今回書かないでいつ書くんだ…って、感じの二人のやり取りを書き忘れてましたので書き足し修正しました。
そして暫く感想の返事が遅れるかもしれませんが、それでも書いて頂けたら嬉しいです。お願いしやす…
「ぬはははは!!そういや、テメェとここで鬼ごっこするのは二度目だったなぁ!!」
「そうね…て、きゃあ!?」
「どうした、生卵ごときで…?」
「こんの…」
生徒達が起きてしまうのではと思うぐらい大きな高笑いを上げながら逃げるセイスを、先程のトラップの数々で白い制服がグチャグチャになった楯無が追い駆ける。その表情…特に目は、彼女を知る者が見たら卒倒し兼ねないほど恐ろしいモノになっていた…
それでも尚、セイスは楯無を挑発することをやめようとしない…
「あの時は結構焦ったが、今日は大したことねぇな!!年甲斐も無く学園祭でハシャギ過ぎたか!?」
「年甲斐って…貴方と年は一つしか違わないわよ!!むしろ、昼間のことで疲れてるのはそっちじゃない!?」
「ハンッ、裏社会歴たかだか数年のペーペーと少し遊んだ程度で疲れるかよッ!!」
そう言ってセイスはさらに加速し、それを見た楯無は舌打ちした。最早生身でセイスに勝てるとは思ってないが、校内で本格的にISを展開すると後始末が大変である。部分展開で自己防衛ぐらいならどうとにでもなるが、本気で暴れて校舎を半壊でもさせたら側近である虚の負担がとんでもないことになってしまう。今日の昼に撃退したオータム戦の時でさえ後処理に相当な苦労をさせているのだ、同じ日の内にまたやらかすことは出来ない。
セイスに散々してやられ頭に血が昇っても、そのぐらいの事を考える理性はまだ残っていたようだ。もっとも、彼女の存在によって余裕が少し生まれたことが大きく起因しているのだが…
「ハッ!!」
「うおッ!?」
廊下の曲がり角を曲がった瞬間、先回りしていたティナが正拳突きを放ってきた。不意を突かれたセイスは少しだけ驚いたものの、腕を交差させてしっかりそれを防ぎきった。その体勢のまま互いに硬直したことにより、セイスはようやくティナの事に気付く…
「お前、凰鈴音のルームメイトのティナ・ハミルトンだな…?」
「あら、知ってたの?」
「ついでに『現役CIA局員最年少』の称号を持っていることもな…」
「……ほんと、うちの情報管理ってどうなってるのよ。こっちの情報、駄々漏れじゃない…」
「そういうお前だって、どうせ俺の事は知ってるんだろ?……アメリカ野郎…」
「野郎じゃなくて淑女(レディ)よ、この化物…」
拳と腕を押し付け合いながら言葉を交わす二人だったが、自身の背後に段々と鬼が迫る気配を感じたセイスはポッケに片方の手を突っ込んで何かを掴んだ。ティナはその様子を怪訝に思ったが、その一瞬の虚を突いてセイスは彼女の手を取り、関節を決めて動きを封じる。あっと言う間にやり込められた事に呆然とするティナを余所に、彼は再び彼女の後ろ襟首をツマミあげた。
「そんじゃその化け物からの選別だ…!!」
「なッ!?」
そして、摘まんだ彼女の襟首から服の中にそのポケットから取り出した何かを放り込んだ。さらにセイスは困惑するティナを無視するように、そのまま全力疾走してきた楯無に向かって彼女を突き飛ばした。
例によって、今度は飛び越えるようにしてティナを避ける楯無。ものともせず激走するが、セイスはとっくにその場から走り去っていた。突き飛ばされたティナもすぐに体勢を立て直し、楯無に続くようにして彼を追い掛けようとした……だがその時、自分の背中から…
―――カサッ…
「え…?」
―――カサカサッ
「え、えぇ…?」
―――カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサッ!!
「ええええええええええええええええええええぇぇっぇぇぇぇぇえぇぇッ!?」
背中に走る悍ましい感覚…生理的に受け付けない、あの独特の雰囲気。職業柄、普通の女子が嫌うような存在にはある程度耐性がついている。しかし、コイツだけはどうしても駄目だ……上司や同僚に何て言われようが“大っ嫌い”だ…
それでもティナは震える手を自身の服の中に突っ込み、自分の背中でこの不快感を発生させている元凶を探る。そして掴んだ…掴んでしまった。よせば良いのに、そのまま掴んだそれを自分の目の前に取り出してしまう……
セイスの手によって仕込まれた、自身がこの世で最も嫌悪する存在……凄まじい速度で足を動かし、テカッたボディを黒光りさせる…
―――ゴキブリを…
「gはsどfyfぃhxclざうf;djmvjkさいkりq-------------ッ!!」
最早地球上の言語になってない悲鳴が、夜の学園に思いっきり響いた…
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ほれほれぇ!!次のトラップ行くぞぉ!!」
「一体いつ仕掛けたのよ、こんなの!?」
迫りくるコンニャクを避け、掃除用具入れから飛び出てきたパンチングマシーンをいなし、画鋲ロードを飛び越え、廊下に置いてある消火器の爆発を命懸けでやりすごし、楯無はセイスとの真夜中チェイスを続けていた。未だにセイスは余裕だが、楯無は徐々に彼との距離を詰めていく…
「ていうか段々仕掛けが物騒なものになってない!?」
「そりゃそうだ、寮の近くに設置したのは一般生徒向けの悪戯用!!ここらに設置したのは、お前に対して用意した実戦用だからな!!」
「なんですってぇ!?」
「ほら、無駄口叩いてる余裕は無ぇぞ!!頭上注意だ!!」
「なッ!?」
走るのをやめ、慌てて天井を見上げる楯無。襲い来る次のトラップに対し、しっかりと身構える。ところが、待てども待てども何も起こらない……そしたら、遥か向こうから此方を小馬鹿にするような声が…
「敵の言うことを真に受ける奴があるか、アホ!!ア~ホ~!!」
「ッ!!」
楯無がありもしないトラップを警戒している内に、苦労して縮めた距離がまた開いてしまった。どうにか突き放された距離を詰めるべく、焦りつつも再度走り出そうとする楯無…
「おぉい、足元に気ぃ付けろよ?」
「二度も真に受けるわけ無ッ…」
―――言った傍から転んだ……バナナの皮で…
「うわはははははは!!前回と同じ場所で、同じもので転びやがったぁ!!バッカでぇ~!!だあああぁぁひゃっはははははははははぁ!!」
「……。」
「あっははははは、はははっは!!…ははは……は………あのぅ、楯無さん…?」
「………。」
「何故に…ミステリアス・レイディを本格展開していらっしゃるのでしょうか……?」
この時既に、出だしから散々コケにされ続けた楯無の堪忍袋の緒は、切れるどころか爆発していた…
「シ・ニ・サ・ラ・セええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
「やり過ぎたああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁッ!?」
校内であるにも関わらず、理性と自重を完全に投げ捨てた楯無がISをガチ展開して迫りくる。いくらセイスが人外の身体能力を持っていたところでISの速度に敵う筈も無く、二人の間にあった距離があっと言う間に縮まっていく。
流石の酒乱馬鹿も、この状況には酔いが醒めそうになった。しかも最悪な事に、楯無の後方からさらなる気配を感じる。しかも、今の鬼神楯無に匹敵する殺気を纏って…
「あんたタダじゃ済まさないわよッ!!脳天に風穴空けた後、そのムカつく顔を(自主規制)して(放送禁止)して(ピー音)してやるうううぅぅ!!」
「ちょ、何でMP5なんて校内に持ち込んで…!!」
「日本刀やナイフが許されて、銃が許されない道理があるとでも!?」
両手にサブマシンガンを一丁ずつ持ったティナが、楯無に負けず劣らずの凄まじい怒気を纏いながらこっちに向かって走ってくるのが見えた。持ち方と構え方を見るに、随分と手慣れているようだ。遠目でもそれが分かってしまう自身の観察眼が、この時ばかりは嫌になった…
仕方ないので、予備のゴキブリ共が入った袋を彼女目掛けてブン投げた。口を緩めていたせいかゴキ袋は宙で中身を吐きだし、昆虫業界一の嫌われ者達が大挙してティナに降りかかる…
―――直前に、二丁の銃口から放たれた銃弾によって一匹残らず粉砕された…
「ゴキブリ苦手じゃねぇのかよッ!!」
「苦手なんじゃなくて、大ッ嫌いなのよ!!」
セイスはおろか楯無も知らない事だが、ティナはゴキブリが嫌いである。苦手でなく、嫌いである。この世から一匹残らず消し去ってやりたいほど嫌いである。見つけたら、その時に自分が持っている最大の火力を用いて徹底的に駆除するほど嫌いである。容赦しないと決めた時は、相手をゴキブリと思い込んで戦うぐらいに嫌いである。
因みに、さっきセイスに仕込まれたゴキブリは………素手で握りつぶした……
「いくら再生能力が凄いと言っても、銃弾の嵐と…」
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」
「こ、この暴走したIS操縦者が相手じゃ無理でしょ…?」
「……声が引き攣ってるぞ…」
こんなやり取りをしつつも、3人は走り続けている。とは言っても、ティナはともかくISを展開した楯無が相手では時間の問題である。ましてや自業自得とは言え、このままだと殺される可能性が…
「仕方ない、最終手段!!」
「ん?」
途中に仕掛けといた中途半端な罠を無視し、真っ直ぐにソレが仕掛けてあるところに辿り着くセイス。そのまま何やら重そうな、米俵に見えなくもない包みを抱えて彼は自分と楯無達との間に投げた。
その瞬間、投げられた包みから白い煙がもくもくと立ち込め、廊下に充満した。先程の嫌がらせガスのこともあってか、ティナは思わず足を止めてしまった。ところが…
(あれ、何も臭わない…?)
よく確かめてみると、それは煙と言うより細かい粉のようなものだった。念のため、指に付着したそれをこすったり、舐めてみたりした。すると…
「“小麦粉”?……て、まさか!?」
嫌な予感がしてセイスが居るであろう方を向くと、舞い上がる小麦粉のせいで薄っすらとしか見えないが何かを取り出す彼の影が確認できた。その瞬間、一気に血の気が引いたティナは愛銃をその場に放り投げ、ここが二階であるにも関わらず窓ガラスを突き破りながら外へと飛び出した。
そんな彼女の行動に気付かず、未だに半狂乱のまま突っ込んでくる楯無に向かってセイスは言葉を投げかける。
「おい、楯無…」
「…?」
―――“粉塵爆発”って、知ってるか…?
その言葉と同時に、セイスは取り出した何か…昼間に拾ったライターに火を灯した……
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「な、何だ…?」
あまり離れてないところから凄まじい爆音と、腹に響くような衝撃が届く。このIS学園の寮室は防音機能に優れていると聴いているが、いくら何でもこれでは起きてしまうのでは無かろうか…?
「…zZZ」
「何で寝ていられるんだ…?」
ここまで鈍いと、流石にイラッとくる。姉さんの隣に在り続けることになった奴が、どんな者かこの目で確かめたいと常日頃から思っていた。ところが、実際はこんなもんだ。姉さんと同様、一目置くべき男ならば一人の敵として扱ったのだが、これでは期待外れにもほどがある…
「……相手にする価値も無い、無駄な時間を使ったな…」
そう思い、さっきまで取り出していた拳銃を仕舞って踵を返し、一足先にセヴァスの隠し部屋へと帰ろうとした…
「……千冬姉…」
「ッ!!」
その言葉を耳にした瞬間、先程まで静まっていた憎悪が再び燃え上がる。反射的に背後を振り向くと、相変わらず一夏は眠ったままだ。恐らく今の言葉は寝言か何かだったのだろう…
それでもマドカは、一夏の眉間に銃口を押し付けることを我慢出来なかった…
「……何故だ…」
―――こんなに近くに居ても、こんなに思いを吐露しても…
「何故お前なんだ…!?」
―――気づいて貰えない、相手にして貰えない…
「何故あの人の隣に私では無く、お前が居るんだ…!?」
―――全ての分かれ道となったあの日、自分と目の前の男に違う点など殆ど無かった。それなのに…
「何で姉さんは私では無く、お前を選んだ…!?」
最後の言葉は、嗚咽混じりだった。けれども、怒りと悲しみがグチャグチャになって吐かれたその言葉は目の前の男にも、自分が最も感情をぶつけたい相手である姉にも届かない…
そのことを改めて理解したマドカは、全てがどうでも良くなった。スコールの言葉も、命令違反も、それによって殺されようがどうでも良くなった。有らん限りの憎しみを篭め、奴に向けられた銃口の引き金をゆっくりと…
「おぉい、逃げるぞマドカ!!」
「ッ!!」
突然の声に驚き、思わず銃を落としてしまう。しかし落としたそれを即座に拾い、何食わぬ顔で背後を振り向く。するとそこには、微妙に焦げている上にボロボロのセヴァスが扉越しに立っていた。
「何だその恰好は…?」
「ハシャギ過ぎた…そんな事は良いから、さっさとズラかるぞ!!楯無とか生徒会長とか更識家当主とかロシア国家代表がやって来る!!」
「……それ全部、同一人物じゃないか…?」
セヴァスのザマに呆れた途端、さっきまで雰囲気が一気に霧散した。萎えたとも言って良いかもしれない。とにかく、今日はもうそんな気分じゃなくなった…
「まったく…人を付き合わせといて、最後はコレか。酔いは醒めたか……?」
「……スマン、今度何か奢る…」
本当に情けなさそうにするセヴァスの姿を見て、思わず苦笑を浮かべてしまう。流石にコイツの目の前で、命令違反をしてまで織斑一夏を殺害する気にはなれない。スコール達はどうでも良いが、セヴァスを困らせるのは少し躊躇ってしまう…
そこでふと先日の事を思い出し、セヴァスが酒乱モードに陥った事により聞けなかったことを訊ねてみることにした。
「……なぁ、セヴァス…」
「ん?」
「今日アイツらとやり合って、どうだった…?」
「どうだって…あぁ、そういうことか……」
『アイツら』とは当然、セヴァスと因縁浅からぬアメリカの事である。今日の作戦中、コイツはそいつらと接触し、あろうことか生身でISと戦う等という暴挙に出た。見てるこっちの気持ちも知らないで、今晩のものとはまた違う狂ったような高笑いを上げながら、何度も何度も奴らに突っ込んでいった。その最中、吠えるようにして吐露された心情はまさに復讐者に相応しいものである。
そんなセヴァスの言葉を聞けば、一復讐者として何かと今後の参考になるかもしれない…。そう思い、先日に冗談混じりにあんなことを言ったのだが、はたして…
「どうも何も、つまんなかった…」
「は…?」
―――出てきた言葉は、あまりに予想外なものだった…
「お前はアレを復讐と呼んだけど、俺にとっちゃただの八つ当たりだ…」
微妙にアルコールが抜けきってないのか顔はやや赤いままだが、目は真剣そのもの。だから黙って最後まで言葉に耳を傾ける…
「お前と違って、俺は本当に殺したかった奴がこの世に一人も残ってない。皆、俺が殺す前に死んじまった…」
セヴァスを生み出し、嬲り者にしてきた違法研究者達。アメリカ人であるそいつらは、皮肉な事に同じアメリカ人の手によって抹殺されてしまった。そのせいでセヴァスは、自分みたいに本当の意味で復讐に生きる道を失ってしまったのである。
「この世に残った誰を殺そうが、あらゆる物をぶち壊そうがアイツらの命乞いも懺悔も断末魔も聴けねぇんだ。だから俺は、お前みたいに復讐を強く生きる理由に出来ない…って、初めて会った時にそう言ったろう?」
「……そうだな、そうだったな…」
私には姉さんが…織斑千冬という復讐対象が居る。姉さんに連なる者、関わる者だって何人も居る。そいつらを誰か一人でも傷付けてしまえば、あの人の心に傷をつけることが出来る。あの凛々しい顔を絶望と悲しみに歪めさせることが出来る。
でも、セヴァスは違う。復讐を成し遂げる為の自由と力を手に入れた時には既に、何もかもが自分の知らないところで終わってしまった。目の前のこいつは私と違い、この留まる事を知らない憎悪をぶつける機会を永遠に失っているのだ。
だからこそセヴァスは『復讐』とは云え“誰かとの繋がり”を持つ私を羨み、逆に私は“真の意味で己を示せる”セヴァスを羨んだ……それが切っ掛けで今みたいな関係になったというのに、どうして忘れていたのだろう…?
「そりゃあ、今でも奴らの事を思い浮かべると胸糞悪い気分にもなるさ。だけど、今日の事で改めて思い知ったよ。俺の場合、奴らに対する復讐は色々と割に合わねぇ。何しても奴らに対する苛立ちと鬱憤は消えないってのに、昼みたいに何度も命削ってたら馬鹿みたいじゃねぇか。そんなんだったら同じ馬鹿でも、お前らと一緒に馬鹿やってる方がよっぽど有意義だ。」
「それは、素直に喜んでいいのか…?」
「とにかく、まぁ何だ…俺は多分、もう現状に満足してるんだと思う。中途半端な復讐モドキを続けるよりも、今はただこの日常を楽しむ事の方が俺にとって大切な事になってんだよ……」
若干照れくさそうにしポリポリと頬を掻きながら、彼はそう断言した。その言葉に迷いと躊躇いは無さそうだった…
「そうか……お前はもう、自分の過去と決別出来たんだな…」
「かもな…結構苦労したけど、そうみたいだ……逆にお前はどうだ?ついでと言っちゃなんだが、お前はまだ出来てないってんなら手ぇ貸してやるけどよ…」
『苦労』か…随分と軽く言ったがコイツの言う苦労とは、コイツ自身のも私のも生半可なものでは無い。それを踏まえた上で、コイツはそう言い切った。
―――そして、私の行いに付き合うとも…
ならば、敢えて問おう…
「……その為に私のやりたい事が、お前が馬鹿みたいと称した復讐だとしてもか…?」
「勿論」
―――即答された…
「今まで散々俺の馬鹿に付き合ってくれたんだ…そのぐらい幾らでも付き合ってやるし、手伝ってやる。だって、それこそが俺の……」
そこまで言っておきながら、何故かセヴァスは途中で言葉を止めた。そのまま此方から露骨に目を逸らして気まずそうな雰囲気を出す…
「どうした…?」
「……いや、何でも無い。それより早く戻ろう、いい加減に誰か来るかもしれないし…」
「何か誤魔化された気分だが、そういう事にしといてやる…」
その言葉を最後に二人は、一夏の部屋から去って行く。だが先に行くセヴァスを追う様にして部屋を出る直前、マドカは最後にチラリと後ろを見やった。そこには相変わらず寝息を立てながら眠る、一夏の他には何も居ない。
先程抱いた殺意は未だに自分の中でくすぶっているが、今この場で何も感じさせず、何も理解させぬまま死なせるのは何処か面白くない。だから…
「……お前は、ただでは殺さない。私が納得出来る形で、私が満足出来る形で、私という存在を刻み付けてから殺してやる…」
―――私が私である為に…
セヴァスにも聴こえないぐらいに小さな声で呟かれた言葉は、誰の耳に届くことも無く消えて行った。そして彼女もまた、踵を返してその場を去って行った…
後に残ったのは未だ眠り続ける男性操縦者と、その穏やかな寝息だけである…
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
~オマケ~
―――翌朝のこと…
「に、逃げられた…夜通し追い掛けたのに、また逃げられた……」
「……おい、楯無…」
「はい?何ですか織斑先生、そんな……怖い、顔して…」
「いや、なに…朝起きて扉を開けたら片栗粉入りの熱湯が降って来てな、その後はゴキブリやらゴミやらが入った袋が降って来て最悪だったんだ…」
「はぁ、それは災難ですね……実は私も…」
「それでだな、廊下でこんなものを見つけたのだが…」
「へ?……あ、私の扇子!!」
「少し気になったんで、お前の部屋…というか、織斑の部屋を探ってみたら面白いものが出たぞ?」
「え、ちょ…何ですかこのワイヤーだの袋だの小道具たちは……?」
「ラウラの私物だ……何故か“お前が使ってるベッドから”出てきたんだが、な?」
「え…」
「さて、詳しく話を聴かせて貰おうか?……なに心配するな、尋問…いや聴取は私だけではなく、今朝被害に遭った“職員総出”で行う……」
「ちょ…」
「さぁ…お前の罪を数えろ、この愉快犯……」
「待って、待って下さい!!ご、誤解です!!昨日の晩に亡国機業が…」
「なんだと?……そうか、テロリストのせいならば仕方ない…」
「はい、ですから私は…」
「なんて言うと思ったかこの馬鹿がッ!!お前が昨日の夜中に学園を徘徊していたと、一年二組のハミルトンが証言しとったわ!!そもそも、あの組織がこんな子供染みた真似するわけ無いだろうが!!」
「あ、あの裏切り者ぉ!!……く、冤罪で死んでたまるもんですか!!こうなったら全力で逃げッ…」
「させると思うか?」
「ちょ、ストップ!!織斑先生ストップ!!アイアンクローはやめうきゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!?」
その日、完璧と名高いIS学園の生徒会長は、欠席記録を一つ増やした…