「馬鹿だろテメェら…」
「一回生まれ直してみるか?……俺の手で…」
『そこを何とか!!二人だけが頼りなんですよ!!』
久々に組織から通信が入ってきたかと思ったら、相手は先日の小包騒動で会ったばかりのメテオラだった。何やら個人的な頼み事があるそうなので内容に耳を傾けてやったのだが、後悔した…。
『だいたい、あなた達にとってはこんなの朝飯前でしょ?御礼はしますから、どうか…』
「馬鹿野郎!!こんなもんやったら朝飯どころか朝日を見ることも叶わんわ!!」
「というわけだ、今回ばかりは俺もセイスと同意見だ。やるならテメェらだけでやれ」
『……仕方ありませんね、奥の手です…』
通信機越しに何か不穏な呟きが聴こえてきたが、怪訝に思う前に俺とオランジュの背中に戦慄が走った…
『8010、1192、0794、1945…でしたよね、セイスさん?』
「ッ!?」
『オランジュさんは5656、2323、8931でしたっけ…?』
「オマッ、それ…!?」
奴の口から発せられたのは四桁ずつの数字の羅列…普通の人間ならば一つだけで充分なのだが、俺たちは職業柄いくつかに分けている。そしてそれは本来、本人以外の者が知っていてはおかしい物であり…
『さ~て…貴方達の口座から一円も残らない未来と、我々を手伝って金額を増やす未来……どちらにしますか…?』
俺達の生命線である…野郎、えげつない真似をしやがる……
「「お前…いつか殺すからな……」」
今日はオランジュと意見が一致してばかりの一日になりそうだ…
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『どうなっても知らないからな…』
「いやぁ、感謝しますよ?何せオークションが開けなくなった今、このような手段をとる他に良い方法が思いつかなかったものでして…」
結局、渋々ながらも人質ならぬ財布の紐質をとられたセイスとオランジュはメテオラに協力する羽目になってしまった。通信機越しに聴こえてくるオランジュの声は本当に面倒臭そうだった…
「ところでセイスさんは…?」
『あいつなら所定の位置についてる。そろそろ、動き出す頃かと思うが……あ、動いた…』
「健闘を及び武運を祈ってます…と、お伝えください」
『『死ね!!』、だとよ…』
「おぉ、怖い怖い……彼の分の報酬は、多めに振り込んでおくとしますかね…」
「お~い、メテオラ。そろそろ来るぞ~」
「あぁはいはい。ではオランジュさん、サポートよろしくお願いしますよ?」
そう言ってメテオラは自分を呼んだ仲間達…亡国企業男性メンバー、十人がたむろしてる場所へと足を運んだ。この十人はメテオラにとって、組織の中でもとりわけ深い絆で結ばれた者達である。同志であると言っても過言では無い。
「さて皆さん、遂にこの日を迎える事ができました。まずは。今回の件に対して快く協力する事を引き受けてくれた二人に感謝を…」
『脅されただけなんだけどな…』
「そう言うなよ、オランジュ」
「お前らには感謝してるぜ?礼はしっかりするから楽しみにしとけ…!!」
『……ボソッ(テメェらが無事で済むんならな…』
「あん?どうかしたか…?」
『何でもねぇよ……ま、精々死なないようにな…』
「ははは、抜かりは無いさ!!その為にセイスも呼んだんだからな!!」
確かに、普通なら彼らとてこのような暴挙に出るような真似はしなかっただろう。だが、彼らが溜めるに溜め込んだとあるモノに対する情熱は、最早色々と抑えきれないものになっていた。
「これで…これでようやく、俺らの飢えと乾きが癒される……」
『そこまで深刻か……俺も最近までソッチ側の人間だったが…』
「そうですとも!!世の中は私達には冷たいのです!!我ら、亡国企業の真の正義…」
---『更識簪』のファンクラブ…通称『更識いもう党』には!!
『何でこうなったんだろうなぁ…』
「敢えて言うなれば、神のみぞ知るというものです。」
セイスとオランジュが常に警戒している人物の一人、『更識楯無』。その妹である『更識簪』のファンなのだ、彼らは…
「貴方達が楯無のデータのついでに送ってきた彼女の写真を一目見たときから、私はその圧倒的な華燐さに心奪われた!!」
『お~い、色々な意味で危ないぞ~?』
「この気持ち…まさしく愛だ!!」
『はいアウト!!』
「だが世の中は非情だ…幸か不幸か彼女は、織斑一夏に惚れていない!!おまけに姉と違って表の人間故に貴方達は彼女のデータをあまり送ってこない!!私達はどうすれば良いのでしょう!?」
『死んどけ』
「だから私達は思いついた…データがこないなら取りにいけば良いじゃない、と!!」
『……だからって、彼女の外出をストーカーするのはどうかと…』
そうなのだ…今彼らが居るのは、離島のIS学園と本土を結ぶモノレールの駅。そこで彼らは、日用品の調達の為に外出することになった簪をストーキングするべく、裏社会で培った経験と技術を無駄使いしながら張り込みを行っていたのである。
そんなメテオラ達に呆れてる様子を感じ取ったのか、心外そうな口調でメテオラは彼に言い返す。
「何を今更…そもそも、いたいけな少女達の生活を覗き見することが仕事になってる貴方達に、何か言う権利があるとお思いで?」
『うぐ…諸手を挙げて喜びながらこの任務を引き受けた当時の自分をぶん殴りたい……』
セイスが至った境地に片足を突っ込み始めてしまい、最近は罪悪感が煩悩を凌駕しているのが現状であって少しも良い思いは出来てない。彼女達が誰にも明かしてない秘密をこっちが知ってしまった時は得した気分になるが…
「さぁ、与太話はここまでです!!オランジュさん、彼女の現在地は!?」
『……現在、モノレールに乗車中。あと3分で到着するぞ…』
「おっと、もうそんな距離でしたか。皆さん、フォレストチームの名に恥じぬ結果を残しますよ!!」
『いや、その行動自体が現在進行形でフォレストチームの名に泥を塗ってるぞ…』
「「「「「可愛いは正義、内気な眼鏡っ娘はこの世の真実!!」」」」」
『聞いちゃいねぇ……ていうか、なんつー掛け声だ…』
オランジュの呟きは誰の耳に入ることも無かった。聴いた者がドン引きしそうな合言葉を発した彼らは即座に己の配置に着き、時を待った…。
「ふふふ…今日という日をどれだけ待ち侘びたことやら。唯一警戒しなければならない更識家当主は、セイスさんが足止めしてくれてますから心配いりませんしね……」
オランジュには直接的なサポートを、セイスには妹の危機にすっ飛んで来そうな楯無の足止めをお願いしてある。今頃、彼は楯無と全力で街中を鬼ごっこしてる最中だろう。つまり、今日は警戒する相手も邪魔をしてくる相手も居ないということである。
その事実に自然と口角がつり上がっていくメテオラ…その為、彼はオランジュの呟きに気づく事は出来なかった……。
『分かってねぇな、俺とセイスがこの頼み事を断ろうとした本当の理由を……本当に怖いのが誰かってことを…』
「ん?何か言いまし…」
「メテオラ、モノレールが来たぞ」
「ッ!!おぉう、待ってました我らの女神よ…!!」
言うや否や視線をそちらに移す。すると仲間の言うとおり、学園から来たモノレールが丁度到着したところだった。そして、中から学園の制服では無く普通の私服を身に着けたお目当ての相手が降りてきた。
水色の髪に赤い瞳に眼鏡、そして儚さまで感じさせる大人しそうな雰囲気……間違いない、彼女だ…
「総員、カメラ準備!!」
「「「「「応ッ!!」」」」」
メテオラの号令と共に、各自持参した各々のカメラを手に取る。彼らが求めるのは彼女の顔写真、あわよくば笑顔。それさえあれば此の世に未練は無い……そんな危ない領域に彼らは入りかけていた…。
「ふぅ…外に出るの、久しぶり……」
そんな物騒な輩に目を付けられてるとは露知らず、モノレールを降りた簪は背後を振り向き、買い物に“同行してきた彼女”に口を開いた…。
「ところで、本当に良かったの…?」
「いいよ~私も暇だったし~~、それに私は~かんちゃんの従者なので~す」
---この後メテオラ達は、セイス達がこの件を断ろうとした理由を自身の身を持って味わう羽目になるとは、夢にも思わなかっただろう…