
そう、織斑一夏のことである。例の学園祭襲撃が失敗してからというもの、アイツへの対応はまた暫く俺達による監視と諜報が中心になる事が決まった。要は今まで通りってことだ…
そして今日もまた、いつもの様に一夏に異変が無いか、もしくは他の同業者に横取りされないか見張る為に出っ張ってるわけである。で、今回も大型ショッピングモール『レゾナンス』で買い物すると聴き、先回りして待ち構えているのだが…
「しかし、本当に大丈夫か…?」
『だ~いじょうぶ、大丈夫。俺だってこのぐらい朝飯前よ…』
今回は何故か、いつもは学園の隠し部屋に籠って俺のサポート役を担当しているオランジュが現場に来ていた。無論俺も来ているが、オランジュ達とはちょっと離れた所にスタンバイしている。因みに、さっき『山本』だの『愛弟子』だの呼ばれていた男は、オランジュが偶々出会って意気投合した一般人だ。
「俺が心配してるのはテメェの頭だ、ボケ」
『失敬な!!俺はいつだって真摯な紳士だ!!』
「やかましい!!あんなに下心丸出しだった癖に良く言うわッ!!」
どの口がほざいているのやら……因みに、全ては昨日の出来事が始まりだ…。
学園祭襲撃、新たな黒歴史(仲間内からは『悪酔い狂戦士』の称号を頂いた)を経てからというもの、暫くして楯無によるワンサマ警護は終了した。それにより、再び奴の部屋に監視カメラ及び盗聴器を仕掛けることに成功、以前の様に仕事がやりやすくなった。
ついでに、それからも楯無はちょくちょく一夏の部屋にやって来る。念のため前回より隠匿率を上げて仕事道具を設置したため、彼女が本気で探そうとしない限り仕掛けた仕事道具は見つかりそうに無い。故に彼女のアレな画像やらレアなデータやらが露骨に増え、それらを組織に送ったら再度とんでもない事になったらしいのだが……はたして…
ま、それは置いといて…とにかく、昨日もそんなノリで楯無は一夏の部屋に来た。だが今回の事に直接関わってるのは楯無ではなく、彼女の後にやってきた人物だ。
その人物が入って来た途端、あの馬鹿のテンションは急上昇。彼女が俺でさえ若干引いた恐怖の指切りげんまんで一夏と一緒に出掛けることを約束した事実を確認した途端、オランジュは俺に今日のことを凄まじい勢いで申し出てきたのだ……鼻息が荒くキモかったので、思わず殴ってしまったが…。
『なぁなぁ、一夏も来ない事だし……先に接触して良いか…?』
「馬鹿がこれ以上馬鹿を言うな」
『いやだって、またと無いチャンスじゃん!!ていうか、その為だけに今日の事を頼み込んだんだぜ?』
「ついに誤魔化すことさえ放棄したかこの野郎…」
『うっせぇ!!シャルロッ党突撃隊長であるこの俺から溢れ出る愛は、何人たりとも止められん!!そう思うだろ、佐々木君!!』
『お二人の会話は何一つ聴こえないんで良く分かんないっすけど、その通りっす!!そして俺は中西です!!』
もう分かったと思うが…そう、どっかの物陰に隠れているであろうオランジュの視線の先には目を惹く金髪とアメジストの瞳、そして中性的でありながらも可愛い容姿……今日は私服姿な『シャルロット・デュノア』が居た。因みに本当は『凰鈴音』も来る筈だったのだが、諸事情により来れなくなったようだ…
一夏と約束した時間より相当早く待ち合わせ場所に来た彼女は、取り出した手鏡でしきりに身だしなみを整えている。そして前々からシャルロットの熱烈なファンであるオランジュは、一夏の監視という建前で彼女と直に接触したいらしいのだ…
それを分かっていながら何で任せてしまったのかと言うと、実は障害になるという意味で要注意な人物が一夏とほぼ同時のタイミングで外出したのだ。そいつの目的が一夏だとは限らないが、時期が時期なだけに警戒するに越したことは無い。てなわけで止むを得ず俺はそっちを担当し、一夏の監視はオランジュに任せる羽目になったという訳だ…
『ていうか、もう我慢出来そうに無いから行ってくる!!』
「はぁ!?」
今日の出来事を思い返していたら、己の耳とアイツの正気を疑いたくなるような言葉が耳に聞こえてきた…
「な、オイちょっと待て!!幾らなんでもそれは…!!」
『あ~あ~何も聴こえな~い、音信不通~』
「テメェッ!?」
本気か!?こいつ本気か!?ていうか正気か!?マジでやる気かコイツら!?いざとなったらフォロー仕切る自信なんて無いぞ!?
『平気へ~き!!んじゃ、打ち合わせ通り行くぞ木村君!!』
『了解です、師匠!!例の『朱色のナンパ術』第24条ですね!?あと、俺は中西です!!』
『さぁ、いざ参らん!!』
うわ、行きやがった…俺はシャルロットが佇んでいる場所の反対側で、彼女と同様に誰かを待っているかのように振る舞っている。対してオランジュ達は、彼女の居る場所からちょっと離れた曲がり角にスタンバイしていた様で、割とすぐ近くに現れた…
そして…
『ねぇねぇ、カーノジョっ♪』
『今日ヒマ?今ヒマ?どっか行こうよ~』
『約束がある?えー?いいじゃん、いいじゃーん、遊びにいこうよ』
『俺、車向こうに停めてるからさぁ。どっかパーッと遠くに行こうよ!!フランス車のいいところいっぱい教えてあげいででででででっ!?』
『お、おい!!離しぐぼあ!?』
―――かきょっ!!
『うっぎゃあああああああッ!?』
―――『朱色のナンパ術・第24条』とやらがオランジュと中西君にもたらした結果は、彼女直々の関節技による肩の脱臼と一夏の顔面パンチ……そして、お巡りさんによる連行だった…
「せ、セイス…」
「何だ?憧れのシャルロットさんに冷たくあしらわれた上に肩の骨外されたオランジュ君…?」
「接触(タッチ)は…出来た、ぜ……」
何とか連行された交番から脱出して合流出来た時の第一声が、そんなだった相棒の顔面を思わず殴った俺は悪くない筈である…
こんな調子でやって行けるか早くも不安になって来たよ、マジで…
因みに、師匠は躊躇なく愛弟子を置き去りにしました。