IS学園潜入任務~壁の裏でリア充観察記録~   作:四季の歓喜

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もう誰だコイツ…




6とMと金の卵 中編

 

 

 

 真夜中のIS学園に暗躍する二つの影…片や高笑いを響かせ、片やその相方の様子にゲンナリしているという異色の組み合わせ。まぁ、結局セイスとマドカなのだが…

 

 

「ぬははははぁ!!愉快痛快爽快だぁひゃはははぁ!!」

 

 

「……誰だコイツ…」

 

 

 

 マドカにドン引きされつつも、セイスは次々とんでもない事をやらかしていく。もしも今のセヴァスをいつものセヴァスが見たら、確実に自分自身を問答無用身でぶん殴ってるところだろう…

 

 学園中にトラップを仕掛けまくっているんだから…

 

 

 

「はっははー!!明日が楽しみだ!!」

 

 

「おいおい、思いっきり痕跡とか残るんじゃ…」

 

 

「材料と道具は全部、ラウラの部屋から拝借してきたからモーマンタイ!!」

 

 

「……。」

 

 

 

 廊下、職員室、食堂、更衣室、トイレ、アリーナ…学園内に存在するあらゆる場所に忍び込み、様々な御手製トラップを仕込んだ。九割方ドッキリ系だが、中にはシャレになってないものまである。その彼の暴挙が着々と進められていく現実をマドカは、ただただ見ていることしか出来なかった…

 

 因みに今現在、二人は生徒と職員の共用施設を回り終えたところであり、アリーナ近くにあった自販機前で一息ついていた。セイスの暴走が始まってから結構な時間が経過しているものの、依然として彼の眼は座ったままである。表情こそ楽しそうだが、まだまだ物足りないようだ…

 

 

 

「さぁて、次は寝室だぁ…!!」

 

 

「いや、そろそろいい加減にして欲しいんだが…」

 

 

「いつも楯無の奴には酷い目に遭わされてるからなぁ…今日は逆に一泡吹かせてやるゼェ……!!」

 

 

「だからいい加減に……ッ…!!」

 

 

 途中まで口に出しかけた言葉を、あることを思い出してマドカは飲み込んだ。セヴァスが目を着けた相手、楯無は面倒な相手だ。IS学園最強、更識家当主、ロシア国家代表…所持する数々の肩書きは伊達では無く、その実力は脳筋秋女を軽くあしらったという今日の出来事が物語っている。負けるとは思わないが、色々な面で厄介な存在であるのは間違いない…

 

 だが、マドカが気にしてるのはそんな事では無い。楯無は現在、裏稼業の事情もあって自分の寮室で寝泊まりしてない。セヴァスに教えて貰った話が正しければ、奴が今居る場所は確か…

 

 

 

「どうした、マドカ…?」

 

 

「……いや、何でも無い。さっさと行こう…」

 

 

 

 ゼフィルスと同様に肌身離さず持っている拳銃の感触を確かめながらマドカは、先行くセイスの背中を追いかけた…

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 一部の人間にしか知られていないが、ティナ・ハミルトンは弱冠十五歳にしてCIAの一局員である。

 

この若さにしてその役職に就いた理由はそれなりに複雑な事情があるのだが、この学園に入学した理由には大して関係ないので割愛する。今後CIAの仕事をする際に役立つということで入学した点を考えれば無関係とも言えないかもしれないが、本当にそれだけなのだ。本来の仕事は、アメリカ国籍の専用機持ちという理由だけで手伝わされてる上級生二人組と同じ程度しかこなしていない。上の連中も、在学中はISの技術を身に着けることに集中して欲しいようだ…。

 

 にも関わらず、その考えを撤回してまで寄越してきたこの任務。日本最強の暗部や、世界最強の女など魑魅魍魎が闊歩するこの魔境でその難易度はとてつもなく高いことになってるが、その分遣り甲斐があるというものだ。

 

 

「でもコレは無いわ…」

 

 

 本国の上司からの指令の元、早速情報と手掛かりになるものを捜すべく深夜の学園を彷徨ことを決意した彼女の意気込み出だしから叩き潰された。

 

 

 

「ていうか、どうなってんのよ!?」  

 

 

 

  自室の部屋を出た瞬間に彼女を襲ったのは、中途半端にぬるくなった上にトロみを帯びた謎の液体であった……いや、ただの片栗粉を混ぜた白湯なのだが…

 

それに本気で驚きながらも、常日頃から身体に叩き込んでおいた訓練の成果故に悲鳴を上げるなんて情けない事はしなかった。そもそも、国の裏を担う者の一人としてそんな醜態を晒す気は無い…

 

 

 

「誰よ…こんなことする奴なんて、生徒会長ぐらいしか記憶に無いけど……」

 

 

 

 上を見上げたらワイヤーで吊るされたタライが天井でユラユラ揺れており、此方を馬鹿にしている様に見えて少しイラッとした。ワイヤーの繋がり方を見る限り、扉を開いた瞬間に落ちる仕掛けになっていたようだ。起きていたにも関わらず全く人の気配を感じなかった故、相当の手練れがやったとしか考えれないのでやっぱり実力的にも同業者の更識楯無ぐらいしか思いつかない… 

 

 

 

「へびゅッ!?」

 

 

 

 なんて考えてたら唐突にタライが顔面に落ちてきた…微妙に真剣に考えてたこともあり、見事に鼻っ面に直撃してしまった。鼻血は出てないが、思わず変な声と小気味の良い音を出しながら蹲ってしまう……

 

 

 

「……覚えときなさいよ、絶対にぶっ飛ばすから…」

 

 

 

 顔も知らぬ犯人に人知れず報復宣言しながら、ティナはゆっくりと立ち上がる。これを仕掛けた馬鹿(多分、楯無)には本気でムカついたが、今は後回しだ。早くしないと例のターゲットに関する痕跡が片付けられてしまう恐れがあるのだ、自分にはそんなに時間を無駄遣い出来る余裕が無い。

 

 てなわけで、彼女は今日の騒動が起きた現場へと足を向けたのだが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ひゃーーーはっはっぁ!!

 

 

 

―――待・ち・な・さ・いッ!!

 

 

 

「へ?」

 

 

 

 廊下の向こうから何やら聴こえてきた。何だろうと思って視線を其方に向けると、暗い通路の方から人の気配…どころか人影そのものが二つ、凄い勢いで向かって来るところだった。良く見ると片方は例によって楯無会長だったのだが、何故かいつになく恐ろしい形相をしている……心なしか、今の自分と同様トロミを帯びた液体を被ってる様に見えるのだが…

 

 そしてもう一人の顔も確認できたのだが、その瞬間ティナは一瞬心臓が止まりかけた。

 

 

 

「あああぁぁああぁははははははははははぁ!!遅い、遅いぞバーカ!!ノロマ!!ヘッポコ!!最強の暗部(笑)!!捕まえれるもんなら捕まえてみろぉ!!」

 

 

「本気で怒るわよ!?」

 

 

(え…ちょ、嘘!?)

 

 

 

 半ばキレ気味の楯無に追い掛けられているのはまさに、他でも無い亡国機業のエージェント『セイス』こと『人工生命体6号』本人だった。まさかその日の内に遭遇するとは思わず、少しだけ呆気にとられてしまったがすぐに気を取り直す。そして相手は楯無会長の方を向いてからかいながら走っているため、此方には気付いて無いようだ。

 

 つまり、まさかのチャンス到来である…

 

 

 

(いくら再生能力を持とうが、所詮は人間をベースに造られた存在……急所を狙えば…!!)

 

 

 

 顎に一撃加えて脳を揺らしたり、首をへし折るぐらいすれば一時的に動きを止めることは出来る。送られてきたデータにはそう記述してあったし、自分はそれをやるだけの技術がある。だったら迷う必要も躊躇う理由も無い。

 

 未だに楯無をからかう為に後ろを向きながら走ってるセイスは、此方に気付かず向かって来る。そして彼が自身の射程に入ったその時、ティナは長きに渡る訓練により洗練されたハイキックを放った。風を切るようなヒュンという音を出しながら、彼女のキックはセイスの首に吸い込まれるようにして迫り…

 

 

 

「おっと、前方不注意だったか!!」

 

 

「ッ!?」

 

 

 

 一瞬の内に避けられてしまった。ティナのキックが当たる直前、セイスはギリギリでありながらも余裕を持ってしゃがみながらそれを回避して見せたのだ。完全な不意打ちと思った一撃を避けられ、ティナは思わず驚いてしまったが、すぐに二撃目を放とうとする。しかし、そうするよりも早くセイスがしゃがんだ体勢のまま足払いをティナに繰り出す。為す術なく転ばされたティナは一瞬宙に浮いたが、床に落ちる前に襟首を掴まれ…

 

 

 

「おぉい楯無ぃ、プレゼントだ…」

 

 

「え…」

 

 

「受・け・取・れぇ!!」

 

 

「えええええええぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 

 

 

―――彼女を楯無目掛けて思いっきりブン投げた

 

 

 

 

「クーリングオフ制度ッ!!」

 

 

「要らないって言いたいのね!!」

 

 

 

 持ち前の反射神経と身体能力で、飛来してきたティナを楯無はあっさりと避けた。投げられた上に避けられたティナもそのまま床にベシャリと落ちることも無く、受け身を取りながらしっかりと着地する。その彼女の様子を横目にチラリと確認した楯無は少しだけ驚いたようだが、すぐにセイスの方に向き直る。

 

 そして、あろうことかISの武装であるガトリング搭載型ランスを展開した。ロシア国家代表が人外とは言っても生身の人間相手に武装を展開したことには流石に呆気にとられたが、目の前の男は意表を突きながらも専用機持ち二人から逃げ切ったという事実を思い出した。

 

 

 

「おいおい、施設内でISの展開は校則違反じゃ無かったか…!?」

 

 

「そんな校則、一日で変えてやるわよ!!」

 

 

「うわぁお、職権乱用!!よろしい、ならば革命だ!!」

 

 

 

 そう言ってセイスは何故か近くにあった壁を蹴り付けた。その瞬間、どういうわけか自分と楯無の周囲に煙が立ち込め始めた。スモークの類のようだが、いったい何時の間に仕掛けたのだろうか……いや、それよりもコノ煙…

 

 

 

「くっさぁ!?」

 

 

「ちょっと何これ!?ゲホッ!!」

 

 

 

 出てきた煙は吐き気を催す程の強烈な臭いを持っていた。思わず二人して悶えるが、そんな此方の様子を見てセイスはゲラゲラと笑っている。そして…

 

 

 

「あははは、どうよ!!今日の学園祭で出た生ゴミをかき集め、臭い圧縮して作った嫌がらせガスの味の方は!!」

 

 

「セイス君…もう、今日はちょっと手加減しないわよ……?」

 

 

「あっれぇ?既に3回俺を取り逃がした現実への言い訳ですかぁ?IS使っても捕まえれなかった不甲斐無さの言い訳ですかぁ?……更識“伊達”無さぁん…!!」

 

 

「貴方マジで一回死んでみる!?」

 

 

「おっことわりぃ!!」

 

 

 

 いつもの飄々とした態度が面影も残らない程に、思いっきり楯無を馬鹿にしながら再度セイスは壁を蹴り付ける。すると今度は、天井から黒い何かが降って来た。その黒いモノは最初と同じく液体だったが、何だかさっきとは全然質が違う。とろみは無いが違和感はあり、臭いはあるが臭いという訳では無い。

 

 ただ、何故かやたら肌が痒いような…かさつくような……

 

 

 

「あぁ、それ“醤油”だから。」

 

 

「ッ!!」

 

 

「嘘!?…うわ本当だ、しょっぱ!?」

 

 

「シミにならないよう、気を付けな!!なーはっはぁ!!」

 

 

 

 そう言うや否や、彼は廊下に広がる夜闇へと走り去って行った。呆気にとられながらもよく周りを見てみると、天井にも壁にもワイヤーや何かが入ってる袋が所々設置されているのが分かった。どうやら、これらは全部さっき彼が仕掛けたモノらしい…

 

 もしもコレが学園中に仕掛けられているとなると、色々と分が悪いかもしれない。今夜限りとは言え、現状は彼の掌の上で戦うようなものだ。まだ機会はあるだろうし、態々自分にとって不利な状況で戦う意味も無い。今日は大人しく引き上げるとしよう…

 

 

 

―――そう思った時には既に、楯無に胸ぐらを掴み上げられていた…

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと何ですか…!?」

 

 

「……貴方、一年二組のティナ・ハミルトンね…?」

 

 

「は、はい!!」

 

 

 

 顔こそ笑ってるが目が全くもって笑ってない。能面の様な笑みをほぼゼロ距離で見せられながら、有無を言わさぬ口調と雰囲気に呑まれティナは素直に返事をするしか無かった…

 

 

 

「丁度良いわ…彼を捕まえるの手伝って貰えるかしら……?」

 

 

「え…わ、私はただの一般生t……」

 

 

「CIAには結構、貸しがあるのよねぇ…」

 

 

「あ、バレてるの…」

 

 

「会長命令!!更識家の権限!!同業者のよしみの頼み!!日本政府直轄組織からの協力要請!!まだ足りないの!?この際、手柄はあげても良いから四の五の言わずに手伝いなさいッ!!」

 

 

「はいぃ!!」

 

 

 

 待ち望み、早くも直面することになったターゲットとの接触は、随分とおかしな形で始まった…

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「まさか、こうも早く機会が訪れるとはな…」

 

 

 

 楯無に泡を吹かすとか言ってこの部屋の入口に来た途端、楯無本人が此方の気配を感じて扉を開けてしまったのである。熱湯片栗粉をこれから仕掛けようと思ったセヴァスは、彼を視界に捉えて思わず動きを止めた楯無と同様に一瞬だけ固まり…

 

 手に持ってた熱湯片栗粉を、楯無に向かってダイレクトにボールごと投げつけた…

 

 そこから先はどうなったかは、言わなくてもだいたい想像できるだろう。ブチ切れて冷静さを欠いていた上に、見えにくい所に立ってたせいか楯無は此方に気付かずセヴァスを追ってどこかに行ってしまった。その御蔭で私は誰に邪魔をされることもなく、“コイツ”と二人きりになることが出来た…

 

 

 

「本当は今日の昼にでも会ってみたかったが、この状況の方が色々と都合も良い…」

 

 

 

 あれだけセヴァスと楯無が騒いでも、こんなに私が近くに居ても“コイツ”はスヤスヤと静かな寝息をたてながら眠り続けている。その寝顔は本当に安らかで、優しげで、穏やかで……“殺したくなる”…

 

 

 

 

「……織斑一夏…」

 

 

 

 

 マドカは利き手に持った拳銃を強く握り締めながら、目の前の男の名前を憎々しげに、吐き捨てるように呟いた…。

 




一応宣言しておきますが、原作の流れをブチ壊す展開にはなりませぬ。

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